今になってそれを訊くのは遅くないですか?
勝手についてきたんでしょう。それに、あなたの助手も
ここ、すっごく薄気味悪いんですけど。街灯もないし殺風景だし。墓地をひとつ、廃墟の屋敷をふたつ、暗い森に小さな教会も通りすぎましたよ
エリーナと一緒にいると、たとえ目が見えなくても道に迷うことはなく、たとえ耳が聞こえなくても世界をありありと感じられる。何より、彼女が無事でよかった
彼女は探偵事務所の唯一の従業員であり、助手であり、経理であり、受付でもある。どの仕事も決して優秀とはいえないが、それでも一応は全てこなしている
処刑場での霧の危機を収めたあと、女爵はすぐに教会事件を追うために動き出した。その背を追わずにはいられず、エリーナも当然のようについてきた
長きにわたる激戦を経て、街には静けさが戻り、異種たちも釈放された。一見全てが元に戻ったかのようだが、それが束の間の平穏にすぎないことは誰もが知っていた
異種たちによる集団的な陰謀は、決して偶然が重なったものではない。混乱を極める中、「糸」こそが状況を打破する鍵となるのかもしれない
うるさいわね……
αは始終先頭を歩き、ふたりと微妙な距離を保っていた。目的地が眼前に現れ、ようやく足を止める
エリーナがαの背にそのまま突っ込み、抱きついてしまった。αは珍しく戸惑いの表情を見せ、すぐに身を引いてエリーナから離れた
その触れ合いが、ある幼い少女を思い起こさせたのだ。それは久しく忘れていた、人間であることの喜びだった
着いたわ。コレドールの診療所よ
そこは街から遠く離れ、霧域と街の境界に位置していた。まるでモグラ塚の群れに寄り添うような場所だ
ここは無法の地。秩序は緩やかに崩れ、金と力による奪い合いが繰り広げられていた
コレドールの診療所が、ぽつんと建っている。伸びた雑草が垣根代わりとなっており、廃材の溜まり場が庭園を兼ねている。看板がないのを見るに、常連しか来ないのだろう
お断りします。あなたより、お姉様の傍にいる方がずっと安全なので
αは少女の呼び方を訂正せず、ただ足を止めて彼女が追いつくのを待った。「小型アラーム」――αは心の中で、少女をそう呼んでいた
呼びますよ。もちろん、必要な時にはね
αは手を差し出し、薬剤が入った注射器と糸を見せた
それは昨日の聖女事件で、彼女が残した証拠品だった。女爵はどちらも過去に見た記憶がある。持ち主はただひとり、コレドールだ
αは扉をノックする前に、いくつか注意をしておく必要があると思った
中に入ったら、コレドールの脚を見ないで。先天異常で治らないから
彼女の人形も見ないで。見たら最後……ひと晩中、人形の話に付き合うことになるわ
わかりました、お姉様!
そうでないことを願うわ
彼女でなければ誰でもいい。この世界で、もう数えるほども残っていない古い友人なのだから――その願いは、αの胸の内だけに沈んでいった
αが扉をノックすると、大量の患者たちが雪崩れ出てきた。肢体は硬直しており、どれほど長くこの密閉された空間に押し込められていたのかわからない
女爵は反射的に身を翻すと、その腕にエリーナを抱き寄せ、彼女を庇った。片手で刀を閃かせ、敵を斬りながら進むその姿は、戦場に降臨した女神のようだった
不意を突かれた[player name]は地面を転がったが、患者たちはその存在など気にも留めず、ただ一方向だけを目指して進んでいった
そうみたいね……あなたは、なんとか自力で2階へ向かって。そこならまだ安全だから
αはそう言うとエリーナを抱えて飛び、2階の窓を突き破った。取り残された[player name]を「患者たち」が取り囲む。エリーナが梯子を下ろしたお陰で、間一髪助かった
女爵の刀が次々と敵を薙ぎ、追手は木の葉のように散り落ちた。人間は背後から響く掠れた咆哮に震えながら必死に梯子を登り、追ってくる患者を蹴り落とす
そして
α、プレゼントは気に入ってもらえた?
エリーナは手にしたランプを掲げ、メッセージを読み上げる。コレドールは赤い文字だけを残して、とうに診療所を去っていた。αは割れた窓を閉め、刀を収めて近くへ来る
コレドール……一体何を企んでいるの?
