Story Reader / 本編シナリオ / 20 絶海の異途 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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20-4 信仰の悲歌

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海洋博物館全体が激しく揺れ、館内のあちこちから歯ぎしりのようなギシギシという音がしている

更に不安を煽るのが、高い水圧を支えているガラスの表面に無数のひび割れが走っているということだ

もう崩壊しそうです!

地下3階と西館の調査目標をまだクリアできていません。まず西館に行ってください。西館とここは分断されているので、影響はないはずです

私たちは浸水しても問題ありません。水中でも通信装置は作動します。任務継続可能です

何か問題でも?

相手に反論する余裕を与えないために、急いで説明した

「君たちは水中作戦のモジュールを装備していない。戦力は半減してしまう」

「敵の戦力も不明だ。準備不足でリスクが高すぎる」

粛清部隊の隊員たちはこの説明に反論も賛成もせず、ビアンカを見やった

偵察ドローンだけを地下3階に飛ばし、全員撤退します

ひとりの粛清部隊隊員がビートル型のドローンを放ち、端末で行進ルートを設定した。ドローンは翼を広げて地下3階へと進み始めた

先にお伝えしておくと、これは離反者との戦闘を想定して製造されたドローンです。高濃度のパニシング環境でどれほど持つのか、私もわかりません

情報を送ってくる可能性もありますが、何も撮影できないまま完全に侵蝕される可能性もあります

それほど頼りないドローンなんです。全ては運任せでしかありません……

「ビシッ……」

突如鋭い断裂音が聞こえ、その場にいた全員があちこちを見回した……

ほらね、我々はいつだって運が悪いんですよ

先ほどの断裂音が合図だったかのように、耳元に次々ビシビシと断裂音が鳴り響いた。長い時間と戦いの余波で、強化ガラスが一気に崩れ始める

来た道を引き返します!

全員が走り始めた瞬間、海水がガラスを突き破り、2階に怒涛のように流れ込んで来た

館内放送

警告します。イルカショーゾーンに水漏れが発生しました。速やかに閉館して修理を行ってください

お客様はスタッフの指示に従い、慌てずに退館してください

警告します。D2—AからD2—Kまでの排水装置がオフラインになりました。速やかに故障箇所の修理を行ってください

大量の海水が流れ込み、イルカショーゾーンの水位は急速に上昇し、膝まで達している。そのせいで退避するスピードも大きく落ちた

館内放送

イルカショーゾーンに生命信号は検出されませんでした。ただちに閉館プログラムを作動します

生命信号がない?なんでだよ、アンタ、最新タイプの構造体なのか??

出口のシャッターはゆっくりと、だが着実に降りてきている。その厚さで完全に閉じられてしまえば、こちらの武装で開けるのは不可能だ

こんな緊急時なのに粛清部隊の隊員全員が視線をこちらに向け、彼らには珍しく驚きの表情を見せていた

この設備のプログラムは、おそらく書き換えられています

まさにその時、全員の端末が画像データを受信した。走りながらそれを開くと……

思わず足を止めてしまいそうになった。それは地下空間を埋め尽くす赤潮の画像だった

今回は幸運だったみたいですね

小隊の最後方にいた隊員がそっとつぶやいた

ドローンはいくつかの異合生物を避け、完全に侵蝕される前にこの画像を撮っています

彼女は撤退中ずっと下を向いていたが、まさかドローンを操作していたとは

でも状況は相変わらず最悪ですね

彼女が言っているのは、シャッターのことだ。外骨格の稼働率を最大にしてギリギリ構造体たちに追いついているが、シャッターまでは、まだかなりの距離がある

一難も去っていないのに、また一難だ

指揮官、すぐに撤退してください。ここも水が漏れ始めています

騒がしい声

敵襲!

なんですって?よりによってこんな時に!

エンジンカッター?まさか指揮官の方も……

わかりました。皆と一旦撤退します。どうか持ちこたえてください

すでに海水に腰まで浸かりながら、何度もうなずいた

シャッターが降りてしまえば脱出不可能と判断し、全員が足を止めた。自分も戦闘スーツに装着している小型酸素ボンベがどれほど持つか計算し始める

これを

その時、当初は地下3階の調査任務の継続を提案していた隊員が、何かを投げてきた

その酸素ボンベは油性ペンで子供に落書きされていた。少し錆びているが、その絵は綺麗に残っている。だがこれは空中庭園の汎用装備ではない

私が昔スカベンジャーだった頃から、ずっと持っていたボンベです。戦闘スーツの酸素ボンベがなくなったらそれを使ってください。後でボンベを返すのを忘れないで

相手はそれ以上の説明はしなかった

彼女は壁に持たれ、返事をしなかった。辺りは静まり返り、水の流れる音と閉まりつつあるシャッターの音だけが響いている

音がすごいな……あれ?シャッターの降りる速度が遅くなってないか?

その言葉に全員が一斉にシャッターの方を見た

勢いよく水面を切り分けながら降りていた頑丈そうなシャッターが、今は上部のランプを赤く点滅させている

耳をつんざくような警報が鳴り響いたあと、シャッターは突然停止した

これは敵の罠かと全員が疑心暗鬼になっていた時、館内放送から弱々しげな声が聞こえてきた

グレース

空中庭園の皆さん、こちらはグレースといいます。私と団員でシャッターを止めました

私たちは今、地下2階の制御室にいます。ほとんどの人が弱って歩けません。どうか助けてください

グレース?

その名前の人物も今回の調査目標のひとりだ。だが今までの出来事から予想するに、すでに赤潮の一部になっているとビアンカは考えた

でもグレースがまだ生きているなら……

そこに、センはいますか?

グレース

……すみません、彼女は小隊と一緒に昇格者を止めてくれたんです……お陰で私たちは逃げられた……

……

グレース

ですが撤退途中も怪物だらけで、私たちは制御室に逃げ込みました……この数日で、食べ物も全部なくなりました

どうかお願いです、助けてください……せめて子供たちだけでも……

すぐ助けに行きます。もう少し耐えてください

グレース

……ありがとう……ありがとう……

館内放送がプツンと切れた

チッ

いつもビアンカに不遜な態度をとっている隊員は、不満げに舌打ちしたものの、地図を表示しながら制御室へと進み始めた

反対されるとばかり

副隊長がここにいたら、同じ判断をするでしょうから。彼女はあなたのように情に流されるようなことはしませんが

あの女、私たちが空中庭園の隊員だとわかっていました。おそらく監視カメラで見ていたんでしょう

今になってやっと声をかけてきたのも、私たちに怪物を全部倒させるためですよ

子供がいるなんて私は信じていません。でもこちらが断れば、相手は再びシャッターを作動させるでしょう

ここに水中呼吸ができない人間がいると知って、その行動に踏み切ったに違いありません

彼女たちは昇格者の話を信じた者です。彼女たちに期待するべきじゃない

制御室に向かう途中、ルシアに状況が変わったことを手短に説明した

わかりました。皆さんが戻るまで持ちこたえます。難民を撤退させるのに、もう少し時間がかかりますので

彼らは長く閉じ込められたせいで、体がかなり弱っています

制御室へのルートの途中にいた数体の異合生物を倒し、隊員たちは制御室の前に立った。館内放送でグレースの声が聞こえる

グレース

少しお待ちください。今開けます

指揮官殿、交渉はお任せしました

背後で弾のリロード音が聞こえた。振り返ると、粛清部隊は皆、戦闘態勢になっている

万が一に備えているだけです

彼女は肩をすくめてこう言った

ステンレスの軸が回転し、目の前の扉がゆっくりと開いた

任務説明で見せられた写真とまったく同じ顔が目の前に現れた

乾いた唇、痩せこけた頬、落ちくぼんだ目。目の前の人は写真の顔よりかなり憔悴している

彼女の後ろにも同じように弱っている老人がいる。気絶している人もいたが、しかし……

……すみません、私……

芝居はもう結構

グレースの弁明は乱暴に遮られた

搬送する必要がある人は?

……こちらです

隊員たちが動けない老人を背負った。その瞬間、博物館全体が激しく振動し始め、廊下の通路からくぐもった声が聞こえた

やつらだ、やつらがまた……来た!

指揮官、急いでください。博物館が崩れそうです

速やかに撤退してください。異合生物は私が食い止めます

指揮官殿も一緒に撤退を

気絶している最後のひとりだった老人を背負い、胸まで届く水を掻き分けながら、他の隊員と一緒に出口へと向かった