Story Reader / エターナルユニヴァース / 霧に啼く挽歌 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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荒ぶりし災夜

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[player name]は突然警察に尾行され、逮捕され、そして牢屋へ放り込まれた。全ては数時間の出来事だった

今日まで、その人物その人物は取るに足らない存在だった。人気のないところに探偵事務所を構え、少し抜けたところのある助手のエリーナと暮らしていた

調査する事件は浮気、猥褻画像の流出、宝石の盗難、送り主不明の電報といった些事ばかり。金に窮し、サンドウィッチすら買えない時は、犬の散歩の代行まで請け負うくらいだ

だから、その人その人の本当の秘密を知る者は少ない

他の異種が異形と命を賭けて戦う中、その人は「人間」としての暮らしを存分に楽しんでいた。新聞、芝居、噂話、グルメ、占い、そして節税に至るまで

だがその全ては――人間として地面へ押さえつけられ、手錠をかけられたあの瞬間から、永遠に叶わぬ願いへと変わった

牢屋にはその人その人の他に、瀕死の戦士がいた。意識は朦朧とし、顔や四肢は酷く変異している。それは彼女が長きにわたり霧と戦い続け、引き返せない域まで来ている証だった

これが能力試験なのか、新たな処刑方法なのかはわからなかった。[player name]はただ武器を握りしめ、起こり得る攻撃に備えるしかなかった

血……血抜きを……助けて……

目の前の変異した女性が、人間の声を発した。その異様さに一瞬で背筋が凍る

硬い鱗に覆われた手の平が、1本の刀を「掴んで」いる。その刀は体から生えており、布で固く巻きつけられ、ただの妖しき存在が扱う武器とは思えない

変異した女性は微かな吐息を漏らした。その胸腔の奥から滲む血の匂い――それは同類の気配であり、ほんの一瞬で人間の感覚を呼び覚ました

心に、歓びにも似た共感が湧いた。まるで孤独な狼が、荒野に響く遠吠えで仲間を見つけたかのように

これまで異種の存在は都市伝説同然であり、唯一確認されている女爵ですら実体が怪しい

ずっと慎重に生きてきたが、今回だけは直感を信じてみることにした。今日の混乱で理性が崩れたのか、同類への憐憫か――彼女を救いたいという衝動は、ほとんど本能に近かった

[player name]が刀を受け取ると、危うく握り損ねるほどの、潮流のごとき強大な力が伝わってきた

変異した女性は明らかに人の理性を宿している。ただ獣の体に閉じ込められ、戻れなくなっているだけだ。彼女が苦しげに身じろぎした時、人間は素早く傷口を確認した

体の中で、微かに銀色に光っているのは弾丸だった。更に鎖が手足の傷口を貫き、その両端は地面へ固定され、彼女の行動範囲を制限していた

彼女は地下へと「縫い止め」られ、尊厳もなく、憐れみもなく、僅かな動きすら新たな傷を生む

傷口は化膿し、変異した女性の高熱も下がる気配がない。傷を処置しながら気分は沈むばかりだった

返しのついた弾丸は、一般的に「致命傷」を与えるもので、摘出も困難である。つまり、処刑人は彼女を生かしておくつもりなど、はなからなかったのだろう

処置の最中、変異した女性は痛みに震え、冷や汗を滲ませていた。それでも彼女は髪を強く噛みしめ、声を漏らすことはなかった

最後の弾丸を抜き取ると、彼女は崩れ落ちるように横たわる。そして、彼女自身の心臓の位置を数回叩いた

ここを刺して……心臓を……

彼女は答えず、ただ瞳を伏せ、視線を僅かに逸らした。人間の仕草に当てはめるなら、それは軽蔑だった

やむを得ず彼女の背後へ回り、目を閉じて刀を胸に突き立てる。人を救うためだとしても、その感触はどうしようもなく不快だった

血が一気に噴き出した衝撃で、[player name]は床に倒れた。そのその目の前には、濃い霧の中に生まれたままの姿の女性がいた

彼女は胎児のように身を丸め、細い首を両手できつく握っている。まるで溺れる者が、空気を必死に求めているかのようだった

考える暇もなくコートを脱いで彼女を包み、すぐに口をこじ開けようとした

痙攣すると、激痛のあまり自ら唇や舌を噛み切ってしまうことが多く、それが原因で命を落とす者も少なくない。人間が彼女の顔へ近付くと、途切れ途切れのうわ言が聞こえた

酒……酒を……

堕ちたものを……全て寄越して……

酒はすでに尽きており、瓶には濃厚なウイスキーの香りだけが残っていた。それは、更に濃密な別の匂いを覆い隠すためのもの――血の匂いだ

それは人間の血ではない。邪悪で、堕落した存在――霧の怪物のものだった

幸いだったのは、彼女が人の血を薬や食料とする存在ではないこと。そして、ここにいるのが同じ異種であること

ある意味では、人間よりも異種の血の方が、霧の生物に近い構造を持っている。だからこそ、この血なら目の前にいる女性を満たすことができる

瓶に残留した薬剤が作用し、琥珀色の液体の中で微細な気泡が沸き立つ。血は酒へと変わり、同時に心の奥底にある罪悪感まで発酵していった

血を飲み干すと、彼女の皮膚は玉のような半透明へと変わった。獣の骨格や筋肉のようなものが微かに透けて見えるが、痛みは徐々に和らいできたようで、その姿も落ち着いてきた

寒い……深海……

周囲を見渡したが、カビ臭い藁以外に暖を取る術はない。その人その人は彼女を膝の間に抱え、肩に優しく手を添えることしかできなかった

彼女の呼吸は次第に落ち着き、苦しげな呻き声を数度漏らしたのち、深い眠りについた。これほど近い距離では、腕の痛々しい古傷や手のタコを見ないふりなどできなかった

翌日は、処刑日だった

人間は淡い朝の光の中で目覚め、肩にかけられたコートと、部屋の中央に座す女性に気付いた

まだ弱っているようではあったが、彼女は目を閉じながら胡坐をかいて座っている。手で額を支え、もう一方の手で武器を軽く叩いていた

天井から差し込む光は玉座の装飾のごとく、床に散る鎖は彼女の勲章の帯のようだった。彼女はただそこに座し、静かに狩りの時を待っている

私はα。昨夜のこと、感謝するわ

「深紅の者」か「女爵」と呼びなさい

一瞬、脳内に異種の女爵に関する数々の噂がよぎった。これまでの異形との戦いで、赫々たる功績を上げた存在

その彼女が、こんな不名誉な形で囚われていたなんて――

いいえ、死なないわ。あなたは瀕死の私に手を差し伸べてくれた。だから、無事に明日を迎えさせてあげる

これはあなたへの約束。私の約束は、気休めじゃないわ

αは目を伏せた。まるでこうしたやりとりを、これまで何度も繰り返してきたかのように

特に何も言わず顔を背け、唯一の獄友から視線を逸らす。これが返答に困った彼女の、いつもの振る舞いであった

[player name]、あなたは何の罪でここに?

言っておくけど、「異種として生まれたこと」以外の罪よ

気に入ったわ。場違いなユーモアに、寒いジョーク……

死を目前にしても、平静を保てる者ばかりじゃない

先に言っておくと、昨日の「酒」からあなたの情報をいくつか読み取ったわ。公平を期して、あなたにもひとつだけ質問の権利をあげる

よく考えてから訊きなさい。チャンスは1度きりよ

いいえ、ならないと思うわ

あなたは生まれながらの異種でしょう。私は転化させられただけで、元は普通の人間よ。これまで多くの特殊な実験を受けてきたわ

血酒を絶えず補充しなければ、力をコントロールできない。でも、力を使い続ける限り、私はいずれ完全に怪物になる

αは苦笑した。これが天賦を盗んだ代償なのだろう。そしてふたりの間に、気まずく長い沈黙が流れた

目の前の女爵は、すでに現実と、自らに訪れる破滅の結末を受け入れている。どんな慰めを口にしても、その静かな覚悟の前では薄っぺらく、芝居じみてしまうだろう

私に残された時間は多くない。獣化は止められない……「α」でいられる時間が流れ去っていくのを感じる

もしその日が来たら……[player name]、あなたが私を殺して

答えを待つ間に女爵はふいに立ち上がり、人間の方へ歩み寄る。そして武器を人目につかない場所へ隠すと、窓の外へ視線を向けた

聞こえる?処刑隊が来るわ

覚悟して。今日は長い1日になるわよ

こんな興味深い場面を見届けたくはないの?

無実の私が裁かれるなら、この街も私に裁かれるべきでしょう

この目で確かめるのよ、どれほどの者が私の死を望むのか。そして、その数に見合うだけの命を奪い、正義を取り戻す

そもそも、今日は誰の刑が執行されるのかしらね?

でも、全ての人間は感謝すべきよ。αに敵とみなされたことを

同じ場所、同じ人々。昨日ここで、αの罪が宣告された

そして今日、彼らは華やかな衣装を身に纏っている。女爵と、他の異種の葬儀に参列するために

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ひとりは「深紅の女爵」。夜に生き、闇の中に恐怖を撒く者

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ひとりは「血飢の妖鳥」。日々、血がもたらす生命の力を渇望する者

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ひとりは「猟魔の狩人」。霧の中の影のみならず、あらゆる獲物を狩る者

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ひとりは「沈黙の送葬」。歩んできた無数の道に、「死」のみを残す者

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この四眷属は皆、「グレイレイヴン」と呼ばれる統領に頭を垂れ、忠誠を誓っている

恐怖と絶望が十分に熟したその時、彼らは邪神を召喚し、人間界へ降臨させる

罪状が読み上げられると、αはちらりと「グレイレイヴン」を見た。愉しげで、それでいて敬意すら滲んだ複雑な眼差しだ

αは静かに目を閉じ、自分とは無関係な言葉の羅列に耳を傾けていた。それは滑稽なほどに薄っぺらな、陰謀という名の幻想だった

時には、街は霧域よりもずっと危険だ。霧の中なら誰が敵かすぐに見極められるが、ここでは人の心の真偽を暴く術がない

全ての異種を一堂に集め、その強大な力を根こそぎ絶たんとする思惑が渦巻く。彼らが自ら首を差し出さぬなら、反撃の力をまだ残しているなら、獣を袋小路へ追い詰めたなら――

αが刀を抜くべきタイミングを見極めようとしていた時、悲鳴が秩序を打ち砕いた

霧……霧だ!

あいつらだ!あいつらが霧を呼んだんだ……この忌々しい異種どもが!

αが手を掲げると虚空より刀が現れ、拘束していた鎖を断ち切った。「暁光」は、自らの骨を冶錬して鍛えたものだ

目の前の街に死の幕が下ろされる。四方に逃げ惑う民衆へ死神の寵愛が平等に降り注ぐ

αは見た。赤子を抱えた婦人が目の前で崩れ落ち、白骨の集合体たる霧の怪物へと変じるさまを。それでもなお母として、頬を赤子に寄せる。やがて衛兵に体を打ち砕かれた

炎に包まれた馬車が異獣の群れを振り切るも、すぐに異形に追いつかれ、次々と車体に這い上がる異形が屋根を引き剥がすさまを。馬車にはドルテの妻と幼子が乗っていた

最後の尊厳を守ろうと、銃口をこめかみに当てたイーファを。だが、僅かな逡巡の隙に怪物に引きずられ、血に染まったヴェールだけが舞った

彼らは皆、αへ助けを求めた。しかし彼女の刀も心も動かず、その歩みが止まることはなかった

わかっているわ

これこそ、彼らが望んだことでしょう

――異種のいない世界

いいえ、彼らは決して悔い改めないわ。死に際まではね

瀕死の毒蛇が暖炉の側で冬を越したあと、目覚めた蛇はまず、火を焚いてくれた恩人を噛み殺す

霧に感謝するべきね、「グレイレイヴン」。今や私たちは街の「英雄」よ

αは冷ややかに「グレイレイヴン」を見つめた。衛兵たちと背合わせに円陣を組み、女子供を守るそのその姿を一瞥し、彼女は別の方角へと歩き出した

αは何も言わず、ただ手を振った。最後の礼節として

あの人間たちは、あなたにとってそんなに大事なの?

正しいか間違っているか、そんな問題よりも命が最優先だ。この街の未来は、人間が紡ぐものだ――しかし、これらの言葉を口にできなかった

「街を守る者」として、女爵は誰よりも発言権がある。だからこそ、誰よりも深い失望を背負ってきたのだろう

それでも女爵は足を止め、[player name]の傍らで暁光を抜いた。それは血に染まり、更に鋭さを増していく

ここの始末がついたら、もう引き留めないで。私は他に果たすべきことがある