異合生物の残骸やパニシングは、一瞬にして跡形もなくカプセルの怪物に飲み込まれてしまった
ずいぶん綺麗に食べてくれたね……
ロランはカプセルを空中に放り投げ、また華麗にキャッチした。中の肉片は全ての異合生物を飲み込んでも、外見的には何ひとつ変化がない
フフッ……まさかあれだけではまだ物足りないのかい?
他の異合生物は速度の限界に達したらしく、追撃をやめていた……だが、その様子はロランが持つ自分たちより「恐ろしい」怪物に怯えているようにしか見えなかった
外見だけが生物に似ているんじゃなくて、生存本能も備わっているのかな
死を恐れること、それは生物として欠かせない本能だ。しかし理性が発達した人類は本能を制御できるようになっていた
だから人は皆、生きることの理由を欲しがる……
生と死なんてそうたいしたことではない。生きるための唯一の答えが見つけられずに死ぬのも、また美しい幕引きじゃないか――かつての彼はそう思っていた
異合生物の邪魔がなくなったことで、宇宙船は更に加速した。ロランは遠くに浮かぶ真っ白な月を眺めた
――あそこに、私が求めている答えがあるのか?
あの白髪の少女の側で彼女を支える。それが今は、彼自身が生きるための理由だった……彼女が前へ進みたいと望むなら、自分は何の疑いも差し挟まず彼女を助けるだけだ
だが、昇格ネットワークの代行者としての彼女が、生きる理由を見失ってしまっていたら……
「ルナを救う価値があるか」、フォン·ネガットはその判断を自分に委ねたのだ
彼はαから渡された物を取り出した。それはシート状の薄いメモリーで、少しでも力を入れれば塵と化すほど脆いものだ
かつて彼は自分には弟がいると信じ込んでいた。だがそれは人工的な記憶であり、頭脳明晰を自負する彼でも真偽は不明だった……最後まで彼はその「役」を忘れられなかったのだ
自嘲的な笑いをひっこめたロランは船首の甲板に座り込んだ。左手にはαから渡されたメモリー、右手にはフォン·ネガットから渡された異合生物の幹細胞カプセルを持って……
でもルナ様、私ができるのは後押しにすぎませんよ……自分を救えるのは自分だけ。ここで破滅を受け入れるか……それとも新たに生まれ変わるか……