ラミアを追って進んでいるうちに視界が広がり、集噛体の輪郭があらわになってきた。近づくほどにその体躯の大きさが実感され、見ているだけで悪寒が走る
とうとうグレイレイヴンは断崖ひとつを隔てて集噛体と対峙した。亀裂を流れる赤潮が両岸の石壁を激しく削っている
ふふん……私の出番だね。あなたたちだけじゃ何もできないでしょ?
ラミアが命令すると、パニシングの結晶体が断崖から沸き上がり、橋を形成し始めた。出来上がったのは、かろうじて人ひとりが通行できる程度の橋だ
無駄口は結構……撃たれたくなかったら、せっせと働け
少しくらい褒めてくれてもいいじゃない……さっきから散々働いているのに
悪いがまったく信用できない。お前には僕たちを助ける理由なんてないからな
へへ、そうはいっても私は今、囚われの哀れなお魚さんだもの。言われた通りにするしかないよね
私だって集噛体に飲み込まれて死にたくないもん……せっかく逃げてきたんだし
ラミアは橋をコントロールしながら、小さくうなずく
ガブリエルは私を仲間だなんて思ってない……あいつは昇格者を根こそぎ集噛体の生贄にしようとしてるの。そうすれば集噛体は人類を滅亡させる力を手に入れられるから
そう。飲み込まれたくないから……逃げたんだ
でもルナ様を飲み込んだ集噛体はすんごい力を手に入れたと思う。このままじゃ、皆飲み込まれちゃうよ……
おそらく、唯一の方法はルナを集噛体の体内から助け出すことです……もしくは、彼女を……
リーフは黙り込んだ。が、誰もが彼女の言いたいことをわかっていた
リー、リーフ。指揮官を連れて地上に戻り、応援を要請してもらえますか?
……なぜ?
ラミアがいれば、通信妨害を突破して空中庭園に連絡できるはずです
僕たちを離脱させようというんですか?
そんな、ではルシアは!?
誰かが集噛体を引き留めないといけません。集噛体の戦闘力を考慮すれば、数秒間引き留めるだけでもかなりの犠牲を軽減できるでしょう
それに、あそこにはルナがいます。私は……
ルシアの言葉をリーが遮った
ならばなおのこと、僕たちも一緒に行くべきです
……グレイレイヴンの隊長は私です。非合理的な判断によって、あなたたちや指揮官を危険な目に合わせるわけにはいきません
指揮官の仰る通りです。危急の状況下で戦力を分散するのは決して合理的ではありませんよ
もし戦術上の必要性から戦力を分割すべきというなら従いますし、全力を尽くします
ですが、今は戦力を分割すべき状況ではない。どう見たってあなたがひとりで背負い込もうとしてるだけでしょう。到底看過できません
私は……
あなたは隊長です。僕たち隊員はあなたの指示に従う義務がある。ですが、それ以前に――僕たちは仲間だ
そうです!リーさんの言う通りです!
私たちは状況を完全に理解してるわけじゃないんです。ここを離脱したって、すんなり地上に戻れるとは限らないでしょう?
グレイレイヴンは全員そろってこそ真の力を発揮できるんじゃないですか?
…………わかりました。ありがとうございます
礼を言うようなことじゃないでしょう
へえ……感動的な友情だね。うらやましい限りだよ
でも、そろそろ見飽きたかな
?!
唐突に手に焼けつくような痛みを感じたリーは、素早くワイヤーを引っ張った。だが、ラミアを拘束していたはずのワイヤーはちぎれてしまっていた……