類人との戦いで観測できた物理データで、どうやら痛覚をつかさどる器官がないと考えられていました
しかし分析してみると、まったく逆の結論が出ました。類人の感覚モジュールは極めて活発であり有効です
リーフは目の前に表示した類人の解剖図を指さした
類人が負傷すると極めて強い電子信号が体内の神経ネットワークを巡ります。ですが人間と違いこの信号の終点は脳ではなく、彼らの背面のへその緒です
はい。異合生物は見た目は人類のような個体に進化していますが、人類が持つ社会性を持つまでには達していないようです
昆虫のような社会システムを形成しているようですね
類人は末端神経で、この森林公園自体が大きな神経網です。個体が受けた外界の刺激はへその緒で上へと伝達され、中央システムがその信号を処理しています
浄化塔に近づくほど類人の数が増えている。虫の群れが女王を守るような、生物の本能だな
虫……情報伝達……
はい、類人は往々にして複数が同時に出現します。まるで皮膚の下に無数の末端神経があるように。彼らは複数の信号を統合してから上へ伝達しているんです
信号が伝達される前、同時に出現した類人たちはお互いに感覚を共有しています
もし上へ信号を送る前にへその緒を切断してしまえば……
そうなればあの脆い体は負荷に耐えられず、崩壊するということか
負荷が軽ければ動きが妨げられ、重ければ活動停止をすることになるな
なるほど。つまり彼らの感覚モジュールの活発さが致命的な弱点になるんですね
そうか、わかった。ドミノだね
ひとつ倒せばバタバタと、全部倒れる
ふん、極めて効率的な戦術だ
補助型構造体たちの報告を聞き、ハンスは頷いた
この情報を空中庭園に送れば、地上の他の防衛ラインでも役立つはずだ
今の問題は、どうやってその情報を送るかです
ゴォォ……
プリア森林公園跡に轟音が鳴り響いた。また通信が妨害される合図だ
妨害の終了を待ってから、再報告しますか?
地上の戦闘は一刻を争います。ここでもたもたしているべきではないかと
ハリー·ジョー、我々は今、ウッドコック小隊が進入した距離から更に奥にいるはずだ。計算公式の修正は完了したか?
はい、総司令、ただいま終わりました
ハリー·ジョーは一同が注視する中、背中のバックパックからひとつの装置を取り出し、しゃがんで操作をしている
これは……
ああ、君が考えている通りのものだと思うよ
ハリー·ジョーは手を止め、装置を地面に置いた
皆さん、声帯や発声モジュールを使わず、通信でコミュニケーションをとってみてください
(……何を試す必要がある。どうせ同じだろうに)
(ふふん、試してビックリだ)
そう、僕が改良したんだ。前は数値の調整が難しくてすぐには使えなかったけど、何度も周期的な通信妨害を受けるうち、やっとここに合う増幅数値を計算できたんだ
バネッサは数歩後ろへ下がると、ハリー·ジョーと距離をとった
それにしても、この有効距離では使い物にならない
コードの組立てを調整すればいいじゃん。たとえばさ……
わお、慣れてるね
こんなのどうってことない。シュトロールに仕込まれたんだよ
機械アームが触手のように地面にある装置を持ち上げ、内部に入りこんで配線を変えているようだ
なるほどなー、これなら単体の装置の有効範囲を広げられるね
素晴らしい改造手段です。このような機械装置は……ちょっと待ってください、今、単体って言いましたね?
うん、それが僕たち小隊の次の任務なんだ
ハリー·ジョーは話しながらバックパックを逆さにした。多くの装置が足下にバラバラと落ちて山のように積み上がった
僕が調整し、八咫ちゃんが設置。装置が破壊されない限り、かつある程度の範囲をカバーできれば、通信妨害を受けてても空中庭園と連絡できる
あーあ、めんどくさいなぁ
誰かがやらなきゃいけないじゃないか
……りょーかい。今はあんたが臨時指揮官なんだし従うって。戦術のフィードバックはまた終わってからね
よし、では休憩時間を終了する。各小隊は魚鱗陣形で前進。前衛はホワイトスワン、私の小隊とグレイレイヴン小隊が殿を務める
ハリー·ジョーと八咫はチーム後方で、残った敵を倒しながら信号アンプを設置せよ。設置作業中はシーモン小隊が援護するように
ハンスはすぐさま全員に指令を下した。これで各小隊が精密にかみ合う歯車となり、最適なポジションで各自の任務を果たすことになる
彼はすでにゼンマイを回した。空中庭園の精鋭揃いの戦闘マシンたちが再び40号浄化塔に向かって前進を開始した