このエリアで収集されたデータはいずれも比較的新しいものです。ここであれば赤潮の急速拡大の記録を確認できるでしょう
灰色のコンクリートでできた森を、人々はただ静かに歩いていた
飢え、病、狂気、負傷……
本来であれば、どれかひとつでも人ひとりを破滅させるに十分な苦しみだ。だがこの時代、人間が何重もの苦難を抱え込むことはもはや当たり前になっている
あとどれくらいかしら?
彼女の声は醜くかすれ、視力もかなり悪いが、仲間に助けられながら何とか歩いている
もうすぐさ、もうすぐだよ
その言葉に、老女は少し安心した。だが、何をどう訊いても同じ答えしか返ってこないことを彼女は知らなかった
例の情報、本当に間違いないんだろうな?
不安に駆られた人々が、小声で話し始める
他の選択肢はないのか?
だが、現実は絶望的だ。皆、黙りこんでしまった
大丈夫よ。神様が天使をつかわしてきっと助けてくださる
出所不明の情報が伝わってきたのは数日前のことだった。この一帯の廃墟から大量の物資が発見されたらしい
情報をもたらした者は皆、神妙な顔で言う。俺とお前の仲だから特別に打ち明けるんだ、取り分が減るから他の者には絶対に漏らすなよ――
だがどうだ。廃墟へと向かう人間は日に日に増えていった。目の前の一群だってそうだ
彼らは午後いっぱいを歩き通し、月が上りきる前にようやく「旧市街」と呼ばれる場所にたどり着いた
物資はどこかしら……
もうすぐさ、もうすぐだよ
先に着いた連中が持って行ったに違いない。あたりを探してみよう。夜を明かす場所も探さなきゃな
人々は散り散りになり、侵蝕体に最新の注意を払いながら廃墟を捜索し始めた