実際に類人と戦った衝撃は、映像で見たものより遙かに強かった
ホワイトスワンの銃に砕かれた類人の骨格が欠片となって飛び散り、構造体の外骨格にバチバチとぶつかっている
彼らの体には体温があったのだ。地面に倒れた個体はだんだん冷たくなる
各小隊、その場で損傷状態を確認。2分後に再び前進を始める
命令を受けた隊員たちは、各々が自身の状態や負傷具合をチェックしている
脳から徐々にアドレナリンの刺激が抜けつつあるが、プリア森林公園跡の類人の声が、緊張を解くべきではないと皆に告げていた
この時、周期的な通信妨害が止まった。全員の通信機から通信可能を知らせる機械音が聞こえた
地上にいる執行部隊のメンバーに告ぐ、空中庭園からの重要情報を同期しました
繰り返す、地上にいる執行部隊のメンバーに告ぐ、空中庭園からの重要情報を同期しました
通信妨害による内容の欠落を防ぐため、この情報はオフラインにより一定周期で各端末に繰り返し送信します
周囲の安全を確認してから、情報ファイルをダウンロードしてください
ハンスが送られたファイルを開くと映像が現れた。映っているのはグレイレイヴン小隊がよく知る赤い奔流だ
赤潮の上には停止した侵蝕体がいた。彼らはただその場に呆然と立ち、その機体の隙間から赤い液体が流れ出ている
その液体は彼らの躯体に沿って地面へと流れ、小さな赤潮の水たまりとなった
それらの侵蝕体が赤潮に飲み込まれたあと、類人がひとり、またひとりと赤潮の中から湧き出てきた
プリア森林公園跡でのみ出現すると思われていた物が、映像中で赤潮からも誕生しているのだ
類人は赤潮から離れると、触れた全てに襲いかかる。襲われた者たちの反応は、自分にはすでに見慣れたものだった
これは……赤潮……
映像で類人に襲われた者の身体組織はだんだんと溶けて、地面に倒れている。機械でも、人間でも、類人に攻撃されると体が分解され、そして再構築されるようだ
同じ光景を075号都市で、ファウンスの槍を使って何度も目にしていた。赤潮に飲まれる時の、あの光景だ
映像の最後にハセンが現れた。彼は重々しい表情で地上各地で起きている災厄について語った
諸君が今見た通り、全世界の各地で新型異合生物、類人が現れている
パニシングの造物である異合生物は、パニシングに侵蝕された機械体から生まれているようだ
地上の侵蝕体の活動域で発生した小さな赤潮から類人が生まれ、機械を分解して人間を襲う。出現エリアの汚染濃度は急上昇し、多くのエリアがすでに重篤汚染区域となった
観測によれば全世界のパニシング侵蝕レベルは指数的に増えている
なぜこんなことに?パニシングの赤潮は前の任務で、全て駆逐したはずでは
全てではない。正確にいえば、一部のエリアの駆逐だ
赤潮の出現原理を我々は知らない。我々の認識では赤潮は強力な異合生物の周りに発生する。だから空中庭園は集噛体やセイレーンという発生源を撃破し、赤潮を駆逐した
今回各所に出た赤潮は075号都市とは違う。パニシングによる侵蝕体から現れ、類人となり急速に拡大している。より速く、より強力だ。そして人間の新たな脅威となっている
空中庭園はその事態に対する対策をもう立てている。皆、軍人の使命を忘れず、持ち場を死守し、周辺区域の民衆を守ってほしい。引き続き次の連絡を待つように
皆の無事を祈る
過去の赤潮の影と違い、今の赤潮はより侵略性のある実体となり、意図的に人類が生活する大地を奪っている
これは警告だ。人類はつかの間の勝利で油断してはならないという警告なのだ
人類は次々に失われた土地を取り戻し、同胞を助け、拠点を奪還している
同時にパニシングも成長し、より凶悪な形態を有して人類に試練を与えている
敵は停滞などしない。進化は全ての種が持つ最も原始的な本能だ
つまり我々も立ち止まる時間はない。議長が言うように、軍人は命令を最優先とし、持ち場を離れず、任務を完遂するべきなのだ
以前の戦闘のデータ解析は終わったか?
ハンスの言葉でリーフを含め数人の構造体が1歩前へ出た。その分析結果を一同に見せていく
はい、整理した物をすでに皆さんの端末に送りました
イレナという女性構造体が先に口を開いた。柔らかい口調でその場に満ちた不安な雰囲気を少しほぐすと同時に、一同の注意を彼女らへと引きつける
ここでの発見が……外での楽観視できない現況に対して、少しの助力になるかもしれません