しばらく歩いていると、周辺エリアの影から見慣れた姿が現れた
あそこにいるのは……さきほどの少年じゃないでしょうか?
ひとりの少年が瓦礫の上に立ち、廃墟と化した街を見下ろしている
彼の体はボロボロで、見た目は侵蝕体と変わらない
ロランのようには、昇格者になれなかったのですね……
少年は瓦礫の上をよろよろと歩き、怒りに満ちていた両目もすでに空虚で、何の感情も映してはいない
ただの影にすぎないが、少年の体にはいぜん真っ赤な電流の跡が残っていた
彼を誘ったのはロランですよね?なぜ侵蝕させたのでしょう?
彼にはまだもうひとつ条件があったんです。それは「生きてあの場所まで歩くこと」
おそらく、失敗したのでしょう
少年は無人の廃墟を徘徊し続け、たまに空を見上げるなど、機械的かつ無意味な動きをしている
突然、ひとりはぐれた様子の女性スカベンジャーが廃墟のそばで立ち止まった
ジーター?
名前に反応したのか、それとも単純に声に反応したのか、侵蝕体となった少年は振り向き、ふらつきながら女性スカベンジャーの方へ歩き出した
……なんでこんなことに……
彼女は悲しそうに泣きだし、リュックから崩れたパンを取り出して、少年に渡そうとした
お母さんを恨んでる?
侵蝕体となった少年には答えられなかった
でもあの時、お母さんがあのダイダロスという会社にあなたを渡さなければ、皆餓死するしかなかった……
彼女はますます激しく泣いたが、少年は答えないまま、なおもゆっくりとした歩調で彼女の方に向かっている
ほかの兵士からあなたもここで任務に就いていると聞いて、会えると思って……
ここまで話し、女性はとうとう泣き崩れた
だけど、あ……あなたは……うっ……どうしてこんな風に……?
母親の嗚咽が響くなか、少年は赤子のように覚束ない足取りで歩き、ぐらぐらと不安定なレンガを踏み抜き、廃墟から滑り落ちてしまった
ジーター!!ジーター……!
女性スカベンジャーは少年を助け起こし、パンを彼の手に押し込んだ
ごめんね、お母さんこれしか持ってないの。先に食べて
あ――
少年は赤子のようにパンに大きく口を開け、そして……
――――彼女の手も一緒に噛みちぎった
ギャアアアアァァッ!
その激痛に彼女は絶叫した。彼女はまだ気づかない……いや、我が子が侵蝕体になったことをまだ受け入れられないのだ
もう、やめてください……!
リーフが伸ばした手は空を切った。当然その場の4人は、すでに起きたことが変えられないのを十分わかっている
女性スカベンジャーは噛みちぎられた腕を固く握り、慌てて立ち上がり逃げ出した
なぜお母さんをそんなに恨むの!!お母さんはただ!!ただ皆を生かしたかっただけ!!!
お母さんは……生き延びる確率が一番高い道を選んだだけよ!!お前を見捨てるつもりなんかなかった!!
年老いた女性は腕の激しい痛みで地面に倒れ込み、再び立ち上がることもできず、ただただ少年が近づいてくるのを見つめていた
……お母さんはただ……ただ……
少年の手に胸を貫かれ、女性の口から血がゴボゴボと溢れる。だが彼女はもがきながらも、言葉を続けて絞り出した
お母さん……本当に……役立たずね……
……本当に……家族皆が……幸せになれると……
侵蝕体となりはてた少年はその言葉に微塵も動揺せず、すでに虫の息になっている女性を引きずり、街の奥へと消えていった
…………
リーフはしばらく黙り込んでいたが、再び頭を上げて他の3人を見た
……先を急ぎましょう。昇格者と赤潮の問題を解決すれば、こんな悲しいことはもう二度と起きません
ええ、探索を続けましょう