Story Reader / 本編シナリオ / 26 クレイドルパレード / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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26-8 季節外れのバラ

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皆、無事のようだな

また意識海に関する研究資料を見つけた。俺じゃ読んでもわからん。適当に集めておいて、脱出後に科学理事会のやつらに任せようと思う

だがな、それらの研究資料の中に黒野ヒサカワ、ハイジ、ロキ、ブードゥー、それにクティーラの名があったぜ

クティーラって一体なんなの?

双子を産んだ化け物――あのデカい心臓みたいなものは、クティーラの不完全形態だ――いわば歩く子宮みたいなもんだな

ええ!?

ほらここ、資料にも書いてあるだろ。それにロキとブードゥーの情報もある。現段階では情報がほとんどないあのふたりに関する資料がやっと手に入ったぜ

シュトロールはカメラのレンズに向けて資料を振ってみせた

ロキ-4654512

「クティーラ計画終了後、地下室で発見された実験体。意識損傷と極めて高い攻撃性のため、長年監禁されていた」

「巧妙に隠されていたため、クティーラ計画の後始末をした人員は地下室を見つけられなかったようだ」

「発見時、ロキは牢屋の扉を破壊しようとしていたらしい」

「そのため頭部が酷く損傷しており、緊急治療は断念するしかなかった」

「あの方の力を借り、彼女の意識データを保存することのみ成功した」

ロキ-4654517

「ロキの意識データは頭部に受けた損傷のせいで酷く破損した状態だ」

「強引に他の機体に移しても、ただの『狂人』になるだけだ」

「それでも、ボクは彼女を諦めたくない……」

「彼女の意識形態はクティーラとよく似ている。ボクは彼女の意識を安定させる方法を探したい」

「彼女を助けることがクティーラを助けることにも繋がるはずだ」

ロキ-7964510

「ひとりでは躯体を安定させられないなら、あの躯体に別の、もうひとつの意識を入れればいい」

「人間と意識融合技術を取引して彼女に使うようにと、あの方が助言してくれた」

「彼女の躯体に入る資格を得た者は、アディレ商業連盟から来た、ヒースの『婚外子』らしい」

「彼女に名前はなく、感情の起伏も感じられない。彼女は生きるために絶対の服従心を仕込まれている」

ブードゥー-001

「実験は成功した。彼女はロキの暴走する感情の受け皿になってくれた」

「この研究はきっとクティーラを呼び覚ますのに役立つ。彼女の意識も同じ欠陥を持っているからだ」

「後は『福音』の降臨を待つだけだ。そうすればハイジの願いが叶う」

「あの方も褒めてくれた……」

「こういった研究が、更に彼の力になってくれればいいけど」

ここはやつのアジトだからな。その可能性が高いのは当然だろう

そうだ、こういった情報の他にも一部のファイルで気になる名前を見つけた

ギルゴア·グルートは黄金時代の有名な精神科医で、心理学者でもあり、作家でもあり……そして、殺人犯だ

この名前を知ってるか?

ううん……誰なの?

有名人だぞ、知らないのか?

……黄金時代のことを知らないのは普通だよ?むしろ、なんでそんなに詳しいの?

構造体になる前、俺は警察官でな。クティーラ計画とギルゴア·グルートの調査をしてたんだ

シュトロールは少し暗い表情を浮かべた

特にクティーラ計画、あれは悲惨すぎる……

事故?ああ、表向きはそうなってたな

もちろんそうだ。しかもあの計画の目的は、公開された与太話よりもずっと確実性のあるものだった

俺らの情報筋によれば、クティーラ計画とは戦争兵器を作り出し、世界政府を再分割するためのものだったとか

ああ、そう珍しくもない話だろう?北極連合航路にいたインブルリアだって、似たような被害者のひとりだ

…………

すでにやつらの尻尾を掴んで、検挙寸前だったんだ。でも行動開始の前の晩、やつらの焼却炉が爆発して研究ビルごと炎上した

ああ……

確か最後の実験の出来事で、全ての実験体が正気を失ったんだ

狂った実験体は研究員たちの首を切り落とし、研究員の腹にそれを詰め込みやがった

シュトロールは眉根をぎゅっと寄せた

鎮火後、焼却炉付近は焼け死んだ実験体だらけだった

そして他に残っていたのは……首を切られて、腹が異様に膨らんでいる科学者たちの死体だ

……ひっ!

この件はドクター·ギルゴア·グルートが関与していたと睨む者は多い。本人はあの時すでに死んでいたとしても、彼の模倣犯じゃないかってな

でも結局、確かな証拠をつかめず事件はうやむやになった……まさかこんな場所でやつに関する情報を見るとは……

なぜそのドクターがクティーラ計画に関係があると?

それは……あれだ、クティーラ計画の目的ってのは、死者を実験体の子宮から蘇らせることだろう?

そしてあの科学者たちの死に方……まるで「子宮から蘇らせたいなら、まずは自分でやってみろ」とでも言ってるようじゃないか

しかも、ギルゴア·グルートの最後の自伝に、似たような言葉が書かれていたんだ

それと、どういった関係があるの?

あー、今は説明するのが面倒くさい。また今度話す

私は、惑砂の残骸をたくさん発見したよ……部品に手足、躯体……それから赤潮の虚影も

たぶん、彼が死んだ回数はもう……ひと桁レベルじゃないと思う

赤潮の虚影は、彼が死ぬ前の様子を何度も繰り返していて……

昇格者は赤潮と自分の残骸を使って、記憶を受け継がせているってことか?

可能性はあると思う……一部の昇格者は侵蝕体から記憶を読み取れるって。それに赤潮にも多くの情報が蓄積されてるから、赤潮の虚影が出現する

ただ、赤潮が保存できる記憶は一部を欠いていて、完全性を保てないの。でもここの赤潮の影って、外のよりずっと記憶が整ってる。惑砂が何か手を加えたのかも

それに……ここの赤潮の虚影はとても安定してる……ほとんどは自らの手で、自分の命を終わらせたみたい……

とすると自殺か?惑砂が?なぜ自殺なんかするんだ

だが「加害者」である惑砂が、本当に自分を犠牲にするものだろうか?

結論を下すのはまだ早そうだな。そっちはどうだ?

孤児院ってのはな、違法行為や犯罪の温床なんだよ

上層部は出生率を維持しようと出生率上昇のための政策を出し、遺棄罪の処罰を軽くした。更に多くの孤児院の建設にも出資した……

その考え自体は悪くなかったが、実際のところ、そううまくはいかなかった

これについてはリリアンもよく知ってるよな?確か惑砂の隣の孤児院の出だったろ?

あ、そ、そうだね……

ラミアは緊張して服の裾をギュッと握りながら、リリアンから聞いた話を繰り返した

確かに子供を「商品」として、各地に売る孤児院もあったよ

例えばリリ……えっと、私も売られて早期の構造体開発計画に関わったから……

他の子は皆、実験で死んじゃって、私だけが生き延びたの……惑砂も同じ経験をしたんじゃないかな

……こういった手がかりの間に、どんな繋がりがあるんだろうな……

他に何か発見したことは?

形見、とかかな……惑砂の友達の物とか……

……髪飾り?

あいつのことがますますわからなくなってきたぜ

ほう?

そうか……

わかったようなわかっていないような声でシュトロールは嘆息した

そうだね、じゃあ……また30分後

ふたりが通信を切ると、また辺りに静けさが戻った

あの昇格者は一体どんな気持ちで、友人の形見だらけの部屋で髪飾りを作っていたんだろう

どこから見ても何の変哲もない、普通の木の工芸品だった

彼は本当に誰かを懐かしむために、こんなにたくさんの髪飾りを作っていたのだろうか?

記憶にかかっていた霧が、突然晴れていった

いつ見たのかを具体的には覚えていないが……確かルシアが鴉羽機体に変える前のことだ

ドミニク記念広場で、困っている女の子を見かけた

彼女はひとりでぽつんと広場の真ん中に立っていて、ドローンは周りを巡回し、通行人はチラチラと彼女を見ていた

周りの「通行人」の身分を確認後、その少女に……挨拶をした

…………

……ロサ……

彼女は震えながらおどおどと答えたが、その目はずっと彼女に突き刺さってくる周囲の視線を気にしていた

少女と周囲の人々の軋轢の理由がわからず、他愛のない話題を続けるしかなかった

うん……ママは『星の王子さま』の物語が好きだったの。ママは、私がママとパパの「この星で唯一のバラ」だって

うん……でも、ふたりはもう……死んだの……

すすり泣きながら、彼女は小声で質問してきた

……あの……

……私に……メッセージをくれたのは……あなた?

ロサ?あなた、なんでここに?

ペトラおばさん!?ご、ご、ごめんなさい……わ、わ、わ、私……

目の前の女性はじろじろとこちらを眺めまわしてきた

あなたは確か……バネッサの同級生ね?ファウンスの首席卒業生

私、バネッサの母です

…………

いいえ。ファウンスの公式アカウントであなたたちの卒業写真を見ました

違うの

悲しみにくれ、自分の服の裾を握りしめながらも少女はハッキリ「違う」と言った

でもママが言ってた……ママが小さい時、ペトラおばさんのおじいちゃんが面倒を見てくれたって

…………

ここに立って何をしていたの?さあ、早く帰りなさい

イヤだ……

ロサは怯えて自分の後ろに隠れ、ここを離れるつもりはさらさらないらしい

あのね、あなたより私の方がこの子をよく知っているんですよ

女性の口調には焦りがあった

グレート·エスケープの時、私の祖父が遠縁の親戚の失踪した子だと思って、彼女の母を引き取ったんです

証拠はないし失踪した時期も合わなかったけど、祖父はそのローズという女の子を引き取って、私たちと同じ苗字にして、名前をアンと変えたんです

私が彼女を傷つける理由がありません。士官学校の首席という身分じゃなければ、私の方こそあなたを警戒していたところですよ

ロサ、あなたのためなのよ。ここにいては駄目なの

ごめんなさい……私、人を待ってるんです……

私の両親が犠牲になった時の情報を知ってるって……ママの髪飾りを着けて、ここでふたりの名前を探せって言ったの……

犠牲?

アンとランドはあなたの誕生日に、家電事故で死んだのよ?あなたも見ていたはずなのに、忘れたの?

ドミニク英雄記念広場には、戦場で戦死した英雄の名前しか刻まれていないの。ふたりの名前がある訳がないでしょう

一体誰がこんな小さい子供を騙したのかしら?誰がそんなメッセージを寄越したの?

彼女はわざとらしく声を張り上げ、まるで警告するようにロサの肩をギュッとつかんだ

…………

彼女の言葉を聞いたロサは、傷口に血がにじむようにじわっと涙を浮かべた。今の彼女には泣き声を上げる気力すらないようだ

…………

そう、わかりました

彼女はバネッサとよく似た仕草で髪を耳にかけると、その場を立ち去った

……うん、ゴッドファーザーのところ……

ロサは科学理事会の方向を指さした

アシモフから話を聞いて、ロサは彼の先輩と友人の遺児だと知った

アシモフがまだ若かった頃、ロサの両親に熱烈に請われて、仕方なくロサの教父――ゴッドファーザーになったそうだ

アンとランドは生前、空中庭園の外で働いていたらしい

幼いロサはひとり家に残され、家庭用ロボットとともに生活していた。そのせいか、彼女はその歳にしては考えられないほどの知識を持っていた

彼女はまさに「神童」だった。幼い外見の下に驚くような才能を秘め、すでにアシモフの助手を務められるほどだったそうだ

だがそれ以上のことについては、アシモフが語らなかった

ずっと後になってルシアと話していた時、彼女が見たファイルや聞いた情報のことを話してくれた

ヴェンジとリンクした昇格者やウィンター計画、それにウィンター計画で死んだ科学理事会のメンバー、アンとランドについての話だった

なぜあのふたりの話になった途端、アシモフは悲しそうな顔をしたのだろう?

なぜふたりは科学理事会に属しながらも安全な場所で働けなかった?

それともあのふたりが死んだ今、真に忠誠を尽くしていたはずの組織は隠す必要がなくなったのだろうか?

暗号化された機密資料は本物だった。そして矛盾する現実が目の前にあることも真実だ

あの日アシモフが教えてくれなかったことについて、おぼろげながら答えが見えたような気がした

思考からハッと我に返り、その何の変哲もない髪飾りを再び見つめた

ロサと知り合った時は彼女の髪飾りには注意を払わなかったが、今思えば、彼女は惑砂と何か繋がりがある存在かもしれない

髪飾りをその辺りに置き、まだ未探索のエリアへと足を向けた

指揮官の姿は廊下の先に消えた。置かれた髪飾りが机から落ち、床の上を転がって音を立てた時、壁から赤潮が滲み出した

現れた赤潮の影はまるで絵画の中にいる亡霊のように、記憶の中の言葉を繰り返した

赤潮の虚影

もう何をやっても無意味ですよ。彼らは死ぬのが早すぎたから

いつか死者の意識を受け継げる作品を作り出せたとしても、彼らの意識はもう残っていない……ボクはもう彼らを助けられない

……ローズはまだ生きていると思ってたけど……それはただの、ボクの希望だったんだ

ボクは彼らを助けたいんです

あなたがあの計画を気に入ってないのは知ってる。でもボクはもっと多くの人を助けられると思ってる……

あなたは、パニシングがもたらした災難をやりすごすことが今の目的だと言いましたよね

でも災難と対抗するためにはそれなりに力が必要だし……だからボクは人間に力を分け与えたいんだ……

ボクと同じように苦しむ人を、もう見たくない

ボクが彼らに操られ、見せてはならないものを見せてしまうことが心配なら……

どうか……ボクの体にいつでも命を絶てる種を埋め込んでおいてください

大丈夫……ボクを助けてくれたのはあなただから……好きなだけボクを使えばいいし、殺しても構わない

転がっていた髪飾りが壁にぶつかって動きを止めた。赤潮の虚影も、床の隙間に流れ込むようにして消えた

そして部屋の片隅に、血の色に染まった髪飾りが、持ち主の末路のようにひっそりと咲いていた