ジョリーンを無事保護してから、しばらく経った頃――
ちょっと!ナイスタイミングね!
ブリギットは一見いつもと変わらないように見えるが、なぜだろう、重苦しい空気が漂っている……
緊急事態なの。15秒で説明するわ。ジョリーンのこと覚えてるわね?
彼女、新しい隊に配属されて勤務態度も良好だったんだけど、隊に馴染めないみたいで作戦連携もうまくいってなかったの。いつも「心ここにあらず」状態で……
身体の傷なら休めば回復するけど、心の傷を癒すにはかなりの時間がいるわ
そんなことだから、上層部が言ってきたらしいのよ。精神面への影響が大きすぎる記憶は削除した方がいいって
アシモフ直々に執刀すれば、特定の記憶だけを正確に消せるって話らしいわ
…………
話は順調に進んで、補償のことなんかも上手いことまとまってサインもして
それで、いざ執刀っていう時になって急に逃げ出して、今ここに戻ってきてるらしいのよ
ブリギットは端末の画面をこちらに差し出しながら言った。つい先ほどメールで事態を知らされたらしい
あなたなら他の人が行くよりよっぽどいいでしょ
これが彼女の座標。赤潮の近くにいるみたいね。防護服は用意してあるから、なるはやでお願いね
ブリギットは防護強化フェリーも用意してくれていた。ジョリーンの座標を目指し、赤潮を一気に進んでいく
目標、赤潮中央石板上に確認!侵蝕重度、限界値を突破しそうです!
遠距離モニターレンズ越しにジョリーンの姿を確認できた。ジョリーンは赤い水面を……いや、水面をたゆたう赤い影を見ている
スピードを上げてください!
………………
フェリーは全速力でジョリーンへ接近した。影と何かを話していたジョリーンは表情を明るくし、石板の縁へと歩き始めている
叫び声はジョリーンに届いた。彼女は振り返り、静かに微笑んだ
………………
ジョリーンの言葉は波の音にかき消され、何ひとつ聞こえない
ジョリーンはフェリーに向かって手を振ると、赤い海へ飛び込んだ——
そう、やっぱり……
……執行部隊に入る前はね、私の部下だったの。目立たないけどとても真面目な子だった
どうか気に病まないでね
そういうブリギットの口調は沈んでいた。彼女は遠距離モニターに記録された映像を指差して、苦笑いした
ほら、この唇の形……
あなたに「ありがとう」って言ってるわ