いつしかスカベンジャーの間に秘密の噂が流れ始めた
あ、あ、あそこの無人廃墟の中に、た、たくさんの物資があるらしいよ
ど、どっかの組織が廃墟を再建するために運んだって
で、でも、しゅう、襲撃に遭って、け、計画がキャンセルされ、ぶ、物資もそのまま残された
スカベンジャーに「どこから聞いた話?」と聞いても、曖昧な答えしか返ってこなかった
し、知らないよ、顔、見知りだから教えたんだよ、行かないなら俺がいくよ
もっと酷い回答もある
機械の翼がついている天使に教えてもらったの!
…………
ベラ姫、この情報を信じた方がいい?
何度も言わせないで、ベラとだけ呼んでってば!漫画のキャラに私に重ねないで!しかも本の中でもそんな呼び方はしてないでしょう!?
それは君が全然読んでないからだよ、ベラっち
おぇ……勘弁してよ
その噂が本当かどうかはさておき、この近くにはもう資源はないわ。私たちの食料も十分あるし、行ってみてもいいんじゃない?
じゃあ準備してくる。途中で危険な目に遭っても、僕がカード騎士のように君を守るから、ベラちゅん
ふん!スライム、今度そんな呼び方をしたら、鞄の中の本を全部破るからね!
そんなこと言いながら、君も君が一番嫌ってることをしてるじゃん
僕の名前はシュレック!そして君の手にある陳腐な癒しの本こそ破るべきだ!
これは信仰なの!今が苦しければ苦しいほど、人々はますます希望を求めるのよ
強い心がある限り、越えられない困難はないわ!
ベラ子、それは単なるプラセボ効果みたいなもんだよ
ベラはその呼び名を聞くやいなや鋭く叫んで、シュレックと殴り合いになった
周りのスカベンジャーはその様子を羨ましそうに見ている
いいな……お腹がいっぱいだから、あんな元気があるんだよな
実際、確かにそうだった。ベラとシュレックのふたりは強く、何度も悪党を襲撃して彼らの物資を奪い、転売していた
彼らが本に執着していなければ、ふたりの物資は更に多かったはずで、噂の廃墟へ行ってまで冒険する必要はなかったはずだ
ああ!!僕の本が!!!
シュレックの悲鳴とともに、彼の秘蔵の本が1ページ破られた
くそ……こんなことなら物資と端末とを交換すればよかった!紙がこんなに不便なものだとは!
端末?あなた使えるの?本のせいで、これだけしか食料がないのよ!
……とにかく、早く廃墟に行きましょう。もたもたしてるうちに夕食の時間よ
シュレックは悲しそうに破られた本を抱え、よろよろとベラの後について、廃墟に向かった
長い道を歩き、ふたりはようやく噂の廃墟にたどり着いた。しかし彼らを待っていたのは奇妙な光景だった
……なにこれ?
弱りきったスカベンジャーが通りに這いつくばっており、地下から吹き出してきた赤色の液体に飲み込まれていく
この惑星は血の涙を流しているんだ
ベラはシュレックのセンチメンタルな言葉を無視して、通りすぎようとしたスカベンジャーを引っ掴み、彼の前でひと包みのビスケットを振ってみせた
あの赤色のものは一体なに?
皆はあれを天国と言っている
天国?
よくは知らない。あの中に飛び込んだら永遠の命が得られるって。しかも何者かが中から出て来てしゃべるって
……三途の川か?
その中に私の友達はいなかったけど、他のやつの友達が中から出て来たのを見たよ
ふたりは黙ってお互いを見た。目の前のスカベンジャーは弱ってはいるが、嘘をついているようには見えない
最近ここに来た人は全員飛び込んだ。私は……臆病だからまだ迷ってるんだ
でも皆が言うんだ。食べ物も見つからず、こんな病気で苦しむより、未知の天国に身を任せた方がいいって
しかも、飛び込んだ人は中から出て来て、とても快適って言うし
スカベンジャーはベラが渡したビスケットに手を伸ばし、ふたりにぺこりとお辞儀をした
ありがとう。この近くには悪いやつらがいるから、気をつけたほうがいいよ
………………
天に替わって懲らしめてやろうか。ついでに物資も奪えるし?
いい考えね、でも先に彼らの実力を探らないと
私たちの居場所にはもうほとんど資源がないし、ここで少し補充をすればもっと遠くにいける
君の言う通りにするよ、ベラッシー
ベラの額に青筋が立ったが彼女は怒りを抑え、手元の雑誌を開いて『怒らぬ暮らし』を読み始めた。シュレックはその様子を見てけだるそうにうずくまった
よし、行きましょう