Story Reader / 本編シナリオ / 23 稲妻走る冷枷 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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23-9 互恵

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弾が正確に侵蝕体の弱点である関節部分を撃ち抜いた。その目的は撃退ではなく、彼らの進行速度を遅らせることだ

了解

狩猟本能だけで行動している侵蝕体を意図的に誘導し、1カ所に集めた。侵蝕体の進行速度が遅いお陰で、自分は安全圏までやすやすと退却できる

遠距離から射出された粒子ビームが侵蝕体の中心に炸裂した。全てが青い炎に飲み込まれていく

新しい弾倉に交換し、後退しているスライドをリリースする

スライドがカチッという音を立てて戻り、弾が薬室に送り込まれた

これが最後の弾倉だ。しかし侵蝕体は変わらずわらわらと押し寄せてくる。傷口が開いたせいで、血を吸った包帯が重い

撃ち続けながら対策を考えた

数や武装の差が大きい場合、技術や戦術はもはや無意味だ

構造体とともに戦っているとはいえ、戦闘中の指揮官は保護される対象だ

発砲音から僅かに遅れてスライドが後退したまま止まり、最後の銃弾を撃ち尽くした

立場が逆転した今、己の無力さを今まで以上に実感した。構造体が強大な性能を発揮すればするほど、人間の脆い肉体がチームの足を引っ張ってしまう

通信機からはこちらに駆けつけようとするリーとリーフの声が聞こえる。あともう少し耐えなくては

%#……¥*&進…&……

侵蝕体の発声モジュールから意味不明のがなり声が聞こえる。まるで野生生物の捕食前の威嚇のような声だった

???

昇格……進化……

誰?

αはウィンターキャッスルにほど近い雪山に降り立ってからずっと、誰かに監視されていると感じていた

またノイズ……違う、どこかが違う

何度スキャンしても見つからなかった。吹雪の中を進み続けたαが目の前の枝をかき分けると、視界が一気に広がった

ここからでもあの塔は見えるだろうか?

開けた平地から見渡すと、連なる山々の後ろに青色の螺旋の塔が見えている

αの左目を隠している前髪が風に吹き上げられ、灰色の左目に螺旋の塔が映った

ううっ!

本来破損しているはずの視覚モジュールが強烈な赤い色に覆われ、その衝撃でαはよろめき、地面に倒れ込んだ

うっ……

超越<//淘汰>……受容<//支配>……改造<//選別>……

聴覚モジュールに重なり合う言葉のノイズが流れ続ける。左目からは循環液が溢れ、滴り落ちると同時に地面を黒く焼いた

昇格……進化……

α

侵蝕体?

いつの間にか彼女は侵蝕体に囲まれていた。αは敵が本物なのかどうかももはや確認できない

併呑……支配……

彼らはまるで瀕死のライオンに群がるハゲタカだ

パニシングがゆっくりとαを取り囲み、焼けるような痛みをもたらした

反転異重合塔に転化されたパニシングは決して消えた訳ではなかった。昇格者の養分になるための機をうかがっているのか、あるいは……

――昇格者を食い潰そうとしているのか

目から流れ出た循環液はその内、粘り気のある黒い液体になった。そして接触不良のモニターのようにチカチカとまたたくキューブのようなものが、彼女の全身を覆い始めた

全身が腐食するような痛みに焼かれていく。更に彼女のものではない憤怒が意識の中に充満した

服や刀、機体までもが全て分解され、再構築されていく

アキレスが冥府の川に浸かったように、高濃度のパニシング集合物がαを完全に包み込み、彼女の機体を改造し、彼女の精神を蝕んでいく

アキレスの母、女神テティスでももう、彼女を人界に連れ戻せない

……

動きの止まった獲物を見て、ハゲタカたちは欲望に耐えきれず、牙をむいて飛びかかった

ギギギ……

しかし次の瞬間、泥まみれの手が侵蝕体の頭を押さえつけ、その鉄の頭部を握り潰した

泥に覆われたその姿が立ち上がり、手にしていた残骸を放り投げた

ハッ……

波のように押し寄せる侵蝕体を前に、深淵に落ちた人形は軽蔑するような笑みを浮かべた

ある地下カジノの跡地の中で、ふたりの人物が向かい合って座っていた

女性は微笑みながら広げたカードの上にそっと指を置いた

???

フォン·ネガットさん、ベットしますか?

男性は頷いた

ここは黄金時代、一般人には存在を知られていない地下カジノだった。広々とした空間と百万単位のチップが、過去の栄光を物語っている

だが今はすでに廃墟と化していた。最も貴重なチップが地面に散らばり、スロットマシーンも割れてしまっている。リリスはまだ座れそうな椅子を2脚探すのすら苦労した

仮面をつけた男はカードを見たがめくりもしない。どんな手札なのか、それにまったく興味がないようだ

リリスは1枚のカードを男の方へ押しやり、自分もカードを1枚手にした

リリス

フォン·ネガットさん、手札を本当に見ないおつもり?

フォン·ネガット

未知の賭けを楽しむのも一興です

リリス

全部を運に任せるつもりですか?それとも……

フォン·ネガット

運は、その中のひとつの要素にすぎませんよ

聞きたいことは、これのことかな?

リリス

……全部お見通しなんですね

おそらく空中庭園の粛清部隊はすでに真相に迫りつつあります。更に私たちがオブリビオンに調べさせた「適切な」人員リストを見つけたら……

彼らは「ウィンターキャッスル」の具体的な場所を推測できるはず

そんなに容易くあの研究所の場所を彼らに知られていいのですか?黒野はまだ私たちと協力関係にありますよね?

フォン·ネガット

情報というものは適切な場所に流してこそ、本来の力を発揮するものですよ

「ウィンターキャッスル」の情報はもう私には意味がない。今こそ、その「手札」を切るベストタイミングといえるでしょう

リリス

どうして今なのですか?

フォン·ネガット

人類というものは、最も基本的な生存問題を解決してから、ようやく道徳上の問題を解決するものです

世界を革新するためには、彼らのような旧時代の人間を葬る必要があるんですよ

人類は自らの正義を守り抜き、私も望んでいた結果を得られるのですから、両者の利害は一致しています

彼らの勝利を阻めば、更に大きな反発を引き起こすだけです。この非ゼロサムゲームでは、常に少しだけ多く勝てば十分なのです

だからルシアを追う黒野の部隊に、あなたがαを差し向けたことを私は追及するつもりはありませんよ

リリスの手がこわばり、カードがぐにゃりと折れ曲がった

リリス

ただ彼女に恩を売りたかっただけです。私、内情をよく知りませんでしたから

暗い灯りの下で、ふたりの間に沈黙が落ちた。リリスは我知らず背筋を伸ばしたが、男はまだ悠長な様子のままだった

その時、入り口に小さな人影が現れた

リリスさん、用意ができました

ありがとうハイジちゃん、何か欲しいお土産はあります?

例えば……黒野のヒサカワの情報とか?

……いいえ、私はママがいれば十分です

さあ、行きなさい。彼女の状況の確認を頼みますよ

蝕まれて昇格ネットワークの最も鋭利な刃になるのか、それとも矜恃を捨て、昇格ネットワークの恩恵を受けるのか……どちらにせよ、我々は彼女の様子を確認する義務がある

フォン·ネガットはめくりもしなかった手札を山札に戻した

これがあなたに対する最後のテストです