人々はとうとう、雨風をしのぐことができる場所を見つけた
だが、互いに身を寄せて夜を明かそうとしたその時、武装した若いスカベンジャーが現れた
おい、誰の許可でここで休んでる?
あんたらの同意を得ないといけないのかね?
ふん、雑魚の分際でよくもいっぱしの口をきけたもんだ
男が手を上げると、後ろから武装したスカベンジャーがわらわらと現れた
ではご挨拶といくか
廃ホテルの割れた窓から朝日が射し込む頃になって、武装した男たちはようやく目を覚ました
隅に追いやられた傷だらけの人間たちは、身体を縮め、ただただ全てを呪っている
今日は商業エリアで使えそうなものを探すとするか……
彼は寝ぼけ眼をこすりながら、仲間に指図した
おい、立て!
子分は鉄パイプを振り回しながら、壁際で震えている人々を脅した
神様がきっと罰を与えるわ!
そう叫んだ少女を、武装した男たちはあざけり笑った
なら、せいぜい頑張って祈るこったな
必ずよ!父さんと母さんが教えてくれたもの!神様は見てらっしゃるわ!
私、会ったのよ!神のつかいの天使様がここに物資があるって教えてくださったんだから!
あっ!
少女は自分の失言に気づき、慌てて口を塞いだ。幸いにも、男たちはそれを少女の絵空事と考えて気にも留めなかったようだ
ほお?なら、その神ってのはお前の親を助けたのか?
少女は顔を悲しげに歪めて一歩下がった。それを見た男たちはまた笑い始めた
もういい。モノを探しに行かせろ。もし盗み食いでもしたら——
武装したスカベンジャーは親指を立てて、斬首のジェスチャーをした。仲間はうなずくと、鉄パイプを振り回しながら弱り切ったスカベンジャーを外へと追いやった
夜になって、スカベンジャーたちはやっと廃ホテルへと戻ってきた
収穫は?
男はスカベンジャーたちが回収してきたものをチェックしたが、その大部分は何の役にも立たないゴミだった
ただひとつだけ、真新しい物資のパックがあった。まるでネズミ捕り器に仕掛けられたチーズのように目を引きつける
男はためらいもせずにパックを開け、缶詰と乾パンを取り出して仲間に配った
残りは保管しておけ
我々の分は??
は?お前らときたら、頭数の割にろくな収穫もあげられないときてる。それで分け前がほしいだと?
食いもんはない。拳でよけりゃ、ただで食らわしてやるが?
もうすぐさ、もうすぐだよ
はあ?
こいつは少しおかしくなっちまってて……気にしないでくれ……
イカれてやがるのか……おい、お前ら。「修理」してやれよ。どの道このままじゃあ使えないんだ
何をする気!?
少女は男たちを止めようとしたが、弱々しい手によって抱きとめられてしまった
ユウリ……やめるんだ……
でも……でも……
まずは自分のことを一番に考えるんだ……
……
こうして、傷だらけの者たちは飢えと疲弊に苛まれながら再び朝を迎えた
昨晩は一睡もできやしなかったわ。建物の後ろから波の音が聞こえてくるような気がして……
俺も聞いたぞ
どうやら波らしき音を聞いた者は複数いるようだ。皆が昨晩のことを何とはなしに考えていると、武装したスカベンジャーがやってきた
あのイカれ野郎はどうした?
あんたたちが……連れてったんじゃない……
俺たちはイカれた部分をちょいと「修理」してやっただけだぜ?
彼は悪びれる様子もなく言った。どうやら本当に「修理」以外のことに心当たりはないようだ
皆であたりを見回す。仲間で丸くなっていた壁の隅には、今は誰もいない
ここには帰ってきてないわ
ちっ、そんなら物資を探すついでに探してこいよ。まあ別にいなくなったってんなら、それはそれでいいんだけどな
男は汚い頭をかきながら、鉄パイプを振り回した
ほら行け!仕事だ!
だが日が落ちる頃になっても、いなくなった仲間は見つからなかった
今日拾い集めた物資には、またしてもひとつだけよく目立つ物資パックがあった
前日同様、全てを取り上げられてしまった人々は、毀れた壁の隅に戻り、互いに身を寄せて暖を取った
ゴホッゴホッ……侵蝕の症状がどんどんひどくなっているわ……
あいつ……どこに行っちまったんだ?
今夜も波の音が聞こえるだろうか?見に行きたいものだ……
皆で話しているようでいて、その実、ひとりひとりが口からこぼれる言葉を垂れ流しているだけだった。もはや他者を気にかける余力など誰にも残っていなかった
ここを出てくか?
男はそうつぶやいて、皆の様子を見た。長い旅路に耐えられそうな者はひとりもいない
それどころか、明日の物資探しさえ耐えられるかどうか……
明日はきっと、もっといっぱい物資を見つけられるわ。そうすれば皆もご飯を食べられる
少女は皆と同様に弱っているが、不思議にその言葉には力が宿っていた。まるで明日起こることを知っているかのようだ
きっと神様が幸運をもたらしてくださる
少女の言葉に人々は力なく笑い、荒れた手でそっと頭をなでた
ああ、きっとそうなるさ……今日はもう休もう
弱りきった人々は身を縮こませて、震えながら眠りについた
深夜、廃ホテルに怒声が響いた
……うるさいなぁ……
止まれ!この盗人野郎!おい、追いかけろ!!
もとはといえば俺が見つけたものだっ!
パタパタという複数の足音が建物の外に駆けていく。続いて、波の音。そして全てが静まり返った
ユウリは昼の温かい日差しの中で目を覚ました。物資探しに出かける時間はとうにすぎているようだ
……あれ?
武装したスカベンジャーたちの姿はどこにもない。加えて、仲間もひとりいなくなっているようだ。そういえば昨晩何か騒ぎがあったような……
私、見たのよ……
老女がひどく震えながら話し始めた
昨夜よく眠れなくて、それで波の音が……波の音が聞こえたから見に行こうかしらって
それで、裏口に行ったら、外の道が、ま、真っ赤になって……
それで……い、いたのよ、あの人たちが……真っ赤なものの中から立ち上がって、話しかけてきたの……
……やっと食い物にありつけた……美味い……
俺は生きてる……
もうすぐさ、もうすぐだよ
あの人たち、あの赤いものの中で……生きているのかしら……
黙り込んでしまった皆の前に、突然見覚えのないスカベンジャーの一群が現れた
やあ、ここはあんたらの縄張りかい?
……………………