Story Reader / 本編シナリオ / 13 終焉の福音 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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略奪と犠牲

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途中で現れた侵蝕体を撃破しながら、4人は街の外縁までやってきた

データ検索。マークしたロランとあの少年をピックアップ

ファウンスの槍

目標データを検索中[>>>>>>>>]完了

データに基づき映像を構築中[>>>>>>>>>>>>>>>>>>>]完了

ファウンスの槍システムが映し出す影の中で、ロランはいつもの笑顔で、あの少年構造体の首を絞めている

おや?おしまいかい?

もう逃げ道はないよ。侵蝕体が後ろに集まっているし、君ひとりでは対処できないだろうね

彼は少年の首を絞めながら、無理やりその頭をもって後ろを振り向かせた

侵蝕体の影は不安定に再現されていたが、少年構造体は過去の記録通りに、もがきながら街の向こう側を見て怒りを目にたぎらせている

おそらく少年はその場所で、多くの侵蝕体が出口を塞いでいる絶望的な光景を目にしたのだろう

は……な……せ……

今の君の体はこんなにも脆いんだ。反抗するのは賢明じゃないね

わ……わからない……なにを……言ってるのか……

首を絞める手に力がこもり、彼の意識は声とともにだんだんかすれ始めた

は……はぁっ、はぁっ……

苦しいだろう?

人類であれ……構造体であれ、「昇格」が命を注がなければこんなにも脆いんだ

は……離せよ……

おっと、まだ抵抗するのかい?君の意識海の奥底にある答えを見てあげようか?

赤い電流がロランの腕からほとばしり、絞めていた首から瞬く間に少年の全身へと伝わっていった

侵蝕が進みつつある少年の意識海の記憶データを抜き取るのは、ロランにとって朝飯前だ

お前……

焦らないでいいよ。下手すると意識海が粉々になるよ?

や……やめろ……

……なるほど、母親に売られたのか……捨て子とは気の毒に

……なに……?

君みたいなのにたくさん会ったよ。みんな同じ捨て駒だ。「昇格」の洗礼を受ければ、今の苦界から逃げられるよ

いらな……い!

君はいわゆる「正しい信念」によってひどく苦しめられているね

な……!

ロランの言葉と侵蝕に苛まれながら、少年構造体はなおも抵抗し続ける

彼女が他のスカベンジャーと来たと聞いて、この地での任務を希望したのかい?

この機会に家族を探すつもり?記憶にある母親はだいぶん若いようだけど、今会ったとしてもたぶん見分けられないだろうね

……それは……お前に関係ない……

少年の言葉に、ロランの顔に軽蔑が浮かぶ。彼は少年を崩れた廃墟に投げ飛ばすと、微笑みながらもがき続ける彼にゆっくりと歩み寄った

かわいそうに。構造体なりたての君の面倒をみてくれた優しい先輩は重傷を負い、機体を再起動したことで記憶データを失って、ここから異動させられてしまった

君に彼女を守る力がなかったから、こんな結果になったんだね。優しい先輩がいなくなって、残った隊員たちにいじめられたんだろ?

少年構造体は歯を食いしばり、深まる侵蝕の中で懸命にもがき続けている

君にはもう何もない。何もない君に、昇格者を代表して僕が全てを与えてあげるよ

なぜ君をいじめるやつらを守る?なぜ君のことを尊重しない人たちに、苦労してまで物資を送る?

それは君が弱いからだろ。昇格者の力があれば、もう誰も君をいじめない。君が慕う先輩が重傷を負うこともなく、記憶を失うこともないんだ

……昇格者……?

そうさ、昇格者になるんだ。君の憎悪、それこそ最高の資質だ

昇格の力を受け入れれば、憎む者に復讐の刃を振るうことができる

本当に、そんなことが?

もちろん

……何をすればいいんだ?

生きてこの場所まで歩くこと

ロランは少年構造体の手を握り、ひとつの座標情報を彼に送信した

う……今の侵蝕程度なら……おそらく……

ロランは身を屈め、少年の耳元で何かをささやき、彼の肩をポンと叩いた。その瞬間、死に至らしめる緋色の電流が少し弱まったようだ

僕の言う通りに、ね

少年構造体は呆けたように立ち尽くし、スクリーンのマップを見て逡巡していた

少年から遠ざかったロランは、通信機からの通知音が鳴るまで、災害現場の散策を楽しむかのようにゆっくりと歩いていた

うん?問題ない、ひとり片づけたよ。そっちは?

……また君の仕事の尻ぬぐいか

まぁいいさ、能ある鷹は働けってね。ルナ様を取り囲む昇格者の面子がどれだけ入れ替わっても、僕だけが残る理由はそれだね

通信を切断すると、ロランの影はふざけたような笑顔を浮かべて頭を振り、はるか遠くに向かって歩き出した

さて……頼りない新人くんたちに代わって、「種」探しを続けるとしようか

……新人、と言いましたか?

言っていましたね。この記録はかなり前のものですから、この口ぶりだと僕たちが知っている面子のことではなさそうだ

……「どれだけ入れ替わっても」とはどういう意味でしょう……

皆、ロランの言葉の意味を考えつつ、その場で立ち竦む少年に視線を戻した

彼の前の投影スクリーンからおおよその進行方向がわかりますね

でも周辺エリアまでしか見えていません……スクリーン表示をナビ全画面モードに切替えてくれるといいのですが

しかし少年は全画面に切替えることなく、手をだらりと垂らしたまま、ナビが導く方向へと歩いて行った

まずはその方向に行ってみましょう

あの少年は最後どうなったのでしょう?

ええ、私も気に留めておきます

……かわいそうだなと思って……

こんな小隊が数えきれないほどいるのは、わかっているんです……

…………

リーフは手を胸に当て、そして強く握りしめた

この世界では、生き別れや死別も当たり前……それにはもう慣れたと思っていたんですけど……

慣れなくていいんです。命は大切なものなんですから

命が大切だからこそ、人々は互いを傷つけ合ってでも死を拒む。でもそれでは……死傷者が増えるだけです

リーフの言う通り、全員がそんな状況を数多く目撃してきた

人々はよりよい生活のため、大切な人を守るため、戦功を立てるために弱い者を虐げ、資源を略奪し、命を脅かす

そして彼らは善良、敬虔という人が持つ本質的な美徳を弱さの一部とみなした

でも私はまだ信じたいんです。私たちのように絆が深い小隊も、きっとたくさんいると……

リーフの声はとても小さく、自分の思いに確たる自信が持てないようだった

確かに絆の深い小隊もいる。ですが、それでも何かしらのトラブルは起きます

リーの言葉を聞き、リーフは悲しげにうなだれた

……ティファのような極端な状況になるのを防ぐため、一部の構造体は記憶リセットを受けたと聞きました

はい……戦友を失った記憶に苦しまないよう……彼ら自身の選択として

負傷者を治療し続けて数年、そういう例をたくさん見てきました……

生きるために、記憶を捨てるのですか?

ええ、生きるために払うべき代償のなかから、かろうじて受け入れられる代償がそれだったんです

……代償

ルシアは思案しながらそっと自分の手を見た

――あの時、私も記憶を失う覚悟ができていました。他に失いたくないものがあったからこそ、払うべき代償として記憶のリセットを選びました

ルシアは顔を上げて微笑んだ

約束したでしょう?グレイレイヴンの4人はずっと一緒です

だから私は必ず戦場に、皆のそばに戻ります

ルシアは少し変わりましたね

どのあたりがですか……?

昔のルシアは鋭利な刀のごとく、任務のためならどんな犠牲も惜しまないような危うさがあった。でも今はその鋭さを優しさがそっと包み、「刀」を納める「鞘」があるようだ

鞘は刀を納める物……私にとって、グレイレイヴンと指揮官は私の居場所なんです

私もルシアと一緒にいられて嬉しいです。グレイレイヴンは私たちにとっても唯一無二の場所です

リーは何も話さなかったが、微かに微笑んでいた

3人のそばに立つルシアの振る舞い自体は、以前の紅蓮や黎明の機体と変わらない。だが今は、その動きに優しさがにじみ出ている

押し黙る自分にルシアが歩み寄った

指揮官、どうされましたか?

さきほどの約束は私にとって、守りたい大切な宝物です。私はもう、自分のことを兵器でしかないとは思いません

ですが決して鋭さを失わず、守るべきもののために戦い続けます。鞘の中にひそむ鋭い刃のように

はい。私は運がいい方ですよね。生き残っただけでなく、大切な記憶も失わず、全て私の意識海の中に残されている

今の自分の記憶データに慣れる必要がありますが……指揮官や皆さんと離ればなれになるくらいなら……そんなものは大したことではありません

何が、受け入れられないのですか?

……

ルシアの前髪が両目を覆い、その表情を見ることはできなかった

指揮官にとって、兵器としての私の方が便利でしたか?

……過去の記憶データ、戦火や戦闘をよく知れば、きっと元の自分を取り戻せる。指揮官がご存じのルシアに戻れるはずです

だから……そうなるまで待っていてくださいますか?

……ありがとうございます

彼女はほっと息をつき、再び頭を上げるといつも通りの表情に戻った

ルシアはうつむき、沈黙の中で回答を待っていた。しばらくして彼女は寂しそうな表情を浮かべて顔を上げ、目の前の街を見つめた

行きましょう、指揮官

何でしょう?

はい、私も信じています

苦さを含む笑顔ではあったが、その目には希望と揺るぎない光が宿っている。それは必ず踏破すると決意した登山者が、山の麓から険しい道のりと山頂を見上げるようだった

指揮官、私も信じます。災難は必ず終わります。その日が来ても、私たちグレイレイヴンの4人はずっと一緒です

あんな面倒な小隊変更の手続きも、もうごめんですしね

ゴホン、すいませんがお静かに

リーはきつい口調だったが、口元はわずかに緩んでいた

了解!グレイレイヴン、出撃!