指揮官!
5mも離れていない場所で爆弾が炸裂し、リーフがすぐさま防護フィールドを展開する
その隙にロランは距離を取り、中心区付近まで退避した。3人の嵐のような攻撃を受けてもなお、まるで庭を散歩しているかの如く軽やかで、余裕しゃくしゃくの体だ
こいつ……やはり実力を隠していましたね
お褒めに与り光栄だよ。僕の信条は「目的達成こそが勝利」なんだ。省エネできる時はしておかないと
それに、君たちはルナ様の大切な客人だ。ルナ様が目的を果たす前に死んでもらっては困るからね
だからさ、本当のホストが現れるまで……話でもしようよ
たとえば……ルシア。その懐かしい感じの技は、ひょっとして過去の記憶を取り戻したのかな?
?
そういう顔をするってことは、まだなんだね。空中庭園がかつて君に何をしたのか、教えてあげようか?
それからリー、君は確か黒野の出身だろ?それなら、構造体技術がどうやって発展してきたか、知らないはずはない
血と闇の中で進化した欺瞞だらけの技術。うまくいかなかった実験体はごみ同然に捨てられた。ルシア……君の妹は人間にごみのように捨てられたんだ
今君のそばにいる指揮官が同じことをしないという保証はどこにある?
君に利用価値がなくなった時、あの残骸と同じ目に合わないって保証がどこにあるのかな?
指揮官のことを何もしらないくせに!よくも……
人間が己の傲慢さを省みない限り、構造体が真に受け入れられることはない。君たちは……人類の単なる道具として存在し続ける他ないんだよ
それに……
ロランはリーフを見た。そして、ため息を吐いた
人間っていうのは自分の家族だって売るんだ。人間でもない存在なら、なおさらちゅうちょはないだろうね
構造体も本質的には人間だって言いたいんだね?
君自身は構造体を仲間として大切に思ってる、って言いたいんだろう?
人間はね……おためごかしのきれいごとばかり並べて、構造体に自己犠牲を強いる。何かあってもリセットすれば、記憶が消えて従順な犬に戻るんだから
そうやって言うのは、構造体が君にとってはまだ利用価値があるからさ
でもね、昇格者は平等なんだ。僕たちは誠実で絶対的な力にしか従わない。僕たちと手を組めば、新しい世界を創造できる。人類は淘汰される運命だ
冗談じゃない……!
いいよ、いいよ。わかってくれるとは思ってなかったし
でもさ、もしグレイレイヴン指揮官がルナ様を殺せと命令したら、君は自分の妹を殺すの?
その手に持つ刀でルナ様の心臓を貫けるのかい?
私は……
皮肉めいた口調だったが、ロランの視線は真っすぐにルシアを射抜いた。まるで真摯にその回答を待っているかのように
……
ルシアは頭を小さく振ると、問いに答える代わりに刀の切っ先をロランに向けた
ふーん……
じゃあ、質問を変えようか
君と真逆の立場にある家族。その手は血に染まっていて……
だが、ロランの問いは轟音に遮られた。爆発音だ。連絡橋が激しく揺れ始めた
轟音と衝撃が2回、3回と続き、中心区から眩い白光が漏れ出てきた
一体何が?!
中心区で巨大なエネルギーの波動とパニシング反応です!
指揮官を守ってください!
……ガブリエル
ロランの顔色が変わった。ロランは振り向くと、グレイレイヴンに向かって軽く頭を下げた
おしゃべりもここまでみたいだ。ではグレイレイヴン指揮官、またね
言い終わるやいなや、ロランはこちらにスタングレネードを投げつけ、返す手で連絡橋の端末を操作した
ロランとグレイレイヴンの間にかかっていた連絡橋がゆっくりと上がり、中心区側へと閉じていく
橋が完全に上がってしまったら進めなくなります!ルシア、リーフ、指揮官と進んでください!ここは僕に任せて!
おっと、そうはいかないよ
ルシアが振りかぶった刀は、ロランのチェーンブレードに弾かれてしまった。リーフは指揮官をかばいながら連絡橋の機構を攻撃するが、橋の動きは止まらない
橋が上がりきるのを待たず、ロランはチェーンブレードを使って中心区へと跳び帰ってしまった
くそ……逃げられました
ロランの口ぶりからして、ルナはやはり中心区にいるんだと思います……
……
連絡橋の反対側――
中心区へと全速で進みながら、ロランは苦虫をかみつぶしたような表情をこぼす
……ガブリエルのやつ、なんで計画を前倒ししたんだ。何か気づかれたのか?
ルナ様に直接手を出すことはないと思いたいけど、それにしてもあいつの狂気を甘く見すぎていたのかも……
どこに行く気?
…………ルナ様のところさ
なぜグレイレイヴンを放り出したの?
ロラン、あなた……どこを見ている?
あなたの目的は一体何なの?
僕の目的は……最初からひとつだよ
ロランの曖昧な答えに対し、αの眉間にしわが寄る
あなたはもうルナの信用を失っている。ルナに近づくことは私が許さない。ルナの用事が終わったら、直々に処理してやるわ
そう言うとαは爆発音の方へと振り向く。ロランはあとを追うそぶりも見せず、その場に立ったまま笑い始めた
はは、あははは……
とうとうイカれたのかしら?
あーあ……君はルナ様のお姉さんだというのに、妹のことを少しもわかってないんだね
君は「今」の妹のことを少しでも理解しようとしたことがあるかい?
……たとえば、君が忘れてしまった、彼女のかつての願い
あるいは、彼女が昇格ネットワークを完成させようとする本当の理由
……何が言いたい?
知ってるだろ?僕はご主人の真意を汲むのが苦手なんだ。しかもルナ様は口数が少ないからね
それに、ルナ様は君にそうするほど僕には時間をかけてくれないときた。お陰でさんざん頭を使ったよ
僕の大原則は、主の求めるものを理解し、その希望通りに全力を尽くすことだ
主が真にやりたいことを、僕は実現する
だから――ルナ様の目的が、僕の目的なんだ
ロランの言葉に、αは冷笑で応えた
ロラン、その思い上がりは自分の首を絞めるだけよ
……ははは
私にとってルナはルナ。他のことはどうでもいい
ずっとルナのそばにいて、ルナが望むことをかなえ続けるわ
ふぅん。君は本当にわかってるのかな?ルナ様が何を求めているのかを
あるいは……彼女自身もわかってないかもしれないのに
……
αは無言で刀を構えると、ロランに斬りつけた