メンバー宿舎休憩室
エゼット
アジャールは扉に寄りかかり、部屋の中から聞こえる楽し気な声に耳を澄ませた
……お帰り
カトレフを連れて戻ってきたカムイは疲れを押し隠して笑みを浮かべていた
アジャールは、彼が望む答えを得られなかったことを悟った
ライフの方に、まだあの軍令に関する情報はないのか?彼らは一体何をしようとしているんだ?本当に……俺たちを突き出すつもりか?
うーん……やっぱり何も話そうとはしないんだ
カムイは苦笑いを浮かべ、彼の後ろにいたカトレフはカムイの頭を軽くなでた
エゼットに来た頃、夜遅くひとりきりで孤児院の皆を想っていた時、カムイがいつもアジャールを連れてこうやって頭をなで、悲しむなと慰めてくれたのをカトレフは覚えていた
さあ、とにかく入ろう。今日は貴重なファミリーデーだ
本当に何かあるなら、全員一緒に立ち向かうんだ
見て!!帰ってきた!
全員が首を長くして3人を待っていた。どんな悩みがあっても、それを一旦忘れ、重圧から逃れ、ただ一番幸せな家族でいられる短いひと時だ
おい!どうして食べ尽くしたんだ?少し残しておいて、来月のファミリーデーに食べるルールだったろ?
彼は少し不満げに向かいにいる少年に叫んだ
も、もしかしたら今日は僕たちが過ごせる最後のファミリーデーかもしれないと思って……
あの軍令が下れば、僕たちはどれだけ生き延びられるかわからない……もし今後食べる機会がないなら、今、思いっきり楽しむべきだよ
ケッ!!縁起の悪いこと言うなって!最後なわけないだろう?
はいはい、もう彼には食べさせておこうよ
こんなこと……今は誰もはっきりとわからないし
この言葉を聞いて、お菓子を口に詰め込んでいた少年もハッとして、手に持っていた食べ物を置いた
彼らは今日がどんな日なのかを忘れてはいない。どんなに嫌がろうが、今日ここで最終的な選択をしなければならない
皆は黙ってそれぞれの席に戻り、一斉にカムイとアジャール、カトレフに目を向けた
……その軍令についてだけど、今以上の情報はなかった
ライフはやっぱり話そうとしないんだ。ただ自分がなんとかするからって言うだけで……
なんとかする?彼が考え続けてるとでも?馬鹿言うな、カムイ。彼は俺たちを助けようなんて思ってない。俺たちが喜んで同意しそうな言い訳を考えているだけだ
ライフは上層部にその軍令を取り下げさせるために、なんとかするって言った……
すでに3か月も経ってるんだぞ、カムイ!
本当に何か方法があるなら、もうとっくにやってる。でも今でも何の連絡もないし、情報の更新もない。彼はまだごまかしてる……目を覚ませよ!彼は嘘をついてるだけだってな!
…………
あいつらはエゼットの家族じゃない。俺たちのために何かをする必要もない。ライフにとって重要なのは――やっぱり戦友たち、あの兵士たちなんだ!
アジャール……喧嘩、しないで
……俺たちは大丈夫だ、カトレフ
カムイはがっくりとうなだれた
アジャールの言うことももっともだと、カムイは認めざるを得なかった、もしライフが本当に何とかできるなら……なぜ今日まで引き延ばし続ける?
……カムイだけに言ったんじゃない、ただ……
うん……わかってる
今の俺たちの訓練と転化次第じゃ、実戦に出てもリスクが高すぎる。もしそういう情報が本当なら、支援が必要なのは危険なとこばかりで……
――俺たちは間違いなく死ぬ
カムイはこの言葉をどうしても口に出せなかった
もちろん、絶対にそうなるってわけじゃない。もしライフが何かの手助けをしてくれたり、俺たちが集中訓練して転化を加速できたら、まだチャンスはあるしな
……希望にしたって、絶望にしたって、未来はどっちなのか100%保証するなんて、誰にもできないんだ
今、俺たちにはふたつの選択肢がある。ひとつはエゼットに留まって静観する。軍令が出たらどう対処するか、方法を考えるんだ
もうひとつは……軍令が正式に出る前に、こっそりとここを離れる
だけどそうすると、俺たちは世界政府からの資源をもらえなくなる。エゼットという港を失い、流浪の暮らしになるだろうな
彼は顔を上げ、視線を皆に向けた
今、全員で一緒に未来を決めてほしい
どちらを選ぼうが、俺たちは必ずみんなの味方だ。必ず全員を守る
皆の態度は落ち着いていた。彼らはすでに理解していた。どちらの道にも生きる希望とリスクがある。彼らはエゼットに加わった時、すでにこの必然的な選択を認識していた
……死にたくない
せっかく戦乱や侵蝕体を避けて身を守ってきたのに。あの頃、戦力評価をクリアしてエゼットに加わろうと、こっそり1週間トレーニングしたんだ
やっと強くなれるチャンスができたのに。彼らは、転化に成功したら、昔の俺のような人たちを救えると言った――だけどこんな風に無理やり押し出されたくはない!
そうだよ!!僕たちはエゼットの一員で、バーリーコーン計画の訓練者だ。黄金の太陽の種なんだ。彼らがいうゴミや消耗品なんかじゃない
もしエゼットに到着する前にパニシングに殺されたなら、私は諦めていたと思う
でもようやく再び家を持ち、そして頼れる人、守りたい人ができたのに――なぜ見捨てられるのが私たちなの!?
僕たちはもうある程度の戦闘能力を身につけてる。団結すれば、必ず他の場所でも家を再建できる!
ここを離れよう!!僕たちがずっと一緒にいる限り、どこに行こうがエゼットは永遠だ
皆の目に再び光が灯った――彼らが何を恐れるというのだ?彼らは上にいる者たちが最も恐れていることを、すでに経験している
故郷に家族、命さえも失いかけた。放浪生活も経験した。しかし運命は彼らを出会わせ、結集させ、更により強くなれる希望を与えた。彼らは決して簡単に諦めはしない
ふたつ目の道を選ぶ!!
全員が一斉に心からの叫びを上げた
そうだ。誰かに見下されたって、俺たちはしっかり生き抜いてやる
誰かが俺たちを見捨てても、俺たちは自分で自分を支え、自らの力で全てを証明してやろう
あの人たちは俺たちを廃墟に放り込めば勝手に自滅すると思っているんだろうけど、そうはいくもんか
廃墟の下の種を育て、芽吹かせ、花を咲かせよう。エゼットの先人たちのように、再び俺たちの家を築こう
それが俺たちのエゼットだ!
全員がわっと歓声を上げ、この苦しくも楽しい流浪に期待した。彼らはすでに1度死にかけたのだ。家を存続させれば、いつかまた太陽が昇るのを見ることができる
翌日の夜、「脱出作戦」が始まった
カムイたちは要塞の防備を熟知している。警備員に気付かれることなくそっと迂回し、子供たちを連れて闇夜にまぎれることに成功した
ほぼ1日中逃走し続けたあと、森の中の風が避けられそうな場所に野営し、ようやくしばしの休息をとることになった
カムイ、アジャール、ご飯
カトレフはテントの幕をめくり、缶詰をふたつ置くと、夜遅くまで動き続けていたふたりに食事をするよう声をかけた
ああ、いいところに来たな。一緒に作戦計画を練ろう。終わったら食べよう
あれ、カトレフ、お前の顔、濡れてるじゃないか?拭いてやるよ!
アベル、水源を見つけた、全員、顔を洗った
カムイは興味を引かれ、テントの外に目を向けた。月明かりの下で、子供たちが泉を囲んで笑いさざめいている
……昨日の作戦については、進行速度は予想よりは遅かったが、侵蝕体に遭遇もしなかったし、エゼットの追撃兵にも発見されなかった。物資もしばらくは持ちこたえられそうだ
今後も各自が負う任務は同じだ。カムイは精鋭を率いて前方で道を拓き、カトレフは常に後方を警戒する
うん、これまでの計画通り、なんとしても早く世界政府との関係が薄い保全エリアを見つけて、溶け込めるかどうか、しばらく留まってみないとな
基地の資料室から地図を見つけたよな?これからどこに行く?
アジャールはカムイの目を直視しようとせず、テントの外を眺めていた。常に身に着けている地図を取り出すこともしなかった
……候補の保全エリアはいくつかある。だけどそれぞれメリットとデメリットがあるから、まだ考え中なんだ
そんなに焦るな。夜の警備中に整理して、交代する時までには決めておく
その地図……
カムイ――アジャール――早く来て、体を洗いなよ!
テントの外から聞こえる子供たちの呼び声がカムイの言葉を遮った
……とにかく、今夜はいつも通りのルールでふた手に分かれ、俺が前半、ふたりは後半の見張りだ。寝床はふたつ並べておけばいい
……よし、みんな、今日はお疲れさま!
夜になり、皆は穏やかな眠りについた。深夜前はアジャールの見張る時間帯だ。起きているのは彼だけだった
彼はすでに周囲を見回り、潜在的な脅威がないことを確認していた。これでしばらくは安心できる
彼はカムイとカトレフが眠るテントに戻った。案の定、カトレフは3人分の寝床を隙間がないほどぎゅうぎゅうに並べていた
アジャールは枕の下から自分の端末を取り出し、誰にも見せたことのない地図と戦況資料を取り出した。彼は寝床に座ってしばらくためらっていたが、ついに決心し、顔を上げた
アジャール――
アジャールが彼らに背を向けて立ち上がろうとした時、突然カムイが彼の名を呼んだ。慣れ親しんだ手が彼の腕に触れ、アジャールはドキリとした――
カムイが目を覚ました?それともずっと起きていたのか?まさか彼はもう気付いていたのか?
数秒迷った挙句、アジャールは振り向くことを選んだ。彼に問い詰められようが、他に何かをされようが、逃げるつもりはなかった
カムイ……
彼は振り向いた。そしてカムイのだらしない寝顔と「向き合った」
……
みんな……怖がらず……俺の後ろに……
カムイの隣で寝るカトレフの寝相も酷いものだった。彼の脚はカムイの腹の上に投げ出され、たまに蹴っている。その痛みでカムイはうめき声をあげていた
雪だ、寒い。アジャール、真ん中に座って、カムイは右、俺は、左でギュッと……
……揃ってバカだな
アジャールはカトレフの脚を戻した――次に戻ってくる時は、また元に戻っているだろう。そしてカムイとカトレフが蹴飛ばした毛布を引っ張り上げ、ふたりに掛け直した
アジャールは立ち上がり、テントの入口まで歩いたが、やはり我慢できないようにまた戻ると、両手でカムイの大きく開いた口を閉じた
もしお前がよだれをこっちの寝床に垂らしたら、外に蹴り出すからな、カムイ
テントから出ると、アジャールは野営地から離れた場所へと歩いていった
彼は手元の地図と資料に目を走らせ、すぐに端末から通信をした。すでに番号は暗記しており、紙に書かれたものを見る必要はなかった
――5分。アジャール少年、5分の遅刻よ。次にまたやったら、この通信ルートをブロックする
約束の期限内に君は連絡してこなかった。それなら私も約束を破り、これ以上君たちに協力はしない
でも……今回だけは見逃すわ。なぜって君たちが可哀想だし、破格の寛大な対応ってところね。同じ境遇だから、助け合うべきだしね?
アジャールはマリスの言葉に怯むことなく、深く息をしてから答えた
それでもあなたは……やはり待つことを選んだ
一体エゼットから何を得ようとしているんです?
ふふふ……私は賢い子が好きよ、アジャール少年
もちろん欲しいものがあるんだから、これは取引……君は、「取引」という言葉の書き方、わかるよね?
世界政府はエゼット旧資料室にある「何か」に非常に興味を持っているけど、ライフはいつも私にはひた隠しにしている
でも、君はエゼットを管理する彼の右腕として、何かを知っているはずよね、アジャール少年?
……あんたはエゼットに何をしようとしているんだ?
私に何ができるというの?世界政府とエゼットとは力を合わせて敵に立ち向かってる。私はただ盟友のことをもっと理解したいだけ
ああもう、アジャール、君って子はあらゆる面で優秀だけど、疑り深すぎる。君たちが立ち寄った補給ステーションは、約束通り物資も豊富で安全だったでしょ?
そちらが求めた物はあげたわよ。そうよね?
まさか、周りの子供たちのことよりも、君たちを騙したあの偽善的な都市の方が気になっているとか?
…………
アジャールの眉が僅かに歪んだ
資料室のパスワードは知っている。だがその前に、残りの半分の地図が必要だ
いいじゃない~君のような決断力のある子、とても好きよ
「ピッ」と音がして、マリスは残り半分の地図をアジャールの端末に送信した
アジャールも向こう側の通信へ、相手が欲しがるパスワードを伝えた
この前の約束はまだ有効?助けが必要な時、いつでも連絡できるんですか?
この探るような質問を聞いて、通信の向こう側の議員は思わず小さく笑った
当然よ、可愛くてちっちゃな太陽さんたち。安心しなさい、時間はたっぷりあるもの
次に会うのを楽しみにしてるわ
――ここはなんだかヘンだ
アジャールの判断に従って、全員が次の目標地点に向かって進んでいた
本来のルート通りなら、彼らはすでに目標の保全エリアの外縁部に入っていたはずだ。だが実際には、まだ密林の中で迷っていた
……情報が変わったのかもしれない。でもこの辺りに必ず保全エリアがあるはずだ。何があろうとまずはそこに行き、居場所を見つけないと
ここの気候はあまりいいとはいえず、霧も出始めた。全員がぎゅっと寄り集まり、苦労しながら前進していたが、しばらくしてようやく、保全エリア入口の門を見つけた
よかった!見て!
そう言うと少年は入口に近寄り、連絡装置を探そうとした。だが門に触れた途端、施錠されていないことに気付き、扉は軽く押しただけですぐに開いた
えっ?
――待て!まだ入るな!!
カムイの叫びは間に合わず、待ちきれずに彼は保全エリアに飛び込んだ。しかし数歩も歩かぬうちに不意打ちを受けて吹っ飛ばされ、激しく地面に叩きつけられた
侵蝕体だ!!
霧の中にふたつの赤い光が点滅している。カムイはすぐに駆け寄り、少年を引きずりながら後退した
カムイ!!左から来る!!
アジャールが慌てて声を上げると、カトレフがすぐに長刀を振り上げて飛び出した。彼は歯を食いしばり、かろうじて左からの侵蝕体の奇襲を防いだ
――ぐうっ!!
どういうことだ!!逃がしたやつがここに潜んでいたのか!?
――!!
カムイは全力で斬りかかり、もう1体の侵蝕体の突撃を食い止めた。更に大声を上げて突進し、ありったけの力で侵蝕体を数m先へ吹き飛ばした
――グォォオ!!!
この数……中にまだ更にいる!
ここに生きている人間なんていない、この保全エリアは陥落してる!!
――逃げるんだ!!
全員が慌てて来た道を引き返したが、霧は深く、彼らは完全に方向を見失った。ついには保全エリアの外周にある崩れた壁の近くへと戻ってしまっていた
侵蝕体の数は想像以上に多い。見知らぬ環境でどこから襲撃されるかもわからず、すでに何人かが負傷していた。しかし、どの方向へ逃げれば安全なのか正確に判断できない
「ドン――」。鈍い衝撃音が響いた。カロルだ。濃い霧の中から轟音とともに鉄の腕が勢いよく伸び、リュックを引き裂き、彼女を壁に激しく叩きつけた
いやああっ!!
カロル!!
カロル!!避けろ!!
思いがけなく現れた完全武装のローレンがカロルに駆け寄り、攻撃を受け止めた
他の兵士たちも次々と駆け寄ってくる。数はそれほど多くはないが、彼らの携行装備は万全で、周囲の敵に対抗するには十分だった
ローレンおじさん!?
安全な撤退ルートを確保した。全員、ついてこい!
あいつらはすぐそこだ!逃げられない!!
カムイはジョーに向かって大声で叫んだ。何体か侵蝕体を片付けたものの、数が多すぎる。侵蝕体に阻まれ、撤退しようがない
……我々の何人かで後方援護する!
覚えておけ!真っ直ぐ前に走れ、振り返るな。無事にエゼットに帰れ!
ローレンおじさん!!私も一緒に後方を援護する!
駄目だ!カロル、今回ばかりはおじさんは君の頼みを聞けない
君たちこそがバーリーコーン計画の希望であり、エゼット、そして全人類の希望なんだ。もし選べと言われれば……俺たちのような老いぼれが代わりに盾となる
君たちがここで倒れるわけにはいかないんだ――ジョー!カロルを連れて、早く行け!!
――フン、わかった!ローレン、言っとくが、お前の代わりに子供のお守りをするなんてごめんだ。必ずエゼットに戻ってこい!
早く走れ!もう時間がない!
ジョーが彼女の手を引いて侵蝕体の包囲を突破し、子供たちを守る兵士たちも動き始める。他の兵士は、全滅など到底不可能な侵蝕体たちに敢然と立ち向かった
ギィ――!!
数体の侵蝕体がローレンを完全に包囲し、彼を引き裂こうと、牙を剥き、爪を振り回しながら狂ったように咆えかかる
――へッ!!大声で咆えれば、こっちがビビるとでも思ってるのか?
お前ら人間でも鬼でもない、クソみたいな化け物風情が、俺たち人間様の縄張りを荒し、我々の家を破壊して、家族を殺害するとはな!
お前らは誰に対してもこんなに横暴なのか?相手が老人や病人でも……娘は……きっとお前らみたいなクソッたれに殺されたんだろう
かつての俺は娘を救えなかった。だが今回、お前らみたいな悪魔に、あの子たちを髪の毛ひと筋でも傷つけさせてたまるか!!
死ね――ッ!
……地獄に落ちろ、この悪魔!
二度と、俺たちの子を傷つけるなッ!
彼は手榴弾を投げつけた。これは終わりを告げる最後の手段だ。誰もエゼットに逃げ帰った子供たちを追いかけることはできない
彼らの代わりに子供たちが家に戻れば、それで十分だった
耳をつんざく爆音と、真っ赤な火柱が天を焦がし、光り輝いてそびえる壁となって道を徹底的に遮断した
連絡室
エゼット
ライフはメンバー全員の信号を表示するリストを見て、最後に送信した信号にも返事がないことを確認し、黙り込んだ
……お前らのせいだ。身のほど知らずのお前らガキのせいだ!!
ジョーは現実を受け入れられなかった。エゼットに戻るとすぐ、ローレンたちの支援をライフに申請した。増援が現場に駆けつけたが、爆発による瓦礫が彼らの行く手を塞いだ
彼は子供たちと連絡室でローレンからの返信を待った。だが何もない。残された兵士は誰ひとり応答せず、ほとんどの兵士の信号器が破壊されたことを示していた
それは、彼らが生きて戻ることはないという明白な事実だった
お前らが逃げ出したりしなければ、ローレンのバカが人手をかき集め、助けに行くこともなかったのに……
カロル、お前を助けようとしなければ、彼は死ぬことはなかったんだ!!
やめて!!保全エリアに侵蝕体がいるなんて誰も知らなかった!
キャリーはいつものように妹を庇ったが、カロルは姉や仲間の後ろに隠れようとはしなかった。彼女はギュッとブローチを握って進み出ると、耐えきれずに声を上げて泣いた
……私のせいなの。いつも世話してくれたローレンおじさんのことが心配で、彼に別れの手紙を残した。それを読んでおじさんは私たちが離れたことを知ったの
ローレンおじさんがくれた誕生日プレゼントは、彼の子供が送ったブローチだった。自分のお父さんがどこにいるのか、無事なのかを確かめるために発信器が搭載されていたの
だからローレンおじさんはあれほど早く私たちを見つけた……もし私が手紙を書かず、ブローチも受け取っていなければ……
――私のせい!私のせいでおじさんは……
彼女はジョーに深々と頭を下げ、泣き崩れていた。ジョーはこみ上げる哀しみを抑えきれずにいたが、顔を真っ赤にしながら、自分が崩れそうになっていることを必死に隠した
やつには前からお前に構うなと言ってたんだ……他のメンバーのバカどもにも、お前らガキに対して余計なことをするなと言っていたのに!!
彼らは二度と戻ってこない!!今更そんなことを言おうが無意味だぞ!?元凶のお前らこそ、彼らの代わりに死ぬべきだったんだ――
ジョー!!やめろ!!
ライフの制止とカムイが飛び出したのが同時だった。ジョーが腕を振り下ろす寸前、カムイは飛び出し、カロルの代わりに平手打ちを受け止めた
――カムイ!!
……!
アジャール、俺は大丈夫だ――カトレフ、戻れ、俺の後ろに下がってくれ
カムイは平手打ちされたことなど気にせず、落ち着いた様子でジョーと向き合った
俺たちが逃走したから起きたんだ。その責任は俺が負う。受けるべき罰は全て俺が受ける
でも俺たちは……わざとやったわけじゃない。移送計画の軍令を俺たちはすでに知っていた。たとえもう1度やり直しても、仲間を何もせずに死に追いやることなんてしない
……俺が計画を立てたんだから、全責任は俺にある。だから軍令に従いたくない人は解放してほしい。みんなは見捨てられ、犠牲にされていい存在なんかじゃない
カムイの言うことなんて聞くな!俺も逃走計画に関わった。罰するなら俺にしろ!
俺も、だ
何を言ってるのよ!!決定は全員で下した。あなたたちだけってわけにいかないわ!
そうだ!軍に無理やり行かされるのは嫌だ!死にたくない!何か間違っている!
罰するなら一緒に罰してくれ!上層部にゴミ扱いされ、危険な区域に捨てられるよりは、僕たちの命でローレンおじさんたちに罪を償う方がまだいい!!
黙れッ!!
ライフが一喝し、ざわめいてた全員がビクッと体を震わせた
……俺のせいだ。カムイが俺に訊ねてきた時、全ての決定をお前たちに率直に打ち明けるべきだった
軍令は発布されたが、俺はすでに上層部とまず我々の軍隊を派遣し、救援任務を完成させることに合意していた
お前たちについては……基地での訓練に専念するだけでいい。突破すべきレベルに達し、一定の力をコントロールできるようになってから、徐々に参加させる
ライフは複雑な表情で周りを見回した。哀願といっていいほど切実な口調は、その場にいる子供たちを感動させた
しかし……
同意できるか!!
指定の救援地域の状況がどれだけ深刻かは、誰もがよく知っている!だからこそ、上は異例のバーリーコーン計画のメンバーの力で、この難題を解決しようとしているんだ
兵士全員を派遣するのは無理だ。エゼット基地を守るためにもかなりの兵士が必要だ。我々に、精鋭部隊でさえ完遂できない任務を、自らの命と引き換えにやれというのか?
つまりお前が言いたいのは、まさかあの議員が提案したように、未成年の子供たちを戦地に追いやり、代わりに死んでもらう、そういうことなのか!?
我々は軍人であり戦士であり、更に大人だ!どれほど大きなプレッシャーだろうが、それを受け止めて、耐えなければならない!
…………
ジョーはそれ以上反論しなかった。そんな言葉を彼自身、口に出せなかった。悔しいからか?それとも嫌だからか?彼は繰り返し自分に問いかけた
彼はまだ親友が犠牲となったことから立ち直れていない。親友たちがそのような代償を払ったことを受け入れられずにいる
……なら俺も加えろ、支援に向かうリストの中に
ずいぶん時間が経ってから、彼はやっと口を開いた
見たんだ。支援が必要な場所には、俺の故郷――ローレンの故郷があった
他にもたくさん……我々の兵士が、かつて平穏に暮らした故郷があるはずだ
彼らから聞いたんだ。自分の家族がすでに死んでしまった者もいれば、そこに閉じ込められ、誰かの救いを待っている人がいることを
……悪かった。できるだけ早く移送計画を実行したくて、お前に無理強いした理由はこれだ
我々が行く。もし誰かが犠牲になる運命なら、俺たちはせめて自分の願い通り、故郷のためにもう1度全力を尽くしたい
……
ジョーが体を震わせ、目を真っ赤にして涙を光らせているのを見て、カムイの胸に熱いものがこみあげた
君たちこそがバーリーコーン計画の希望であり、エゼット、そして全人類の希望なんだ。もし選べと言われれば……俺たちのような老いぼれが代わりに盾となる
ローレンの最後の言葉、爆発の炎、そして覚悟を決めたジョーの顔……これらが彼の心に焼きついた。エゼットの人は皆、徹頭徹尾、自分の家族を見捨てることなどなかった
互いを思いやる心や善意が、かえって彼らと自分たちの間に溝を作っていた。そして裏に潜む、本当に彼らを傷つけている元凶のことを忘れさせていた
この全てを生み出した軍令のことを
カムイは深く息を吸った。喉を通るその息は、鉄錆のような血生臭さを帯びていた
……俺も行く
カムイが自ら手を挙げるとは、誰も想像していなかった
他のメンバーが危険に立ち向かうのを、見て見ぬふりなんてできない。でもこれは俺の意思だ。俺はバーリーコーンメンバーの代表として、移送計画作戦に参加する
軍の分析はまったくデタラメってな話でもない。実戦は確かに光冠ゲノムの転化を速めてくれる可能性があるし、戦力もいくらか上がるかもしれない
ライフ代表、守ってくれていたことに感謝する。でも、俺も同じ戦士なんだ。俺たちエゼットのメンバーには、誰にでも英雄の血が流れている
俺たちもあんたたちを守り、みんなの故郷を守りたい!俺にもやらせてくれ!
俺も行きます。能力だってカムイに劣らない。あなたたちには俺たちが必要です。エゼットの英雄の信念を継承できる!
俺も、行きます
私も行きます!!ローレンおじさんの家族はまだ生きている。私がこの手で彼らを助けます!
私たちも!!
一部の訓練メンバーも加わった。エゼットに家を与えられた彼らは、結束し危険を顧みない。自分を守ってくれた全ての兵士を、ありし日々の彼らの優しさを忘れることはない
彼らは我が身を犠牲にしてエゼットという家を守った。ならば自分たちも彼らの家、全ての人の家を守るために、全力を尽くす
熱い決意を秘めた彼らを見て、ライフはしばしためらった。だが止めはしなかった。彼も自分の兵士を犠牲にしたくはない。勝利への希望は多ければ多いほどいいと考えた
かつてカムイに教えたように――ライフが彼らを一生守ることはできない。情熱と熱い血を持つ者は、必要な試練を乗り越え、光り輝く太陽になるべきなのだ
……志願書は資料室に置いておく。移送作戦に参加を志願する者は署名しに来い
締め切りは1週間後、その日が来れば、署名した全員で出発する
ジョーとその後ろにいる数人の兵士が率先して署名し、カムイ、アジャール、カトレフと訓練メンバーが後に続いた
彼らはバーリーコーン計画における最も成績優秀なメンバーだ。彼らは残るメンバーに「心配するな、基地で訓練を続けろ。自分たちが前に立ち、皆を守る」と声をかけた
残りのメンバーは無言だった。彼らは弱く臆病で、恐ろしい戦場を想像するだけで逃げたくなった。しかし署名した者は恐れる様子もない。彼らは自分たちとどこかが違う
それは伝わり、広がっていった
1週間後、ライフは署名された名前を確認した。そこには全ての兵士、全てのバーリーコーン計画の訓練メンバーの名があった。ライフは最後の空欄に自分の名前を書き込んだ
