Story Reader / 本編シナリオ / 17 滅亡照らす残光 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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17-17 深淵の微笑み

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ちっ……

残った車両は荒野を駆け抜け、予定通りトンネルに入った

暗闇がしばらく続く中、生還者たちは、周りに異合生物が集まってきていることに気づいて驚愕した

囲まれてしまいました!!

全力で応戦!

はいッ!

車両の中の構造体たちは窓から飛び出し、車両の上で戦闘を始めた

しかし一行の行く手に立ちはだかったのは、悪夢のような巨体だった

————!!!!!

なんでここに!!!!

挟み撃ちだ!!!

くそっ、何人めの母親だ!自分の母親に道を塞がせるなよ!?

逆元装置が……!くそ……体が動かない!!

衝撃に備えて!!

列車は異重合母体に向かって高速で前進している。やがて、耳をつんざくほどの悲鳴が、車両を激しく震わせた

列車も負けじと激しい音を上げ、巻きついた母体の触手が持ち上がったことで、トンネルの壁が崩れ始めた

次の瞬間、車内の人と多くの荷物が吹き飛ばされた

危ないっ!!

干渉妨害がなくなった瞬間、リーは落ちてくるものを避けながら、間一髪でシュレックの手を捕まえた。しかし、その行動によって、上からの石の落下を避けられなくなった

メリメリと音が鳴り、彼は自分の関節の接合部がちぎれていることに気づいた

ちっ……

ちぎれた骨格が激痛の信号を発しているが、リーは決して手を離さなかった

登って!僕は今力が入らないんです!

強く促すその声を聞いて、シュレックは微笑んだ

シュレック

今、思ってたんだ……あの2体の化け物、バッグから逃げない。なら、落ちる人間からもきっと逃げないだろう

じゃあ、このバッグを持っている僕からも、逃げないはずだよ?

それを聞いて、リーはやっと、さっき自分が車両の中に置いたバッグをいつの間にか青年が持っていることに気づいた。あの、電極遮蔽ボックスが入ったバッグだ

リー

何を馬鹿なことを……!

他に試せる方法はいくらでもあります。いいから早くこっちに登ってきて

シュレック

でも試してる時間なんかないだろう?彼らは潜在的な危険を察知している。もう僕たちに猶予は与えないはずだ

リー

まずこっちに上がってから話せばいい!

周りの異合生物が多すぎます。折れた手では、あなたを引き上げられない……!

高速で前進する列車では、その端に立つリーは自分の身を守るのも至難の技だった。彼は落ちてくる異合生物を蹴り飛ばしながら、シュレックに向かって叫んでいる

リー

あなたの死に価値があるとか、思わないでくださいよ。生き延びなければ、希望なんかありません

シュレック

そうだね……

昔、仲間がいた。彼女は君が言うように、「価値もなく」死んでしまったんだ

でも彼女の死が、僕に多くの影響を与えたんだよ

彼女を助けられなかったことを悔やんで、僕は医者を目指した

過去は変えられないけど、彼女が死んだあと、僕は他の人を助けられるようになった

確かに、死んでしまえば意味の全ては消える。でも生き延びた人にとって、僕の死は「無価値」ではない。そうだろう?

リー

そんな馬鹿な話、聞きたくありませんね!

誰かの犠牲で作るチャンスなんて、そんなものはいらないんだ……!

シュレック

リーさん……素直になってくれよ

このままだと、後悔する日が来るかもしれないよ

リー

……何の話ですか?

シュレック

ひとつ、秘密を教えようか

周りの人を不幸に巻き込んじゃうけど、僕自身はかなり運がいい方なんだ

今、ここで手を離すことが、僕が世界から消えることと、イコールって訳じゃないかもよ

何日かすれば、僕は虹色の髪をした構造体の姿で、君の前に現れるかもしれない

非論理的なジョークのせいで、リーは思考にいつもより0.53秒も長く要してしまい、答えに戸惑っていた

リー

……技術者が、虹色の髪を作るとは思えません

一陣の風が吹き抜けた。答えを聞いた風は青年の笑い声と同じような音を立てて、その答えを遠くへ運んでいった

シュレック

ほら、こんなジョークなのに、君は否定しない

シュレックは、ゆっくりとリーの手を離した

シュレック

仲間が死んだあと、僕は彼らと再会する日をずっと待ち続けていたんだ

でも……それは、彼らが託してくれたものを諦めたからじゃない

僕は彼らと同じ選択をするだけ。未来への切符を他の人に譲るんだ

今になって、やっとわかったよ

冬を越えられるのは、誰かが自分の魂を燃やして、雪を溶かしてくれたからだ。それは弱々しい炎かもしれないが、希望の火を灯すには……それで十分だ

リー

独りよがりはもういいですから!早くこっちに!

シュレック

ありがとう、リーさん。でも、僕はやりたいことは全部やったから。最後の願いはひとつだよ

オブリビオンも空中庭園の人も、生きる価値がある。生きていれば、より多くの人を助けられる

今まで皆とすごすことができて、嬉しかったな……

これは僕の最後の願い。同時に、僕がこの選択をする、たったひとつの理由だ

微笑む彼は、そのままリーの折れた手をするりと離した

リー

シュレック!!

シュレック

……またね。優しい人

無防備な人型生物が車両から転がり落ちた青年を受け止めた時、Ω型武器Ⅱ型は大きな音を発しながら、その内に抑え込まれていた怒りの力を爆発させた

あまりの衝撃により、トンネルが激しく崩れ落ちて、異合生物の奔流の行く手を塞いだ

追いかけてくる無数の怪物は崩れ落ちる石に激突して、Ω型武器Ⅱ型が作り出した清浄空間にぶつかり、まるでダムの壁で波打つ泥水と化した

災いを呼び起こした者は悲鳴を上げながら、溶けてゆく自身の肉体を見た。そして、すでに肉の塊と化した人間を瓦礫の山へと放り出した

彼らは恐怖に歪んだ顔で、遮断されたトンネルの先を見ている

――瓦礫の向こう側では、列車が遠くへと走り去っていた

トンネルから突風が吹き出し、町の廃墟を颯爽と駆け抜けていく

地面の砂が舞い上がり、彷徨う者たちに叩きつけられた。まるで、彼らの足を止めようとしているかのように

疲弊した旅人たちは風の引き留めを聞き入れるかのように、もと来た方向へ振り向いた

…………

どうしたんです?

……いや、急に……

誰かの笑い声が聞こえたような……

ワン!ウウゥ……

こんな時に、笑う人なんているかな?

……聞き違いか。行こう

太陽が沈んでいく。空にかかる雲は真っ赤に染まり、生還者たちも黄昏色に染まっていった

埃が立ち上がるトンネルの中に、静寂を破る黒い人影がいきなり現れた

彼らが使用した新兵器は完全に破壊されています。でもその新兵器のせいで、ここのパニシング濃度は極めて低いです

ネガット様……?

少女の報告がまるで聞こえないかのように、暗闇と一体化した男は埃だらけの地面を歩き、血の跡を見つめていた

彼は唐突に、人型生物に受け止められたあの青年を持ち上げた。すでに体の肉が溶けているが、驚くことにまだ心臓が動いている

彼にとって、これは幸運だろうか、それとも不幸だろうか?

……凄まじい生命力……面白い

双子が目の前の「サンプル」を見捨てたとは。どうやら独自の「思想」を持ち始めたようですね

浄化塔に侵入した者たちの影響かもしれません

彼らが残した「恐怖の感情」のことですか?

彼は廃墟の前を何度か徘徊し、その近くにあった巨体を見つめた

あのボロボロの母体……子供が「恐怖」を感じているから、近くの巣穴から駆けつけたということでしょうか。これが母の愛というものですかね?

…………

彼女のことを悲しんでいるのですか?

いえ、彼女は単なるデータの容器であり、「母親」のポジションを担う一種の生物にすぎません。それは本当のママではない……

母体がママを真似て、彼女の生前のように話したとしても……私は容器のために悲しんだりはしません

全ては、本当のママと「ハイジ」が戻ってくる日のためです

彼女は目を閉じ、後ろにある「ハイジ」の翼をなでた。そうすることで、心の奥から湧き出してくる憂鬱を隠そうとしている

あの日のことを思い出した?

……すみません

全てが終わったら、あなたに自由を与えます

空中庭園に行きたいのなら、手伝いましょう

……

彼に会いたいんですね?

……はい

少女は表情のない顔を上げ、前にいる黒い影を見つめた。まるで飼い慣らされたペットのウサギのように

彼が……黒野のヒサカワが、自分が殺した彼女を覚えているかどうか、私がしたことを否定するかどうかにかかわらず……

私は再び彼と会って、ママが起きたことを伝えなければなりません

その影は少女の願いに、何も意見を述べなかった。彼は簡単に返事をすると、ここに立っていた生物のように、崩れ落ちた壁の向こう側を見た

彼らはもう赤潮に戻ったのでしょうか?

はい、あの双子には自己修復の時間が必要です

しかし、双子が出したあの3人への攻撃指令はまだ解除されていません。異合生物は引き続き、彼らの信号を探します

私たちも行きましょうか?

いや……最後まで、傍観させてもらいましょう

彼らの中には、あなたが見込んだあの小隊長もいます

苦境に立っていることは、今の状況を正しく理解するのに役立つ

これは生存をかけた勝負です。我々が関与する必要はないでしょう

でも、生存者たちは壊れた列車から降りて、彼女が……

……慈悲者が、よく行く教会に向かっています……

そうなのですか?彼女が動くなら、余計に我々が干渉する必要はない

彼女こそ……「虚無」自身なのだから