Story Reader / 本編シナリオ / 33 光追う錆夜 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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33-7 死の鐘

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グレイレイヴン指揮官が異重合塔に入ってから5212日が経過

しばらくここにいましょう

ルナは疲れた様子で目を閉じた。彼女は何度も昇格ネットワークを使って未来を演算しようとしたが、見えるのは袋小路の結末ばかりだ

パニシングはひっそりと変異し始め、すでに彼女では制御できない……どうすれば、こんな世界で生き延びることができるのだろう?

一時的な滞在場所に野営の準備は必要ない。赤潮が拠点に侵入しないよう、αはいつものように周囲を巡回していた

ほ、本当にαさんと交代しなくていいんでしょうか……

必要ないわ

で、でも、αさんは怪我してるみたいだし……

……

赤潮の掃除をお魚にさせるんですか?

変異したパニシングで機体の修復を試みながら、ロランはラミアを嘲笑った

ロランは無言のままのルナをチラリと見て、どうやって変異赤潮を避けて安全な拠点を見つけるかを、真剣に言葉を選びつつ考えていた……

……姉さんは昇格ネットワークとの接続を切断した。でも、あなたたちはまだでしょう

しばらくの沈黙の後、ルナは珍しく辛抱強く人魚に説明した

え……えっと?

……

ここまでとはね……

……ふたりとも、私からあまり離れないで

ルナは振り返ると、それ以上何も言わなかった

手短に巡回を終えたαが戻り、この場所の安全を確認した。一行は一時的にここに留まることを決めた

夜になり全てが静寂に包まれ、微風が葉を揺らす音だけが聞こえていた

微かな物音に気付き、ルナはそっと目を開けた

ロランが、いつものおどけたような笑みを浮かべて彼女の前に立っていた

……

私が何をしようとしているか、ご存知でしょう、ルナ様

死ぬわよ

それは「可能性」にすぎません

パニシングに異変が起きている。私じゃもう助けられない

旧世界の「選別」は新世界には認められない。昇格ネットワークの特性のせいで、ある意味で彼らは、別の分岐を進んだ先の時代に見捨てられてしまっている

もちろん、理解しています

それに、私が失敗するとは限りません。私の再構築された機体は……あの淑女からもらったもの

ルナ様とのリンクがまだ保てているとしても、私の力の源はもう別物です

……

死ぬのよ?

ルナはこれまで何度か無理やり行なった演算の中で、それ以外の結末を見たことがない

どうせ死ぬのなら、ちょっと試してみたいんですよ

ロランはいつもの笑顔を見せた

この世界を望んだのはルナ様だけじゃない。私も……

もしかしたら、今こそ幕引きに最もふさわしい時なのかもしれません

彼は最後にルナに一礼すると、拠点を後にし、夜の闇へ消えた

1日、2日、3日……

ラミアがおずおずと慎重に話しかけていたある夜、ふっと顔を上げたルナは、最初の一片の雪がはらりと舞い落ちたことに気付いた

雪が指先に触れた瞬間、ルナはロランと繋がる糸が断ち切られたのをはっきりと感じた

その夜、彼は命を落としていた

グレイレイヴン指揮官が異重合塔に入ってから5401日が経過

3人は進み続けた

道中、彼女たちはほとんど人間の姿を見ることはなかった。拠点は朽ち果て、散らばる骸骨はすっかり塵に覆われていた

いつからこんな風になっちゃったんだろう……

人魚は不安だった。次第に見知らぬ姿に変わっていくこの世界を、本能的に恐れていた

人間は……皆、どこへ行ったの?

普段、彼女たちは人間の行方をさほど気に留めることはなかった。しかし流浪するスカベンジャーに遭遇したり、たまに近くの人間の拠点に迷い込むことはあった

遠くへ旅立ったのかもしれないし、もう全員死んでしまったのかもしれない

も、もしかして、どこか避難できる場所を見つけて、隠れてるとか?

何か情報があるかも……

彼女はいつものように確かな答えを得ようと、切実な思いでルナを見つめた

人間の力では、そこまで大規模なシェルターを作るのは無理よ

で、でも……

ラミアの声色に泣き声が滲んだ

……

ルナは口をつぐんだ

ラミアをどう慰めればいいのか、そして、この運命づけられた結末をどう説明すればいいのか、彼女にはわからなかった

そ、それとも……避難できる場所を見つけられる可能性はないのでしょうか?

例えば、う、海に浮かぶ小さな無人島とか……

無理ね

私なら海に入れます。ルナ様がくださった新機体はとても機動力が高いし、大半の海の異合生物にも対抗できるし……

だけど、海の変異は陸地よりずっと早いのよ

も、もしも新たな希望を見つけられたら?

人類の手がかりを見つけられるかもしれませんし……「新たな希望」も見つかるかも……

彼女たちは、ちょうど海峡を通りすぎるところだった

もう以前の異合生物とは違うの、ラミア

彼女は、時とともにパニシングを掌握する力が弱まっているのを感じていた。同時に、別の「力」が彼女からパニシングの支配権を奪わんと、徐々に強くなっていくのも感じられた

赤潮の中の新たな0号代行者が、目覚めようとしている

赤潮が海に逆流し、海中では巨大な異合生物が生まれるわ。これまでにあなたが見たどの生物とも違う、ずっと恐ろしいものが

昇格ネットワークも絶えず変化しているわ。このままでは、いずれ私も掌握しきれなくなる

それでも……「新たな希望」を探しに行くというの?

ぜ、絶対にいい知らせを持ってきますから……

ルナ様が改造してくれたこの機体は本当にすごいし、きっと、前みたいにいい知らせを持ち帰ります!

……ごめんなさい

ルナは、最後にもう一度ラミアの機体を改造したかったが、もはやその力はなかった

海岸に立ったルナとαは、海に消えていく人魚の姿を無言で見送った

何が起きたかはわからなかったが、ルナはラミアが何かを見つけたように感じた

それが、彼女たちが休めるパニシングの少ない小島だったのか、それとも別の何かだったのかはわからない……

しかし翌朝、αが再び満身創痍で一時拠点に戻ってきた時……

……

αの傷の手当をしていたルナの手が一瞬止まり、そして目を伏せ、指を震わせた

……ルナ?

……

……ラミアね?

ルナは答えなかった

彼女はとっくに知っていたはずだ。昇格ネットワークが代償を要求する前から、彼女はすでに全ての結末を目にしていた

ラミアに繋がる糸も静かに切れていった

あの臆病な人魚は平和をもたらす白い鳩ではなかった

それから……長い長い時がすぎた。どれほど時間が経ったのか、彼女はもう思い出せない

赤潮は完全に制御不能となり、異合生物が進化を続ける中、αはルナを連れて進み続けた。ふたりは互いを守りながら、遠い昔のように支え合って生きていた

赤い幻影はふたりに絶え間なく悪意に満ちた触手を伸ばし続けた

時にはロラン、時にはラミア、そして時には遠い昔の「思い出」が現れる

それから……何があった?

長い時間の消耗の中でいくつかの記憶は次第に曖昧になり、波ですり減った古いガラス片のようにぼやけてしまった

ルナは少しだけ目を細め、手の平の上でしきりに降る雪を感じていた

その後……海峡を離れたαとルナは、北極航路連合周辺まで旅を続けた

地理的な理由から、ここはまだ変異赤潮の大きな侵蝕は見られないが、周囲にはかなりの数の異合生物が潜んでいると思われた

この辺りは危険だわ、周囲の異合生物の拠点を片付けてくる

……行くの?

ルナは行かせたくなかった。戦闘続きでαはもう満身創痍だ。パニシングがこれほど変異している今、彼女はパニシングで機体を修復することができなくなっていた

ひとりで……大丈夫?

私は大丈夫よ、姉さん

ルナはαの位置を正確に捉えた

姉さんは重傷を負ってる。あの異合生物は私が片付ける

姉さんは昇格ネットワークに接続できないし、それに……

昇格ネットワークはすでにパニシングの衝撃でほとんど崩壊してしまったが、それでも旧世界の代行者はまだ一部の権限を保持していた

だが、たとえ代行者であっても、自ら昇格ネットワークとの接続を断ち切ったαを救う手立てはない

変異したパニシングの影響を受けないという強みが新たな弱点に変わり、長年の戦闘でαの機体も消耗し、壊れる寸前だった

大丈夫よ

振り返った瞬間、ルナの心情を察したのか、αは簡単に説明した

あの異合生物たちは更に進化してる、とても危険だわ。ここもしばらくは安全だったけど、放っておけばそれも危うい

もう目がほとんど見えないんでしょう。私の機体は損傷しているけれど、少なくとも視覚モジュールに問題はないわ

ここで待っていて、すぐに戻るわ

視力を失ったルナを山頂に残し、αはその場を離れた

彼らの物語は、こうして終局を迎える――彼女がかつて昇格ネットワークの中で見たのと同じように

ルナは静かに崖の上に座っていた

なぜ……突然この全てを思い出したのだろう?

空虚な目は静かに降る雪を見つめていた

一切が……もうすぐ終わりを迎える