Story Reader / 本編シナリオ / 23 稲妻走る冷枷 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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23-12 原点

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想像していたほどの雄大さも豪華さもなかった。それはただの黒い岩山のように、静かに山の間に隠れているように見えた

ここが「北アジア生命科学と進化研究所」?

目隠しを取られ、景色に擬態しているような地味な要塞を目にした男性研究員は、感慨深そうだった

すでに早春を迎えていたが、辺りは真っ白な雪景色のままだ。雪がゆっくりと黒い泥の上に降り積もる

目の前の山と一体化している要塞以外、周りに人類文明の痕跡はまったく見当たらない

その要塞の鉄柵の隙間からは往来する完全武装のセキュリティの姿が見える

地味だな

ふふ、私たちのような人間にはふさわしいと思いますが

入り口から穏やかそうな男性が現れた

「石ガチャ」という遊びを聞いたことがあります。人々は大金をはたいて宝石かもしれない原石を買うそうです

その原石を切り分けてみていい宝石であれば、買い手は一夜にして巨万の富を築けます。当然、元金さえ失う場合がほとんどですが

石ガチャの人たちは目利きと運に大金を賭けるものです

私たちにとっても……研究が成功するか、あと何回やれば成功するのか、成果が出るのと経費を使い果たすのと、どちらが先なのか……

それも「石ガチャ」と似たようなものではありませんか?

ですから真の成果を上げるまでは、皆の努力はただの路傍の石です。買い手以外、誰も気にかけてくれません

もちろん科学に対して私たちは貢献している、それだけはいえます。「間違った答え」を少なからず排除しましたからね

でも我々自身は、未来へ通じる道を舗装する捨て石のひとつにすぎませんけどね

そう言って男性は自嘲するように笑った

あなたはどこかの部門をリストラされたとか?それとも経費を使い果たして、チームが解散させられた?

鋭い質問ですね。でもあなたの同僚にそんなことは訊かない方がいいですよ

男性の顔にはやれやれという表情が浮かんだ。目の前の人の率直さに閉口したようだ

私はここの研究員ではなく、厳密にいえばただの商人です。ここに来た理由も、ある物の受け取りのためです

ゴドウィンさん、あなたの名はよく耳にします。俗な人間たちがあなたの大胆な実験を受け入れないのは、本当にもったいないと思っていますよ

……

ご安心を。ここならあなたは手厚いサポートを得られるでしょう。ではまた。いつかまたお会いできることを願ってますよ

男はゴドウィンが乗ってきたヘリに乗り込んだ。プロペラが巻き起こす風と雪がゴドウィンの顔に当たっている

寒さを感じてゴドウィンは防寒服の前をかき合わせた

しかし寒いな……

数十億年の進化と選別を経て、人類はついに食物連鎖の頂点に立った

人類にとって地球は大気圏に優しく守られた、最も暖かなゆりかごだ

しかし……

その庇護こそが人類にとって断ち切れないへその緒となり、文明を地球に閉じ込め、離れられなくしている元凶だった

環境の極端な変動や変異する病原菌、そして快適な温度が少し変わるだけですら人の体というものはすぐに衰弱してしまう

宇宙の強烈な放射線や低温や真空環境等には耐えられるわけがない。いくら大空に憧れようとも、宇宙環境の劣悪さは変えられない

そのため人類は巨額の費用を費やし、宇宙における生命保障システムを最適化してきた

人類は自分自身を宇宙に進出させるのではなく、地球の生存圏自体を宇宙に広げたのだ

だが結局は、それもただへその緒を延長したにすぎない

そもそも地球という資源がなければ、そのへその緒はどこまで伸ばせるものなのだろう?

あるいは資源を使い果たすまでに次の「ゆりかご」を見つけるのだろうか?

今の人類にとって、未来は生き延びることのできない厳しい冬のようなものだ

だが人類は今、自らへその緒を断ち切り、自分自身を変えようとしている

宇宙という本物の「冬」を乗り越えるために

だから彼はあの気が遠くなるほど長々と書かれた契約書にサインをして、ここにやってきた

ここになら、数万年先に再度起こるであろう進化の階段に人間が踏み出すチャンスがあるからだ

しかも今回、その進化の先の工程を人間は自分自身で制御することになる

ゴゴゴ……

機械音とともに、黒い鉄の扉が開いた。その音で考え事をしていたゴドウィンはハッと我に返った

当然、進化のような壮大なビジョンの裏で、ゴドウィンや影に潜む投資家たちには、もっとシンプルな狙いがあった

ウィンター計画は手塩にかけて育てられた巨木のように、空へ向かって伸びるほど、その根も地下の闇へ闇へと伸びていく

彼らは「時間」という究極の資源を手に入れるために、莫大な代償を払っていた

ゴドウィンは振り返って遠くの雪山をちらりと見てから、先の見えない入り口に足を踏み入れた

沈黙を続ける要塞に、招かれざるふたりのゲストが訪れていた

ここよ

険しい山道もふたりの足取りを阻むことはできなかった。やがて、ウィンターキャッスルがふたりの面前に姿を現した

しかしルシアとαがその要塞に接近しても、予想していたような警報は鳴らない

静かすぎますね……何か起きているのでしょうか?

入ればわかるわ

彼女たちの移動に合わせてぐるりと動いた監視カメラを見れば、ここが打ち棄てられた場所ではないことがわかる

それらのカメラはまるでひと言も発さない観客のように、舞台上にいるふたりを見つめていた

αは目の前の重厚なゲートを見上げた。この要塞はふたりの接近を止めもしないが、迎え入れるつもりもないようだ

この扉は中からしか開けられないようですね

ルシアはゲートを調べ、すぐに結論を出した

こういった大型研究施設には脱出用の秘密通路があるはずです。探してみましょう

必要ないわ

このゲートの鋼鉄板はあなたの刀よりも厚いのに?斬りつけても無駄だと思いますが

……そういう意味じゃない

αが指先で扉の制御装置に触れると、腕から緋色の電流が流れた。そしてゲートが重々しく開き、暗い通路が目の前に現れた

うなる吹雪を背景に、αが先に足を踏み出す