更に3日がすぎ、体はすっかり回復した
フォン·ネガットが見守る中、再び深紅の異重合塔へと足を踏み入れた
ひとりで異重合塔内の異合生物や赤潮を回避しながら長い道のりを進み、ようやく元の場所へと戻ってこれた
目の前には、以前と同じ傷だらけの背中が見える
………
戻ってきましたか
私がかなり修復しました
<color=#ff4e4eff>塔の外</color>にいるフォン·ネガットの言った通りだ。ここにいるフォン·ネガットは必ずカイウスを修復しようとするだろう
ゆっくりと近付いてきた軽い足音に視線を下げると、いつもの無表情な人形の顔があった
……
彼女は小さく頷いた
身を屈めて彼女の目を見た時、長らく静まり返った古井戸のような彼女の目に、少しだけ感情が宿っているのが見て取れた
なぜ戻ったの……
まさか……やっぱりこの道を進むの?……結局……その選択をしたの?
カイウスの視線は少しずつ下に滑り、最後は自分自身に向けられた
私はまだ耐えられる。あなたが今すぐ決断する必要はないよ。0号代行者はまだ戻ってきていないし
新しい計画?
棘を防ぎながらも、フォン·ネガットはこの小声を敏感に聞き取った
どんな計画なのですか?
賭けですか……ハハ……
そう笑った彼の声は明らかに苛立ちに満ちていた。長期間にわたる極刑の中で、安定した情緒でいられる人などいるはずもない
いいでしょう、賭けをしましょう。塔のコアが霧域に残っているのは確かに脅威です。賭けの結果がどうであれ、私はこの裂け目の前からは去るつもりです
でも、あなたが負けたら……
カイウスは目を伏せた。疲れからなのか、見たくないからなのかはわからない
カイウスは視線を上げたが、また何かを思い出したようにその瞳は暗く沈んだ
本当にそうするもりなの?
……そうじゃなくて……
……あなたがフォン·ネガットに勝ち、私が0号代行者の権限を手に入れたとして、その後は?
問題は解決されないまま。権限に縛られた使命が私を逆に汚染し、私はコレドールのように自我を失う
短期間は抑えられたとしても、いずれ……
それを聞いたカイウスは何か言いかけたが、すぐ側から冷淡な警告の声が響いた
あなたがすでにその決断を下したのなら、もっと緊迫感を持ちなさい。0号代行者はいつ戻ってきてもおかしくない
「夢渡る橋」を使えばルシアを見つけるだけでなく、コレドールにこちらの位置も特定されるのだから
これ以上ぐずぐずすれば、あなたたちが描いた馬鹿げた青写真は、実行前に儚く潰えますよ
……では、始めましょう
その焦燥を帯びた催促の中に彼は、口には出せない秘密を隠していた。だが、それを耳にした者はまったく気付かなかった
目の前の裂け目が微かに震え、無数の不明瞭な囁き声が悪夢の中の呟きのように、この場にこだました――
どんよりとした境界の中で、微かにブーンと低く唸るような音が響いている。それはルシアがまだ生きていることを証明する最後の手がかりだった
彼女は、どれだけの年月を耐え抜いてきたのかを数える気力もなく、体も意識も永遠に続く消耗の中でボロボロになっていた
走ることに意味はなくなり、どれだけ進もうと周囲の風景は一切変わらない
僅かな希望は手が届かないほど遠く、そもそもそれも最初から偽りの餌だったのかもしれない
走っても徒労でしかない。その速度は次第に遅くなり、ルシアは膝から崩れ落ちた
……
霧域に溶け込みそうなその目はまったく動かず、手の中で波打つ立方体をじっと見つめるばかりだった
ガシッ――
彼女は無言で指を強く握りしめ、コアを宿す「鍵」を押さえつけた
低く唸るような音が止まり、静寂の中にあった唯一の不協和音も消え去った
永遠の時の中で、ついに彼女は、ずっと前から訪れることを知っていたその未来を受け入れた
ごめんなさい……
声は霧域の中で掻き消され、ただ口だけが動いて言葉を紡いだ
たくさんのことを隠しすぎました……選択のことも、「鍵」を使った代償のことも……
彼女は声にならない言葉を自分に向けて呟いた
せめて……最後の約束を果たして、あなたにもう一度会わせて……
独り言を呟きながら、後頭部の接続口を開き、機体のコアと繋がる回路を露出させた
……あなたに会いたい、あなたと皆の傍へと帰りたい……
鍵は再び、唯一発することができる唸りを響かせ、ルシアはそれをしっかりと接続口に近付けた
……何があろうと約束通り、コアをあなたに返す……
彼女はうなだれて手を胸に当てると、まるで仲間たちに誓いを立てるかのように、指先でグレイレイヴンのエンブレムをなでた
約束します。あなたたちは必ず生き延びる
カチッ――
光が瞬時に体全体を駆け巡り、鍵の力が誓焔機体のパーツ全てを貫いた。永遠に静寂に包まれていた霧域はその沈黙をついに破った
ルシアは顔を高く上げ、拳を固く握りしめてエンブレムに力一杯押し当てた。まるで、久しく会っていないグレイレイヴンの仲間たちと拳を合わせるように
この代償は、私がひとりで払います
彼女の決意に応えるかのように、裂け目が沸き立つ霧の中に静かに現れた