Story Reader / 本編シナリオ / 33 光追う錆夜 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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33-18 「墓守」

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――時間線を、異重合塔がまだ降臨していなかったあの日に戻す

それ以外のことはもう重要ではなく、意識の中でただこの情報だけを捉えていた

長く渇きに喉を喘がせていた者が突然オアシスを見つけたように、驚喜と不安が激しく頭を揺さぶってくる

新しい可能性に歓喜しつつも、恐れが押し寄せてくる……それは本当に実現可能なのだろうか?

私はあなたを騙す必要はありません

それは……

彼らはどうなるのだろう?

出会うべき人々は自然に出会い、生まれるべき命も自然に誕生します

ただし……今回、彼らは漆黒の時代に生まれるのではない

光も希望もなく、苦難と別れの悲しみに満ちた世界ではない

もしあなたが成功すれば、彼らは陽の光の下で生まれます

もしかしたら空中庭園の勇敢な兵士になるかもしれないし、保全エリアで働くスタッフになるかもしれない

彼らには、もっといい明日を迎える価値がある

既定の運命は変わりません。ですが、それは……あなたが成功した場合に限ります

こんな時でも……まだ自分と関係のない人々のことが心配ですか?

それもまた、私が「見たい」と思っている新しい物語のひとつです。ただ……その危険を冒す覚悟が、あなたにありますか?

頭に駆け上った熱い血が次第に冷め、どこからともなく吹く寒風が、骨の隙間を凍りつかせる

この世に無料で食べられる食事はなく、当然、代償なしに手に入る幸運も存在しない

――「自分」が代償を払うのか、それとも……「人類」が、更に大きな代償を払わなければならないのか?

正確に言うなら……

リスクは常に存在し、「代償」はあなたひとりだけで背負うものでもありません

私はこれまで、このような可能性を目にしたことがありません。ですから、この行動がどんな結果をもたらすかは予測できません

「友人」として言うなら、こんなリスクを冒すことはお勧めできない

非常に危険な決断ですから

笑顔を浮かべていたイシュマエルは真顔になり、目の前の人間を見つめた

少しの油断で、あなたは本当に「海底で死んだ」指揮官になるかもしれません

海底で死んだ……指揮官

ラミア

グレイレイヴン指揮官……931206という数字に、聞き覚えは?

波が岸辺に叩きつけられ、激しい暴雨の音が水面を粉々に打ち砕く

群れを離れた人魚は胸に卵を抱え、不安げに人間を見つめた

ラミア

もうひとりのあなたが……教えてくれたの

「グレイレイヴン指揮官のクローンは事故で死亡した」

いつか本物の「自分」が「死ぬ」とは、考えたこともなかった……

真の死です

イシュマエルは未知の方向を悲しげに見つめた

カイウスの孵化が成功しなければ、「あなた」はこの事故で本当に死ぬ

もし特異点が変わらなければ、世界全体がこの長い時間の無限ループに閉じ込められます

もし……

無数の未知が入り乱れるこの未開拓の道は、もはや「道」とは呼べず、茨で覆われた荒野だ

血を注いで育てた茨が、本当に薔薇の花を咲かせるという保証はない

ですから言いました。「友人」として、この道を選ぶことはお勧めしないと

この「選択肢」には未知が渦巻いています。僅かな失敗で、あなたが……そして文明全体が、永遠に時間のループへ呑み込まれることになります

骨の隙間を凍りつかせた氷の破片が、無秩序に成長していく

希望を与えておいて、それをまた打ち砕く……

これほど残酷なことはない

真っ赤なリンゴが今にも折れそうな高い枝先にぶら下がっている。だが木の下に座る餓死寸前の者は、どうすればそれを手に入れられるかが永遠にわからずにいる

それでも私とともにいてくれたら……

イシュマエルはこちらに手を差し出した

私とともに、高次元の<phonetic=門番>観測者</phonetic>になりませんか

あなたの「文明」、でしょう?

異重合塔が静かに回転し、無限に続く螺旋階段が天へと伸びていく

見覚えのある紋章が刻まれた扉が、目の前でそっと開かれた

奇妙な曲線が異様な「建築物」を構成し、「都市」の中央に巨大な彫像がそびえていた。地平線の向こうでは惑星や恒星が不思議な光景を織りなし、空には黒い幻日が浮かんでいる

私の「文明」です

都市の時間は、ある一瞬で停止しているようだ

そう、琥珀です。私は自らの手で、彼らをこの空間に保存しました

いつの日か、彼らがもう一度この世界を抱けるようにと

少なくとも、彼らは他の「収穫」された文明のように、高次元の存在によって簡単に「消滅」させられることはありません

幻影が現れたのはほんの一瞬で、すぐに風砂のように消え去った。イシュマエルは、最終的な決断を下すのを待っているかのようにこちらを見つめている

「観測者」となるか……それとも「更なる危険」を冒すか……

人類の文明をこのまま保存し、遥か未来の救済を待つべきか。それとも死力を尽くして、新たな希望を掴むべきか?

人類に代わって、こんな「選択」をしていいのだろうか

異重合塔の中は何もなく空虚で、白い霧がどこまでも続く廊下を幽霊のように漂っている

もしも「更なる危険」を選び、海底へ戻るとしても、万が一その過程にズレが生じれば、人類文明全体が時間の渦に引きずり込まれてしまう……

指先の震えが止まらず、孤独感が背骨を伝って這い上がってくる

……

そんなに緊張することはありません

イシュマエルは、落ち着かせるように人間の肩を叩きながら様子をうかがった

この言葉が慰めになるかわかりませんが……何も選ばず、このままここに座っていても、何の解決にもなりません

あなたはあの全ての「結末」を見ています

広い廊下に響く彼女の声にはある種の魔力があった。その穏やかさが、不思議と気持ちを落ち着かせてくれた

人類文明はすでにパニシングにマークされています。私とともに行くか、海底に戻るか、どちらを選んでも今より悪い状況にはなりません

今こうして一縷の希望を手にし、「選択」という機会がある。それこそ、あなたたちが努力して掴み取った結果なのです

つかの間、張り詰めていた神経が緩み、脳が一気に思考を巡らせ始めた

パニシングは、すでに人類文明をマークしている。つまり、自分がどう選ぼうとも、これは必然的な結末の中での最善策なのだ

ならば……

どうぞ

突然の要求に対しても、イシュマエルはいつものように寛大で穏やかな態度だった

つまり、扉の向こうにいる「<phonetic=ナナミ>管理者</phonetic>」に渡せということですね?

ナナミなら……きっと、自分のしようとしていることを理解してくれる

自分が本当に時間の無限ループに囚われたとしても、あの「遺言」と異重合塔コアの解析資料を見れば……

ナナミはきっと、自分の意図を理解するはずだ

……また、「グレイレイヴン」のちょっとした保険、ということですか?

彼女は納得したように微笑んだ

もちろんです。それほど難しいことではありませんから

イシュマエルは快くその依頼を引き受けた

では……

どの道を行くか……決めましたか?

時間はたっぷりあります

イシュマエルとともに高次元の観測者になるか、それとも巨大なリスクを背負い、海底へ戻るか

もし「観測者」となれば人類文明は「保存」される。しかし、それはパニシングが構成する情報の中で、永遠に停滞することを意味する

琥珀のようにその瞬間で永遠に凝固され、いつ訪れるかわからない奇跡を待つしかない

海底へ戻れば待つのは孤独な戦いだ。茨の棘だらけの荒野に血路を開いて進む必要があるが、もしも成功すれば……

人類文明にもう一度チャンスが与えられるだろう

それなら……

イシュマエルは、少し期待を込めた眼差しでこちらを見ていた

イシュマエルは、少し期待を込めた眼差しでこちらを見ていた

どちらの結末を選んだとしても、私は全力であなたに協力します。それは約束しましょう

では、教えて。あなたの決断を

あなたなら、その選択をすると思っていました。これは……

最善の結末です

いいえ

この広大な星々の海の中で、私も暗い森にいる1匹の虫にすぎません

限りある生命は、無限の未来を探索することはできません。「観測者」という選択は、より高い段階へ踏み出すための第一歩にすぎないのです

イシュマエルはこちらを向き、彼女の手を取るように示した

最初の一歩を踏み出せば……星々の海の扉があなたに向かって開かれます

無数の星々が渦巻きながら輝き、混沌とした囁きが耳元で低く響いた。その瞬間、何万もの「秘密」が意識を貫き、悟りを開くように流れ込んでくる――

まるで何度も叩かれ鍛え上げられるかのように、意志が急速に拡張していく。神経は四方へ伸び、蜘蛛の巣のように異重合塔を覆い尽くし、更にその外へと広がった――

い、いや、やめて――

鋭い悲鳴が、泥にまみれた空中庭園に響き渡る

楽園……一緒に楽園に行きましょう……

幻夢のような囁きが、ひっそりと天航都市にこだまする……

人間<//自分>の思考が果てしなく広がっていく――

赤潮が突然逆流し、森が地面からそそり立った。人類<//野獣>が、悲鳴とともに貪欲な森から飛び出してくる

人間<//兵士>は街角に呆然と座り込み、亡き家族の赤いスカーフを抱きしめた

夏の虫たちが哀れな声で鳴く。人類<//蟻>は新しい巣を見つけようと、仲間とともにせかせかと這い回っている

人間<//花>は、暗い雨の中でゆっくりと枯れていった

人間<//???>――

その瞬間、人間<//指揮官>はこの世の全てを目にした

気をつけてください

「知識」を受け取ったばかりだと、力が暴走する可能性があります

イシュマエルの声に導かれ、意識は突然現実に引き戻された。脳内に引き裂かれるような痛みが走る

何が見えましたか?

彼女は落ち着いた様子で訊ねてきた

死だ

あの刹那、遥か遠く深宇宙を漂う空中庭園を見た。幾多の昼と夜を経て、ついにパニシングは彼らの足跡に追いつくだろう

高次元の存在は、「回収されるべき」文明をひとつたりとも見逃さない

あの刹那、地上で必死に足掻く人類の姿を見た。新たに誕生した0号代行者を見た

人類は天航都市に身を縮め、発展は停滞していた。やがて彼らは、赤潮の「楽園」へ足を踏み入れることになる

その刹那、無数の結末を見た。地球の、そして人類文明の結末を――

そうですね……

それは、偉大な存在たちによって設定されていた結末です

自分のしどろもどろの説明を聞き終えたあと、イシュマエルは全てを理解したように口を開いた

イシュマエルのその言葉を噛みしめる

シッ……

より高次元にいる偉大な存在たちは、この星の海の「法則」を監視し、「ルール」を作り出す存在でもあります

イシュマエルが手を上げると鍵杖が現れた。異重合塔の白い霧がそっとかき分けられると、無辺の空間の向こうに暗く広大な宇宙があった

無数に輝く星々は、どの軌跡もすでに運命づけられている

偉大な存在たちはテストを課し、ルールを制定し、「正しい」と認められる文明を選び出します

その「テスト」に合格した者だけが、星の海へ進むための「チケット」を手にすることができるのです

奇怪な星雲が異重合塔の内外で輝き、無数の眼球が星団の向こうからじっとこちらを凝視している

わかりましたか?私があなたの文明を再起動する手助けができない……その根本的な理由がこれです

高次元の力を使って、地球が抱える「問題」を直接解決することはできない

そうです

観測者になったとしても……あなたには、全てを再起動させるだけの権利も力もありません

異重合塔は天を貫くほどに高くそびえていますが、ほんの僅かな油断で完全に崩壊してしまう

まるで同じことを何度も経験してきたかのように、彼女の声は冷静で理性的だった

あなたにできるのは、自分の文明を隠し、偉大な存在たちの視線から逃れることだけ……

まるで琥珀のように――

文明全体をパニシングを利用して閉じ込め、生命が再び息を吹き返すのを静かに待つ

パニシングは……最大の罠です

かつての私は、パニシングを熟知しさえすれば、「偉大な存在たち」のテストを突破できると純粋に信じていました

しかし……炎は光をもたらす一方で、全てを焼き尽くす災厄にもなりうる

正否の定義は誰がすべきなのでしょう……それが偉大な存在たちであるなら、どうして私たちではいけないのでしょう?

イシュマエルの瞳には、言葉にできない炎が燃えていた

さあ、一緒に……

彼女は人間の指を握り、災厄の力を操る方法を教え始めた

数万もの糸が異重合塔の内外から現れ、ゆっくりと絡み合いながら巨大な繭を形成していく

「世界」は次第に本来の姿を失い、あらゆる「情報」が絡み合い、与えられた全ての概念が剥ぎ取られていく……

「世界」は本来の根源的な姿を現した

繭はゆっくりと焼かれ、地球の核のマグマは心臓のように脈打ちながら、徐々に鼓動を止めていく

全てが、永遠の停滞の中に沈んでいった

これが……あなたの「文明」の姿ですか

空では、溶岩が一切の存在を覆い尽くし、パニシングが全ての「情報」をその中に封じ込めていた

自らの手で、全ての「情報」を心臓に収容する。緩やかな速度ながら、まだ僅かに「生命の兆し」が残っていることが感じられた

この瞬間、全人類の文明は、たったひとりになっていた

彼らは永遠に存在し続けます……

イシュマエルは、人間の胸元にそっと手を当てた

この先は……全てを「未来」に託しましょう

いつの日か……

我々が「ルール」を書き換えることができた時

我々が「時間」を再構築できた時

我々が、より高い「未来」に立った時

封印された琥珀は、再び目覚めるだろう

時が来れば、炉に隠された残り火はついに再び燃え上がる

だが……その時が来るまで……

それは、どこにあるかもわからない蜃気楼を追いかけるようなもの

「観測者」は、星の海と深宇宙を漂い続ける

未知の「未来」をどこまでも探求し続ける

人類の結末――「文明の墓守」

人類の文明は、ここに結晶化した

……

本当にその道を選ぶのですか?

もう一度言いますが、私はこれまで、このような「未来」を見たことがありません……

既知の道はどれも失敗に終わっている。ならば、まだ誰も足を踏み入れたことのない荒野こそ、新たな道となるのではないだろうか

リスクが大きければ大きいほど、得る利益もまた大きい。それに……

イシュマエルの言う通り「観測者」になれたとして、「保存」と「無限ループ」に一体何の違いがあるのだろう

樹脂は硬化し、琥珀に閉じ込められた小さな虫も、実際に死んだのと何ら変わりはない

一縷の生きる望み、一縷の希望、どちらを選んでも同じことだ

ひとり孤独に、文明全体を背負って未知の「未来」を求めるか。あるいは、自ら危険に飛び込み死に物狂いで一撃を放つか……

人類文明が「収穫される」運命にあり、その結末がすでに書き記されているのだとしたら……

当然、この全てを直接破壊し、最後の答えを求める道を選ぶべきだ

最悪、自分と文明全体が一緒に深淵に引きずり込まれるだけのこと

ですが、少なくとも彼らはまだ「生きて」います

海底で本当に命を落とす可能性があるとしても?

一縷の希望を掴めるのなら……

世界全体が、永遠の無限ループに陥る可能性があるとしても?

死という結末がすでに定められているのなら、今できる抵抗はどれも「新しい答え」の階段を上る第一歩となる可能性がある

……

さすが「グレイレイヴン」

そう言った彼女の口調は心ここにあらずで、過去の誰かを思い出しているようだった

自分がそれについての疑問を口にする前に、イシュマエルは再び分厚い本を開いた

古びた紙の上で、金色の線で書かれた「選択肢」がうねうねと浮き上がるように光を放った

私はこんな物語を見たことがありません……既定の結末を、束縛を打破し、新しい「選択肢」が生まれるなんて

もしかすると、これ自体がひとつの奇跡なのかもしれませんね……

ルシアが異重合塔の檻を断ち切り、ひと筋の活路を開いた

ナナミは深宇宙で唯一の真実を掴むために、長い星河を越えた

無数の人々の意志が集まり、燃え盛る炎となる。運命が紡いだ糸に、ついに火がつき、既定の枠を打ち破り、光の届かない片隅を照らした

これは奇跡であって、奇跡ではない

多くの人々の意志がひとつになり、彼らは歳月が綴る歴史書の中に、人類の未来のために新たな可能性を焼きつけた

……

わかりました

実に恐ろしいものですね。人類の文明が……ここまで進むことができるとは

では、この新しい物語を見てみましょう

本のページが勢いよくめくられ、金色の線が奇妙な文字へと形を変えた

私が海底へ戻る手助けをします

海底のゆりかごへ戻ったあなたは、クティーラの卵の中へ入り、真の「カイウス」を孵化させることになる

あなたの視点は、カイウスに宿ることになります……

「あなた」こそ、真のカイウスなのです

完全体のカイウスは絶対的な力を持ちます。コレドールを打ち破れば、異重合塔が崩壊する前に、塔の力を完全に掌握できるかもしれません

ですが、重ねて言いますが、私はこの「未来」を見たことがありません

イシュマエルが観測してきた未来は、どれも「偉大な存在たち」によって一度は見届けられているはずだ

その状況なら、死に物狂いの一撃は決して間違った選択であるとは言い切れない。だがフォン·ネガットがいる……

「あなた」が真のカイウスなのですよ

彼女は指揮官に目を向け、どこか奇妙な微笑みを浮かべた

以前、あの「視界」から覗き見たことがあるでしょう?

あなたの持つ力がどこから来るものなのか、正確にはわかりません。でも……

「あなた」は「あなた」です

「あなた」が真の「カイウス」になれば、あなたはカイウスの全てを支配します

あなたの「視線」は、カイウスを超越しています

あなたの「視線」はここだけに存在しているわけではない。ですから、フォン·ネガットはあなたの思考を操ることはできません

こちらの懸念を察したのか彼女は少し考え、更に補足した

それに……すでに全てが変わっています

私は以前、あなたがフォン·ネガットの提案を受け入れ、塔の中でカイウスと融合する結末を読んだことがあります

その結末は……

赤い投影がゆっくりと流れ始めた

地球の全ては、フォン·ネガットによって掌握された。彼は自身の考えに従い、赤潮を海へ追いやり、彼が理想とする「国」を作った

しかし、全てがフォン·ネガットの想像通りにいくほど簡単ではなかった

彼は「扉」をくぐって地球を離れることができなかった

異重合塔から溢れた赤潮は次第に力を増し、パニシングの「欲望」はとどまるところを知らない

いつか、カイウスは赤潮の意識に操られるだろう

故郷を取り戻すために戦う人類は、赤潮の中で歪んだ姿に織り上げられる。フォン·ネガットと彼の「国」の人類は地上に囚われ、永遠に終わらない戦いを繰り返していた

いくつかの場面は、もうひとつの絶望的な地獄を描き出していた

フォン·ネガットは、彼自身が思い描いていたように0号代行者を撃退し、彼が信じていた「未来」へ進むことができなかった

これが、すでに書き記されている「結末」です

彼女は静かに答えた

全ての分岐点は、あなたにあるんです。グレイレイヴン

赤潮が海に流れ込む結末は、あなたがカイウスとなった暁には絶対に訪れません

なぜなら、あなたはすでに異重合塔を離れているからです

ゲシュタルトや華胥、そして私を含め、全ての演算を尽くした中で、その一点だけが、見たことのない「未来」なのです

無意識に彼女を急かすような口調になっていた。イシュマエルはしばらく口をつぐんだあと、口を開いた

今回の行動が成功するかどうか、私には断言できません。更に言えば……

渦中にいる私には、これから起こる出来事を予測することさえできなくなっています

鍵杖を振ると、不思議な輝きを放つ扉がゆっくりと現れた

この「道のり」で、あなたが阻止に失敗すれば……

ほんの僅かなミスであっても、それがもたらすのは真実の死です

全ては最終的に「無限ループ」となり、あなたは「海底のゆりかご」というループから永遠に抜け出せなくなる

そうなれば、あなたはゆりかごの中で、何度も何度も死ぬことになる

まだ選び直すことができますよ。グレイレイヴン

もう何度繰り返しただろう……

何度、絶望の中から希望を掴もうと足掻き、希望が芽生えた瞬間に奈落へと突き落とされてきただろうか

犠牲となった命は、砂時計の中の砂粒のように積み重なっていく。その中から無数の腕が、自分を運命の深淵より上へと押し上げてくれたのだ

もしこれが、自分の終着点だというのなら……

自らの命と引き換えに、人類文明に小さな光を灯し、僅かな希望を掴むために賭ける

自分が――

暗澹とした時の流れを断ち切り、朽ち果てた運命を焼き払う

幾多の苦難と暗い夜を乗り越え

死力を尽くして炎を盗み出す

人類に――真の夜明けをもたらす