Story Reader / 本編シナリオ / 35 ビヨンド·ザ·シー / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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35-5 ぬかるみ

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会議室

空中庭園

空中庭園、会議室

――以上が、クロムから送られてきた報告です

画面は、歪でドロドロとした赤い液体の塊の場面で止まっている。その形状はほとんど判別不可能だった

かろうじて、その一部が構造体の金属の残骸だと認識できる。それにへばりついているのは捻じ曲がった肉の塊と……

顔だ――

歪み、変化し続ける液体のでこぼことした表面から、いくつもの穏やかな顔がゆっくりと浮かび上がってきた

ガ……ギィ……ガ……

彼らはよく聞き取れない言葉をつぶやきながら、常人には理解できない歌を楽しげに歌っている

…………

報告の最後に、グレイレイヴン指揮官がメッセージを残していました。彼らはまもなく海洋博物館の地下2階に到達するとのことです

地下2階のパニシング濃度はこれまでより更に高く、即時のデータ報告が難しくなる懸念から、事前にこの情報を送ってきたものと思われます

科学理事会の結論としては……赤潮が変異していると

侵蝕体から赤潮へ

赤潮から、あの……

もし、あの……

彼女はしばらく思案していたが、あのぬらついた肉塊を表現するのにもっと適切な言葉が思いつかない

あの赤潮の中の「異合生物」が、昇格者のシミュレートによる虚像ではないのなら……

グレイレイヴン指揮官の「惑砂が赤潮を通じて異合生物の進化を促進させている」という予測が既定の事実になるわけだな

投影スクリーン上、一列に並んだ複数の画像が、その事実を鮮明にたたきつけてきた

この事態は絶対に阻止しなければならない。あのΩ武器を……

いえ、まだ足りません。こんな「予測」だけでは、月から回収したΩ武器の使用を、議会に同意させるには材料不足です

現時点で月は唯一のΩ武器の生産拠点であり、人類の大半にとって、このΩ武器とは地球奪還の希望そのものなのです

彼らが何を言い出すか、思考に脳を使うまでもない

「Ω武器の製造には零点エネルギーが必要で、現存エリア中、零点エネルギーリアクターが存在するのは月面基地だけ」

「目の前のたった1勝のために、もっと先の未来を諦めろというのか」……

「粛清部隊隊長と副隊長が海洋博物館に陥れられた」だけでは、あの議員たちも納得すまい。「赤潮の海への流入」を追加しても、リアクターへの期待を諦めさせるにはほど遠い

あるいは……

より大きな脅威の出現によって、地上、空中庭園、ひいては……彼らの「利益」そのものが脅かされない限りは無理だろう

セリカ、赤潮の流入地点の範囲をマークしてほしい。拡散速度に基づいて、周囲の影響を受ける全ての保全エリアをマークしてくれないか

…………

議長、赤潮の拡散後、周囲では合計13カ所の保全エリア及び、一部の農園が影響を受けます……これらの場所がそうです

なるほど、これは確かにあなたのやり方ですね

必ず彼らが気にかけるものがある、そういうことだ

それと……月面基地の調査進度はどうなっている?

15.21%、工事機械の輸送に時間がかかっています。調査完了までには少なくともあと4、5日は必要でしょう

しんと静まり返った会議室の扉の外から、微かな音が聞こえた――アシモフだ

ハセン議長、ニコラ司令。そちらが先ほど送ってきたデータ報告だが、分析と推演の結果が出た

結論は?

海洋博物館の下では確実に昇格者が大量に赤潮を貯めこんでやがる。その赤潮の内部で、パニシングがすでに軽度の変異を引き起こしているようだ

早急に介入するよう進言する。さもなければ赤潮が海に入り、異合生物が大量に孵化する。海に近い場所の地上拠点を全面的にロストしかねない

……Ω武器が使用できない場合、宇宙兵器を使用できる可能性はあるか?

ないな

宇宙兵器は地表の赤潮には有効だが、海洋博物館の赤潮は地下3階だぞ

地下の赤潮への到達前に、宇宙兵器のエネルギーが60%程度消耗する。それでは直接的な効果を発揮できない……

そう話している最中、アシモフの端末が突然鳴動した

だが彼は眉をひそめて通信を切断した。数秒後、再び耳障りな着信音が部屋の静寂を打ち破った

ニコラが合図し、アシモフは渋々という様子で通信を接続した。通信の向こうに、青白い女性の顔が現れた

深痕機体はどこ?

お前には関係ない、ヴェサリウス

え?私に、関係ないって言いました?

アシモフ博士、あれは黒野が一手に開発した機体よ。一時的に空中庭園世界政府にレンタルしてるだけ。私には彼女の動向を知る権利がある

彼女は機密任務を遂行中だ、これ以上は伝えられない……

……こんなお決まりのやり取りはいいんです、ニコラ司令。黒野は無償で深痕機体を軍に提供している。深痕機体の開発者である私は、当然、彼女の行方を知る権利を有します

…………

深痕が最後に伝送した意識海データは酷いものだった。データはノイズ混じりで、すでに機体がパニシングから大規模の侵蝕を受けている可能性があります

彼女はもともと第一適合者じゃなかった。このままだと、指揮官の意識海サポートがない限り、あの機体が海底で無駄に消費されてしまう

…………

遡源装置は?

遡源装置はビアンカの意識海に深刻な偏移を引き起こす。あれは理想的な稼働状況とはいえん

それは深痕自身の原因よ。遡源装置のせいじゃない

自我を認めない、そして今の自分も受け入れられない……本当、酷いものだわ

そんな気の持ちようだから、彼女は深刻な意識の偏移症状を示したのよ

青白い女性は嘲笑うように口元を引き上げた

……まあいいわ。遡源装置内の母体の欠片をどう使おうと私はあずかり知らない。でも、深痕は何とかして取り戻した方がいいわよ

そちらで、深痕機体の製造コスト表と向き合うおつもり?

それを研究者が心配する必要はない

ふん、そうですか。でも、私の心血を注いだ研究を、使い捨てされるのは癪に障りますけどね

冷淡に言葉を吐き捨てると、ヴェサリウスの姿が投影から消えた

ビアンカの機体……

確かに酷い状況だ。科学理事会は先ほど、深痕機体から同期された意識海データを受け取ったが……

真っ赤なデータが端末の投影スクリーンに表示された

ビアンカの意識偏移は深刻な状態だが、彼女たちからはもう長い間、任務報告が届いていない

進行予定から推測すると、今ごろは地下2階か3階だろう。そこのパニシングの濃度は非常に高い、通信に干渉されている可能性がある

…………

ビアンカ……確か科学理事会はずっと、ビアンカに適応する新機体を同時に開発していたはずでは?

ああ、開発進度は遅々として進まないがな

この話題が出たためか、アシモフは軽くため息をついた

科学理事会は単にΩ武器搭載の機体を復刻しようとしているわけじゃない。俺たちはずっと、別のアプローチからあの機体の能力を構築しようと試みているんだ

この機体の核となる能力……浄化か?

今の状況下では……浄化というより、圧縮という方が適切だな

例えば、遡源装置の目的はパニシングの情報取得だが、この機体はパニシング内の情報を攪乱し、それによってパニシング濃度を「弱体化」させられる

一滴の墨を清流に垂らすようにな――だが、真の意味で「浄化」することはできない

……黒野から持ち帰った異重合母体の欠片は役に立つか?

ああ

母体の欠片を手に入れ、俺は外部機器によって「遡源装置逆転」の類似効果を一時的に実現し、なんとかあの機体が戦闘中に少しでも長く動けるように維持している

が、最長でも5時間だ。5時間を超えると、機体のエネルギーが尽きて自動的に休眠状態に入る

……今のところはそれで十分だ

今の最悪の状況を考えると、機体の投入を早める必要があります

わかった、Ω武器を輸送する隊員と一緒に機体を降下する手配をしておく。アシモフ、機体降下の前準備を頼む

わかった

ハセンとニコラはその場に残り、議会を説得してΩ武器を使用する方法を模索し続けた。一方、アシモフは身を翻し、会議室を後にした

ビアンカの……新機体

科学理事会に戻り、複数のロックをパスワード解除して、閉鎖実験エリアに入った

機体の保管庫の前に立ったアシモフは、すぐ側のバーチャルスクリーンに流れるデータをじっと見つめながら思案している

遡源装置がパニシングの情報を取得できる技術は黒野の手柄というより、内包する異重合母体の欠片の賜物だ。ニコラの策略を経て、この貴重なサンプルがついに手に渡った

その役割は、単にパニシングの情報を「解読」または「制圧」するだけではないはずだ

固く閉ざされた扉が目の前に浮かび上がった。もはや、彼に必要なのは1本の鍵だけのはず

パニシングの本質を完全に「解剖」するための……鍵