Story Reader / 本編シナリオ / 35 ビヨンド·ザ·シー / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
<

35-7 化け物、化け物

>

カッパーフィールド海洋博物館からそう遠くない海の上

空は曇り、地平線には巨大な嵐が近付いており、船は暗雲の中を高速で航行している

……海洋博物館の排水口の特定に、そんなに苦労する?

はぁ?このクソみたいな場所、どれだけメンテナンスされてねぇと思ってんだよ!俺様じゃなかったら、このエリアまでも絞り込めてねェよ!

21号嗅ぎつけた、排水口、あっち

…………

グレイレイヴン指揮官、情報は的確

…………おい!

キャンキャンうるさいのよ

パニシング濃度は計算してるんでしょうね?

おうよ……おっ、ここのパニシング濃度、さっき通ってきた海域よりずっと高ぇな

やるじゃねぇかよ、グレイレイヴン指揮官

吠えてないで、先に船を降りるわよ

スピードボートは揺れながら、海岸までたどり着いて停船した

砂丘を回り込むと、人の背丈ほどの排水口から小範囲に赤潮が溢れ出し、彼らに向かって凶暴に牙を剥いてきた

……昇格者ってセンス最悪だな、これ全部、あいつらが孵化させたのかよ?

まだ蠢いている異合生物を適当に1体片付けると、ノクティスは嫌悪感をあらわにした

……それだけじゃないわ

赤髪の構造体はしゃがみ込み、異合生物の死体を確認している

異合生物ってだけじゃない。「これ」はかつて人間だったものよ

肉塊の上には赤潮の侵蝕を免れた布切れが残っていた。恐らく不運な構造体か、あるいは不運な流民のものだ

……昇格者、嫌い

警戒を強めて。このパニシング濃度からすると、昇格者はまだ近くで活動している可能性が高い

っしゃぁ、ちょうどいい!拳を動かすチャンスじゃねえか!

任務の完了が優先よ、海面の排水口付近にΩ武器を設置するわ

ストライクホークのあのふたりは急いだ方がいいわね。恐らく……

彼女は目を細め、空気中のざわめくパニシングを感じている

私たちが海岸に上陸した時点で、とっくに昇格者には察知されているでしょうから

……先生、空中庭園の者たちです。彼らは廃棄された実験場を発見しました

…………

監視装置の中で、赤髪の構造体が挑発するように小型監視装置を睨んだ――空中庭園の者ならこういった電子機器くらい容易に見つけることは、想定内の事態だった

先生、追い払いますか

……センと人型異合生物の融合状態はどうなっていますか?

まだ孵化は完了していません。現時点では順調に進んでいますが、もう少し時間が必要です

ゲートを開いて、廃棄された実験場の底に貯め込んだ赤潮を出しましょう

……先生?

惑砂は珍しく少し疑念を抱いたようだ

センはまだ孵化が完了しておらず、地下3階の溜め池にいます

……つまり、赤潮を放出すると、実験が失敗する可能性があります

ゲートを開いたらセンを連れて移動して、島の予備基地で続行すればいい――そこには十分な素材を用意してあります

では、先生は……

私はここに残って溜め池の対応を。終わったら島の方に向かい合流します

……わかりました

彼は従順に監視室を出ていった

フォン·ネガットは暗い光をその瞳に宿して広い部屋に立っていた。監視画面を切り替え、彼はグレイレイヴン指揮官とルシアの一行がビアンカの居場所に近付くのを見つめた

…………

グレイレイヴン指揮官……[player name]

彼はその名前をぽつりと呟いた

「塔」の消失……あなたが?

紫髪の昇格者は、まるで亡霊がさまようように、彼らが作り出したこの墓場を歩いていた

手慣れた動きで狭い通路をいくつも通り抜ける最中、不気味な異合生物たちは、彼の手の下でまるで猫のようにおとなしくしていた

……着いた

彼は巨大な赤潮の貯蔵タンクの上で足を止めた

あれ?予想外の変化が……

貯蔵タンクの外側にある不気味な触手を見つめながら、彼は僅かに眉をひそめた

でも……今の状態に影響はないかな

じゃあ……ついてきて、怪物のお嬢さん

貯蔵タンク周囲の機器がピーピーと鳴り、全てがまだ彼と、彼が先生と敬う人物の計画内であることを示している

「折鶴」という名の処刑椅子が巨大な機甲に変化すると、異様な人型を貯蔵タンクから容易く引き上げた

…………

大丈夫、もうすぐ終わるからね

彼の声は優しく、昏睡している異様な人型を慰めるかのようだ。折鶴は彼女をそっと持ち上げると、惑砂に続いてゆっくりと前進した

海底に1本の通路があり、近くの島へと直接通じている。あの方はずっと前からそこを退路として想定し、万全の準備を整えていた

今は、ただ……

――――

センが突然、激しくもがき始めた

……セン?

処刑椅子が惑砂よりも早く反応した。センの手足をがっちり拘束し、金属部品が彼女の血肉に深く食い込む

セン……

惑砂はセンに近付き、彼女の反応の原因を確かめようとした。彼はとっくに、この構造体の記憶を裁断しており、本来なら――

――――

異様な人型はまるで完全に錯乱したようだった――

彼女は折鶴の拘束をものともせず、もがきながら不気味な姿勢をとり、大量の血肉を代償に処刑椅子の拘束から逃れた

……セン、こっちに来て、ボクと一緒に行こう

他の異合生物を操る時と同様、惑砂はセンに近付こうとした――

!!!

惑砂はすぐに無数の赤潮を放ち、結界のように相手をその中心に捕らえることもできたが、人型異合生物と融合したセンがそういった挙動を恐れていないのは明らかだった

彼女は紫髪の昇格者に迫り、ためらうことなく斬りつけてきた

…………

惑砂は処刑椅子に身を潜めた。処刑椅子はまるで彼のための牢獄だ。しっかりと中の彼を守っている

どこに……問題があったのかな?

目の前のセンに「自己意識」がないのは明白だ。ではなぜ彼女がこの時点で「目覚め」、「脱走」と「攻撃」意思を示したのか?

一撃が不発に終わり、センは攻撃を諦めて身を引き逃走した――彼女の瞳は依然として虚ろで、こういった全てを彼女が「無意識」状態で行っていると思われた

……どうしておとなしく協力してくれないの

死を超えることって……人間が追い求めるもののはずでしょう

紫髪の昇格者は小さくため息をつき、折鶴はその意志に従ってセンが去った方向へと追走を始めた

海洋博物館の排水口付近

海洋博物館の排水口付近

3つ目の小型監視装置を取り外したあと、21号は目を細め耳を傾けて、何かを聞き取ろうとし始めた

21号?

隊長、そっちで音がする

……下がって

3人は慎重に後退した。5分ほどが経過すると、細く散った赤潮が巨大な排水口からゆっくりと粘りつきながら蠢いてきた

………………

………………

ガハハハッ!!バカかよ21号!「音がする」って、これかァ!?――

違う……待って……

パイプの中から微かに、雷鳴のような反響音がする

――後退しなさい!!!

ヴィラは21号を掴み、俊敏に排水口の上の丘を駆け登った

一瞬ののち、耳をつんざく轟音を迸らせた赤潮が、龍が大海に飛び込むようにして周囲の全てを吞み込んでいった

……【規制音】が

俺たちにそんな大技が必要かよ?俺たちが……

彼は呆然と下で激しく流れる赤潮を見つめていた

俺たちが持ってきたあの、たったひとケタのΩ武器で……ここを片付けンのか?

……この排水口の封鎖が優先よ。海洋博物館内部で何かが起きているはず。私たちを片付けるために、昇格者がこの拠点をやすやすと放棄するとは考えにくいわ

ノクティス、迂回して船を持ってきて。21号、水門を探して

赤髪の構造体がそう言って冷淡な表情で足下の赤潮を見下ろすと、端末から通信のノイズが響いた――

聞こえる?グレイレイヴン指揮官?

信号はどうやら不安定な状態らしい。向こう側の人間の指揮官の声が微かに聞こえたり消えたりしている

排水口はすでに開かれている。あなたたち、昇格者と正面衝突でもした?

……手短に話す、私たちは手持ちの使えるΩ武器を一時的に排水口方面に配置するわ。水門があれば可能な限り閉めておく

でも今の状況では私たち3人全員がΩ武器と海に心中しても、赤潮の海への流入を止められない

こちらの位置はカッパーフィールド海洋博物館からかなり離れているの。パニシングは位置特定信号を妨害してるから、彼らはここを見つけるのに難航するはずよ

本当に厄介な問題を押しつけてくれて、お礼を言うわ、グレイレイヴン指揮官

まあいい、ケルベロスはこの程度では挑戦だとも思わないから

赤潮のゲートは開かれてる。昇格者が企んでいるのは総攻撃か、逃走か……あなたたちは――

赤潮が激しく流れ、パニシングに妨害されたことで通信が途絶えた

……フン

ヴィラは危険な気配がますます濃くなっているのを感じて微笑んだ。そして、それをまったく気に留めていない様子で手を振ると、端末をしまった

隊長、水門のスイッチが人為的に破壊されてた

やっぱり……行くわよ、ノクティスと合流するわ

これだけのΩ武器じゃ、排水口は塞げない……

問題ない

彼女はニッと口角を上げると、すでに海へと激しく流れ込んでいる赤潮を見つめ、暗い光をその瞳に宿した

私たちには……まだ船があるわよ?

赤潮のゲートは開かれてる。昇格者が企んでいるのは総攻撃か、逃走か……あなたたちは――

通信はそこで切れた

指揮官、ケルベロスの状況はどうでしたか?

ですが、まだ昇格者とは接触していないのに……

海洋博物館の巨大な水槽の中では、数匹のバイオニックフィッシュが音もなく静かに泳いでいた

ルルは嘘をついていなかった――少なくとも道案内に関しては

彼女は空中庭園の一同を率いて、赤潮が広がって崩落した地下2階のほとんどのエリアをスムーズに回避し、地下3階の入口に到達していた

ビアンカとセンからの送信メッセージは、どちらも地下2階に入ったあとに途絶えているのだ

わかった

このような険しくて狭い地形は狙撃には不向きだ。狙撃手には前進や探索より、味方のために先行して帰路を切り開く方が適している

……「離脱したい者」だって、私を名指しすればいいのに

私なら行かない。まだグレースを見つけてないから。たとえ赤潮の中で溶けてても、見つけて引きずり出さなきゃ

…………

クロムが密かに目配せしてきた。ルルがいても、進行の妨害にはならないと伝えてきたようだ