一同はやっと広々としたロビーにたどり着いた。淡く青い「コア」の端子や、その作動を示す天井のコードが光っている。かつてナナミが見た景色と似ていながら、まったく違う
今、3人は端子の前で数百体の「カグウィル」の大軍と対峙していた
「カグウィル」の大軍の最前列にはゼロが立っており、彼女に向かって一歩一歩近づいてくるナナミのことを、目をまん丸にして見つめていた
彼女の目に情熱的な愛と疑問が浮かんでいた。あたかも風船を持ったまま道に置き去りにされた子供のように。彼女はナナミが受け取らなかった宝石を捧げ持っていた
しかしナナミは一瞥すらしない。セージ様はこの貢ぎ物がお気に召さない。そう判断した機械体は宝石を階段に投げ捨てた。宝石は転がり落ち、埃だらけの機械の残骸に埋もれゆく
宝石が転がる音がロビー中に響き、ナナミの心を動揺させた
……
セージ様……セージ様……
少女は他のことはどうでもいいというように、転がるようにしてナナミに走りより、彼女の手を握った
どうしてそんな顔を?私たちの行いが不満なの?「愛」を示す捧げ物が普通すぎて、セージ様の啓示にふさわしくないから?
だから……私たちから去ろうとするの?そうなの?それであってる?
もし……私たちが間違っているなら教えてください。すぐ改めてまた準備するから。だってほら、私たちかなり効率がいいし、何だってできるもの!地球ももう手中に収めてる!
あなたが行く道を、誰にも決して邪魔させたりしない。どうか導いてください……私たちに啓示を与えられるのは……あなただけ……あなただけなの……
少女は何度も哀訴を繰り返した。ナナミは彼女に手を握られたまま、悲しく沈んだ声で話し出した
ナナミのお友達……もう元のあるべき姿じゃなくなったのね
そう聞いたゼロは雷に撃たれたように硬直した。彼女は頭を上げ、後ろでひざまずいている「カグウィル」たちを見渡した
え……私のあるべき姿って何?
私はあなたの「お友達」だと言ってくれたじゃないですか!
あなたのいない世界を私は演算できない。あなたがいないと……私は……私は……
唇や瞳をわななかせている彼女には、この胸が焼けつくような感覚を表現する言葉が見つからない。これはプログラムのエラー?それとも本物の愛?
ナナミを握る手に力が込められ、金属がぐしゃっと潰れる音が聞こえた
ねぇゼロ、行かせて
ナナミは一切表情を変えなかった。しかし斜め後ろにいたハカマが一歩近づき、手にした鎌を狂気に陥っているゼロへと向けた
放してください
ゼロは顎をあげ、背中越しにハカマを見つめ、笑い始めた
わかったわ……アンタたちね。命令に従わないアンタらがセージ様を騙したってことか
セージ様の輝きを独り占めしたいの?それともセージ様を間違った道へ引きずり込むつもり?
私だけはわかってるの……
あなたたちふたつの棘を断ち切れば……本物のセージ様が帰ってくるって
ゼロのひと声で「カグウィル」全員が戦闘態勢をとった。すると機械の陰からメビウスが現れた
ギ、ギギィィ――裏切リ者、断チ切ル――!
パワーちゃん!
少女の怒りで空気が振動する。天から巨大なロボットが降下し、「カグウィル」の前に着地した。チェーンソーが猛烈に回転し始め、火花をバチバチと周囲に飛び散らせている
ナナミの目にも怒りの炎が輝いている。彼女はパワーに飛び乗り、メビウスに突進した
未来は変えられなくたって、ナナミは……
お友達を傷つけたら許さない!