Story Reader / 本編シナリオ / 21 刻命の螺旋 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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21-8 災厄の銃声

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ハセンは心臓を狙う凶弾にとっさに反応できず、怒鳴り声をあげた警備兵がトリガーを引くのを、なすすべもなく見ているしかなかった

「バァン――」

耳をつんざく発砲音が議会ホールに響き、周囲は凍りついたように静まり返った

ハセン

……!

しかし弾丸はハセンではなく、別の人物の胸に命中した――議会の混乱の最中、その人物は席を離れ、ハセンの前に立ちふさがったのだ

リスト議員……!?

銃弾は確かにリストの胸に当たっていたが、彼は倒れず、一瞬ふらついたものの体勢を立て直した

この……裏切り者……死ね!

その警備兵は再びトリガーを引こうとしたが、リストがそれよりも早く拳を振り上げ、彼の顎にパンチを喰らわせた

警備兵は一瞬で殴り倒され、倒れ込んで動かなくなった。リストはサッと彼の銃を拾い上げると、凶漢が完全に気絶したのを確認してからハセンの隣へと移動した

すまなかった……だがどうして……

リストの銃弾で焼け焦げた上着の穴から、防弾ベストが見えていることにハセンは気付いた。そのお陰で彼も、ハセンも助かったのだ

その時、ニコラがつきまとう異常な状態の議員を蹴り飛ばし、ふたりのもとへと駆けつけた

……ふん、会議に防弾チョッキを着てくるとは……議会のセキュリティを信用していないのだな

これは私の悪習でして。予定外のことが起こるのが許せないタチなのです

リストは弾倉に残っている残弾数を確認すると素早く装填し直し、バンバンと空に向けて発砲し、こちらに押し寄せようとする人々の動きを止めた

議会の警備兵まで精神に異常を……

警備兵と先ほど暴れた議員は仲間なのか……?だがその可能性はなさそうだ

襲撃された瞬間、ニコラが真っ先に疑ったのは黒野だ。しかしリストの行動を見れば、黒野の襲撃という可能性は低い

少なくともこれほど大規模な襲撃計画が、黒野全体の意思ではないことは確実だろう

あるいは――セリカの報告をお聞きになったでしょう。あの妙な電磁波放射のせいで彼らのマインドが影響されたのかもしれません

他人を襲ったり、泣きながらブツブツと呟いているのは、リストがよく知る議員、つまり黒野のメンバーだった。おそらく何か問題が起きたに違いない

もしそうなら、空中庭園全域に安全な場所はもう存在しない

かつて人類の最後のゆりかごと呼ばれた空中庭園――ここで暮らす人類の生存者全員が、最も危険な敵となりうる

私たちですら、次の瞬間には互いに信用できなくなる……

リストは目を細めて頭を振り、こみあげる負の感情を抑えようとした。もし負の感情に飲み込まれれば、確実に目の前の彼らと同じ羽目になるのだ

拳銃に残る弾と残っている理性、どちらが先に使い切られるのだろう。このままでは全員ここで殺されてしまう

精神に異常をきたした議員と対峙している間に、議会ホールに警報音が響き、緊急シャッターがゆっくりと降り始めていた

……我々はここに閉じ込められてしまいます

リストは銃口を扉の近くに集まっている議員に向けた――今のうちに通路を塞ぐ彼らを殺して脱出するのが最善策だからだ

無駄だ。もう間に合わない……

ハセンの言う通り、シャッターが降りる速度はこれまでの緊急時よりずっと速く、会議室は一瞬で外界と完全に隔てられた

こんなはずは……シャッターを制御する者が影響を受けたのか!

ここまでか……

リストは最後の弾丸を威嚇射撃に使った。身を守る最後の手段を失った3人は、譫妄状態にある議員たちがじりじりと詰め寄るのをただ見ているだけだ

???

おい、こっちだ!

ドーンという大きな音が辺りに響き、ロックされていたはずの扉が蹴り飛ばされ――そこに3人がよく見知った姿が現れた

お前、グリース……なぜここに!

グリースはニヤニヤしながら、まるで旧友と出会った時のようにニコラに手を振っている

意外かい?俺は誰かさんのせいで議会には入れないからな、通路でずっと待ってたんだぜ……おいおいニコぉ、これはルール違反じゃないよな?

ニコラはグリースの他、避難通路にもうひとりが立っているのに気付いた

ウィリス……無事だったか

ウィリスと呼ばれた男は頷いた。彼は司令部所属の参謀総長であり、正確にいえばニコラ直属の部下になる

はい、無事です……まだ無事ですと言いましょうか

途中でこいつとばったり会ってな。こいつが議会はきっと地獄絵図になってるって言うもんだから、野次馬しに来たってワケだ

すまんがお前のことは誰も聞いていない……ウィリス、外の状況はどうなってる?

地上部隊から連絡を受け、すぐに参謀部の名の下で執行部隊を緊急召集しました。しかしこちらと同様、すぐに混乱して機能しなくなりました

参謀総長のウィリスがここにひとりきりで来たということは、司令部の他のメンバーも精神に異常をきたしたに違いない

すみません、ウィリス参謀総長のその武器はどこで手に入れたんです?

ウィリスが持っている銃は極めて古いもので、黄金時代前の銃のように見えた

かつてコレクションしていたものです。まさかこんな局面で役に立つとは

ウィリスは冷静に扉の前まで来ると、押し寄せてくる人々に向かって筒状の物を投げた

その筒が地面に触れた瞬間、目が眩むような光と衝撃が議会ホールを包んだ――最も近くにいた十数人がその衝撃で昏倒した

ご心配なく、ただのスタングレネードです……彼らは気絶しただけです

ウィリスがニコラに向かって頷いた。非常事態とはいえ、罪のない者を殺すべきではない

ほっほーう!まさかそんな骨董品がまだ使えるとはね……俺らよりも年食ってるだろうに

黄金時代には大規模な戦争が起きなかった。しかもパニシングの爆発以降、対人武器の存在価値は失われつつあった

お前は確かに頭脳も含めてアンティークなんだろうが、私とお前を一緒にしないでもらいたい

ふうん、そうかねぇ?自分じゃピチピチのつもりなんだが……もっと運動でもするかな

そう言いながらグリースはニコラを襲おうと扉の陰に潜んでいた議員を引っ掴むと、片手で議員の腕をねじり上げ、もう片方の手で襟を掴み、ドアに打ちつけた

グリースは更にその議員の髪を引っ張り、顔を仰向かせた。そしてその惨めな顔をしげしげと眺めながら笑い出した

おいおい、こいつ、俺の調査を担当していたとかいう監察院のやつだ。リストちゃんの「ダチ」だったよな?すまんすまん、ついやりすぎたぜ

リストは眉ひとつ動かさず、ただ冷たい目でグリースを見た

……関係ありません。彼のことをそれほど知っている訳でもないんです

急ぎましょう。どうぞこれを……

ウィリスは3つの銃をハセンたちに渡した。まさか自分にも武器を用意してくれるのかと、リストには意外に思ったようだ

私たち自身もいつ何時、精神がやられてしまうかもしれない。抑止力として銃を持つことは重要です

多くの実権を握る彼らの内、たとえひとりでも正気を失えば、空中庭園は予測不可能な打撃を受けてしまうだろう

お互いを敵視している俺らにはおあつらえ向きだね。誰かが狂っちまったら遠慮なくバン!ってか

なるほど……筋は通っています

リストは拳銃を調べ始めた。型が古い以外――とくに問題はなさそうだ

次はどこに行く?トランプでもするか?それともバーで一杯やるか?

まず放送センターに向かおう……緊急連絡をしなければならない

5人は頷き合った。しかし、誰も足を動かさない――なぜなら、まず決めなければならないことがあるからだ

最初の問題は、先鋒を誰が務めるのかってことですね

先頭に立つ者は前方から突如現れる危険に直面する上、背後にはいつ自分に向けられるかわからない4つの銃口がある

その瞬間、4人の視線が交錯した

……一番の若者だろうな

そりゃ若輩者が先頭に決まってる

戦力分配から考えても、動ける若手に偵察と応戦を任せるのは常道です

そうだな、若い人がいいと思う

…………

リストは険しい表情で口の端をピクピクと引き攣らせながら拳銃を構えると、先頭に立って避難通路に足を踏み入れた

科学理事会の会議室では暗闇の中、ホログラム通信だけが光っている

……科学理事会と私たちスターオブライフの初期情報による判断では、結論は明白です

アシモフは眉間に皺を寄せ、地上の執行部隊が送ってきた異重合塔の報告と、ヒポクラテスの調査文書を何度も読み返した。そして結局、彼も同じ結論にたどり着いた

ああ、あの異重合塔が発する電波――あるいは電波のようなエネルギー――それが人類のマインドビーコンを汚染し、正気を失わせている

正気を失った人も、それぞれ症状が違うようですね……その数十分の電波がどれほど人体に、どんな影響を与えるのかは、まだ調べられていません

こっちも同じだ。むしろ……

その時、会議室の扉にドゴッと何かがぶつかる音が聞こえた

うわわああ!アシモフさーん!!!

ずっと黙って部屋の片隅に立っていたロサが驚いて悲鳴を上げた

研究員A

気をつけろ。この中に逃げ出した異合生物がいるんだ……!

研究員C

出てこないならこの新型爆弾で破壊してやる!捕まえさえすれば……

研究員A

実験体を殺したらヤバイ!扉を突き破れ!

ロサは小さな体で会議室の扉を押さえようとしたが、何の役にも立たなかった

ロサ……ロッカーに隠れろ。何があっても声を出すな……そこから一歩も動くな!

でも……アシモフさんは?

まだ話しかけている最中だったが、ロサはアシモフにロッカーへと押し込まれた

俺はまだやるべきことがある……

ロサをロッカーに押し込め、アシモフは扉の横にあった高価な設備を扉の前に全部なぎ倒すことで、扉をブロックした

俺の推測……いや、推測ってほどじゃないな。科学者としての「カン」だが、全ての元凶はあの巨大な異重合塔だ

パニシング濃度がべらぼうに高い異重合塔に入って調査できるのは、今は地上での任務中ですぐには駆けつけられない授格者のカム以外……あの機体しかいない

グレイレイヴンに用意したあの機体ね……でもまだ適合性テストすら終わってないと思いますが?

だが、もう間に合わなくなる。基本的なテストはもう終わっている。後は……彼に任せるしかないな

同時に、俺たちは地上にいる執行部隊との連絡を取り戻す方法も考えなきゃならん……あの塔はヤバすぎる

それなら私たちも支援のために人手をかき集めなくては……まだ動ける人がいるという前提で、ですけど

会議室の扉を突き破ろうとする音が更に激しくなった。それほど頑丈ではない扉の何かがバキっと折れた音が聞こえた

私たちはまず科学理事会に向かいます……どうか無理をしないで。おわかりですよね?

できるだけ努力はする……

「できるだけ」じゃなくて、確約を要求しているんです

アシモフは頷き、ニッコリ笑った

ああ、そうする

そう言って彼はスターオブライフとの通信を切り、また新しい通信を要請し始めた

妙だ……おかしすぎる……

駐機場に向かっていたリーは、避難指示の放送があったにもかかわらず、多くの市民があてもなくウロウロとさまよっている光景を眺めた

おい、そこの構造体、ここは通行禁止だ

リーは数体の構造体兵士に呼び止められた

僕はグレイレイヴンのリーです。10分ほど前、参謀部から駐機場に向かい、地上任務の準備をするよう指示を受けました。あなた方もそうですか?

精鋭小隊の名前を耳にして、構造体兵士たちはすぐさま態度を改めた

はい、確かにそう命令されたのですが、その直後に参謀部から新しい命令が送られまして

内容は非常事態はすでに解除されたため、まだその状況を知らない執行部隊の兵士がいればここで止めるように、という指示でした

それはありえない……

リーは自分の端末を開いた。緊急召集命令は解除されていないし、新しい命令も受信していない

どうなっているんです?私は執行部隊をまず召集して、待機させろと命じられたのですが

いやいや、そうじゃない……私が受けた命令は……

本来統率が取れているはずの構造体小隊の意見が割れている。ここにいる数人ですら、参謀部から食い違った命令を受けているようだ

……まさか、参謀部がハッキングされたのか

リーは以前、代行者のルナが華胥を使って空中庭園のネットワークに侵入したことを思い出した。だがその後、空中庭園はセキュリティを強化した。再び侵入を許すとは思えない

その時、それほど遠くない場所から爆発音が響いた――道沿いの店が爆発し、炎を噴き上げている

しかし爆発した店の近くにいた住民たちは、それを危険だとも思っていないのか、ただ首を傾げて不思議そうに炎を見つめているだけだ

助けに!

リーの言葉を聞き、構造体兵士たちも指揮系統の混乱問題をひとまず後回しにして、緊急救援に向かった

リーが住民たちの救援に向かおうとした時、彼の端末に連絡要請が入った――アシモフだ

アシモフ?

通信は何かに強く干渉され、数秒間ノイズが続いたが、なんとかアシモフの言葉を聞き取ることができた

リー、聞こえるか

こちらリーです。アシモフ、空中庭園で何が起きたんです?何か知りませんか……

アシモフの声は聞こえるが、こちらの声は届いていないようだ

返事がない……まさか空中庭園の通信設備も誰かに制限されてるのか……リー、俺の声が聞こえたら、すぐ科学理事会に来い!

まだ簡易調査だが、地上に突然現れた異重合塔からの赤色の可視電磁波のせいで、人類の持つマインドビーコンが汚染されているようだ

もしアシモフの言う通りなら、本来守るべき対象である民衆はもちろん、彼らが存在するこの空中庭園全体が敵という対象に変化する

ゴホッ……時間がない……簡潔に言う

ノイズとともに再び烈しい衝撃音と、人間の怒号や悲鳴が聞こえた

お前の新機体はもう調整済みだ。あとは意識転移と権限を与えれば起動できる

異重合塔の周囲のパニシング濃度は極めて高く、内部は観測不能な状態だ。どんな危険があるか皆目見当がつかん

リー、今すぐパニシングを完全防疫できる「超刻」機体に替え、その塔の内部に入り、あの破滅的な赤い光線の発生原因を調べて欲しいんだ……

アシモフは苦しそうに呻いている。赤い光線は彼にも影響を与えているようだ

この災難を止められるのは、リー、お前だけかもしれない……本当にすまない、今は全ての望みをお前に託すしかない……

ぷっつりと通信が途絶え、リーはその後何度も通信要請を送ったが、返事はなかった

チッ……

恐ろしいのは塔だけではない。彼は今、アシモフを信じていいのかすら判断がつかないのだ――アシモフも人間なのだから

しかし、彼には予感があった。「超刻」と呼ばれる機体こそが、全ての答えへと導いてくれる唯一の鍵だと