…………
マーレイは街の目立たない一角に座り、端末から自分を偽装するトラッププログラムを操作している
ヴァレリアと八咫は彼の後方10mほどの距離に迫っている
人がいることに気づいたのか、マーレイは端末を操作する手を止めた。トラッププログラムもその場で静止する
彼が振り向くと、八咫とヴァレリアもそれぞれ隠れていた場所から姿を現した
さすがスカラベ、予想より早いね
ふんだ、ゲシュタルトからどんなものを取ったって、そっくりそのまま……吐き出してもらうから!
おかしな真似をするな
嫌だと言ったら?
ならば死体から取り戻すまでね。どちらにしろ結果は変わらない
なるほど……君たちが受けた命令は「追跡」と「獲得」で、「抹殺」は含まれていない、と
そうでなきゃ僕は今ここに立てていないはず。極限状況でもない限り、君たちも更なるトラブルに巻き込まれたくない。だよね?
ということは……僕たちにはまだ交渉の余地がある
目に見えない八咫の触手がマーレイの前まで伸ばされているのを感じる。しかしそこからは動かず、マーレイの周囲でうねっている
前より賢くなってる……でも調べなくたって大丈夫だよ。僕がおもてなしできる武器はもうないんだ
さて、さっきの話の続きだけど
マーレイが手を広げると、データ体を載せた端末がヴァレリアの前に現れた
これらを知ってるかい?
興味がない。君に自分の死因を教えてやろう――私たちは極限状況を恐れない
……
なるほど、興味がないから聞かない。ニコラ司令にとって、君たちは僕よりも使いやすい道具というわけか
だから……僕の仕事能力を評価したくせに、君たちまでここへ寄こしたんだな
いや、僕のことを評価しているからこその対応かな?それなら光栄なんだけど
マーレイはいつものように優しく微笑んだ
じゃあ、僕も手を抜いてられないね
話終わった?
君は賢い。協力するほうが得策だと知っているはずだ
でも……賢い人はアクセス記録を削除し忘れることもないだろう、残念だったな
話し終えたヴァレリアがサインを出した瞬間、八咫の触手がマーレイの体を刺し貫いた
しかし――何も起こらなかった
意外だった?餌っていうのは本当だよ。本当に餌だったんだ
マーレイの幻影は触手が突き刺さった時に動きを止めたが、声はいぜん動きを止めたはずの唇から聞こえてくる
ご協力どうも
少し多くしゃべらせてくれたお陰で、侵入プログラムを解除する時間が得られたよ
トラッププログラムから君たちの顔は見えないけど、悔しがる顔が見れたら楽しかっただろうな
遠くの「トラッププログラム」の体は青色のデータフローを生成し始めている
しまった!V!捕まえて!
わかった!
ヴァレリアは飛び出し、ゆっくりと消えつつあるマーレイに向かって突進した
――しかしヴァレリアの手がマーレイに触れんとした瞬間、マーレイは完全に空間から消えてしまった
……【規制音】
八咫は悔しさのあまり罵倒しながら、触手をトラッププログラム後ろの壁から引き抜いた
その後、トラッププログラムは八咫の目の前で爆発した
八咫、何が起きたの?
んもう……妨害煙幕と……低レベルなデータ兵器……
……
どういうこと!
エリア警報、なるほど……
彼の次の手か……
低レベルすぎてこっちにダメージないけどさ、バーチャル空間のこのへんの処理プログラムには警告になる
あーあ、処理プログラムがもうすぐこのエリア内の識別ID不明プログラム体を掃除に来ちゃうよ。もちろん私たちも
ここからさっさと逃げだね……それっきゃないよ
そうね