Story Reader / 本編シナリオ / 21 刻命の螺旋 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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21-7 螺旋の塔

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大地の奥から響いた轟音と同時に警報が鳴り始めた。保全エリアからは住民たちの悲鳴が上がる

補修されていないビルは激しい揺れのために倒壊しかかっている。鉄骨はギシギシと嫌な音を響かせ、視界の全てが激しく揺れ動いている

もはや立っていられず、人々はとっさに手に触れたものにしがみつき、地面にはいつくばって振動がやむのを待つしかなかった

どんな教科書や映像資料であっても、人々が天災に直面した際のリアルな恐怖を伝えることはできないだろう

それは絶望的なまでの非力さの痛感だった。揺れがなすすべなく意志を奪う。本能が逃走を訴えても天災の前では逃げ場などない。世界がいかに広くても真に安全な場所はないのだ

自然の圧倒的な力の前では、人間はあまりにちっぽけな存在だった

だが――

全員、ただちに作業をやめ、演習通りに広い場所へ避難を!焦るな!

医療エリアにいる者はその場で援護を求めろ。患者の安全が最優先だ!避難施設はすでに強化されている!空が崩れようがあの施設なら大丈夫だ!

怖がらなくていい。私たちがいる限り、怪我人は絶対出さない!

災難を前に立ち止まる兵士はひとりもいない。彼らは自分の責任を全うしている。もちろんグレイレイヴンも同じだ、自分の使命を貫徹することに一切のためらいはない

一瞬の迷いはあったものの、次の瞬間、全員が行動した

ルシアはブリギットを支え、刀を地面に突き刺して体を固定した。指揮官に向かって頷いた目はいつもと同じ、意志のこもった冷静さを見せている

リーフはフロート銃で貯め池に倒れかけたコンクリートの柱を打ち砕いた。その重い瓦礫は無人の地面に轟然と崩れ落ちた

試験畑の横に立ち尽くす住民を安全な位置に移動させ、測量機械を持っている構造体に大声で訊ねた

唯一特定できるのは震源地がここから10~15km離れていることだけです。他は司令部の計測端末でなければ調べられません!

通常チャンネルは全て途絶えています!

任せて!

あっち!電波塔から見て3時の方向よ!

ブリギットは保全エリアの方を指さしながら、カードキーの束をこちらに放り投げた

あそこは24時間スタッフが常駐している。非常時には司令部の避難通路から地下駐車場に出られるから!

司令部へ向かって駆けている途中、風に乗って保全エリアのさまざまな声が耳に流れ込んできた

激烈な振動はすでに止まっているが、悲鳴や泣き声はいまだ続いている。だが助けを呼ぶ声に応じる声も上がっていた

視界の端で、構造体たちが持ち上げた担架から傷だらけの手が伸びていた。その者は痛みで震えながらも親指を立てている

こいつ……相変わらず頑丈だな!耐えろよ!

これなら大丈夫だ。皆がいる限り、どんな困難でも乗り越えられる

司令部の扉を開くと、内部は嵐に襲われたような散らかりようだ。中枢システムの前で真剣な面持ちの構造体ふたりが、手の残像が見えるほどのスピードで制御台を操作中だった

ひとりの構造体の腕は何か重い物に圧し潰されたようにひしゃげているが、彼女は気にも留めていなかった

時空分布と特徴……磁場測量の数値……どういうことだ!ありえない!

緊急通信起動98%……99%……起動完了!なんてこと、27号エリアは依然応答がありません!

ナイスタイミング!

座っていた構造体の連絡官は飛び上がらんばかりだった

空が崩れ落ちたって、我々はここに残ってやる!

構造体は忙しすぎてこちらを見る余裕すらないようだ

芳しくありません。通信は途絶し、空中庭園へ連絡してもまったく返事がありません

本当によろしくないですよ、今回の地震はとても妙な電磁波を発していて、それに……

ほら、特定できてます。27号保全エリアの近く、ここから17km離れています。でも今回、震源の深さが異常なんですよ。これ、本当に普通の地震なんだろうか?

測量結果が正しければ、今回の震源の深さは地下2000mほどです

それがおかしいんです……それほどの深度なら、17kmしか離れていない私たちが壊滅的な被害を受けないはずがないんです!

ましてや27号保全エリアなら、なおさら……あそこは高出力の浄化塔が起動されたから、ここより人口もずっと多いのに

待って、地下駐車場の車を使ってください!

車に搭載した緊急用指揮通信設備に私たちのデータが全部バックアップされています。あれならポイント間で通信可能です!私たちは外に何十個もポイントを設置してますから

私たちは引き続きここで他のエリアとの連絡を試みます

ルシアやリーフと顔を見合わせ、急いで避難出口へ向かった

背後では構造体たちがそのまま自分の持ち場で仕事を続けていた

悪路のせいで多少揺れます。指揮官、シートベルトを

軍用ジープで割れた大地を駆け抜けた。リーフは通信設備をチャンネルに合わせている

数十分後、ノイズばかり繰り返す雑音の中から受信を知らせる音が聞こえた

???

こちら[ザ――]小隊の指揮官、付近にいる全ての空中庭園の部隊に救援を要請します

繰り返します、こちら[ザ――]小隊の指揮官、非常事態のため、付近にいる全ての空中庭園の部隊に[ザ――]を要請します

異合生物が[ザ――]襲撃[ザ――]不明な電磁波放射[ザ――]異常……

指揮官、救援要請です!

確認しました。救援要請を出しているのは執行部隊所属のスワロウ小隊です。最後の任務報告は3時間25分前、27号保全エリアの付近で工兵部隊と一緒に任務中でした

ブリギットが言っていた小隊だろうか

わかりました。グレイレイヴン、救援要請を受信、目標地点へ向かいます!

目的地に近付けば近付くほど、パニシング反応が強くなっていく

余震の可能性もあり、もし地震の真っ最中に敵と正面衝突すれば非常に不利な状況になる。そのためグレイレイヴンは町の外縁を走る最も安全なルートを選んだ

天候は更に悪化して、短時間で視界がかなり悪くなった。湧き上がる雨雲で地平線は遮られ、遠くに見える鋼鉄の森が歪な形の山に見える

その灰色の中に、緋色の影が一瞬現れた

更に目を凝らしたが、何も発見することはできなかった

指揮官、救援要請が送られた座標のエリアに入りました

……発見しました!2時方向、距離923m。小隊の信号と異合生物の反応があります!

――!

目標を指定場所に誘導しました。指揮官!

右側、レーザーシールドの設置完了!

了解です!

展開されたレーザーが発射され、マークした建物の一角に見事に命中した

地震のせいで崩れかけていた壁が地響きを立てながら完全に倒壊し、崩れ落ちたコンクリートの塊が異合生物の進路を塞いでいる

倒壊はドミノ式に連鎖し、食品が腐る早送り映像のように次々とビルが崩れた。よじ登っていた数十匹の異合生物は一瞬で飲み込まれ、緋色の液体を撒き散らしている

もうもうと舞い上がる埃の中、数匹の異合生物が瓦礫の隙間から這い寄ってくる。類人型異合生物が圧し潰された自分の腕を引きちぎり、こちらへ突進してきた

指揮官!!

しかしトリガーを引くと同時に、左の背後から突然爆音が響き、高熱の弾が体をかすめながら異合生物に向かって放たれた

横っ飛びに転がって回避した途端、瞼が焼けるほどの白い光が弾けた。目の前の廃墟が異合生物とともに黒焦げの瓦礫と化した

端末から脅威が排除されたことを知らせる音が聞こえ、周りは再び静寂に包まれた

指揮官!大丈夫ですか!

振り向くと、まだ煙が噴き出ているランチャーを抱えた指揮官の制服姿の少女が、力尽き果てたように地面に座り込んだ

……はぁ……はぁ……

腕を押さえた彼女の手の間から血が滲み出している

はい、緊急手当をします!

簡単な応急手当ですが、これで侵蝕される危険はなくなったはずです

あ……まだむやみに動かないでください。すぐに血清を注射しますから

ありがとう……ええと、違った。あの、その、本当に申し訳ありませんでした!!

片手をリーフに手当されている少女はチラチラと遠くで燃えている黒焦げの残骸を見ながら、大声で叫んだ

――黒焦げの物体は、10分前まで3人が乗っていた車だった

まさかランチャーのロケット弾が壁を貫き、車に命中するとは思わなかった……幸い怪我人はいなかったが

ただのかすり傷です、動くのに支障はありません……!

は……はい!

少女は猛然と突っ張るように体を真っ直ぐ起こすと、こちらに向き直った。ひどく緊張しているようだ――異合生物の襲撃をまだ警戒しているのだろうか?

はい、存じ上げております……!私たちの学年では……いいえ、どの学年でも……

彼女はなぜか、更に緊張してしまったようだ

あああ、失礼しました!自己紹介がまだでした!

シルカ·ルブランです。ファウンス士官学校の今年の……卒業生です。今はスワロウ小隊の指揮官を担当しています!上官に敬礼!

彼女は手を挙げ、とても丁寧な敬礼をした。自分も同じように答礼した

まさか、卒業したばかりなのに入隊し、戦場に行くことを選んだ指揮官だったとは

(ルブラン……どこかで聞いたことのある名前……)

シルカのキラキラと輝く目を見て、ファウンスで演説をした際に、ライトの下から澄んだ目を輝かせていた卒業生たちを思い出した

あ、ありがとうございます。先輩!

指揮官もまだお若いじゃ……いえ!何でもありません……

でも指揮官にはもう、先輩らしい威厳がおありです

まさか救援要請を受けてくれたのが[player name]先輩だったとは思いもしませんでした……

シルカはうつむきそっと両手の拳を握りしめ、少し後悔しているような話し方をした

あ……はい![player name]先輩!

どうやら彼女は呼び方を変える気はないようだ

とりあえず雑談よりも、現状の把握が先決だろう

ここには私ひとりだけです……隊員は別の場所で任務についていまして、彼らとの連絡は途絶えてしまいました

シルカは手短に状況を説明した

彼女のもともとの任務は、工兵部隊に協力して新しい通信設備を設置することだった。しかしその途中、大量の侵蝕体と異合生物に出くわしたようだ

本来は非戦闘員である工兵部隊と重要設備を守ろうと、彼女は3人の隊員を護衛につけて工兵部隊を近くの27号保全エリアまで移送し、自らは残って時間を稼ごうと判断した

全て計画通りに進んでいたが、突如起きた地震のせいで隊員との連絡が途絶えた。隊員から彼女への最後の連絡は、原因不明の電磁波放射を検出したという内容だったらしい

その後、私は27号保全エリアへ戻りながら、同時に救援要請を送り続けました。でもどこからも返信はありませんでした

……すみません、私がもう少し慎重に……もう少し綿密に作戦を考えていれば……

……わかりました

スワロウの隊員は原因不明の電磁波を検出していた。それは侵蝕体か異合生物の新たな攻撃手段と思われた。事態は思ったより深刻だ、目的地に向かうのを優先すべきだろう

その時、端末から通信要請を告げる音が鳴った

先ほどの連絡官だった。彼女の表情は深刻な事態を示していた

緊急事態です

先ほど27号保全エリア付近にいる兵士から連絡が来ました

まだ完全な回復ではありませんが、支援申請を送信後、通信トラブルの解決に慣れた指揮官と小隊が支援に向かいまして

それでようやく、現場からの情報を受信できました。現場は……完全に私たちの予測できるレベルを超えています

ご覧ください

連絡官が映像と座標を送ってきた

これは……

現場の映像と言われなければ、この映像を見ても、自らの目で見たものが信じられなかっただろう

そこに映し出されたのは、天空の果てまで続くかのような螺旋状の塔だった

緋色の外観とモニターに表示される数値が、そのパニシング濃度の高さを物語っている。最も厳重に防護をした人間でも、そこでは1分も持たないだろうと思われた

更にゾッとさせるのはその禍々しい見た目だ

それは到底言葉では言い表せない、この世に存在すべきではない造形だった。地上のどんな建築群をも超越している。塔の礎は大地を突き破り、先端は雲を貫いている

創世記でバビロン人たちが、神の住処に近付くほどに高く造ったバベルの塔――もしそれが実在したなら、まさにこんな姿だったのだろう

だがこの塔が人に与える感覚は畏敬や感嘆ではない。それはむき出しかつ純粋な――脅威のみだ

誰かが言っていた。類人猿が人と猿に分かれるまでに数百万年の歳月を費やした。だがパニシングが無秩序から類人にまで進化するのにかかった時間はほんの一瞬だと

更に母体から人型生物が生み出され、誕生から2時間後には、全人類にいまだに癒えない傷をもたらしたのだ

この光景を見て、異合植物に囲まれて屹立していたプリア森林公園跡の浄化塔を思い出した

だがこの螺旋の塔はその緑色の偽装すら纏わず、地上や宇宙にいる全人類に対し、その冷たい突き刺すような脅威をこれでもかと見せつけている

彼らは「エデン」と「生命の樹」から産み落とされ、人類の全てを模倣し、吸収したのだ。彼らは次はどこへ向かい、何に進化しようとしているのか

あえてそんな予測をしようとする勇気のある者はいなかった。しかしこの状況を目にした者なら、おのずとひとつの答えが浮かんだはずだ

――彼らは文明への道を歩み出している

誰もが黙り込んで周囲は静まり返っていたが、全員の顔を見渡して、皆が同じことを考えていると見て取れた

聞こえますか!?

保全エリアは今のところ異合生物から襲撃されていません。しかし前回のプリア森林公園跡の状況を考えるに、事態が制御不能になる前に全ての住民を撤退させなければ

確認できません。あんなに高い濃度では完全防護でない限り、近付けませんから

あれほど高いパニシング濃度なのに、私たちがここに来るまで、一度も警告がなかった……

空中庭園と同期した衛星映像は、40分前に止まっています

40分前……1回目の地震の時だ

つまりあの時点で塔はあった……じゃあ、なぜ私たちには何も見えなかったんですか!?

遠くを眺めた時に歪んだ幻影がちらっと見えたことを思い出した。あれはただの一瞬の目の錯覚だと思っていたが……

私は、まだ隊員との連絡が取れていません……

シルカは自分の端末をギュッと握りしめた

今すぐ彼らの側に行かないと!

電磁波が干渉して、彼らの正確な位置を特定できません

すでにウッドコック小隊とワイルドアウル小隊が到着しています。近くにいる他の小隊も支援に向かっています

待ってください。私も、私も一緒に行きます!先輩、一緒に行動させてください!

編成されたばかりの小隊ですが、彼らは私の仲間です……ずっと連絡がつかなくて、本当に心配なんです

申し訳ありません……指揮官がこんなことを言うのは未熟だとわかっていますが……あ、私の怪我のことでしたら、絶対に足手まといになりませんから!

ルシアを見やると、彼女はすぐにこちらの意図を理解した

目的地の座標を27号保全エリアに確定しました