Story Reader / 本編シナリオ / 33 光追う錆夜 / Story

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33-8 「明日」

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漆黒の天幕が、空に残る僅かな光と希望を呑み込んでいく

……前進速度は時速6~7kmほど、座標の調整が完了しました。天航都市へ向かう経路上から外れてはいません

人類の物資は不足し、変異赤潮は荒れ狂っている。大部分の電子機器はすでに故障しているため、最も原始的な方法で進むべき方向を調整するしかなかった

端末を閉じると、微かに残っていた光も消えた

全員が無言で前進を続けた。辺りに響くのは、厚底の靴が雪をザクザクと踏みしめる音だけだ

これが大墓碑拠点に残された最後の人間の姿だ。彼らが天航都市に到達した時、大墓碑拠点は真の名前を取り戻すことになる

気温はますます低くなっていた

……

端末の微かな光が再び灯り、その光がエマの横顔を照らし出した

はい、彼女たちは、すでに最後に戻ってきた警備隊と外の物資収集隊と合流しています。あの速度なら、まもなく私たちに合流するでしょう

あの、指揮官……さっき、パニシング濃度が低下したのは、ルナが……?

残り少ないエネルギーを節約するため、彼女は端末を閉じた。再び辺りから光が消えた

この寒空の下で、死はすでに見慣れたものになったが、それでもその言葉を軽々しく口にしたくはなかった

自分とバネッサが去って、彼女は新たな0号代行者と対峙した。パニシング濃度が急上昇したのは、恐らく新たな0号代行者が優勢だったから。そして、その後……

彼女は約束通り、最後にもう一度だけ自分を助けてくれた。そして、自分と人類のために……残された僅かな「時間」を稼いでくれた

足下から寒さが這い上がり、吐く息は乱れながら暗い空気中で凍てついていく。その横を歩く人間がふたりの会話を聞いていた

ルナ……あの昇格者までもが……

どうしてこんなことに……

大墓碑も守り切れなかった。天航都市だって、いつかは……

彼女は嗚咽を漏らした

このまま、このままじゃ……私たちに、本当に生きる道なんてあるの……?

寒さは更に厳しくなり、薄着のせいもあって人々の声は震え始めた

……

不安がる人々を落ち着かせようと、バニカは凍える手をこすり合わせ、背負っていた琴を手に取った

風が琴の弦を弾き、微かな旋律がゆっくりと響いた。人々の不安を和らげるように、バニカは歌い慣れた歌を静かに歌い出した

俗世の肉体を脱ぎ捨てた時

それは目覚めなのか、長き眠りなのか

激しい嵐は魂を吹き消すことはできず

この闇夜で、私たちは最も勇敢に戦う

伴奏もないこの悲しい戦歌は、魂を弔う悲哀が込められたものとなる

バニカが焚火の側で何度もこの歌を歌っていたため、拠点の人々の誰もがこの歌をよく知っていた

枝に積もった雪がサラサラと落ちていく。静まり返っていた人々は、誰からともなく歌い手の声に合わせて歌い始めた

歌詞

夜がどれほど長くとも、夜明けは必ずやってくる

希望を胸に、我らは歌う

シュッ――

灼熱の炎が空を照らし、眩しい光が地上の闇を切り裂いた

歌詞

信念は赤々と燃えている

見よ!灰の中から浮き上がる――

先駆者たちの足跡を

錆びついた刃が手を斬り裂こうとも

深い傷を負おうとも、瓦礫の中で生まれ変わる……

誰も会話する者はおらず、途切れることのない歌声が、手に握る信号筒のように沈黙と苦痛の大地を燃やしていた

炎の余光の中で、そびえ立つ城壁が雪混じりの風の間にうっすらとその姿を現した

どれほど長い時間歩いたかわからないが、人々はついに天航都市の門を目にした

都市に入り、エマが住民たちを休ませるために忙しく動き回る一方で、城門付近でロサに呼び止められた

指揮官、いいニュースと悪いニュース、どちらから聞きたいですか?

異重合コアの欠片……付近の異合生物から見つけたあの物体ですが、その中の情報をアンロックできました

中には、異重合塔コアの解析理論が記録されており、前に解読できていた部分と合わせると……

なんとか強化版「浄化器」を作り出せそうです。前の浄化塔と同じように、今の変異した赤潮とパニシングを一時的に浄化できます

完全にパニシングの変異を防げるとは言い切れませんが、少なくとも目の前の非常事態には対処できるはずです

悪いニュースというほどでもないんですが……

変異赤潮を調査するのに、資源も人手もかなり消耗しています。本当にこのまま続けますか?

指揮官が命懸けで手に入れてくれた異重合コアの欠片の内容ですが、前に異重合塔コアから解析できた部分と、なんとか組み合わせることができました

これで強化版「浄化器」を作り出せそうです。前の浄化塔と同じように、今の変異した赤潮とパニシングを一時的に浄化できます

ですが……ご存知でしょうが、この件で、もうすでにかなりの時間を費やしています。物資や機材だけでなく、まともなラボすらありません……

ですから……

彼女は静かに繰り返した

本当にこのまま続けますか?

変異赤潮から、この全てを解決できる糸口を見つけ出せる可能性はあります。ですが……本当にそこまでする価値があるんでしょうか?

物資や人員、それに果てしない時間を消耗します。それに……

新たな0号代行者、新たな赤潮の意志……今の状況では、その「成分」を分析するのは非常に困難です

これが何を意味するのか、指揮官もわかっているはずです

……はい。そして、その「生命」は、地球のものではありません

もしアシモフ先生がいれば、何もかも解決できたかもしれませんが……

……私にはとても無理です

彼女はしばし沈黙し、再び口を開いた

すでに異重合の欠片から解析方法を得たのに、なぜ異重合塔コアの研究を続けないんです?絶対的に安定した拠点があれば、それが人類生存の方法になるのでは?

決断をお願いします、指揮官

変異赤潮の調査を続けるか……あるいはその調査を中断し、異重合塔コアの研究に集中して、安定した拠点の建造に注力するか

実験データの記録を1ページずつめくりながら、指揮官は深く考え込んでいた

確かにロサの言う通り、変異赤潮の調査にはすでに多くの人員と物資が費やされている

30年前なら取るに足らない消耗量でも、30年後の今は……ひと粒の麦の種ですら新たな希望と呼べる状況だ。ましてやすでに莫大な資源が費やされてしまっている

……少し休む時ですね

ロサは、地面にまで届く長さの物資の消耗リストを見つめていた

……本気か?まだ「休む」余裕があると本当に思っているのか?

後方から追いついてきたバネッサが、会話の最後を聞いていたようだ

人類が異重合塔コアの謎を完全に解析し、パニシングを完全に浄化できるフィルターを手に入れたところで、どうなる?

硬い殻を作り、その中に縮こまって閉じこもるのか?

ですが実際のところ、人類にはもう反撃の余地はありません

エマの話では……大墓碑はまもなく赤潮に呑まれるそうです

物資をたくさん手に入れたとか……もっといい避難場所を見つけたとか……そういういい知らせを、持ってきてくれたことなんてありますか?

ロサは半ば懇願し、半ば詰問するように、暗い顔でバネッサを見つめた

ここ最近で警備隊や物資収集隊が……どのくらいの物資を持ち帰ったかはご存知でしょう?

……

鋭い質問に、バネッサは黙りこくった

拠点外のほとんどの地域はすでに変異赤潮と高濃度のパニシングに占拠され、外へ物資収集に向かった部隊も長らく役に立つものを見つけられずにいる

少なくとも硬い殻があれば、人類はひと息つけます。ですが、このまま変異赤潮の調査を続けて……

人類が生存のチャンスを完全に失うことが怖いんです

はい、一時的にペースを落とすだけです

ロサはまるでゆりかごの側で語るように、穏やかな口調で話した

今、天航都市にある「浄化器」で、しばらくはパニシングを浄化できます

異重合塔コアの内容が解析できれば、新たな武器や資源を手に入れられるかもしれません……

その時になれば、変異赤潮の調査を再開し、答えと突破口を探せます

……だが、その日は一体いつになる?

バネッサの失望はよく理解できる。だが、それでも……

疲れ果てた拠点の住民たちは、粗末な荷物をボロボロの建物に置き、なんとか天航都市で落ち着こうとしている

シュエットは、数名の警備隊メンバーを引き連れて戻ったばかりだが、全員の体に深い傷が刻まれている

変異赤潮は水源を破壊し、人類の生存に必要な全てを奪っていく。この災厄の中で、人類はただ生き延びるだけでも、全力を尽くすしかない……

時間が貴重だということはわかっています……しかし、これ以上の消耗に人類は耐えきれません

拠点では……もう何年も赤ん坊の泣き声を聞いていません

……

安住の地がなければ、この世界で新たな命を育むことはできないんです

彼女の目の奥は霧がかかったように滲んでいた

私たち構造体は物資の損失を気にかけなくても問題ありません。バネッサさんもそうでしょう?だけど……人類は?

エマからもらった資源の消耗リストと合わせて確認した結果、ロサの言葉は決して空論ではなかった

赤潮調査の目的は反撃のためだ。しかし、今の状況では……

物資は次第に枯渇し、死傷者は増加、0号代行者はますます力をつけつつある

人類は常に劣勢にあり、人海戦術を使おうが、赤潮が溢れる小さな窪地すら埋められない

この状況で、短時間の内に人類が反撃する力を取り戻すのは不可能だ

その後、か……

彼女はフンと鼻で笑い、ひと言だけ言い残して立ち去った

忘れるな。地球の全てが、人類のものだったということを

地球の全てが、人類のものだった

ロサはため息をついた

バネッサさんは、全ての土地を取り戻したいと思っているんです……大墓碑だけじゃなく、他の侵蝕された土地も全て

バネッサさんの気持ちはよくわかります……今回の決断をわかってくれるといいのですが

雲の上からは雪がしんしんと降りしきり、冷たい風がロサの手書きの消耗リストをバサバサとはためかせた

プリンターのインクなど、とっくに切れている

ナナミさんが残したあの倉庫を発見したあと、使えるものがないか隅々まで確認しました

食料やその他の消耗品を含めて、残った人類と構造体がしばらく生き延びるには十分な量の備蓄を見つけました

すでに温室を建設する手配を進めています。落ち着いたら温室での栽培を始められるでしょう。これを命綱に人類はしばらく生存できるはずです

その後は……

ロサは手短に計画を話していたが、話す内に迷いが出てきたかのように目を曇らせた

もしかしたら、異重合塔コアの真の謎を解析できるまで、持ちこたえられるかもしれませんね

そうですよね……きっと大丈夫

声は不安そうな震えを帯びていたが、ロサは大丈夫という言葉を繰り返した

廃れた天航都市が、人類最後の文明の痕跡を支えている

粗末な温室を頼りに、人類はかろうじて糊口をしのぎ、暮らしを維持していた

しかし、それはまるで紙の船が灼熱の海を進むようなもので、この破滅しかけた文明がいつまで生きられるかは誰にもわからない

人類は天航都市に留まり、ロサは必死で解析を続けている。天航都市の「浄化器」は強化を重ね、異重合塔コアを新たに解析した内容を頼りに、人類はなんとか延命していた

だが時間が流れるにつれ、新たな0号代行者に太刀打ちできる方法はなくなっていった

紙の船は灼熱の海を進み続ける……

人類の結末――「明日」 人類の文明は、ここで幕を閉じた

赤潮の調査を中断するだと?その上、あのいつまで使えるかもわからない「浄化器」に全ての命と選択権を委ねるというのか?

疲れ果てた様子のバネッサは、会話の最後をきちんと聞いていたようだ

ですが、人類はもうこれ以上持ちこたえられません……

だとしても、中断する選択肢はない

少なくとも……人類は自分の敵が何なのかをはっきり知るべきだ

バネッサは天航都市の外周に冷たい視線を向けた。そこでは、変異赤潮が捻じれながら人類の文明を侵蝕し、血を吸う蛭のように地球の「養分」を貪っている

温室を建設し、今ある物資を使って……

……

あまり夢を見るな、ロサ

最終的に人類が完全に天航都市を手に入れたところでどうなる?この高い壁の中で、永遠に生き延びるのか?

地球の全てが、人類のものだったということを、忘れるな

一瞬、熱く湿った血が目の奥に広がり、意識が朦朧とした。異合生物の悲鳴が脳内にこだまする。何か見えたようだが、そのひと筋の蜘蛛の糸をしっかり掴むことはできない……

ですが、それには代償が伴います……

代償……代償なしにできることなどあるか?

ふっ……ここまで生き延びてきた者に、臆病者はいない

彼女は大きく胸を上下させて何度か深呼吸を繰り返し、なんとか落ち着きを取り戻した

もう……こんな生活にはうんざりだ

窓の外では、地面に向かって咆えるように雪が激しく降りしきっていた

逃げて、隠れて、拠点や高い壁の中に囚われて……

これが人類文明の未来だというのなら、私は生きていたくはない。このクソみたいな未来を打ち破るためなら尚更だ

では、指揮官……

ルシアやナナミ、そしてたくさんの人々が「未来」へ進もうと努力している。自分たちがここで足を止めていいはずがない

ここで世界の歩みを止めるわけにはいかない。敵を十分に理解して初めて、本当の解決策を見つけられる

それに……

カイウスも消え、変異赤潮を抑えられる者がいなくなった。変異赤潮は刻一刻と変化し、新たな0号代行者はこの全てをじっと見据えている

天航都市の資源も限られている。温室と在庫の食糧に頼り、この場所に閉じこもったとして、他の消耗品はどうなる?

構造体に必要な循環液や予備パーツ、人類に必要な血清や薬品……天航都市では製造できず、再生もできないこれらの物資をどうする?

実験機材が長い年月の中で壊れた場合、それに見合う代用品をどこから調達すればいい?

……

すでに退路のない今の状況でできることはひとつ、ただ前に進むだけだ

この道のりには必ず犠牲が出る。それが私であるかどうかは重要ではない。生きている限り、私は諦めず抵抗し続ける

人類は……自由だ。井の中の蛙のように、座して死を待つような存在じゃない

短い協議の末、現在の警備隊と構造体から志願者を募り、赤潮のサンプリングと詳細な研究を進めることが決まった

意外なことに、募集の通知を出すや否や、ラボの入り口から通りにまで志願者たちの長い列ができた

バネッサはラボの外の壁に寄りかかり、意味ありげな表情で列をなす人々を眺めていた

いや、少し驚いているだけだ

……

今回の先遣隊は君と私だけになると思っていたが……昨晩、彼らの話し合いの声で起こされた

ふん……悪くない

バネッサは灯りが揺れる通りを見つめた。粗末な照明器具を手にする人々の表情には、希望と不安が入り混じっていた

高い壁に囲まれ、永遠に閉じ込められることを望む者などいない

光を見た以上、暗い潮水に耐え続けることはできない

その代償が死であったとしても、人類は胸を張り、その墓碑銘を地球の大地に刻むだろう

何億年もの時がすぎ去ったあと、未来の文明は、ここに彼らの不屈の意志と戦いの功績を見るだろう

すでに傷だらけで、弾薬も食料も尽きかけていたとしても――