グレイレイヴンは再びリアドリンの記録を見つけた。だがタイムスタンプを見ると、これらのデータは以前の記録と違い、最近起きたことのようだ
リアドリンは全身に傷を負い、廃墟をひとりきりで彷徨っていた。そう遠くないところにある崩壊した屋根の上から、ガブリエルとラミアが彼女を見下ろしていた
調査に来たやつらに対処するのに彼女を放り出したけど……役に立つの?
使わずに置いておいても意味がない
予想通り彼女は初回選別を合格し、自我を保った。だが昇格ネットワークとの接続は拒んでいるようだ
そして彼女は去ることも拒否し、下のあの部屋に留まった
ふたりはよろよろと歩くリアドリンを見ていた。すると構造体小隊が遠くから走り寄り、彼女の前に立ちはだかった
地下にいる時間が長すぎたか……意識はとっくに混乱してるね
傷を乗り越えられない者の末路だ
ここは彼女に任せろ。我々には他にやるべき仕事がある
屋上にいたふたりはその場を素早く離脱し、重傷を負ったリアドリンだけが構造体小隊と対峙していた
指揮官、彼女があの小隊を全滅させた張本人です
その声にリアドリンは呆然と顔を上げた。ひとりの人間の女性が構造体の側に立ち、誰かと通信をしているようだ
姉さん、彼女が見つかった
彼女の声はとてもアンジーに似ている。リアドリンは混沌とした悪夢から目覚めたようにふっと頭を上げ、呆然とその単語を復唱した
姉さん……?
彼女は振り向き、通信中の人間の女性を見つめた
心配しないで、姉さん。彼女は重症を負っている。ひとりで大丈夫よ。この任務が終わったら一緒に帰りましょう
一緒に……
一緒にいる………
来たぞ!
戦闘準備!
構造体隊員は指揮官の指示のもと、リアドリンを取り囲んだ
背の高い構造体が一番前に飛び出し、大盾を広げてリアドリンが空中で結集した棘を阻んだ
長髪の構造体は、盾の後ろから頭を出し、小さな立方体をリアドリンに投げてきた。それが小さく爆発すると、煙がしばらく視界を遮り、リアドリンの動きを妨げた
遠くで接眼レンズを覗きながら弓を構えていた構造体は、リアドリンの姿をはっきり捉えると全てのエネルギーを込めた矢を煙の中に発射した
あああああぁぁぁぁぁぁぁ!
――甲高い悲鳴が再び響き、構造体たちは耳を塞いで防御の体勢を取った
暴走した!
アンジー……アンジー……アンジー!
よろけながら煙の中から現れたリアドリンの右胸にはすでに矢が貫通している
急いで指揮官を守れ!
いえ、あなたたちは必要ない、私が彼女を守る……昔のように……
鋭い悲鳴が再び響き、赤色の電流がリアドリンの体を這いまわり、彼女の足の下でか細く欠けた赤い月の形を作った
姉さん、この任務は少し厄介よ
今度は絶対にあなたを失いたくない!!!
……心配で戻って来たら、やっぱりこのザマ。ほんとにもう……
構造体小隊の経験は浅いが、リアドリンも重傷を負っており、本来の力を発揮できずいるようだ
……まぁ、期待してなかったけどね
ましてリアドリンはあの「妹」を傷つけないように自己を制限している
ラミアはため息をつき、影に隠れつながらそっと戦場に接近した
構造体はかろうじてリアドリンの連続攻撃から逃げ出し、離れた場所で荒い息を吐いている
リアドリンはもうボロボロの状態だ。彼女をそのまま放置すれば、おそらく助けなくして生きられないだろう
ナイスタイミング
ラミアはひとりきりでいる射手の後ろに現れ、一撃で彼の胸を貫いた
……おま……え……
彼が抗いながら叫んで仲間に警告しようとしたその時、地面から轟音がかすかに響いてきた
獲物探し?
ラミアの口元には満足げな表情が浮かび、その姿がゆがんで消え、再び姿を現した時には残る2体の構造体もすでに倒されていた
残っているのはあなただけ?
全ての隊員を失ったが、女性指揮官はなおも冷静に、撤退しながら通信している
姉さん、敵側に新しいやつが来た、私の隊員は皆やられた!早く撤退を!
地下の轟音は急速に近づいているが、女性指揮官はそれにまったく気づかない。原因不明の轟音よりも、後ろにいるふたりの方が脅威だからだ
行かないで……行かないで!
相手が全力で逃げても、リアドリンはなおもボロボロの体を引きずって女性指揮官に向かって走ってくる
……私が手を出すまでもないか
姉さん!早く逃げて!
地下からの轟音が女性指揮官を襲い、彼女が最後の言葉を叫んだ瞬間、赤色の波が地面を引き裂いて噴き上がり、凶暴な捕食者のように彼女と地面の構造体を飲み込んだ
お礼はいいよ……早く戻って治療しなよ
リアドリンは答えず、ただ苦しそうに赤潮の中から何かを探し出そうとしているようだ
アンジー……アンジー!
このままだと死んじゃうよ
いや、いやああああああ!!!アンジー!!!
……まあいっか
ラミアが消えたあと、赤潮が最初の噴き出した場所へ引いていくまで、リアドリンはなおも赤潮の中を探し続けた
潮が引いてしまう……止まって!!どこにいるの!?
……姉さん……
聴き慣れた声にリアドリンが振り向くと、赤潮の中からぼやけた虚影が現れ、薄いながらも女性指揮官の輪郭を形づくった
助けて………
アンジー!!
彼女は赤潮の影に飛びついたが、その幻の影を手に抱くことはできなかった
アンジー!!どうして!!
彼女が絶望に叫んでも何も変わらない。リアドリンは影と赤潮が地面の裂けめに流れ込むのを、ただ見ているしかできなかった
姉さん……
行かないで……!!
彼女は傷ついた体を引きずり、全力で赤潮を追いかけた。その姿はまるで消えゆく視界に残る最後の灯りを追いかける人のようだった
行かないでぇぇっっ!!!!
赤潮が完全に地下に流れて戻る前に、リアドリンはようやく赤潮の影に追いつき、両手を広げたまま幸せそうな笑みを浮かべ、その中に飛び込んだ――
……やっと見つけたわ、アンジー