セージ様、セージ様……教えてください。私はどうすれば、あなたと一緒に天啓の道を歩めるの?
機械少女は念仏のようにナナミの名前を繰り返した。彼女は混乱しながらも慎み深くナナミを見つめた。神の意思を知ろうとするその迷える信者の目に、狂気が宿っている
セージ様は私の「心」をえぐった……あなたのために障害を排除し、大好きな人間を捧げたのに。私はあなたの剣になりたい。あなたがいないと、私は錆びた歯車になる……
運命の輪を優しく見つめないで、セージ様、私を見てください。私を見てよ!
あーあ……わかったわ。セージ様、これがあなたの啓示?
ゼロはがっくりとうなだれ、笑い声を上げた
天啓の道なんて私たちに理解できるはずもない。でもこれがセージ様が選んだ道。そうなんでしょう?
だったらゼロも運命の輪みたいになれば……
セージ様の啓示の道にある石ころになればいい……!
攻撃衝動を感知。ナナミ様!
突如暴走したゼロがナナミに攻撃を仕掛けた。しかしハカマが鎌を振り上げるより早く、パワーが条件反射的にチェーンソーで切り裂いた
うっ……
ゼロの胸のハート模様が砕け、中からどろっとした黒い液体が流れ出た
あぁ……セージ様……
ゼロは自害するようにパワーの武器に向かって激突し、一瞬でボロボロになって地面に倒れた。だが夢見心地の表情を浮かべて、ぶつぶつと何かをつぶやいている
ゼロは正しさとか、間違いとか知らない。ゼロが進む方向は、セージ様の啓示だけが教えてくれる……
進んだその先でゼロが死ぬ運命なら、せめてセージ様の手で……
セー……ジ……マキ……ナ……
露出した胸のエネルギーコードが点滅し、そこから流れ出したチタン溶液が地面に広がってゆく。少女の整った顔と塗装も黒く染まっていった
120%の信心と200%の狂気を抱えながら、彼女は自分の心臓を姫に捧げたのだ
愛……し……てま……す
声がゆがみ始め、機械体が空中に差し伸べた右手が、やがてパタリと力なく垂れた
……
誰から始まったのか――
セージ様の……ために……
最初は低い呪文のようだったささやきが、機械の大群にさざ波のように広がっていく
セージ様の……ために……天啓の道のために……身を捧げろ……
水に広がった波紋は渦潮のようになり、やがて荒波となった
セージ様の天啓の道のために身を捧げろ――セージ様の天啓の道のために身を捧げろ――
その言葉を繰り返しながら、機械たちはナナミに向かってきた
セージ様、彼らは制御不能です……そこから離れて!
いえ……前進を推奨します
ハカマは大鎌を構え、ナナミを後ろにかばった
端子奪還を遂行――
戦闘は混乱の中で始まった。機械体たちは火に飛び込んでくる蛾のようにナナミを追いかけてくる
私が門を塞ぎますから、早く行ってください!あそこに行けば……勝ちですよね?
でもここに門なんてなかったはず……
なければ作ればいいんです
ウオオァァ――
シブナは雄叫びを上げ、その体が数倍に膨れ上がった。表面の塗装が剥がれるまで全身の機械部品が展開し、溶鉱炉のように赤く、灼熱の蒸気を吹き出す胸部内が露わになった
獣人型機械体は自分を燃やし尽くし、狂った「カグウィル」の中で最も光輝いていた
端子が何かなど知らないし、ナナミの言う「救い」をどう達成すればいいのかもわからない。しかし、彼は永遠にナナミの信奉者だった
シブナ……
ナナミはパワーを操縦して、獣人型機械体に近づこうとしたが、無数の小型機械体に手足を引っ張られた
彼女は一生懸命に腕を伸ばし、シブナにあと数cmというところまで近づいたが、どうしても触れられない
シブナは山のように一歩も動かなかった
ハカマさん!
ガ――ン!
獣人型機械体はハンマーと楔をしっかり握り、全力で叩きつけて鳴らした。鐘のように響く音に機械は引き寄せられ、敵を嚙みちぎろうと波のように押し寄せた
ナナミ様、ついてきてください。シブナが作った好機です
ハカマが鎌を振り回す度に、多くの機械体がぶった切られていく。しかし彼女の傷もどんどん増えていった
ガーン――!
再び音が鳴り響く。まるでセージ·マキナを急かしているようだ
シブナが活動停止する前に……使命完了を
ガーン――!
三日月のように輝く鎌が舞い、「聖地」のコアに通ずる道が開けた
ガーン――!
ハカマの左腕が吹き飛び、機械軍の海に沈んでいく
ナナミ様……
ハカマ!
友達の名前を必死で叫びながらナナミにできたのは、なんとか手を伸ばして端子に繋がるケーブルを自分のうなじに接続することだけだった
半壊した機械体はわずかに残った腕で武器を構えて振り返ると、自分の生涯を捧げた少女に向かって微笑んだ
空間を飛び交っていた喧騒と混乱が、最後の金属音とともに、静まり返った