曇り空で星もまばらな深夜、鎧が何かを警告するように低く唸り声をあげた
……指揮官?
長年の戦闘経験ですぐに目が覚め、臨戦態勢をとる
この先で物音が……彼らはユートピアに戻るのかもしれません
オーロラ部隊の後を追って山をふたつ越えると、朝日に照らされた真っ黒な飛行要塞が森の中にそびえているのが見えた
思っていたほど巨大な姿ではなかった
……ユートピアの本体はあれよりずっと大きいものです
あそこに見えるのは任務中の小型飛行要塞です
ユートピアは多くのあの小型飛行要塞と中央の大型の飛行要塞で成り立っているんです。ずっと飛行しているのではなくほとんどの時間、荒野に駐機しています
任務がある時は一部の小型飛行要塞が本体から散開して着陸するんです、あんな感じに……
うっ……
彼女はいきなりこめかみを押さえた
……ええ、おそらく彼らが近くに意識海干渉の小型装甲を配置したんでしょう
指揮官とリンクしているからまだ耐えられます。もう少し先に進みましょう
エコーが耐えられる内に、森の外周をこっそり歩いてオーロラ部隊へと近付いた
小型飛行要塞の下にはいくつかのテントがあった。難民と負傷したらしい構造体が並んで何かを登記しているようだ。確認が終わると要塞へ連行されていく
まだこんなことを……
この小型飛行要塞には裏口があるんです。私たちであの人たちを解放しなければ
止める間もなく、エコーは武器をしまうと飛行要塞にそろそろと忍び寄った
ユートピア、実験室
アリサと例のグレイレイヴン指揮官があの飛行要塞に到着しました
ふむ
実験台の前で忙しそうにしていた医師は、その金色の目に笑みを浮かべながら振り返った
可愛いアリサ、お前はほんとにせっかちだね
でも経験を積んだ、果実は熟れてこそ甘美なんだ。アリサ、お前は誰よりも素晴らしい……
そういえば以前、私を探そうと空中庭園にまで行った少女がいたな……身元はわからなかったが、我々に加わろうとしたあの子
彼女が持ってきた物は、どこにある?
こちらです
研究員はモニターにずらっとファイルを表示させた
ピークマンはそれらのファイルを読みながら、しばらく考え込んでいた
なるほど……わかった
彼らに連絡しますか?
今は……いい
次の実験結果を待とう。材料が足りないまま、交渉の場に臨みたくないんでね
アリサ……私を失望させることはあるまい。そうだな?
アリサの行動が細かく記録された報告書を読み、彼は再び笑顔を浮かべた
飛行要塞内部
エコーの案内でここまで苦もなくたどり着いた。奇妙なことに、この小型飛行要塞の建設はまだ終わっていないらしい。全ての設備が適当に置かれている状態だった
いつもなら彼らの中心的な兵士がここで休憩しているはず……
彼女はそっと扉を開いた……
うううっ……!
扉の向こうにあったのは、大量の意識海干渉器だった
ぐっ……!
干渉器の作動を止めたものの、エコーの表情はいまだに苦しそうだ
これほど大量の干渉を受けたのだ、意識海に激震が走るほどのショックのはず
すぐに近くのリーや最寄りの執行小隊に救援を求めた。だがその前にまずエコーの意識海を安定させることが先決だ