Story Reader / 本編シナリオ / 31 メタモルフォーゼ / Story
塔が突然揺らぎ、フォン·ネガットはフィールド障壁を維持していた手を緩め、裂け目が皆の前でうねるのを見守った
鼓動が急激に加速し、思わず体が前のめりになる
その瞬間、人影が裂け目から飛び出し、何歩かよろめきながらもようやく姿勢を保った
見慣れたその瞳は灰のように曇り、茫然と辺りを見回していた視線が、最後にこちらへと向けられた
…………指揮……
胸の痛みを忘れて、矢のように彼女のもとへ駆け寄った
よろめくルシアの体をしっかりと両手で支える。幸い、機体に目立った外傷は見当たらない。だがほっとしたのも束の間、すぐに胸の奥にある不安が湧き上がった
…………
その不安の源は、ルシアの静けさ、そして意識海の何かだ
こちらの顔をじっと見つめている内に、彼女の瞳を覆っていた暗い靄は静かに消え去っていった
まるで光を仰いだかのように、彼女はぼんやりとした眼差しでこちらを見つめ、唇を僅かに動かした。再び輝きを取り戻した瞳に、彼女の希望が映っている
2度目の呼びかけを言い終わるより先に、ふいに腕が重くなった。ルシアがしっかりと自分を抱きしめている
長い孤独な時と、伝えられなかった無数の言葉を振り捨て、彼女は久しぶりに触れる温もりと、心の拠りどころをしっかりと抱き締めていた
抑え込んできた全ての悲しみや迷いが一瞬で消え去り、再会の瞬間が彼女の麻痺していた心の殻を剥がしていく。腕の中のルシアは微かに震えていた
彼女は何も言わず、ただ更に強く抱きしめ、ほとんど音にならないほど小さく「うん」と答えた
……指揮官
くぐもってはいるが、その声は先ほどよりも落ち着いている。ルシアは目の前の人を見上げ、かつて慣れ親しんだ全てをじっくりと感じているようだった
……はい、私はここにいます。指揮官
口調が少しずつ落ち着きを取り戻していく。不安が薄れたルシアは再び顔を上げた
彼女は手を緩めて体を離し、目線をこちらの頭から下まで滑らせ、また瞳に戻した
[player name]
彼女は微笑み、返事をする代わりにもう一度ギュッと抱きしめてきた。それはあまりに短く、耳元でルシアの声が聞こえただけだった
はい、ただいま
ルシアは一歩後ろに下がると、こちらの全身を念入りに見回した。そして、強く握っていた拳を緩めて苦笑いを浮かべた
落ち着きを取り戻しつつあるルシアの誓焔機体の真新しい外観から何も推測できない。だが、負荷がかかっているのは間違いない。先ほどの不安が再び胸に湧き上がる
ルシアはこちらの不安を一瞬で見抜き、先に自身の状態を報告した
機体に問題はありません
意識海も……今は警告レベルではありません
そう言い終えると、彼女は自ら進んでこちらと意識をリンクをした
各種データは正常で、意識海にも偏移の危険性は見られない。ルシアの言う通り、負荷は非常に大きいものの機体に深刻な問題はなさそうだ
しかし……なぜだろう……
30年以上にわたる戦闘と、霧域での生死を賭けた逃亡を経て……深刻な問題が一切ない？
不吉な予感が湧き上がる。目の前の全てがまるで壊れやすい夢のようで、すぐに覚めてしまうのではないかと感じる
その不安が指先の温度を奪ったが、ルシアがちょうどこちらの手を握ってくれたお陰で、温もりが寒気を追い払った
私なら大丈夫です、指揮官
彼女の声はとても静かだが、何かを隠しているようだった。しかし、その一瞬の疑念が何かを考える間もなく、第三者の行動によって思考が中断された
……彼女も戻ってくる
カイウスが音もなく近付いてきた。一定の安全な距離を保っているものの、ルシアはすぐさま光紋刀に手をかけた
ルシアはそれを聞いて、裂け目を見やった。彼女の目はそこにも同等の脅威が潜んでいることを示している
その目が次にカイウスを見つめた。目の奥にはまだ疑念と警戒の色が残っている
短い沈黙の後、ルシアは静かに頷いたが、眼光鋭くフォン·ネガットを見据えている
そうですか……わかりました
計画は明確で、情報も十分だ。これが賭けであっても、ルシアはもう迷わなかった
彼女は機体からコアを宿した鍵を取り出し、カイウスに差し出した。その時――
ガシャン――！
澄んだ破裂音と低く唸るような叫びが同時に響いた
危ない！
ギィンッ――
冷たい光が瞬き、凝縮した赤潮で作られた数本の鋭利な刃が地面に落ちた
またお会いしましたね、皆さん。探すのに苦労しましたよ
そろそろ諦めてはいかがですか？無駄に足掻いても、命を冗長で退屈な小説のように見せてしまうだけなのに
指揮官、下がってください
まだ続けるつもり……
コレドールは言い終わらない内に、瞬時に横へ飛びのいた
形のない衝撃が少女の耳元を掠め、数本の長い髪の束を散らした
…………
あなたは傍観者のままだとばかり思っていましたが……
彼女はフォン·ネガットの癒えつつある体を見た
これまでの時間、それはそれは辛かったでしょうに……それでも彼らを助けるのですか？
まさか、協力関係を結んだのですか？
コレドールは一瞬眉をひそめ、やがてハッとした表情を見せた。それに呼応するように、周囲の赤潮が沸き立ち始める
彼女は真顔になり、目を細めた
それもいいでしょう。なるほど、それなら読後感のいい結末を一気に書き上げられるかもしれませんね。いくら堅固な岩礁だろうが、波濤の前では……
最後は屈服するものですよ
彼女の宣言とともに、高々と膨れ上がっていた赤潮が轟音を立てて、一気に崩れ落ちた
