Story Reader / 本編シナリオ / 26 クレイドルパレード / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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26-7 海釜でのマーチ

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6時間にもわたる戦闘を経て、3人はついにシュトロールが言っていた廊下の入り口にたどり着いた

ガラクタの山に戻って補給を探した時間と合わせると、目覚めてからすでに10時間以上が経過している

もしこの全てが惑砂の思惑通りなら、彼が言う「最後の注射」まであとどれくらいあるのだろう?

何か、おかしいな……

全部が順調すぎる。ここ、本当に惑砂の拠点かな?

ラミア自身も気付かない内に、少しずつこの事態への姿勢が積極的になっていた

別に問題ないだろ。俺はこの場所を1カ月くらいうろついてるが、いつもこんな感じだったぜ

うーん、あなたは特別扱いで野放しにしてたかもしれないけど、彼は明らかに私を殺そうとしてた。なのに追ってもこないし、侵蝕体すら寄越さないなんて

それにここの地形ってかなり複雑なのに、こんなに簡単に目的地にたどり着けるものかな

それはいえてるな。少なくとも24時間以上かかるかと思ったが、まるで誰かが案内してくれたようでもある……

ハッ、こんな場所だからこそ、他の誰かさんがいるって可能性もある。例えば幽体化して増殖した惑砂とかな。ほら、空のあれを見ろよ

彼が指さす上方には、通常空にはいないはずのクジラが泳いでいる

この場所も、あの昇格者もまともじゃないんだ。誰が自分の拠点でクジラを飛ばそうなんて思う?

…………

もしかしたら、幻想の具現化かも……

遊園地に魚って、まるで深海の海底に閉じ込められた子供の意識海の中の幻想みたい

彼女は空を泳ぐクジラを見上げた

他人の意識海に干渉できる昇格者はいる。でも彼らもパニシングの侵蝕を利用して幻覚を起こすだけで、幻覚の内容は侵蝕された人や昇格者の記憶に関係しているの

ある時は……例えば病院や実験室、それとも似たような能力を持つ侵蝕体を使って……

その中の、侵蝕された構造体に、同じ幻覚を見せることだってできる

大規模な幻覚を作って侵蝕体の体内に再び組み込むのはとても大変だから。自分の幻想を使うなら、少しは負担を減らせるはずだよ

ただ……この場所はもうパニシングの侵蝕だけでできている訳じゃないみたい。この建物自体が……巨大な侵蝕体っていうか……

あ、えっと……ちょっと聞いたことがあるだけ

大量のAR装置と侵蝕体で作ったホログラムだって可能性もあるし

俺はそっち派だな。黄金時代にも、多くのテーマホテルがAR技術を使ってたしな

ただホログラムにしちゃ、あまりにリアルすぎる。しかもここ、ありえんくらいに広いぜ!実際、面積は空母よりでかいんじゃないか?

紫髪のあんな小さいやつが、ひとりで造れるレベルか?

ルナの方の?

え?

一理あるな

…………

は?どこに扉があるんだ?見間違えてるのか?

よくよく目を凝らすと、柵の角を扉に見間違えていることに気付いた

おいおい、大丈夫か?

心配そうに近付いた彼はざらざらしたその手で、驚愕し信じられないといった表情をしている人間の腕をぎゅっと掴み、それからまじまじと見つめた

目が充血してるぜ。どれくらい休憩していない?

それにしてもなあ……

彼はとまどったように顔に手を伸ばしてきた。だがほんのちょっと触られただけで、左の頬に激痛が走った

彼に触れられた皮膚が破れ、そこから血がポタポタと流れる

シュトロールはあわてて手を引っ込めると、信じられないように自らの手を見つめた

あんた……

頬の傷に少し触れただけで、その部分の皮膚がボロボロと剥がれ、手の平にくっついてしまった

……ひぃ!

パニシングの侵蝕がかなり進んでるな。さっき打った血清も、もう効果が薄れたか

でも変だ……ここのパニシング濃度のせいだってことなら、俺とリリアンが気付くはずなのに

この場所は確かに濃度は高いが、かといってすぐに症状が出るほどじゃない

…………

彼女は何かをしようと手を伸ばしたが、ためらうようにうつむいた

ううん、違うの、なんでもない

時間もない、手分けして調べよう。惑砂がこの3つの扉に出入りしてたのを見た。それぞれで別の扉に入れば、時間を節約できる

あ、あの、左は私が行こうかな

ずっとおどおどしていたはずの「リリアン」が、突然目の前に立ちはだかった

……えっと……

ラミアはもちろん本当のことを話せずにいた。左の扉を選んだのは、そこに赤潮が満ちていると察知したからだ

赤潮が満ちているということは、構造体も人間も足を踏み入れられない。惑砂がそこに何かを隠している可能性は非常に高かった

よ、予感がする。中に子供しか通れなさそうな道がある……とか

わかった。じゃ左は任せた

筋の通っていない言い訳だったが、シュトロールは納得したようだ

たまには勘ってのも大事だろ。そもそも俺らは行き当たりばったりだしな

俺は真ん中、指揮官は右を頼む。あの扉は簡単に開きそうだから、内部にたいした敵はいないだろう。怪我人ならおとなしく楽な道に行っとけって

彼はまた見間違えられるのを恐れたのか、しっかりと右の扉を指さした

じゃ、私は……

待って、誰かが来たみたい……

何だ!?お前、偵察機能があるのか!

それはまた後で話すから!とりあえず隠れて!

3人は回転木馬の後ろにうずくまった。しばらくすると、遠くから戦闘をしているようなどよめきが響いてきた

わからん。もう少し様子をみよう

戦闘の音がやんでしばらくすると、右側の扉から微かな足音が聞こえた

木馬の陰からそっと扉の方をのぞいてみる

クリア、完了、異常、なし

見たことのない怪物が優雅な声で、だがたどたどしく人間の言葉を吐いた

……異合生物のやつ、あそこまで人間に似てきやがった……

シーッ……!

惑砂、ロキ、殺すの、許さない

ロキは、守ってる、ハハ、惜しいだけ、デメリット、知ってるのに

ママの子に、なる資格、なし

終了、4、時間後、掃除は、任せる

わかったよ

…………

思わずその名前を呼ぼうとした瞬間、隣にいた少女があわてて口を塞ごうとしてきたが、触れるのを恐れてか慌ててぶんぶんと手を左右に振った

よ、呼んじゃダメ……だよ!

あれ、ノアン本人じゃないから。黒野が複製したもので、記憶をいじられてるはず。あなたのことを覚えてもいない!

言ってはならないことを口にしたと気付いて、リリアンは慌てて物陰の方へと後ずさった

私も……よくわからない……

「黒野」「ウィンター計画の関係者」「離反者」の三者の違いについて、ラミアも明確にはわかっていない

そのため、彼女はリリアンから聞いた情報をあいまいにふたりに話すしかなかった

聞いた話なの……本当に聞いただけ……黒野は惑砂と取引しようとしたけど、惑砂に裏切られるのを恐れて……裏切られたら黒野も目的を果たせなくなるからって……

だから黒野は惑砂に……ノアン本人じゃなく、複製体を渡したの。複製できるのは本人からだけ、だから本人を渡しちゃう訳にはいかないし

ノアンはずっと空中庭園で待機しているはずだ。もし意識海が複製されたのなら、それは検査を受けた時だろうか

まさか科学理事会の中に、粛清部隊も把握していない離反者がいる?

赤潮が海に流入した戦いの後、シーモンがバロメッツのメンバー全員が適当な理由をつけて取り調べられたと言っていた。まさかあの時に……

あいつ、行っちまったぜ

今それを考えてもしょうがない。戻ってからゆっくり調べるしかないな

惑砂の意識のバックアップ場所を探すことが先決だ。あいつを殺さないと、どうせ俺らはここから出られない

渡した端末、受信できてるか?

わかった。30分経っても連絡がなければ、残りのふたりがすぐ救援に向かうことにしよう

今のは主に指揮官、あんたへの言葉だ。怪我をしてるんだ、無理するなよ

もし今負傷しても、あんたをすぐさまどこかに運んで構造体に改造、なんてできないんだからな

深海のどん底に囚われた「4.5人」がついに交錯した。彼らは心中にそれぞれの憂慮を抱えながら、軌跡をたどる孤独な旅へと出発した