αの斬撃は、以前とは違った。それはもはや究極に研ぎ澄まされた無ではなく、ありったけの感情を乗せてルシアの機体を引きちぎるかのようだ
ぐぁあ!!!!
絶え間なく繰り出される斬撃が、空間をその場にいる者ごと揺さぶるような轟音を鳴らす。やがてαは刀を収め、ルシアを蹴り上げた
慌てて駆け寄り、無惨な姿の機体が地面と激突する寸前に、なんとか受け止める
ゲフンゲフン……
受け止めたものの落下の衝撃は凄まじく、大量の埃と塵が舞い上がった
あ……指揮官……
急いでルシアの状態を確認する。その機体は思った以上に無残なありさまだった
身体の大半が斬撃によって大破し、細かい機械繊維と循環液が噴き出している
まだ……しゃべれます……急所は……庇いましたから……
でも……指揮官に……お返事しなくては……
もはや立ち上がることが不可能な身体で、ルシアは精一杯力を振り絞り、頭を上げる。そして、指揮官に向かって微笑んだ
……健気な虚勢だ
でも……このままでは……
はい!意識海を安定させ続ければなんとか……
了解!指揮官、ルシアとリーフを連れて先行してください。すぐに追います!
ルシアはここで死ぬ。もう逃げられないわ
そんなこと……させません!
撤退の方針は決まったものの、この場の誰よりも強いαを抑えるのは至難の業だ。それでも——
姉さん、見逃してあげて
橋の向こうに控えていた侵蝕体の群れから、αとよく似た顔立ちの少女が歩み出てきた
ルナ……
どちらのルシアがその名を呼んだのかはわからない。だが、目の前の純白の少女こそ、昇格者のトップであるということがはっきりとわかった
自己紹介は……していたかしら、してなかったかしら?まあいいわ。取るに足らない存在とはいえ、あなたたちは「姉さん」の面倒を見てくれてたんだものね
私はルナ。ルシア姉さんの妹であり、ロランたち昇格者の「女王」
幻のような純白の少女は、そう言いながら微笑みを浮かべた。少しの温かみも感じさせない、冷たい棘のような笑顔
すぐそこにいながら、この場にいるあらゆる者より朧気だ
もっと詳しいことは……あなたたちなら知る手段がいくらでもあるでしょう?
あなたが訊きたいのは「ルシアに妹がいる」のかということ?それとも、私が本当に「ルシアの妹」なのかどうか?
どちらにしろ、答えはイエスよ。私は……ルシア姉さんの妹
勝手に動いていたこともあるけど、大体は私の計画通りよ
まさかこの私が、一介の指揮官ごときに名乗るなんてね……
どうすると思う?
まさか、説得しようっていうの?たとえ姉さんを人質にしていても、それは無理
ルナ……記憶の中の妹……。どうしてあなたは昇格者なの?
どうしてかしらね。できれば私も答えてあげたいところだけど
姉さんは無力なのに、それでも自分の大事なものために抗ってる
だから姉さん、もう「自分」を許してあげて
……ルナ、チャンスならもうやったわ
私にもチャンスはあるでしょう。目の前で姉さんが死ぬのなんて見たくない……
ルナ……あなたは……
レプリカだけど、それでも私の姉さんだもの。だったら私が……
ルナは慈悲深い死刑執行人のように手を上げ、体内から何かを取り出す。それは手のひらの上で凝縮し、小さな立方体になった
指揮官、あれはパニシングの集合体です!
逃げきれますかね……
立方体の危険性を本能的に察知した指揮官は無意識に引き金を引いたが、弾丸が目標に届くことはなく——
ルナの目の前で停止している
この姉さんも昇格者にしてあげましょう
させるか!
ルナ、下がって!
ルナが一歩踏み出そうとしたその瞬間だった。空を引き裂くようにして降り注いだ槍が隔壁となり、戦場を二分する。聞き覚えのある声を聞いたが、誰のものかすぐに思い出せない
槍を放った者たちは、槍の壁の向こう側にいた
グレイレイヴンはルシアを連れて撤退を!ここは我々が引き受ける!
何度も助けられたからな。とにかく早く行け!
そんなことをはどうでもいい!さっさと行け!
撤退しましょう、指揮官!