Story Reader / 本編シナリオ / 33 光追う錆夜 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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33-6 濁った月光

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暗い森の中に、濡れたような月光が見え隠れしている

……あの怪物たちは追ってこなかったか

そっちの状況は?

……それを訊いたんじゃない

バネッサはつかつかと近寄り、指揮官の防護服にあるパニシング濃度の表示を確認した。濃度の低下を確認してようやく、彼女は肩の力を抜いた

ここで小休止だ

この林の厄介な連中どもめ……本当に手が焼ける

ルナがいる山林は、天航都市の簡易的な「清浄地」からは手が届かない外れの場所にある。そこに現れる怪物は特に厄介な存在だった

拠点へ戻る途中ふたりは異合生物に追われ、苦労しながらやっとのことで山林を抜け出した

ゴォーン――――――

言いかけた時、マインドリンクから突然鈍い音が響いた

まるで千もの鐘が同時に耳元で鳴り響いているように、鼓膜に刺さる痛みがある。視界がふいに真っ暗になり、何かが自分のマインドリンクから徐々に剥がれ落ちていく……

「枷」だ

……?

意識は凍てつく泥土に深く沈み込むかのようで、鐘の音が脳の奥深くで絶え間なく反響している

……

彼女はすぐさま近寄り、防護服の数値を見て眉をひそめた

腕にチクリと針が刺さり、冷たい液体が滾る血液と一時的に混ざり合う。その鋭い痛みが、意識を僅かに引き戻した

侵蝕の進行が速い。恐らく耳鳴りもそのせいだ

違う、耳鳴りじゃない

……

錯覚だ

降り積もる雪がかみ合わない答えを吸い込む。ぼやけた視界の中で、バネッサは唇を引き結んだ

休憩は終わりだ。すぐにここを離れる

彼女は簡易端末を取り出しておおよそのルートを確認すると、有無を言わさずこちらの腕を引っ張って、足早に拠点へ向かった

丘をいくつか越えると、ようやく拠点の微かな灯りが見えた。見慣れた人影が、急ぎ足で迎えにくるのが見える

バネッサさん!指揮官!

拠点で何かあったのか?

つい先ほどのデータ監測の結果です。理由はわかりませんが、拠点内のパニシング濃度が急上昇し、人類の生存可能な最低ラインを超えてしまいました

拠点内には、まだ避難できていない人たちのグループがふたつ残っているんです……

ですが、天航都市の車両がまだ戻っていません……

……わかりました

駐屯している警備隊は、ただちに住民たちの避難を支援してください!

簡潔な命令を受け、拠点に残っていた人々はすぐに行動を開始した

全ての軍需品を放棄し、持つのは必要最低限の物資だけだ。住民たちは困惑しながらも迅速に集合した

あれこれ説明をしている余裕はなかった。警備隊の支援の下、全員が天航都市へ向けて歩いて避難し始めた

大墓碑を囲む灯りが、ひとつ、またひとつと消えていく

拠点の外周に立ち、ルナが座っていた遠くの森を見つめた。重いブーンという羽音がマインドリンクにこびりついているようだ

ふいに、その羽音が一瞬歪んだ。何かに気付いたのか、エマが手を止めて遠くの山を見た

……?

何かあったのでしょうか……

すぐに、携帯していた装置の振動がエマの注意を引いた

えっ?

[player name]、パニシング濃度が下がっています。この数値なら……

えっ?はい、全て片付いています。でも、パニシング濃度は……

二度も言葉を遮られたエマは一瞬ポカンとしたが、その理由を理解したようだ

エマの視線を避けて、もう一度振り返る。山は静かに佇み、雪と朽木が哀しみの旋律を奏でているように見える

あの微かな灯りも、ついに消えてしまった