グレースたちはビアンカを背負い、必死のあまり少し滑稽にも見える姿勢で、狭い通路を逃げ続けていた
はぁっ、はぁっ、はぁっ……
そこかしこにいる異合生物を避けながらも、グレースは道中こっそりと占石を落として、目印をつけることを忘れなかった
もしかしたら救援部隊が再びここに入ってくるかもしれない、そうすればそれで助かるかもしれない……彼女は甘い幻想を夢見ていたのだ
くそっ……天啓者様、わ、私はもうこれ以上背負えません、この構造体…………
もうすぐ安全なエリアに着きます、頑張って……
わ、私が言いたいのは……
あの粛清部隊の構造体たち、まだ意識があった時に、い、言ってたじゃないですか……我々は、彼らを放っておいてもいいからって……
…………
数分前
噴き出す赤潮は一時的にゲートの向こうに隔てられているが、徐々に響く轟音が「ここの安全もそう長くない」という現実をはっきりと伝えている
包帯はまだありますか?
彼女のビアンカ救出はかなり素早かったものの、それでも赤潮の中でかなりの傷を負ってしまっていた
…………
……包帯は…………?
……人間用のものしか。それでいいんでしょうか
…………
意識を保って行動できる粛清部隊の隊員はもう自分だけだ――赤潮の天啓の者たちが構造体用の薬品を持っていないのは明らかだった
シルフは振り向き、心の中で静かに死傷者数を数えた
先ほどの赤潮の襲撃で重傷を負った3人のうち、ひとりは容態が悪化し、かろうじて動けるのがひとり。隊長……隊長はまだ意識を失っている……
これ以上隊員が呑まれなかったのは幸いだった
赤潮の天啓の方は……
人数を数えておられますか?
赤潮の天啓側は軽傷がふたりで、他に数人、物資不足による衰弱状態の者がいますが、皆まだ動ける状態です
…………
あなたたちは先行してください
……えっ?
粛清部隊は今、自由に動けません。でも、あなたたちにはまだ行動能力があります。先に行って
それは……
迷っている時間はない
彼女は黙ってビアンカを背負うと、他のふたりの負傷者を重ねて、それを引きずりながら進んだ
もし昇格者と真正面から遭遇したら、戦闘能力のない赤潮の天啓の者たちなど取るに足らない。相手は目障りな空中庭園の構造体を真っ先に排除してくる
赤潮の天啓の者たちはまだ動ける。機転を利かせて正しい選択さえできれば、脱出できる可能性は十分にある――
……?
ビアンカに触れようとした誰かの動きで思考が遮られた。シルフの短剣が瞬時に抜き放たれたが、相手が誰かを見極めてかろうじて、グレースの頬のすぐ側で刃が止まった
あっ……ご……ごめんなさい……?
私はただ……彼女を背負うのを手伝おうと思っただけで
……言ったはずです、あなたたちは先に行って
そんな、あなたたちを置いては……
きっと全員で一緒にここを出る方法があります……
そうですね、粛清部隊の方がたのお陰で、私たちは命拾いしたんだし……
グレースは決意した面持ちでビアンカを背負い、もうひとりの信者も地面に重ねられている負傷した構造体を背負い上げた
…………
シルフはもう、グレースの行動をこれ以上止めようとはしなかった
ゲートの向こうから響く轟音がますます激しくなる。赤潮が小さくて面積の狭い金属製のゲートに、絶え間なく圧力をかけ続けている
……走って!
僅かな機械音とともに、粘ついた液体がゲートの裂け目から洪水のように、勢いよく流れ出した
へ――兵士さん!
よろめくグレースはシルフに強く押されて、とりあえず安全な通路へと投げ出された――
この先で――合流を!
か、彼女たちが言ったことです。放っておけと……お聞きになったでしょう!
彼女たちを放っておく……
あなたは本当に、彼女たちを放置して自分たちだけでここから出られると思っているのですか
彼女は冷静に口を開き、先ほどの言葉を放った信者を見つめた
そういう意味ではなく、私はただ……ただ……
ただ、少なくとも今よりは、少し楽になれると……
なりません
彼女たちの仲間がまだここにいる限り、どんなことがあっても、あの戦闘力のある構造体が戻ってきて私たちを見つけるでしょう
構造体にとってはほんの些細な危機でも、私たちはあっという間に死ぬのですよ。あなたは、ひとりで死ぬつもりですか?
そうは言っても……海洋博物館はどこもかしこも赤潮だらけです。私たちが彼女たちを連れて赤潮の中に入り、新生を抱きしめることだって……
はっ……そうね、赤潮
赤潮の神を信じれば、神は私たちを幸せな未来へと導く……
赤潮は新生であり彼岸。神は天国を創造し、神は赤潮の中で人々に永遠の命を与えます……
は……はい
信者はグレースの顔色をこっそりと窺っていた
あの、天啓者様はいつもそう、私たちに教えてくださっていたんじゃ……
そうです、でも目を開けてよく見てみなさい
ここの赤潮……あの粘ついた肉塊、あの歪んだ怪物たち!
あの赤潮を抱きしめたいのですか?このような「新生」に入りたいと!?
ここの赤潮はもう、私たちが信仰を傾けた赤潮ではありません
彼女は無表情でこの悲しい「現実」を述べた
グレースもかつて信じてみた、ここの赤潮が彼らを新生へと導くのだと。しかし……
ひとつに混ざり合った「肉の塊」、あの奇怪な異合生物……それは、教義に描かれているような美しいものではなかった
あれはすでに人為的に紡がれ、信者の意志を歪め、彼らを理不尽な地獄へと導いています。あんな赤潮が、私たちに真の幸福な新生をもたらすことはないでしょう
それならば、私たちは空中庭園の……あの構造体たちの力を借りてでも、ここから出なければなりません。本当の「天国」を探しに行くために
そのためなら、彼女はどんな代償も惜しまない――たとえあの構造体たちの善意を利用することになっても、後に空中庭園に清算されることになっても
…………
信者はバツが悪そうに口を閉ざし、グレースは意識を失ったビアンカを力強く抱え、歯を食いしばりながら前へ進み続けた――
曲がり角に、フードをかぶったシルフが立っていた
へ、兵士さん!
グレースはぞっと肌が粟立った。この構造体はどこまで自分の言葉を聞いていたのか、また、それを聞いてどう反応するのか、彼女には何も確信が持てなかった
行きましょう
ビアンカに追加の負傷がないか確認し、シルフは短刀を手に、グレースたちの後ろを追ってきた異合生物を片付けた
あの、私はさっき……
赤潮が上の構造を押し潰している、この一帯はいつ崩れるかわかりません
前へ……
うわああ――!
通路の天井がその言葉に応えるように崩れ落ち、金属構造の破裂音が響き渡った。ガラスで隔てられていた海水が、通路へと一気に流れ込む――
――!
登山用ロープを投げ出し、シルフは力いっぱい水に落ちた信者を引き戻すと、信者が背負っていた粛清部隊の構造体を受け取った
行きますよ
海水が通路に流れ込み、赤潮はそれに乗じて貪欲に命を喰らおうとする。逃げ惑う中、赤潮の天啓のメンバーたちはそれぞれ別の道へと四散してしまった
こっちです
シルフはグレースの肘を掴み、素早く前方へと駆け出した――
だが残念ながら、彼女たちは方向を誤っていた
前方では金属製の扉が固く閉ざされており、とても簡単に開きそうにはない
背後からは、大量の異合生物が赤潮に乗ってじわじわと迫ってきていた――
巨大な金属の破壊音が次々と響く。どこかで崩壊が起きているようだ
……あちらの下、恐らく地下3階の位置です
もし音のする方向へ向かうなら、恐らくこの方向からしか入れないでしょう。しかし……
地図によると、その方向には3、4本の通路が地下3階へと通じているが、いずれも大量の赤潮が溜まっており通行不可能か、あるいは完全に崩落していると思われた
崩落した部分に発破をかけ、その上で簡易的に支えれば、地下3階に入れるかもしれません。しかし、持ってきた小型爆弾は1回分のみです
バンジはすでに情報を空中庭園に持ち帰っているはず。支援が来るまで、我々は慎重に行動しなければ……
この沈降式の通路はかつて地下3階へ通じるメインルートであり、昇格者はここから救援部隊に入られたくなかったのがありありと見てとれた
通路内には大量の赤潮が貯め込まれ、ネバネバとした泡が底から絶えず浮かび上がり、あちこちで無秩序に囁いている
「異合生物」に完全にならない限り、この通路を通るのは非常に困難だ――一体誰が異合生物になりたいなどと願うだろう?
この螺旋状の通路はすでに崩落していて、手元にあるものだけでは、奥がどれだけ崩れているのかを探るのは難しい
小型爆弾の爆破範囲は限られている。爆破後に通路が完全に崩落していることが判明したら……
これは非常に狭い通路で、まだ海洋博物館が営業していた頃は人の移動というよりは娯楽目的で使われていたようだ
多分、ここが最も適した爆破地点だと思われた
粘ついた液体が毒蛇のように隙間から這い上がってくる。崩落した通路の先に、この深紅の有機物がびっしり詰まっているのは明白だった
赤潮……まるで「生命」があるようだ
脳裏に突然そんな言葉が浮かぶ中、引き続き調査を続けようとしたところ、ルシアが前方から戻ってきた
指揮官、1分前に2つ目の通路の隙間で少量の赤潮が発見されました。それらは蔓延してしまっています
……まるで「見つめられている」ようだ。赤潮がいたるところで、一同の進路を塞いでくる
……もっと小型爆弾を多く持ってくるべきでした
とはいえ、今は……
最後の僅かな物資をどう活用すべきだろうか?
……えっ
これ……
ルルは驚きの表情のまま、狭い隙間から神秘的な何かが刻まれた石を拾い上げた
よく見ると、その石には歪んだルーン文字が刻まれている
ルーン文字……私の知る限り、こんなものを弄る詐欺ヤロウはあいつだけ
えっ……何でそんな詐欺アイテムを知ってんの?
詐欺ヤロウはこういう胡散臭いものを一式持ってる。どこにそんな精神力があるんだか、飯もまともに食えないのに、こんなものを弄る時間があるなんて
これ……彼女のやつに似てる
彼女はその石を調べた
金色の塗料……この塗料はあの時マービンが探してきたものだし、ここに傷もある……
これ、グレースのものだ
おい!詐欺ヤロウ!!そこにいるんだろ!!
彼女はその狭い隙間をつかむようにして、中に向かって大声で叫んだ
……反響している
この隙間の先に――空間があるようです
位置特定完了、奥に1~2名が通れる道のようなものが存在します
偵察ドローンが持ち帰ったデータによると、そこの赤潮はごく少量で、通行も可能です
周囲を引き続き調査したが、より最適な爆破ポイントは見つからなかった
あの狭い隙間からは「通路」を想像できないが、もう他に爆弾を使える場所はなさそうだ
ドォン――!
小型爆弾がかろうじて通路を開いた――崩れた入り口の先に、なんと2名が横並びで通れるほどの細道が本当に存在していたのだ
……従業員用通路かと。下のショーエリアへ続いていますね
前方に異常がないことを確認し、一同は次々とその通路に入っていった
カッパーフィールド海洋博物館には1名以上の昇格者と、周辺海域に大きな脅威を与えうる異常な赤潮が大量に存在すると予想されています
バンジは赤潮のサンプルを持って空中庭園に戻りました。これから我々は地下3階に向かい、海洋博物館に閉じ込められている救援部隊を探し、赤潮の海への流入を阻止します
――以上、グレイレイヴンとストライクホークの海洋博物館任務の1記録です
Ω武器を使用すべきかどうかの議論は数時間続いて一段落し、議会ホールは静まり返っている。投影が残したザーザーというホワイトノイズだけが音を響かせていた
バンジが持ち帰ったサンプル……分析報告は出たか?
はい。アシモフによると人間の遺伝子の断片情報及び循環液成分が含まれ、同時に異常なパニシングも検出されたと。ただし、具体的な進化経路は分析できなかったようです
アシモフの、あくまで推測ですが、昇格者は恐らく人間と構造体と異合生物、更に赤潮を利用して、新たな……「生物」を育成しようとしているのではないか、と
現在の進化速度に基づき、最も控えめな海洋博物館の赤潮の数で計算すると、赤潮が海に流入してから海洋が完全に汚染されるまでに……
地上の拠点で対処すべき「異合生物」の数は現在の127倍以上に急増します――少なく見積もって、です
……グレイレイヴン指揮官と連絡は取れるか?
ずっと連絡を試みていますが、海洋博物館地下のパニシング濃度が高すぎて、通信信号に深刻な干渉状態が発生しています。今のところ再度の連絡は取れていません
だとしても、Ω武器使用の必要性に対する十分な説明とはいえない
ただの異合生物だろう。Ω武器さえ量産体制に戻れば――
…………
顔をゆがめるようにして、ニコラは皆に静かにするよう合図した
まだある、先ほど新しい情報を受け取った――
昇格者の手には、人型異合生物の双子の残肢がある。赤潮サンプルの分析報告と合わせて考えると、昇格者が何をしているのかは明らかだ
…………
人型異合生物の双子か……あいつらなら、全武器を投入してでもこの脅威を排除しなければ!さもなければ、さもなければ……
だとしても、結局はパニシングの造物にすぎない。地上にまだどれだけ、こんな怪物がいるか誰にもわからないんだ!
月面基地が再稼働すれば……Ω武器さえ十分にあれば、パニシングの造物など恐れることはない!
その考えに、死傷者という要素はあるのか?その、ただのデータ、ただの「パニシングの造物にすぎない」もののために、どれだけの兵の命が犠牲になるか!
犠牲はそもそも兵の職務の内だろう!彼らは人類の未来を守るために生まれてきたんだ!
Ω武器の生産にはまだ時間がかかる。その間!どれだけの地上の保全エリア、どれだけの命を、武器の生産時間のために犠牲にするというんだ!?
人類の未来というのは、これら全てを犠牲にするほどのことだ!
反対意見を述べる議員は唾を飛ばし、興奮気味にテーブルを叩いていた。彼がまた何かを言おうとしたその瞬間、会場中央のハセンがゆっくりと口を開いた
カッパーフィールド海洋博物館の赤潮がひとたび蔓延すれば、海に流れ込んでしまう
たとえ海に流れ込んだとしても、それは……
赤潮が海に流れ込んだあと、1日以内に13カ所の保全エリアと、そこにある空中庭園管轄の農園に波及する
海洋博物館を中心に、いくつかの港と沿岸の保全エリアが次々とマークされた
もし有効な制御方法がなければ、1週間以内に赤潮から孵化した異合生物が、もっと広大な範囲に上陸する
その時には……
その保全エリアや奪還された港は議会の議員たちの利益と多かれ少なかれ関係する
…………
人型異合生物の双子がかつて空中庭園にもたらした損失は、皆さんもよくご存知だろう。誰も空中庭園の資産が再び損なわれるのを望まない。Ω武器の必要性はそこにもある
異合生物が進化を続け、以前のように大量の飛行異合生物や人型異合生物の双子が出現すれば、空中庭園は再び孤立無援の状況に陥ることになる
忘れないでいただきたい、私たちの目的は最初から最後までただひとつ……
地球奪還だ
……では、人類の未来はどうなると仰るので?
地球なくして、人類に未来があるだろうか
……皆さん、月面の工兵部隊から最新の情報が届きました
目まぐるしいデータの中で、通信要請が唐突にポップアップした
こちらは月面基地の偵察分隊です。月面基地の調査進度は90.5%、残りの部分は続く数時間以内に完了する見込みです――
その後、全ては順調に進んだ
ニコラの指揮の下、準備を終えた工兵部隊は迅速に着陸し、まるで廃墟といった状態の海洋博物館の片付けに着手し、Ω武器の設置作業を行っていった
急げ急げ急げ、ノロノロすんな――!
あんたが荷物をふたつ持ったって、彼らが物資を運ぶ速度は変わらないわよ――
――ちょっと!何してるの!潰れて死んじゃうわよ!
お前も油売ってる暇はねーぞ
この物資を運び終わったら、ビアンカの機体の輸送キャビンを持って、オレと一緒にどうにかして下に降りるんだ。機体を届けなくちゃなんねーからな
冗談はよして、海洋博物館の地下1階なんてほぼ崩落してるのよ。人が入るだけでもひと苦労なのに、あんなバカでかい機体輸送キャビンなんて――
お前なら何とかできる、任せたからな
彼女はドールベアの肩を軽く叩き、足早に去っていった
……もう!そういう強引な力仕事を、私にやらせないで!
ドールベアが荷物運びに乗せられた頭上の箱を落として反抗しようとしたその時、遠くの海面から鈍い爆発音が響き渡った――
あの方向……
複雑に絡み合う線が端末から投影されて伸び、ドールベアは以前の資料を駆使して、海洋博物館の大まかなマップを素早く作り上げた
あれは……海洋博物館の排水口?
おお!すげー、これがウワサのケルベロススタイルか!やっと見られたっ!
……こんなので、本当に効果があるのか?
……俺に訊くかよ?
隊長は絶対
……狂った犬は始末に負えん
口を閉じて、さっさと仕事して
手に持ったΩ武器をしっかりと船に固定し、ヴィラは散開している他の数人を遠慮なく睨みつけた
人の案に疑問があるなら、もっといい案を出してみなさいよ?
Ω武器を船に固定して、船を沈めることであの忌々しい排水口を根本的に封じ込める以外、ここの「小さなトラブル」を即座に解決できる方法があるの?
やべ……ハハハ、いや、別に疑ってるんじゃなくてさ……
カムイはバタバタと手の動きを速めた
ぼーっとマヌケ面さらしてるんじゃないわよ、ノクティス!仕事が終わったんなら21号を連れて岸に上がって!
目を細め、ヴィラはΩ武器の数を計算していた
ケルベロスの持参分を除き、グレイレイヴン指揮官が約束した補給はカムイとカムが持ってきた――だが、Ω武器の数は排水口周辺の海岸の防御線にはまだ足りていない
しかし、もしこの船を解体できれば……
Ω武器を船に固定して、バラした船を排水口付近に合理的に配置する。既存のΩ武器を最大限に活用すれば、しばらくはこの赤潮の流入地点を制御できるはず……
ヴィラ!こっちも終わったぞ!
岸に上がって
残った数人が全員安全な位置に立っていることを確認すると、ヴィラは船首に立ち、ゾッとするような冷笑を見せた
昇格者……これでケルベロスを止めたつもり?
私はね……約束は必ず守るの
赤髪の構造体は口角をニヤリと上げ、その微笑んだ唇の端に悪意を浮かべた
彼女が高く掲げた旗槍の、旗が空中で翻った――
惨めったらしい赤潮と異合生物たち、一緒に地獄へ落ちるがいいわ
Ω武器が全速で稼働する。旗槍が空気を引き裂き、凶暴に船の動力システムへと突き刺さった――
ガーンッ!
船は旗槍に力強く貫かれ、鈍い轟音が跳弾のように、金属の外殻から響き渡った
あらかじめ船体を重要な構造に沿って一定の方向で解体していたため、船はゆっくりとバラけていき、赤潮に覆われた浅瀬に沈んでいった
よっし!カンペキだ!
赤潮の流れが、目に見えるほど緩やかになってきた
それなりに有効のようね
ノクティス、この位置を記録。グレイレイヴン指揮官と合流するわよ――
もし彼らがまだ生きてればね
あまりみっともない再会は避けてほしいわ……グレイレイヴン指揮官