地下2階
カッパーフィールド海洋博物館
カッパーフィールド海洋博物館、地下2階
空気中のパニシング濃度が徐々に増加し、空中庭園との通信が途切れがちになり、スムーズなやり取りが難しくなってきていた
道中、「地下2階」の表示付近で見つけた「異合生物」のように、再び数体を撃破した。同様に、冷たく粘ついた金属の認識票をいくつか手に入れた
ドラプール……ノーリス……
これらの認識票を慎重にしまい込み、以降も探索を続けた
地下2階の通路は複雑に入り組みすぎて、探索を続けても労多く実りが少ない。協議の結果、バンジとクロムは左側を、ルシアが他の隊員を率いて右側を探索することにした
グレイレイヴンの連携は言わずもがなだ。ルシアに目配せすると、彼女は右側の通路を塞いでいた壊れた鉄筋を切断し、その先にある大きな扉への道を開いた
パニシング濃度は依然として徐々に上昇しています……指揮官、気をつけてください
「カッパーフィールド海洋博物館へようこそ――」
突然、温もりを感じさせない機械音声が響いた
あそこです――!
言い終わらぬうちに、背後の粛清部隊の隊員が1本の矢を放ち、その音を発していた装置が落下した
……海洋博物館の放送ロボットです
恐らく、ここは誰かにずっとメンテナンスされていたのでしょう。こんな環境で一体誰が、海洋博物館の維持に労力を費やしていたのか……
昇格者でしょうか?
放送ロボットを慎重に確認して異常がないか確認したあと、後ろにいた執行部隊の構造体に破壊させた。先へ進もうとしたその時、ルシアが口を開いて皆を呼び止めた
指揮官、この方向に……何かの痕跡があります
目立たないそのエリアで、少量の粘ついた赤潮が循環液と混ざり合い、コンクリートの破片の間を蛇行していた
循環液はまだ乾いておらず、これが残されたのはほんの少し前だと推測された
……循環液の匂いがする……あそこだ。まだ生きているかもしれない
ある隊員が空気中に残る気配を嗅ぎ取り、対象が逃げ込んだかもしれない場所を特定する
粛清部隊の隊員が指し示した道をたどり、一同は前方へと追いかけ、そして――
キィ……
前に誰かが……あれは、粛清部隊の制服!
その背中に見覚えはなかったが、相手が粛清部隊の制服を着ていることだけは確認できた
ガ……ワ……よう……
よう……こそ……
海洋博物館……新しい……スタッフ……
――下がってください!
その侵蝕体は粘々とした肉塊でほぼ無理矢理繋がれている。「それ」の頭上には鰭のような部位があり、腕は捻れ、ゆっくりと蠢く赤潮の結晶にしがみついていた――
【規制音】――何だこれは――!
生物焼却装置が突然発射され、まだ形を成していない「それ」は一瞬で焼かれ、一片の焦げた炭となった
くそっ――
粛清部隊に所属している救援小隊の隊員は眉をひそめながら、その侵蝕体を撃破した
金属の認識票が焦げた炭の中で微かに反射した。疑いようもなく――かつては空中庭園の構造体兵士だった証だ
…………
ルシアは眉根を寄せ、刀の刃先で焦げた炭の中からその認識票を取り出した
彼らはもともと、構造体でした……
残りの救援小隊の隊員を……できるだけ早く見つけなければ
海洋博物館の地図によれば、また崩壊を起こしていなければ、前方のホールに進むとクロムとバンジと合流できるはずだ
地下2階
海洋博物館のホール
地下2階、海洋博物館のホール
クロムと簡単に情報を交換し、異合生物が構造体を変異させていることを伝えた
……情報を記録しました。信号をキャッチできれば、私の端末が自動的に任務報告として空中庭園に同期します
我々の方では……
彼は左側の通路で遭遇したことについて簡潔に話した
目の前のややボロボロの構造体が、何気なく自分に手を振ってきた
どうも、「保全エリアの兵士たち」
……彼女はあちらの通路で異合生物を掃討したんです。ですが、他の情報については一切話そうとしません
事情を詳しく訊ねようとしたその時、端末が突然鳴った
ルシアの戦闘能力に疑いを差し挟む余地などない。彼女はもう立派なひとりの戦士だ
簡単に合流地点を伝えたあと、自分はクロムとバンジとともに左側の通路へと向かった
……おかしい
静かすぎます
海洋博物館に入ってから、侵蝕体と異合生物の蠢くごそごそという音、そして粘ついた赤潮のゆっくりとした流動音がずっと纏わりついていた
しかし今、ここは――あまりにも静かで、ほとんど何の音もしない
腰にある銃をしっかりと握り、いつでも昇格者と対峙できるよう準備を整えながら、揃って慎重に前へと進み続けた
これは……
地面に、1体の異合生物の亡骸が目を見開いたまま横たわっていた――その部分を「目」と呼べるなら、だが
銃弾の痕だ
こういった銃弾は空中庭園では作られていません……つまり、第三者が海洋博物館に入ったということです
昇格者にしては攻撃方法が地味すぎる。彼らではないのなら、このタイミングで一体誰が海洋博物館に入るというのだろうか……?
神出鬼没の黒野?しかし、ここに彼らの関心を引く技術があるとも思えない……
……この先から音が
前方から短い交戦音が聞こえてきた――それはとても短くほぼ一発の銃声だけで、やがて、通路は再び静寂に包まれた
……【規制音】、またこんなゴミみたいな
微かに、女性の声が響く
……ドッグタグ?ツイてない、また空中庭園か
この場所、どんだけ広いんだって……このまま歩き続けたら、この足ももうダメに……
音が徐々に近付く。相手はどうやらこちらの方向に歩いてきているようだ――
――わっ、お化け――!
――そこに立っていろ
チッ……びっくりした、てっきりお化けかと。なんで生きている人間がこんなゴミ溜めみたいな場所に来るんだよ
私……いや、なんで教えなきゃならないんだ?そっちこそ誰だよ?
相手は目を細め、こちらを凝視しているようだ
ああ――高貴な「空中庭園」のお偉方だね?どうして、こんなに汚れた下水道にわざわざ足をお運びに?
君は……構造体のようですね。どこの所属ですか?
ハハッ、私は空中庭園の犬じゃないんだ。そっちのメシなんか食わないし、だから説明する必要もないね
敵か味方かもわからない状況で、彼女の素性確認に時間を費やす余裕はない
……チッ、待てって
一同が本当にゆっくりと後退していくのを見て、長髪の構造体は目をぎょろつかせながら、制止の言葉を発した
ここに何しに来たの?海洋博物館にまた「資料」があるから動き出したのか、それとも他の何かを探しに?
こちらの答えは予想通りだったらしい。長髪の構造体は軽く鼻を鳴らし、そのまま口を閉ざした
……どうやら、この通路の異合生物は彼女が掃討したようです
痕跡から見ると、確かに彼女の仕業みたいだね。どうやら……これ以上の情報を教える気はなさそうだけど
更に前方を探索すると、この通路の異合生物はやはりこの構造体によってほぼ一掃されていた。意外なことに、彼女はそのまま立ち去らずに一定距離を保ってついてくる
追い払いますか?
もし彼女が昇格者側の離反者なら……なぜ道中の異合生物を一掃したのだろう?もし昇格者側ではないのなら……彼女の真の目的とは?
胸中でそんな警戒心を抱きつつ、一同は「ルル」と自称する構造体と一定距離を保ちながら、前方のホールへと向かった
海洋博物館の地図によれば、また崩壊を起こしていなければ、前方のホールに行けばルシアの小隊と合流できるはずだ
地下2階
海洋博物館のホール
地下2階、海洋博物館のホール
私たちは右側の通路で、異合生物に人間が呑み込まれるのを見ました
彼女は起こったことを簡単に説明した
センとビアンカをなるべく早く見つけなければ。これ以上、時間的な猶予はない
赤潮がこのような形態に変異してしまったのだ。空中庭園が構造体兵士をひとり失う度に、敵がひとり増えていく
指揮官、あなたたちの方は……
見た目がボロボロの構造体は、相変わらず遠すぎず近すぎない距離を保って、後ろをついてきている
構造体をひとり……回収したのですか?
……彼女はあちらの通路で異合生物を掃討したんです。ですが、他の情報については一切話そうとしません
それ以外……
彼が続けて何か言おうとしたその時、突然こちらの端末が鳴った
意外にも、ここで微弱ながら信号を捕捉したようだ。瞬時にクロムも端末を開き、これまでの任務報告をアップロードしている
……聞こえる……か?
…………
お、少し安定したな。[player name]、緊急事態の同期だ。ビアンカの現在の状況だが、非常にまずい
ヴェサリウス……黒野の方の技術主任からさっき、通信が届いた
深痕は彼女らが制作を一手に担った、だからあっちには深痕機体の監視に使う全設備が揃っている。深痕の状態は非常に悪く、すでに重篤な汚染を受けている可能性があると
ビアンカは深刻な意識偏移の状態になっていると考えていい
ああ、支援部隊にビアンカの新しい機体「陽昏」と、補機に改装した遡源装置を一緒に持っていかせるように手配する
まだだ。ハセンとニコラが大会議室に入ってからかなり時間が経っているが、まだ出てくる気配はない
だが、こちらにはすでにクロムが送ってきた資料がある。ニコラは可能な限り、稼働可能な執行部隊を海洋博物館の方に向かわせる方法を模索している
かなり前から秘密裏に開発されていたが、ずっと使用されていなかっただけだ
深痕機体の状態があまりよくない今、「陽昏」機体をとりあえず持っていくしかない
だが……覚えておけよ、この機体が戦闘状態に耐えるのは約5時間だけなんだ。5時間を超えるとエネルギーが不足して、機体は自動的に休眠状態に入ってしまう
かなり前から秘密裏に開発されていたが、ずっと使用されていなかっただけだ
深痕機体の状態があまりよくない今、「陽昏」機体をとりあえず持っていくしかない
だが……覚えておけよ、この機体が戦闘状態に耐えるのは約5時間だけなんだ。5時間を超えるとエネルギーが不足して、機体は自動的に休眠状態に入ってしまう
まだだ。ハセンとニコラが大会議室に入ってからかなり時間が経っているが、まだ出てくる気配はない
だが、こちらにはすでにクロムが送ってきた資料がある。ニコラは可能な限り、稼働可能な執行部隊を海洋博物館の方に向かわせる方法を模索している
注意点だ、補機はビアンカの新しい機体と一緒に起動する必要がある。そうしておけば、この機体はもう少しだけ長く使える
深痕、「遡源装置」の稼働状況は?
稼働時間が予定値より低いのは想定内……あなたは第一適合者じゃなかったし
予想外の面白いデータだった。結局は、幻覚を見る前にあなたの意識海にはすでに偏移症状があったことの証明になったかな……
……俺には、お前にそれを告げた記憶はないぞ
まさか、以前にもあった「幻覚」か?
セレーナと一緒にマインドビーコンを再検査した際、アシモフともこうした「幻覚」の話をした。しかし前例がなく、アシモフでさえ具体的な原因を突き止められなかった
黒野は技術開発の際、「特定の機能」を用途として構造体を開発するだけで、「特定の人物」を基に開発することはない
彼らはほとんどの場合に「機能」と「技術」を核にする。機体の完成後、データベースから適合者を一括で選別し、適合できれば、誰でも使用できるというわけだ
この開発方法はあまりにも強引で、目的達成のためには手段を選ばない……だがそのお陰で、新しい機体の開発周期が恐ろしいほどに短縮されたのも事実だ
その分、この手の機体の使用寿命は短いんだ。また多少なりとも意識海の偏移を引き起こしやすくなっている
ビアンカはダイダロスで改造を受けた。彼女の真理機体のデータは黒野のデータベースに保存されているから、自然と適合者リストに組み込まれる
カッパーフィールド海洋博物館の探索前に、黒野から「深痕」機体の使用を提案してきた。その条件は十分な実験データを提供することで、ビアンカはそれに同意したんだ
アシモフはそっとため息をついた
空中庭園は特化機体の開発にあたっては慎重だ。白夜のような特殊な状況を除けば、繰り返し適合調整を経て安全性を確保した上で、技術的な限界を突破しようと試みるのが常だ
しかしその分、彼らはより複雑な開発難易度に直面することになる……開発周期の長期化は避けられない
出発前、空中庭園は深痕機体の外観を覆い隠すために緊急で塗装を作ったが、機体不適合による意識海の偏移について、根本的な解決には至らなかった
可能だが、一番いい方法はやはり機体を交換することだ
ビアンカの「陽昏」機体を輸送キャビンに入れて、最初の支援部隊と一緒に出発させる。その輸送キャビンをビアンカに届けてくれ
通信表示が数回点滅したあと、アシモフはそのまま接続を切った
……朗報ではなさそうですね
前へ進みましょう。地上と地下1階には彼女たちの痕跡はありませんでした。私たちがまだ探索していない地下2階の一部か、あるいは……地下3階にいる可能性が高いです
皆で物資を簡単に確認したあと、再び出発した
意外なことに、ルルと名乗る構造体は、遠すぎず近すぎない距離を置いて、まだ小隊についてきている
その先の道は穏やかなものではなく、横から異合生物や侵蝕体が何度も、赤潮とともに襲いかかってきた
……どうしてこんなに異合生物が多いんだ……
――後ろに気をつけて!
天井から、赤潮に潜んでいた粘ついた生物が突然飛び出した――
刀の光が届く前に、銃声が鳴り響いた
硝煙の漂う中で、長髪の構造体が淡々と左腕の銃をしまっていた
どうあれ、彼女は空中庭園の兵士をひとり救ったのだ
そう焦るなって――条件がある
銃口の煙をふっと吹くと、長髪の構造体は目をぐるりと回して見せた
あなたたちの目的がわかったよ。そっちも人を助けに来たんでしょ?
あなたたちに探してほしい人がいるんだけど
グレース
フン、彼女を探すためじゃなかったら、空中庭園のやつらと……同じ道を行きたくなんかないんだけどね
地下3階の先には侵蝕体とか変なのが多すぎて、私ひとりじゃキビしい。もしそっちでグレースを見つけてくれたら、代わりに私が知っているこの先のルートマップを渡すよ
私は逃げやしない。それに、あなたたちも見たでしょ。私の単独での戦闘能力は、そっちの構造体には及ばない――そのルートマップが偽物だったら、直接私を殺せばいい
空中庭園のお偉方にとって、朝飯前だよね?
スルーするなら、それは黙認ってことで
長髪の構造体は勝手に横に並んで歩き始めた
そうだ、おまけの情報。親切にも私の名前を教えてあげようか
……?さっきまで私の正体を知りたがってなかった?
ちょっと!少しは好奇心を持てって!
私はルル――覚えとけよ!私はルル!赤潮の天啓の初代ガーディアン!
少なくとも――赤潮の天啓は、人間を構造体に改造する条件を持ち得ない
へえ、どうしてそんなことがわかる?もし赤潮の天啓に、人間を一瞬で痛みなく構造体に変える大司祭が存在していたら?
もういいもういい、あーつまんね。私、地上を流離ってて。グレースに拾われて、生きるために一緒にいただけだから
グレースは変わったやつでさ、考えが読めないんだよ。出発前、年寄りや病弱な人たちを外に残して、他の信者たちを連れて「新生を探す」って中に入ったんだけど
彼女がいないせいで、もう何人ものバカ【規制音】が赤潮に飛び込んで新生を探そうとしちゃって。私は仕方なくここに来たんだ――
私はあのバカ【規制音】たちの人生に責任を負うなんて御免だね
彼女は軽く白目をむいてみせた
……指揮官?
ルシアは後ろへ数歩下がり、自分を見つめてきた
彼女……信用していいのでしょうか?
あの構造体の機体の状態はあまりよくないらしい。定期的なメンテナンスの様子もなく、昇格者のような波動も感じられない……
はい、私が彼女を監視し続けますから
海洋博物館は遊ぶような場所ではない。彼女の目的が本当にグレースの救助なら、空中庭園の目標とも一致することになる
彼女が何か小細工をしようとしたら……こちらの武力で制圧すればいい
さて、そっちのその感じ……そろそろ意見が一致したって?
行くか。自分の身は自分でね、ついてこれなくて罠にハマっても、私は助けないから
地下3階
カッパーフィールド海洋博物館
カッパーフィールド海洋博物館、地下3階
当初の計画では地下2階から先に地上に戻る予定だったが、予期せぬ赤潮の出現が再びビアンカの小隊の足を止めた
赤潮はまるで飢えた狼のように、残りの子羊たちを追う。ビアンカとシルフの必死の支援によって、彼女たちは赤潮の天啓の生存者たちを連れて地下3階付近に身を隠した
地下3階は広大な空間で、一部は大型の海洋生物のショーが行われるエリアとして建設されており、残りの部分は曲がりくねっていて、意図的に改造された迷宮のような造りだった
……また来た
彼女は耳を動かし、赤潮が押し寄せてくる音を敏感にキャッチした
ゴホッ……
食べ……助け……魔女……
一緒に、一緒に来てよ……
ようこそ……カッパーフィールド海洋博物館へようこそ……
どうして……私たちに加わらない?魔女……ぴったり……
…………
彼女はかろうじて意識を保ち、絶え間なく囁く声を振り払った
シルフ、あなたは彼らを連れて先に
行けませんよ、道がないから
目の前にあるのは先へ続く道がひとつだけ。昇格者はどうやらこの子羊たちを意図的に、ある方向へと追い立てているようだ
それなら……前に進むしかない
天啓者様……本当にまだ前に進み続けるのですか?
もう……もうこうなってるんだ……
な……に?
あなたは仰いました、私たちを連れて「新生」と「未来」を探すと
「新生」……まさにあなたの後ろにある、それじゃないですか?
彼は陶酔した表情で、グレースの背後にゆっくりと押し寄せる赤潮を見つめていた
あれは化け物じゃないか……
そんなことない、あれはマービンですよ
見えなかった?ほら、私たちに手を振って挨拶しています
おい……
天啓者様、私たちを「新生」へ導いてくださり、ありがとうございます……
もうお腹を空かせる必要はない……
彼は身を躍らせ、赤潮に飛び込もうとした――
ま……待って!
天啓者……様?
少なくとも……今ではないはずです
彼女は少し苦しそうに目を閉じた
もし今あなたが……「新生」に入ったら、神はお喜びにならない。神は……こんなに軽々と、あなたたちからの供物をお受け取りにはならないのです
…………
そう……なのですか?
ええ、さっき見ましたよね?あの……あの化け物たちは、全て神罰なのです
正しい時にしか……
……また始まった
信者たちを赤潮に飛び込ませて、更に敵が増えてしまうよりはいいです
彼女まだ、何の役にも立たない石の目印を続けているんですね
……好きにさせておきましょう
粛清部隊の状況は?
酷いものですよ
すでに3人が負傷し、侵蝕の症状が出て意識海の偏移が始まってます。また、さっきまでの逃走中に、ふたりの隊員が遅れをとって赤潮に呑まれました
少し休憩を?
いえ、まだここは安全とはいえません
前へ進みましょう
言い終わらぬうちに、ビアンカは歯を食いしばって1歩前に出ると、シルフの後方から襲いかかってきた異合生物を斬り裂いた
!
続いて現れたのは、排水口から湧き出る赤潮だった
シルフ!彼らを連れて先行してください!私は殿を務めます!あの部屋に入り、部屋のゲートを閉めて!
…………
シルフはひと言も発さず、負傷した構造体を背負い、冷静かつ迅速に赤潮の天啓のメンバーを撤退させた
ビアンカは気力を振り絞り、絶え間なく追いかけてくる異合生物を力の限りに撃退した
魔女……魔女だ……
隊長……私たちと一緒に……
赤潮の中、無数の虚像が渦巻きながら歌っているような声を出していた
ここに残って、私たちと一緒に……私たち……
横目でゲートがゆっくりと閉まるのを見て、ビアンカは最後の一撃を振り下ろすと、そこで力尽きたように目を閉じた
…………
シルフがゲートから稲妻のように飛び出し、赤潮に呑まれそうになっていたビアンカを掴むと、登山用ロープを利用してゲートが閉まる直前、部屋の中へと滑り込んだ
直後、赤潮が固く閉ざされた扉に強く打ち寄せた