十二分に防護を整え、グレイレイヴンは再び赤潮襲撃エリアへと足を踏み入れた
まるで街全体が負傷して血を流しているかのように、どこもかしこも真っ赤に染まっている
赤い水溜まりだらけの路上を、1体の女性構造体が彷徨っていた。何かを探しているように見える
受領済データとの一致を確認、捜索目標です。ですが、侵蝕がかなり進んでいるようです……
彼女の逆元装置は強化済のものでしょう?
刺激しないように遠巻きに囲みましょう。そのうえで指揮官から接触をお願いします
もし話ができない状態なら、また別の作戦を考えましょう
グレイレイヴンは散開し、音を殺して目標に近づいた。すぐにルシアから信号通信が入る
スタンバイ完了です。指揮官、目標との接触をお願いします
……談笑する時のような柔和な表情を顔に張りつけ、ゆっくりとジョリーンに近づいていった
あなたは……?……その制服は、指揮官でいらっしゃいますね
あの高名なグレイレイヴン……?私たちの指揮官もよく話題にしていました……
彼女の表情は少し和らいたが、すぐに何かに気づいたように警戒し始めた
私を連れ戻しにいらしたんでしょう?あなたの隊員はどこです?
話……?なにを……?
まだですが……必ず生きています!!
いいえ……もしかして、赤潮の情報をお持ちなんですか?
結局、赤潮の影に関わらない部分の情報をジョリーンに転送した。情報を確認した彼女はやや疑念を深めたようだ
多少は詳細なようですが、大筋で支援部隊に教わった情報と大差ありませんね
……あの人がこの程度のことで私を残して死ぬなんて、到底信じられません!
ジョリーンは声を震わせ、情報から目をそらした
ええ、幼馴染だったんです。私たち、一緒に育ったんです……
ジョリーンは赤潮の痕跡を見つめながら、過去を語り始めた……
……私たちは数えきれないほどの困難を経験してきたんです。家族も、友人も、皆死んでしまって
彼だけがずっとそばにいてくれました
あの人はいつも笑っていて……その笑顔を見るだけで、私は安心できた
でも、私は……不治の病を患ってしまったんです
今の時代、パニシングこそが最も忌避される災難で、誰もが他の病気のことなんか忘れていました
でも、病の恐ろしさは昔から何も変わっていなかった
治療費は、私のような後方勤務の者には到底賄えない額でした
諦めかけた時に、彼が医療セクションから打診を受けたんです
ええ
構造体となると、何より恐ろしいのは時間のことでした
構造体の寿命は長く、いずれ私は彼の死に立ち会うことになるでしょう
でも彼は……
僕にコポリマー適性がないばかりに、君と一緒に構造体になることができない
でも、技術は日々進歩しているから。生きていればいつか必ず転機は来る
あなたまで構造体になることはないわ……
君をひとりぼっちにしたくはないんだ。だから、技術的に可能になったらすぐにでも志願するよ
……もしその日が来なかったら?
それでも、ジョリーン。君には生きていてほしい
そして、身勝手かもしれないけど、僕が生きている間はどうかずっとそばにいてほしい
あの人のそばにいるために、改造を受け入れたのに……
なのに、なんで行ってしまうの……
グレイレイヴン指揮官、あの人はあなたを尊敬していました。教えてください……私はどうすればいいんでしょう?どうすれば、あの人を見つけられます?
私には見えない……
どちらかが欠けてしまっても、ふたりがともに過ごした時間は消えない。ジョリーンが今ここに立っていることこそが、彼の願いが潰えていないという証明じゃないか――
ジョリーンは崩れ落ち、地面にうずくまって慟哭した
グレイレイヴンの3人もゆっくりと歩み寄り、ジョリーンをそっと慰める
グレイレイヴンの真心に、ジョリーンの彼女の表情も徐々に柔らかくなった
ありがとうございます……つらいけれど、受け入れられるように努力します。そして生き続けます。それがあの人の願いだから
こうして彼が慕っていた人にお会いできるなんて……ひょっとしたらあの人の最後の贈物なのかもしれませんね
ええ、行きましょう。ご迷惑をおかけしました。戻ったらきちんと謝罪しなくちゃ……当然処罰もあるでしょう
いつか真正面から向き合えるように……努力します