目の前は吹雪で、足下からはかすかな震動が伝わる。まるで雲の上を歩いているようだ
ここはどこなんだろう?これが真っ先に浮かんだ疑問だった
航路連合のような草木すら生えない氷原と違い、ここには褐色の土や芽吹く新芽がある。それは北極の景色ではない
連なる白い山々が太陽の光を遮り、谷に影を落としている。その眺めはまるで世界の果ての壁か、魔境の入り口のように思える
ここに来て何をするつもりだったのだろう?見たことのない景色に戸惑うばかりだった
あてもなく歩いたが、目に映るのは真っ白な世界だけだ
もう少し下へ向かうべきだろうか?
そう考えた時、地面が急に消えて墜落していくように感じた。視界もだんだん下がっていく
やっと目の前の眺めをはっきり見ることができた
太陽の光が届かない裏側には、雪の間に黒くごつごつした岩がそびえたっていた
その眺めはまるで入り組んだ城壁の砦と監視塔のようでもあり、あるいは影に潜む化け物のようにも見えた
前方を眺めると、遠くの山々の何もない場所にポツンと暗い要塞がある
そこが向かうべき場所だと、なぜか自然と納得していた
足を踏み出し、要塞に向かおうとする。だがふと足を上げた時、3度目の疑問が生まれた
私<//君>は誰?
この問いが、棒で頭を殴られたようにして自分を混沌から目覚めさせた
がばっと体を起こした時、額から濡れた何かが滑り落ちた
キャッ……
傍らにいた人が驚いて、小さく悲鳴を上げた
服の上に落ちた物、聞いたことのある声、どちらもよく知っているものだ
指揮官、お加減はどうですか?
側の構造体に水を勧められて、自分が喉が渇いていたことにようやく気付いた
水を喉に流し込むと、昨晩の記憶がゆっくりとよみがえってきた
ルシアを安全な場所に移し、暗号化チャンネルで情報を参謀部に送ったあと、すぐに痛み止めを飲んで寝てしまったのだ
自分で適当に手当てした箇所は、すでに手際よく包帯が巻き直されている。横に置かれた救急箱を見て、全てを理解した
それは痛み止めの副作用です。これからはあまり飲まない方がいいですよ
リーフは空のコップに再び白湯を注いでくれた。胃が温められて、痛みも和らいだようだ
リーさんも来ています。今は医療輸送機の駐機を手伝っています
はい、輸送機内で遠隔治療を行うそうです
指揮官、一体、何が起きたんですか?
彼女は無意識に両手をギュっと握りしめ、心配そうな顔つきだ
どうしてルシアはあんな状態に?それに指揮官の傷口は……
リーフは唇をきつく閉じている。何度も確認したが、それがいまだ事実だと信じられないといった風情だ
……ルシアはしばらく任務を遂行できないので、検査を終えた私とリーさんを支援に行かせるという説明だけでした
それより変なのは、出発前にセリカさんが、地上に到着した以降は一切の判断を指揮官に委ねるので、私たちはそれに従えと……
蛇足もいいところだ。グレイレイヴンは別に新人小隊ではないし、リーとリーフも厄介な隊員ではない
だからこの言葉はリーフたちではなく、自分に向けられたものなのだろう
そう言いかけた時、臨時キャンプに警報が鳴り響いた
侵蝕体の襲撃です……こんなに!?
端末にも侵蝕体の襲撃進路が表示された
通信が繋がった瞬間、リーはすでに自分が行くべき場所をマークしていた
僕はここですね?
リーは一瞬笑顔を見せたが、すぐに真顔に戻った
僕の複合兵装は超遠距離から攻撃できます。遠慮なくいつでも呼んでください
では、指定の場所に向かいます
指揮官……
リーフは何か言いたげだったが、結局は念押しをするような言葉となった
どうかお気をつけて、くれぐれも無理をしないでください