コレドールが異重合塔に入ってきた コレドールが異重合塔に「戻って」きた
異重合塔が微かに震えながら、かつての主人を歓迎する。すぐに、コレドールは塔の中にあるコアを見つけた
…………
懐かしい感覚が彼女の意識を震わせた。澄んだ青いコアに触れようと、彼女は手を伸ばしたが……
突如展開したフィールド障壁によって、彼女は異重合塔コアから弾き飛ばされた
0号代行者
私はやはりコレドールという名前の方が好きですが……そうそう、まだお礼を言えていませんでした。0号代行者の権限を手にしてから、私はすでに一部を思い出しました
それはよかった……お陰で少しは時間を節約できそうですね
代行者の手が輝き出し、閃光が一直線にコレドールへ迫った
カイウスの意識は十分に<color=#ff4e4eff>完成</color>している。そこに何らかの謎が潜むとしても、0号代行者の権限を担うには十分だ。目の前の異類と争う必要も、時間を無駄にする必要もない
私とおしゃべりがしたいのかと思っていたのですが……
コレドールは一瞬姿を消し、赤い結晶の後ろへ退いた
あなたたち、何か<color=#ff4e4eff>変え</color>ましたね?
彼女の真っ赤な瞳が、カイウスに向けられた
小さな人形は巧みに結晶を回り込み、コレドールの後方から襲いかかった
本当に座って話し合うことはできないのですか?
…………
私たちの間で衝突はないはず……
だとすれば……あなたは……一体誰なのです?
赤い結晶が擦れ合って甲高い音を立てた。赤い蝶が舞い飛び、代行者と人形に襲いかかる
すぐに知る必要はなくなります
3人は塔の中を高速で飛び回った
コレドールは、フォン·ネガットとカイウスからの同時攻撃に耐えきれず、コアから離れた場所へ逃げ続けた
コアから離れさえすれば、代行者たちも深追いはしないはず――だがコアから遠ざかっても、なぜかフォン·ネガットは追撃の手を緩める気配がない
…………
一瞬の隙をついて、なんとかコレドールは一時的にふたりを振り切り、結晶の陰に身を隠した
コレドールには助けが必要だった。このままでは、異重合塔が彼女の本拠地であっても、十分な権限を取り戻さない限り、異重合コアの力を使うふたりに対抗できない
そういうことであれば……
彼女の手の平から細い赤潮の流れが放たれ、四方八方へと広がっていった
……見つけました
彼女は、すでに異重合塔の壁面から伝わる「風の音」を聞き取っていた
誰が残したものかはわかりませんが……
塔の壁の亀裂を捜し出し、コレドールはギラリと光る鎌を持ち上げ、小さな傷跡を精確に狙った
……拒むことはありませんよね?
赤い光が激しく輝き、小さな亀裂が一気に広がった。赤潮は古巣へ帰るように異重合塔内へ流れ込む
向こうです
異重合塔が損傷した瞬間、代行者はすぐにコレドールの居場所を察知した
フィールド障壁を足場にして、カイウスが勢いよく飛び上がる。視界を遮る赤い蝶を払いのけ、コレドールに迫った
赤潮が押し寄せ、異合生物がカイウスの皮膚や肉を凶暴に噛みちぎる。しかし人形は痛みをまるで感じていないかのように、精確にコレドールの頭部を攻撃した
下がりなさい!
確かにコレドールに命中したものの、カイウスも鎌によって片腕を切断されてしまった
赤潮由来の異合生物の片腕は瞬時に吸収され、そのまま赤潮へ溶け込んでいった
別の方向から姿を現したコレドールは、カイウスの一部を取り込んだあと、愕然とした表情を見せた
ドミニク……
赤潮から断片的な「情報」が伝わり、コレドールは恐怖に慄きながら更なるカイウスの攻撃を回避した。その瞳には稀に見る恐怖の色が浮かんでいる
権限を失った0号代行者は、反転異重合塔から追放され、赤潮の荒野を彷徨っていた
先遣隊……フィールド障壁……
カイウスはコレドールの胸を貫いたが、人形の体も鎌に切り裂かれていた――
地球時間2198年11月21日、201ノード記録: 人類は、カイウス汚染の拡散を防ぐために携帯可能なフィールド障壁を開発した……
フォン·ネガットの金色の結晶がコレドールの頭部を刺し貫いたが、彼自身もカイウスもコレドールの攻撃によって負傷した――
地球時間2198年11月22日、371ノード記録: ドミニク率いる先遣隊は、依然として異重合塔を探索していた。 フィールド障壁の影響で、具体的な計画を探るのは困難な状況にある
赤潮は、カイウスに触れる度に次々と情報を吸収し、消化していった。その「情報」をコレドールは何度も遡り、戦う中でかつてのことを少しずつ思い出していった
ぐうっ……
またフォン·ネガットの金色の結晶の攻撃を受け、コレドールは再び赤潮の中に沈んでいく
異重合塔はかつての主人の手によって、次第に時計の針を逆回転させ始めた
コレドールは赤潮の中でゆっくりと再生していく。そして……彼女はすでに、ほぼ全ての「記憶」を取り戻していた
先遣隊……弦計画……ドミニク……
ニモ……
…………
<color=#ff4e4eff>お久しぶりですね</color>
血に染まる赤潮の中から、彼女は代行者に向かって微笑んだ
繰り返される死と破壊の中で、カイウスの血肉を通して、彼女は自分の「<color=#ff4e4eff>全て</color>」を取り戻した
まさに、「努力」と名付けられるべき物語……
赤い蝶が集まり、その主を潮の中から持ち上げた
あなたはあなたの使命を果たす必要がある。ならば私も、私の任務を続けなければなりません
光る大鎌が赤い結晶を反射する。フィールド障壁を展開したフォン·ネガットは、顔を曇らせながら目の前のコレドールを見つめた
思い出したのですね
……カイウスに埋め込んでくれた記憶のお陰です
先ほどまで劣勢だったコレドールは勢いよく跳び上がった。大鎌が静寂の空気を切り裂く
ですが……私も気になってしまって
ずいぶん、焦って攻撃していますね。本当に準備は整っているのですか?
コレドールの記憶は、カイウスの血肉の中で徐々に補完され、彼女は自身の権限を手に入れた
あっという間に、形勢が逆転する
…………
異重合塔の外で、フォン·ネガットは息を喘がせながらパニシングを使って体を修復していた
「夢渡る橋」をよく知る彼は、コレドールの攻撃を避けるため、フィールド障壁を使って3人を一時的に異重合塔から押し出した
コレドールがどこに降り立つかがわからないのは非常に危険ではあるが……彼女を異重合コアに近付けるわけにはいかない
記憶を取り戻したコレドールは、異重合塔の中で0号代行者として全盛期の力を回復しつつあった。カイウスはいまだ赤潮の支配権を奪いきれず、彼らは劣勢に立っていた
…………
フォン·ネガットは額に焦燥の色を浮かべ、深いため息をついた
ダメだ。このままでは遅すぎます
異重合塔内の時間は乱れ、戦闘を何度も繰り返す中で、コレドールは急速にカイウスの体に宿る自身の「記憶」を吸収した。カイウスもまた徐々に赤潮の権限を呑み込みつつある
しかし、それでもまだ不十分だった。カイウスの成長速度は、コレドールの復活の速さに到底追いつけない
……機を見誤りました
フォン·ネガットは額に手を当て、焦る気持ちを抑えながら、再び思考を整理しようとした
得がたい本物の「復路の切符」を追うあまり、最終的な答えを求める気持ちが強くなりすぎていた……彼は、自分の計画に描いた「結果」を切望しすぎて、急ぎすぎたのだ
私のミスです
人形は静かに代行者の姿を見つめていた。恐らく赤潮の権限を一部手に入れたことで、異重合塔を離れたあとも、人間の視線はここに留まり続けているのだろう
それは<phonetic=指揮官>自分</phonetic>の記憶には、一度も現れたことのない「結末」だった
自分とルシアが異重合塔に入った時、フォン·ネガットは狂人のように振る舞い、カイウスを使って何度も自分を攫おうとした。一方、コレドールは着実に異重合コアを目指した
今回は、カイウスの完成度に気付いた代行者が全ての手段を捨て、直接コレドールに迫った。だがそれでも、死の中で徐々に成長する彼女を止めることはできなかった
どうすれば……この袋小路の結末を打ち破れるのだろうか?
……問題ありません。まだ予備の計画があります
彼は思案しながら、目の前の成長を続ける人形を見た
カイウスを成長させる時間が足りないのなら……
……「果実」を使いましょう
彼は一方的に決断を下すと、少し黙考してから、手を伸ばしてカイウスの額に触れた
代行者が何をしたのかはわからない。だが意識が鈍い刃物で切り裂かれたようで、重苦しい痛みが湧き上がり、危うく視線を保てなくなるところだった……
我に返ると、フォン·ネガットの開いた手の平の上に小さな「果実」が現れていた
記憶をたどると、自分がかつて飲み込んだ「果実」も、同じように作られていた
……ん?
細かい異重合結晶がカイウスの損傷した意識を回復している時、彼は、ほとんど気付かないような微細な隠れた損傷を発見した
意識が、似たような損傷を経験している……
何か、まだ私に隠していることがありますか?
代行者は探るような視線を向けた
…………
カイウスが抵抗の感情を示していることに気付き、フォン·ネガットは異重合塔に入ってからずっと抱いていた焦りを押さえ、首を振った
まあいいでしょう、今はそれを追及している場合じゃありません
異重合結晶がカイウスの爛れた傷を修復していく。代行者は瞳に宿した感情を引っ込めた
あなたの意識を赤潮に送り込み、コレドールを抑え込む方法を考えなければ……
不吉な影が彼の背後で空を切り、奇妙な軌跡を描きながら捻じれた――
待て――
フォン·ネガットは顔色を変え、果実を人形の手に置いた。異重合塔の裂け目が背後で静かに開き、代行者は大きく成長したカイウスとともに一瞬で異重合コアの周辺に戻った
コレドール――!
金色の結晶が、異合生物を異重合塔コアに突撃させた赤い瞳の少女に猛然と襲いかかる。フォン·ネガットはフィールド障壁を展開し、押し寄せる異合生物を迷いなく斬り払った
ああ……こっそり忍び込んだから、気付かれないと思ったのですが
ひらりと飛びのいた彼女は、突然現れた代行者と人形をまったく脅威とみなしていないようだ
ここの状況をタイミングよく知らせる何かを、仕掛けていたのでしょうか?
当ててみましょうか。もしかして……
……これでは?
コレドールは異合生物を操り、周囲のフィールド障壁装置に精確に狙いを定め、一気に攻撃を仕掛けた
…………
代行者は無言だった。金色の結晶が猛然と飛び出し、コレドールをその中に閉じ込めた
残念……
それだけでは、記憶を取り戻したコレドールには対抗できない
赤い瞳の少女の姿は、静かに赤潮へ溶け込んでいった
彼女が操る異合生物は、異重合塔コアとフォン·ネガットの挟み撃ちによって多くが消滅したものの、もともと異重合塔から生まれたコレドールは依然として厄介な存在だった
赤潮はあらゆる場所に存在し、コレドールは泥のような液体の中を移動しながら、ふたりとの駆け引きを続け、コアを攻撃する隙を探し続けていた
純粋なコアは、パニシングの力を絶えず浄化し続け、一番最初に倒れるのは誰かと見守っている
油断は禁物です。気を抜くと、すぐに足下を掬われますよ――
代行者が無理やりフィールド障壁を展開し、コレドールをコアの側から追い出そうとした。その隙に人形はフィールド障壁を利用し、コレドール目がけて突き進んだ――
ふふ、引っ掛かった
コレドールは体を反転させ、胸を貫かれる代償を払いつつ、血まみれのまま青白い人形を抱きしめた
私の狙いは、あなた……
カイウス
傷口から赤潮のような液体が溢れ出す。コレドールはニヤリと笑い、得がたい至宝を手にしたかのように、全身全霊で人形の血肉を堪能して貪り始めた
あなたが0号代行者の権限を狙っていることに、私が気付いていないと本気で思っていたのですか……?
ねえ、泥棒さん?
カイウス!
フィールド障壁を展開しながら、代行者が鋭い声で叫んだ。すると、ハッと人形の意識が覚醒した
人形は五指を鋭利な爪に変えてコレドールの胸を貫き、手を反転させ、「果実」を叩きつけるようにコレドールの体に埋め込んだ――
…………
少女は人形の反撃で一瞬、動きを乱されたものの、それはほんの一瞬にすぎなかった
こんなものが……あなたたちが必死に考えた計画?
あなたを過大評価していたかもしれません、ニモ……
時間の輪廻とともに、あなたたちの頭の回転が鈍くなってしまったのではありませんか……?
彼女は嘲笑うと弱り果てた人形を投げ捨てた。赤潮がじわじわと人形の血液を吸い上げる。コレドールが指を伸ばし、体に埋め込まれた「果実」を取り出そうとした、その時――
うっ――
何かに引き寄せられるかのように、「果実」は急速に溶け、彼女の体の中に消えてしまった
な……なぜこんなことが……
操られる奇妙な感覚が彼女の体の隅々にまで広がり、次第に力が失われていった。完全に彼女のものだった「権限」が、揺らぎ始めている――
カイウスの血肉に分散して隠していたの……
彼女は歯ぎしりしながら、諸悪の根源を掴み出そうとした。しかし細分化された力はあちこちへ四散し、深く埋まった砕けた根をすぐに掘り出すことができない
よくも……
あっという間に、カイウスの「果実」は完全に彼女の体内に溶け込んだ
今この瞬間にカイウスを飲み込んだとしても、彼女がカイウスを「消化」できる保証はない。それどころか、反対にカイウスに飲み込まれる可能性もある
もしカイウスが主導権を握れば、彼女は即座に0号代行者の権限を失うだろう――
か弱い人形は赤潮を利用して素早く体を修復し、逆流する潮の流れを操ってコレドールの退路を断とうとしている
しかしカイウスの権限も安定しておらず、コレドールの阻止はほんの少しの距離にとどまった
フォン·ネガットは異重合塔コアを守るため、フィールド障壁をコアの外側に残していた。カイウスが奪い取った赤潮の権限は部分的で、完全な支配とはいえない……
状況を天秤にかけた結果、コレドールはパッと身を翻すと無数の異合生物を後方のコアへ差し向け、自身は全力を振り絞ってフォン·ネガットに飛びかかった
赤い結晶の棘が急激に成長し伸びていく。フィールド障壁で異重合塔コアを守るとすれば、フォン·ネガット自身はこの攻撃をまともに食らうしかない――
ぐっ――
結晶の棘が彼の身体を激しく貫いた。その棘はすぐに異重合塔コアによって分解されたが、彼の胸に深々とした傷を残した
フィールド障壁は大量の異合生物を食い止めていたものの、フォン·ネガットの力は弱まり、すでに全力で障壁を維持することができなくなっていた
コレドールに操られた赤潮はフィールド障壁の脆い部分を狙って猛攻を仕掛け、赤い蝶が網をすり抜けた魚のようにコア周辺に降り始めている
ふふ……
コレドールは身を翻し、蝶が広げた道をたどって異重合塔コアへ一直線に飛び込んだ――
コアさえ汚染できれば、彼女はあの人形の意識を完全に排除するのに十分な力を掌握できる――
そうはさせない……!
目を眩ますほどの白い光が異重合塔全体を覆い尽くした
鋭い耳鳴りが脳内に響き渡る。カイウスに宿っていた視線は次第に不安定になり、異重合塔を離れ、暗闇へと戻りそうになった――
耳鳴りが収まると、目を刺すような白い光も次第に消えていった。空中には、不思議な白い霧を放つ裂け目だけが残されている
ゴホッ……
フォン·ネガットは最後の力を振り絞りって異重合塔コア周囲の防御を展開したあと、力尽きて倒れ込んだ
人形はようやく両脚を修復し、ゆっくりと近付いた
コレドールはもともと異重合塔の「創作者」なのだ。当然、霧域を破壊する方法や、そこから脱出する手段を持っている
フォン·ネガットの背後で、裂け目が音を立てて動き始めている。白い霧が流れ出し、薄い防御を引き裂こうとしていた
代行者の手から伸びた金色の光が裂け目に巻きつき、中にいる「何か」が逃げ出さないよう必死に押さえ込んでいる
やはり……
代行者は息を切らしながら目を開け、予想通りといった様子で隣にいる人形を見た
あなたでしたか
ここを見ているのですね……
グレイレイヴン指揮官……[player name]
隠す必要はありません。この状況で……まだ私が気付いていないとでも?
彼は皮肉るように笑った
詳細は知りませんがあの女性と何か取引をしたのですね。そうでないと、彼女はあなたを助けたりしない……
しかし……今の状況なら、必ずしも悪手ではないかもしれません
私に協力していただきたい
コレドールはここで死ぬべきなのです。そうでなければ、私たちはまたあの無限ループに戻るしかない……
代行者は大きくため息をついた。彼の背後で裂け目が再び脈動し、細い糸のような赤潮が裂け目から外へ流れ出している
霧域に封じ込められたコレドールに、この敗北を受け入れるつもりがないのは明らかだ。彼女は脱出する方法を模索しているらしい
赤潮が金色の結晶を侵蝕し、フォン·ネガットは苦痛に眉をしかめた。指先にぐっと力を込めると光が再び裂け目を覆い、赤潮は怯えたように一瞬、退いた
あの結晶の棘はフォン·ネガットを一時的に傷つけはするが、自分が経験した「未来」の中では、これが原因で彼が死ぬことはないはずだ……
それはどうでしょうか
彼は傷口が徐々に修復されていく手の平を広げて見せた
彼の体の棘に貫かれた傷口が徐々に腐敗し、血肉から小さな赤い蝶が次々と生まれていた
不気味な生物たちは鮮やかな翅を羽ばたかせ、フォン·ネガットの力を吸い取っている
蝶の羽ばたきといえども、何を引き起こすかは予測できません
恐らくコレドールはあなたの血肉の中に、何かを「見た」のでしょう
人形は彼のもとに駆け寄り、傷口に手の平を押し当て赤い蝶を吸収しようとした。だが彼女はまだ全ての「権限」を掌握していないため、それは徒労に終わった
私に協力を。私は、コレドールを殺すのを手伝います
でなければ、この時間ループにあなたが増えたところで、私にとって何の利点もありません
霧域にコレドールを長く閉じ込めておくことはできません。異重合塔コアを彼女に汚染されるわけにはいかない……
……ですから、あなたに異重合塔コアを持ち去ってもらいたいのです
カイウス汚染の世界
そこまで知っているのですね……
彼は何度か咳き込み、その唇の端から血の泡が溢れ出た。血を軽く拭き取った代行者は、目の前の人物をじっと見つめた
他に何を知っているのですか?
…………
0号代行者の権限ですね……
どの時間から戻ってきたのですか?
まあいいでしょう、こちらに、あなたと交換できる情報はもうありません
眩い光が放たれ、代行者は再び裂け目から湧き出る蝶や霧を封じ込めた――瞬間、一本の赤い結晶の棘が裂け目から毒蛇のように飛び出し、フォン·ネガットの左腕を貫く
うっ……
体の腐敗を治癒できず、代行者は顔をゆがめ、傷を修復するためにパニシングの力を呼び出そうとした
全てを知っているならわかるでしょう。「鍵」を使って異重合塔コアに干渉するには、「犠牲」が必要だと……
先遣隊のメンバー全員が、そのために「塔」の一部となりました
小さな赤い蝶が彼の傷口を蝕み、パニシングでの修復を阻止している。代行者は彼らしくない奇妙な口調で話し始めた
僕に……協力してほしい
ドミニクの最初の計画を実現するために……
コレドールを殺し、真の異重合塔コアを回収する
あの時、異重合塔の中で、ルシアはドミニクの「鍵」を使って異重合塔コアを吸収した
しかし、この時間の層ではルシアは塔に入っていない。当然、「鍵」でコアを吸収することもできなかった
そう、だから……
再び生まれ出てきた赤い蝶を払いのけながら、代行者は傷口から奇妙な金色の四角い結晶を生成した
これは……<phonetic=ニモ>僕</phonetic>の<color=#ff4e4eff>鍵</color>だ
とはいえ、これは僕が最も憎むものでもある
あの時のように……
先遣隊は一切を犠牲にし、全ての希望を異重合塔に賭けた。だがあらゆる代償を払ってできたのは、ドミニクがいる世界への出口を開くことだけだった
彼らの世界は停滞し、異重合塔によって名もなき空間に封じ込められてしまった
結局……彼もこの道を進まなければならないのだろうか?
今回の犠牲は……本当に意味があるのだろうか?
短い沈黙の後、フォン·ネガットは強引にパニシングで傷口を塞ぎ、のろのろと立ち上がった
あなたが、異重合塔のどの層から戻ってきたのかはわかりません。ですが……
私は、異重合塔がこの層で終わることを望んでいます。分岐点が続けば、いつかここも探索されるか……あるいは破壊されるでしょう
あなたは私を信用していませんし、私もあなたを信用していません。しかし、今は……全てをあなたに託すしかありません
彼は自嘲するように笑った
かつての敵に希望を託すことになるとは……
…………
異重合塔が微かに振動し、「霧域」の裂け目は命があるかのようにゆっくりと呼吸していた。金色の結晶を維持するフォン·ネガットの手は震え、すでに支える力もないらしい
あなたはすでにカイウスと融合している。余計な説明は不要でしょう
異重合塔の「下の層」に戻るには、0号代行者の権限と異重合塔コアが必要です……もし、異重合塔が崩壊してしまえば、誰も生き残れない
あなたがするべきは異重合塔コアを回収し、塔を制御すること……ですが、それは今ではありません
異重合塔を掌握後、最優先で異重合塔コアの奥にある裂け目を封じることを忘れないように。フィールド障壁は長くは持ちません。0号代行者の完全な権限なら可能です
私がコレドールを足止めし、時間を稼ぎます。そこから先は……あなた次第……
言い終える前に、代行者は力尽きたようにがっくりと腕を垂らした。それと同時に金色の結晶が砕け散り、霧域の裂け目が瞬く間に大きく開いた
赤潮が凝結し、鋭い棘となって裂け目から飛び出した。棘は交差しながら代行者の体を貫いた
人形は金色の結晶体を手に、小さな赤潮の中に静かに姿を消した
あら……またあなたですか
本当に私を、「霧域」に閉じ込めておけると思ったわけではないでしょう?
…………
漆黒の代行者は沈黙した。金色の結晶が諦めることなく、少女の背後から再び立ち上がった
まだ諦めないつもりですか?
金色の結晶は赤い蝶によってじわじわと蝕まれ、一片ずつ砕けては、人生で何度も失敗を重ねるように、下の赤潮の中に溶けて消えていく
こんなにも多くの時間の改変を経て、あなたはもうとっくに最初の自分ではなくなっています……
蝶の標本のような代行者を興味深く観察していたコレドールだったが、ふいに興味を失ったような態度を見せた
まさに虫の息ですね……残ったネズミはどこへ隠れたのでしょうか
まあ、しばらく好きにさせましょう。異重合塔は……私の「子」。私と、何を争うというのです……?
無数の赤い蝶が襲いかかり、異合生物たちが次々と「コア」の方へ近付いてくる
やがて少女の指先は「コア」に触れた
澄んだ青い光がコレドールの指先を溶かしていく。だがその痛みが、彼女を苛つかせた。まるで、長い間待ったご馳走がいざ目の前に出された途端、味気なく感じられるように
彼女にとって、あまりにも簡単に得られる勝利には爽快感がない
……本当につまらないですね
いや……こんな感情を抱くべきではない
記憶を全て回収したコレドールは、意識の中の「雑音」をどう排除すべきか、苛立ちながら考えていた。しかし、自分の「苛立つ感情」に気付いた瞬間、ますます怒りが募る
忌々しいドミニク……
もういいわ
彼女は考えるのをやめ、まずは異重合塔コアの権限を奪うことにした
異重合塔コアのルールを逆転させれば、全てを最初の状態に戻すことができる……
そうすればすぐに、彼女は「人格」を切り離す方法を見つけられるだろう
しかし……「人格」を切り離すことは、本当に彼女の望みなのだろうか?
抑えきれないか細い声が、彼女の心の奥底から響く
「人格」を切り離したあとの彼女は、果たして「コレドール」なのか、それとも「0号代行者」なのか
一度「感情」を味わった今、彼女は本当に「0号代行者」という存在に戻れるのだろうか……
…………
心の奥底からの微かな囁きに気を取られていた彼女は、フォン·ネガットの体が密かに変化していることに気付かなかった……
彼の体から金色の結晶が徐々に広がり、異重合塔の「コア」が小さく震えている。まるで、13人目の客人を迎えるかのように……
ついに……僕の番が来たか……
彼は、あの孤独な青年の傍らに戻った感覚になっていた
今回は……この不可能な任務をやり遂げられるのだろうか?
金色の結晶は茫然としているコレドールを避け、異重合塔コアを目指して這い上がっていく
もしくは……また次の層で会うか
代行者の体は完全に消え去り、金色の光が強烈に輝き出す。異重合塔コアは澄んだ青い光を放ちながら流動し、金色の結晶の抱擁を受け入れた
――!!!
コレドールはハッと我に返り、異重合塔コアを掴もうと、痛みを顧みず焦って手を伸ばした。しかし、突如赤い奔流の中から現れたカイウスの方が明らかに彼女より早かった――
爆裂した光が異重合塔全体を覆い尽くし、天地を揺るがすような爆発音が空間を震わせる――
おのれッ――!
青い光が弾け、肉体を破壊し血肉の塊に変えた。彼女は苦痛のあまり叫びながら赤潮に逃げ込もうとしたが、膨張したフィールド障壁に最後の退路を断たれたと気付き、愕然とした
……ハッ、まさか、ここに……
人間の視線を宿らせた人形が無表情に立っていた。反転異重合塔コアの浄化の光線は人形の全身をもドロドロに溶かしていたが、彼女は立ち続け、フィールド障壁を操っていた
…………
本当に……ただお別れするだけと思いますか?
彼女はいびつな笑みを浮かべ、それ以上何も言わなかった。少女の小さな肉体は急速に崩壊していく――
人形は異重合塔コアを収めた金色の結晶体を握り締めた。結晶体から、更に鮮烈な青い光線が一直線に放たれる
フィールド障壁に阻まれコレドールは自分の体を爆発させることができず、亀裂が次第に彼女の体を覆っていった。そして、彼女が予想外に到来した時と同じように……
その体は青い障壁の中で徐々に消えていった。最後に残ったのは、狭い片隅でゆっくりと這い上がろうとする、翅の欠けた蝶だけだった
人形は赤い蝶を拾い上げ、迷うことなくそれを金色の結晶体に押し込んだ
最後の赤い蝶はひと筋の霧となり、完全に異重合塔の中から消え去った
唸るような断続的な音が響き、塔はかつての主の死を嘆くように揺れ続けた
異重合塔コアは金色の結晶体に収められ、コアがあった場所から空間の裂け目がゆっくりと広がった。裂け目の奥では異様な色彩が瞬いている
代行者が最後に残したフィールド障壁が突然拡大し、裂け目の奥から襲いくる力を一時的に防いでいた
そして――
人形は金色の結晶体を胸に抱き、揺らめく赤潮の中へゆっくりと沈んでいった
…………
これは……成功ということでしょうか?
誰も気付かない場所で、ピンク色の髪の女性がひっそりと異重合塔の片隅に現れた
ふむ……「物語」に……この一節はどんな風に記載されているのでしょう?
彼女は本を開き、今回の記述を探そうとした。しかし、数ページをざっとめくっただけで、少し煩わしそうに本を脇に投げた
せっかくこんなに面白い出来事に出くわしたことですし……
もう少しじっくり待つ価値はありますね
どれほどの時間が経ったのだろう
フィールド障壁は徐々に薄くなり、障壁の効力は限界に達しつつあった。赤い棘が脆くなった障壁を突き破ろうとしている――
赤潮が小さく波打ち、鮮やかな色彩を放つ霧が赤潮の中からゆっくりと立ち昇っていく
無数の希望を乗せた翼が、赤潮の泥の中から少しずつ浮かび上がった。異重合塔の唸り声はやみ、緩やかに裂けていた空間はいくつもの赤い結晶によって凝固した
彼女は完全な「0号代行者」としての権限を携え、彼女が支配するべき塔へと再び戻っていった