Story Reader / 本編シナリオ / 26 クレイドルパレード / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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26-19 残高不足

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見つけた資料をバックアップしたあとも、ごちゃごちゃと複雑な制御室で希望を探し続けた

2時間ほどの戦闘と調査の末、3人はようやく外界との通信装置を見つけた

だが簡単な操作にさえそれは反応しなかった

私に任せて

ラミアは自信満々に答えた

ルナ様に連絡してどうするのよ。彼女がここに来るはずないでしょ

人魚はがっくりとうなだれた

……誰も来るもんか

……これは昇格者が作った特殊なチャンネルだから

彼女の口調から、たった今見せていた自信が消えていた

と、とにかく、私は惑砂の暗号キーを解読すれば電波を回復できるって知ってるんだから

これは侵蝕体のいる地上エリアにしか連絡できないと思う

彼女は頷き、おぼつかない手つきで通信装置を操作し始めた

まるで説明書を片手におそるおそる機械を触っている人のようだ

……今、勉強した

とにかく、今勉強したの

そんなものないけど、とにかく勉強したの

……みたいなものよ

惑砂が残した情報を見つけた。パニシングの中にあるけど、これは昇格者しか見られない情報みたい

フォン·ネガットとその手下の昇格者は、パニシングと侵蝕体を使ってとても精巧な物をたくさん作っているみたい、意外……

ルナ様みたいに破壊力一点集中の軌道砲でも作るかと思ったけど……

彼女は小声でつぶやいた

だって、ほとんどの敵はそれで一発KOなんだもん

え、え?違う、違うの!ルナ様はこんなガラクタなんかに興味がないだけ!ルナ様がちょっと本気を出せば、世界なんてすぐに破壊できるんだから!

……食品倉庫のオーナーは缶詰を節約しようなんて考えないでしょう?それと同じ!

ガブリエルはいつも言ってた。弱者はすぐに群れて道具とかテクニックとか小手先のことばかり研究する。強大な力の前ではそんなのは無駄だって

ラミアは憂い顔で天を見上げた。その視線は壁や深海を突き抜け、見えないはずの星の海を見ている

でも「力」が増加するスピードがいつも一定とは限らない。彼はそのことを認識しようとすらしなかったんだ

彼女の言う通り、ガブリエルだけでなく、多くの人は自分の認識に囚われている

人は往々にして、自分が知っていることだけが真理だと思い、認識外のことに対しては何もしないか、知らん顔をする

多くの人が「自分が偏った認識と偏見の中にいる」ことに気付いていない

えっ?

……なんでもない。ただいくつかの「影」を見ただけ

それは言えないわ

憂い顔を引っ込め、彼女は作業に戻った

ラミアは黙々と通信装置を操作していたが、しばらくすると顔を上げた

……身分証が必要

わ、私はただこれが動くように修理しただけ!身分権限のハッキングなんてできないもん!

彼女は焦れて床をドンドンと踏み鳴らした

あの代行者の部下がこんなシチ面倒くさいことが好きだなんて、こっちの知ったことじゃないわよ!

私が行く。リンクを切って、あなたはここで休んでて

調査はラミアにとって数少ない得意分野だ

今回はラミアが協力してくれたお陰で、リンクはいとも簡単に切断できた

そして人魚は振り返りもせず、外へ出ていった

卵が使えなくなったラミアは姿を隠し、おどおどしながら崩壊や敵を避けて進んだ

彼女はすぐ近くで徘徊している侵蝕体を見つけると頭をねじ切り、その電子脳からメモリーを読み取った

…………

……またちょっと借りるね、ハイジ

メモリーの中の惑砂は、壁の隙間からひとつのファイルを取り出した

この近くにあるようね

惑砂が触った壁に触れた時、ラミアは壁全体がパニシングの異重合結晶体で造られていることに気付いた

惑砂は壁に何も対策していないのね。そもそも人間はこれに触れないから?

それとも、別の罠を仕掛けてる?

…………

そんなような気もするけど、今は安全に逃げるのが先よね。とにかく試してみるしかない

彼女は異重合結晶体の壁に手を伸ばし、古いファイルを取り出した

ファイルを開けると中には黄ばんだ資料と、色あせた身分証が入っていた

黒野カナ?

クティーラ候補者ファイル

コード:黒野カナ

生体年齢:16歳

CB103号が「クティーラ」になる前、生命の木の力を借りずに自然分娩で産んだ子供。父は研究員の黒野ヒサカワ

□□□□□□□□□□□□、□□□□□□□□□□

□□□□□□の後、黒野カナもクティーラになれる可能性があると証明された

生命の木との結合手術は、12月23日の21時に開始

生命の木……

ラミアの脳裏に死者から新たな命を産む巨木のことが浮かんだ――かつての技術はそこまで先進的だったのだろうか?

ファイルに記された日付は、パニシングが爆発するより前の日付だ

彼らは改造したんだ……

その理由を考えながら、黒野カナの身分証を小型制御台の認証エリアにかざした

使えるかどうか確かめないと

制御台に文字が現れた:

該当対象の残高が足りないため、権限がありません。\nチャージするか、他のカードを使ってください

該当対象のID残高が足りないため、権限がありません。 チャージするか、他のカードを使ってください

はぁ??こんな……自分たちの場所なのに有料ロックをかけてるの?

ラミアは信じられず、また何度か試したが、モニターの表示は変わらなかった

……惑砂をぶん殴りたくなってきた

ラミアはかつてない怒りの衝動を覚えたが、今はどうしようもない。彼女は他の方法を模索し始めた

他の侵蝕体で試したら運よく解除できるかも……

???

▁▃▆▃▆▁▂▄▁▁▃▆▅▄▃▆▁

突然、ラミアの聴覚モジュールにぼんやりとした声が聞こえてきた

誰?

もともと仕掛けられているものなのか、その声がラミアを誘っている

早く、ここに隠れて

ハイジ?

今回、あの方は私たちを見つけられなかった

彷徨う人魚を導くように、片翼の少女は笑いながら部屋の奥へと歩いていった

…………

時を同じくして、人間の指揮官ものんびりとはしていられないと「案内人」の助けを借り、手がかりを探し始めていた

3つ目の部屋に入った時、崩れた床の隙間にノートの一部が見えていることに気付いた

わかった、どこ?

重傷患者がほぼ失明しているノアンに指示すること3分、ようやくノートを手に入れた

ノートを開くと中にはファイル、身分証、そして空白の契約書が挟み込まれていた

ファイルを開くと、見覚えのある少女の写真が貼られている

すぐさまファイルに目を通した。これは「XX003」実験体に関する記録だ

彼女はバイオテクノロジーの専門家である。黄金時代の生まれで、遺伝性のガンに長年悩まされていた。何度もガンが再発したため、治療を放棄することを選んだ……

彼女は自身の全てを生命の木に捧げた。3回の誕生を経験後、ついに他人の体の中で生き残ることに成功した

しかしそれもやはり失敗だった。XX003は記憶を受け継ぐこともなく、もはや人格もなかった。ただ「本人」の科学的才能だけが受け継がれていた

この一大プロジェクトが、クローン技術ではできないことを達成したとすれば……

それは彼女の意識データをCBシリーズの実験体の中に入れ、新しい体で彼女を蘇らせたことだ

そのためガンは治り、副産物として大衆が好む美しい外見になった。彼女本人は外見など気にしていなかったが

彼女の母体の番号はCB107だ。XX003を産んだあと、「生命の木」が母体の意識と器官に拒絶反応を起こし、母体はすぐ亡くなった

……このような結果で、XX003はまだ本人といえるのだろうか?

エリア______番号_______名前_______年齢_______

実験体の状況:_______________________________________

クティーラ計画にご参加いただき誠にありがとうございます。本計画はまだ開発途中のため、多くの制限があります

以下がその説明になります:

1.計画の最終目標は、あなたを自身の記憶、性格、知識を持ったまま蘇らせることです

2.脳死や脳にダメージを負った人、病気中の人には効果がありません

3.世界政府の『科学技術進歩と保障法』の第1092条により、関連契約書にサインし、更に特別支給を受け取った人は、

入院時に本研究所も通知を受けることになります

もし医者に余命1年以下と診断された場合、あなたは契約書に書かれた義務を履行し、

クティーラ計画に協力する責任があります(関連許可については付録3をご確認ください)

追記:本プロジェクトの特殊性により、以下のリスクについて告知します。ご承知おきください!

1.本プロジェクトはあなたの意識をデータ化する必要があります

データ化すると、あなたの人間としての体は死亡します

2.技術的な問題により、意識のデータ化を行う際、麻酔はできません

3.意識データ以外のあなたの生物データを本研究所が保管することに同意する必要があります

4.意識データ化以降は、本研究所はいかなる形式でも面会の機会を提供できません

実験体本人または家族のサイン:___________

ノートのページには、まるで老人が忘れないようにあれこれ書いて付箋をベタベタ貼るように、とあるサイトのスクリーンショットが貼られている

ふたりが楽しそうに話している動画のスクリーンショットだ。タイトルにはギルゴア·グルートと、もうひとりの名前が書かれていたが、そちらは塗りつぶされていた

どうぞ

彼はすっと道を譲った。自身で呼びに行くつもりはないらしい

「地震」と倒壊の頻度が減りつつある。たぶん惑砂がコントロールしている

僕がラミアを呼びに行けば、ひとりきりの君は異合生物や惑砂に襲われる確率が高いんだ

痛みをこらえながら歩き出した。両足もパニシングの侵蝕で膿み爛れ、まるで人魚姫が刃の上を歩いているようだった

……申し訳ないけど

苦痛のあまり震えている自分を見て、彼は何度も謝った

本当に申し訳ない……でも僕はもう授格者だから

本当に申し訳ない……でも僕はもう授格者だから

青年に言われなくても「パニシングを制御できない授格者」と接触するリスクはわかっている。だがこんな状況では助けを求めたくなってしまう

彼は頷いた

ええ、僕もそう思う

……僕が……

……僕が犯した過ちを思い出させないでくれないか

自分とラミアがそれぞれ資料を手に歩き始めていた頃、危篤状態に陥ったゆりかごも悪夢の始まりを思い出していた

――いや、あの日より前から、彼女<//クティーラ>の記憶は黄金時代末期特有の悪夢で満ちていた

上が君たちに投資したのは、こんなバカげた結果のためじゃない

まだ改良中なんです。時間が必要です

ほう。聞いた話では、君は実験体と恋仲だそうじゃないか

それは意識データの安定度が、生前の感情と関連するのか調べるためで……

そのため、私は実験体に愛を示すことに決め、彼女にも他人を愛するよう勧めたんです

結果は?

CB103号は唯一生き残った母体です。彼女なら「生命の木」と完璧に融合できる

融合度が実験体の感情の安定度と関係していることは証明できました

でもお前とあの実験体の間に、自然妊娠で子供が生まれたそうじゃないか。確か黒野カナとかいったな?

……ええ

ずいぶんと踏み込んだテストだ、違うか?それも計画の一部だと?

まだ若い黒野ヒサカワは反論もできず、目を伏せるばかりだった

グルート教授の件で、死刑囚の人体実験が非合法化された。今、上が投資しているのは金だけじゃない

そもそも上も君たちの研究に干渉したくはないんだ。成果さえ出ていれば、何人子供を産もうが知ったことではない。だが現在の成果は?

何の成果も上げてないじゃないか!

唾まじりの怒声が黒野ヒサカワに浴びせられた

…………

研究所は君に金をやって子供を育てさせるための場所じゃないんだ。その子は利用するか、始末することだな

君らに残された時間と資金はもう多くはない。もし人を新生させる実験の成功が無理だというなら、もっと目新しい、上が喜びそうな道を探せ

生命の木に搭載された女王蜂システム、あれは実によくできている。クティーラから産まれた子供は彼女と意識リンクして、完全服従するんだろう?

まるでSF小説の「精神印章」じゃないか。完全服従の軍隊だ。生前の性格や記憶がなかろうが、本来の才能さえ引き継げればそれでいい!

だがなお進展がなく、クティーラにも攻撃力がない。これではただの金の無駄遣いだな

……ゴドウィン教授がずっと反対していて……

なら彼を解任しろ。もしくは警察に見つかる前に「解散」しろ

彼はわざと「解·散」の言葉を強調するような口調で、荒唐無稽な計画の死刑の執行猶予を宣告した

そこにいた31名の研究者は声もなく、47名のまだ生きている「ハツカネズミ」を見つめた

抑圧された真っ白な「繁殖場」で、彼らは禁忌を破り、法律を犯してまで不老不死の夢を追い求めていた

今後、投資額は半減だ。残り9カ月の間に成果を出せ

彼はふんぞり返って去っていった

半減……

どうすればいいんです?私たちはもう法を逸脱してしまってるんですよ

ゴドウィン教授の体調が回復し次第……彼を会議に呼んでくれ……

彼は苦笑いした

とりあえず、支出を減らそう――実験体だけでなく我々もだ

この偽りのユートピアには、もう明日すら来ないかもしれない