Story Reader / 本編シナリオ / 33 光追う錆夜 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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33-19 死で問う道

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死に限りなく近付いているという錯覚が、人間の感覚と神経を揺さぶった

深い海底に、悲しみに満ちた低い嘆きが響き渡る

4月1日、エイプリルフール。運命はグレイレイヴン指揮官の失踪という、残酷な冗談を仕掛けた

空中庭園へ戻る途中の輸送機が襲撃され、機体の全応急システムが破壊された。破損を免れたかに見えたパラシュートも、いざ展開してみると大穴が空いていた

人々から称賛されていた「人類の英雄」は、汚染された川へ、まさに「どぼん」と墜落した

今の日時は?

フォン·ネガット

5月10日の午後です。あなたが輸送機から赤潮に落ちた1カ月後ですね

運命の織機が錆びた鉄の針で、混乱し曖昧になった時間をひと針ひと針縫い合わせていく

深い苦境に陥っていた人間が、ついに長い昏睡から目を覚ました

不鮮明な記憶が、順を追いながら延びていく――

惑砂(わくさ)

うん、死を乗り越える新人類になってほしいんだ

あなたが構造体になれるなら話は簡単だったのに、本当に残念だよ。でも大丈夫、まだボクらには別の手があるからね

その薬剤も僕たちの研究成果のひとつだよ。毎日注射する必要があるけど、あなたはあと1回注射をすれば適応性が生まれるはずだ

だからあなたが異合生物との適応性を備えれば、「ここで」よりクティーラに受け入れられ、より完璧な状態で産まれることができるよ

これが大当たりなのか?まさかグレイレイヴン指揮官までここに落っこちてきたとはな

さ、先にここから……逃げた方が……よくないかな?

システム

ようこそ、27件のメッセージがあります。再生しますか?

指揮官、ずっと捜していますから。今どこにいたとしても、希望を捨てないでください

惑砂の意識のバックアップ場所を探すことが先決だ。あいつを殺さないと、どうせ俺らはここから出られない

ブードゥー-001

「実験は成功した。彼女はロキの暴走する感情の受け皿になってくれた」

「この研究はきっとクティーラを呼び覚ますのに役立つ。彼女の意識も同じ欠陥を持っているからだ」

そして……

重苦しさが残る頭で、更に多くの記憶を呼び起こそうした

こいつが「本当の俺かどうか」、そんなクソ哲学みたいなことはどうだっていい

今、動いているのは俺で、判断ができるのも俺しかいない。つまり今の俺こそが本物だ。他のことはどうでもいい

指揮官!!!俺の後ろだッ!!!

ラミア

どっちを選んでも後悔するなら!!1歩だけでも前へ進んでやるッ!!

惑砂(わくさ)

最後の注射をすれば、残された命は48時間のみになる。空中庭園に戻れたとしても、あなたを助ける技術があるとは限らないでしょう?

どうだろう。でも卵から孵化できたら、更に強力な魔法少女になるんじゃないかな

更にその後……

死まで残り13時間

死まで残り13時間

冷たい水滴がポタポタと顔に落ち、人類は深い夢の中から目を覚ました

イシュマエルが約束した通り、人間の意識は海底のゆりかごへ降り立った

こんな巧妙な目くらましなら、深宇宙の群星の中にいる高次元の存在たちも、真偽を見抜くことなどできないだろう

無数の苦難を経て、体の皮膚はすでに爛れている。惑砂の言葉通り、パニシングに完全に侵蝕され、クティーラの懐へ溶け込もうとしていた

シュトロールの認識票を取り戻したラミアが、悲しげな顔で自分のすぐ側で座り込んでいた

ラミア

私、防護板の上にあなたを寝かせてるの……ここは本来の異合生物の姿に戻ったから、人間には危ないと思って

……クティーラを束縛してるものが思ったより多くて……それを破壊するのに時間がかかっちゃって

……でもね!全部破壊できたの!私たち今は海の底だけど、すぐ海面に出れるから!

もう少し耐えて……もうすぐだから……

彼女は目の前の人間を悲しそうに見つめ、その手を握るべきかどうかためらっていた

頭が割れるように痛む。滝のように降り注ぐ豪雨の音が、世界全体を覆い尽くしていた

疲れすぎているのだろうか……

入り乱れた細切れの記憶の光が、目の前をチラついている

曖昧な時間が網膜の上で繰り返し躍動する

何か……何かが脳内で目覚めようとしているようだ……

ラミア

たぶん……10数時間くらい

ラミア

…………

その問いかけに、ラミアは困惑した様子でパチパチと瞬きをした

ラミア

私がここに来た時は、まだ端末が壊れてなかったから……

ここでの経過時間も入れて、たぶん3月30日か、31日くらいだと思う

ラミア

え?……たぶん3月30日か31日かと……

意識は孤島へと沈み、雷鳴は5000mより深い深淵にまで轟いた

今日はエイプリルフールですよ。指揮官にどんなプレゼントを贈りましょう?

4月1日……エイプリルフール……

今の日時は?

フォン·ネガット

5月10日の午後です。あなたが輸送機から赤潮に落ちた1カ月後ですね

猛烈な雨が脳内を洗い流し、意識の中で何かが解き放たれたかのようだった。大量の奇怪な記憶がねじこまれるように脳内に押し寄せる――

いや、「脳内に押し寄せる」というよりは……全ての過去を「思い出した」ようだ

黒い星……

異重合塔……

赤潮……黄金時代……

冷たい汗が爛れた皮膚を濡らし、塩分を含んだ汗は、パニシングに侵された血肉を鋭く刺した

では……ここにしましょう

ちょっとした目くらましが必要――

彼女は「グレイレイヴン指揮官」の視線を導き、この「時間」へと向けた。そして、人間の記憶を封じ込めた――適切な時が来るまで

「私と同じように、異なる世界が見えるかしら?」

「あなたも私と同じように……ここに残るただの投影?」

夢の中の視線は、より高次元を俯瞰していた。自分、あるいは誰かの経験が、静かに、苦しみながら、喜びながら、悲しみながら、目の前を猛スピードで通りすぎていく……

「自分」だけだ。これまで……「他の誰か」なんていなかった

ラミア

……何を言ってるの?

「規則」の束縛が、人間にぼそぼそと言葉を呟かせた

「しかし、自分<//グレイレイヴン指揮官>はいずれこの海底に戻ってくる」

「だが、自分<//グレイレイヴン指揮官>は身を盾にして、彼らの計画を阻止する」

ラミアは、人間の心の中の叫びを聞き取ることができなかった

ラミア

……どうしてこんなことに……

空中庭園の人たちにとって、あなたは最も価値のある人間でしょうに……

彼女は悲しげに地上の人間に向かって手を差し伸べた

ラミア

どうしてこんな人まで見捨てられるの?

唇の端から血がこぼれ、爛れた皮膚と混じり合う。「真実」の言葉を口にしたが、ラミアにはここでの声は届いていないようだ

規則に縛られた片隅で、人間の指揮官の視界はなおも広がり続けていた。それはこれまでの全ての「夢」と同じように、より高く、より遠くへと広がっていった

巨大なクジラは痛ましい悲鳴をあげ、奇怪な大樹の根が、この異様な形をした棺の中に深く食い込んでいる……

せめて……最後の瞬間まで足掻こう……

「夢」が急激に沈み、ラミアの悲痛な声が聞こえた

ラミア

でもどうして……どうして、こんな結末になっちゃうの?

あなたって……物語の主人公キャラで、強運で、すごい人なんでしょう?

どうしてこんな場所で、こんな酷い形で……

途切れ途切れの言葉が震える唇から漏れた

ラミアは少し戸惑った

彼女は目の前の人間のどこかが変わったと感じたが、それが何なのか具体的なことまではわからなかった

最後に……

赤い泥が渦巻き、最後の人間を包み込んだ

4月1日、夜明け

――我々は死しても進み、死体のパレードは続く