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ER15-5 血縁

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エゼット軍事基地

過去

ああもう、これって最新型の武器より扱いにくいじゃない

オーディンリーは苛立たしげに髪をかきむしり、手の中の精巧で小さな機械を見つめて途方に暮れた

そこには彼女が理解できないパラメータがずらりと並ぶ――ホワイトバランス、露出、色温度。以前エウリディケに説明されたが、全て頭を素通りして何ひとつ覚えていない

むべなるかな、忘却とは貫く弾丸よりも速いものなのだ

まあいいわ、とりあえずどれか押しちゃえ

……音がオフになってる?どうして何の通知音もないし、反応もしないのよ

まさか、ちょっと触っただけで壊れたの!?

操作できないカメラに、彼女はむかっ腹を立てた。つい不調な電子機器への奥義――殴る、打つ、叩きつけるを繰り出そうとした。レコーダーもテレビもそれで直してきたのだ

反射的に手を振り上げたが、オーディンリーはすぐに思い出した――駄目だ、これはエウリディケの宝物だったはず

そう思ったオーディンリーはこいつに真理というものを教えてやりたい衝動を必死に抑え、次の手を考えた

それぞれのファンクションキーの意味を思い出すのは諦め、本能で押すべきか迷っていた。最後には最も撮影ボタンらしきものを選び、カメラを自分に向けて押した

「カシャカシャカシャカシャ――」

いきなり忙しなくシャッター音が響き、高速でフラッシュが閃いたせいで、真正面にいたオーディンリーは不意を突かれた

【規制音】!!

【規制音】!!まるで閃光弾じゃない、目が潰れる!

……ぷっ。どうだい、やっと手伝わせる気になった?

傍らに座っていたエウリディケは思わず吹き出した。別にオーディンリーを嘲笑うつもりはない。ただ、彼女のこんな様子を見るのは珍しく、彼にとっては貴重な一瞬だった

……邪魔しないでよ、もう一度やらせて。こんな小さな機械ごときに負けるわけにはいかないんだから!

はいはい、全て「総代表さま」の仰せのままに

それと――そのニヤケ顔でこっちを見ないで!その顔を見る度、腹に一物を抱えてそうに思えるから

そう思うなら半分は従う、でも後半は同意しかねる。ただ君のそんな姿が珍しいだけで、少し……

「ビリッ――」耳障りな音が空気を揺らした。オーディンリーは手に取りかけた説明書を引き裂き、エウリディケを睨みつけた

――気持ち悪いこと言わないで。さもなきゃ黙っててよ!でないと、この紙と同じ末路をたどるわよ

わかった?副·代·表·さ·ま

はいはい、もう言わない

エウリディケの朗らかな笑い声を聞くうちに、オーディンリーの苛立ちは次第に収まっていった――まあいい、いちいち相手にしていられない

実際、彼女は彼の屈託のない笑い声が好きだった。気取らず、ありのままの感情をさらけ出している

家族ってこんなものだろう、とオーディンリーは思っていた。時に軽く小競り合いをしながら日々はすぎ、退屈な日常に少しの彩りを添えながら続いていく

……チッ、これ以上時間をかけたら間に合わない、もういいわ

ねえエウリディケ、機能の説明、ちゃんと全部してくれた?何か抜けてない?

そう言われてみれば……思い出した、ひとつ抜けていた。こちらの落ち度だ

上部のダイヤルを時計回りにふたつ回せばオートモードに戻る。そうすれば連写も解除され、通常撮影に戻るよ

ふん、ちゃんと見てたんじゃないの!

オーディンリーはそれを聞くとすぐにカメラのアルバムを確認した。そこには彼女の怒り顔の自撮りが大量に保存されていた

……もう、こんな不細工な写真ばっかり、削除削除!

ふん、おしまい!言ったよね、こんなの難しくないって!

ねえ――エウリディケ、基地の技術者を適当に捕まえて、全てのカメラをオートモードにさせるってのはどう?その方が楽だし!

エウリディケは立ち上がり、オーディンリーからカメラを受け取ると、より細やかにパラメータを調整した

検討する価値はある。後で提案してみてもいい。でも……忘れないで。今日は駄目だ

今日は月に一度のエゼットのファミリーデーだ。軍令はなく、あるのは家族だけ

皆がそれぞれの家庭に向き合う日だ。俺たちは上官なのに、他の兵士に命令するのはよくないと思わないか?

ちょっと。遠回しに却下してくる言葉の裏がわからないとでも?

そんなに真面目に取らないでよ、本気でやらせるわけないわ――ただの冗談

それに私って十分人情味がある方でしょ?この前、他の基地に物資を渡しに行ったけど、あそこにそんな決まりはなかった

中には基地に来たら個を捨てろ、かつての身内も友人のことも忘れろ、全て軍のために尽くせなんて言うやつもいた

ふざけるなっての!私たちは人間よ、脳みそのない兵器じゃない、感情だってある

その通りだ。他の場所と比べれば……エゼットは違う。人も物事も変える特別な力がある

「家」という名の力は不思議なものであり、優しい。だからこそ私たちは強く、揺るぎないのかもしれない

だから……なおさら君は総代表として、その信念を壊してはいけないんだぞ?

……普段の公務よりうるさいわね。こうなるとファミリーデーなんてない方がマシ

そう言った途端、オーディンリーは背後から強く抱きしめられた。彼は頭を彼女の肩にそっと預け、カメラは横のスタンドに置かれたままにしている

――それはダメだ

耳元の囁き声は小さいものの、一言一句はっきりと聞こえた

普段は、「総代表」の時間はエゼットの皆に多すぎるほど分け合っている

せっかくのファミリーデーなんだ。オーディンリーの時間は俺が独占する

オーディンリーはしばらくそのままにさせていたが、離れる気配がないのを見て、彼の頭をペチッと叩いてどかした

チッ……いい加減にしてよ!肩が痛い、どいて

独占だの何だの、もう何年も経ってるのにその性格、変わらないの?矛盾してるじゃない

1秒前の自分の言葉も忘れたの?ファミリーデーでしょ――この家は私たちふたりだけじゃない!

いい歳して子供みたいな真似しないでよ。くっついてないで、子供を呼んできて

御意――仰せのままに、総代表さま

【規制音】!まだ言ってる!普通にしゃべりなさいってば!

オーディンリーの声を聞きながら、エウリディケは片隅に目を向けた――小さく丸い金色の頭がひょっこりと覗き、すぐに引っ込んだ

ちょうどいい、探す手間が省けた。エウリディケは小さく笑い、どうやってあの子を誘い出すか考えた

探す必要はなさそうだ。ただ来させるには……少し工夫がいる

ん?それはどういう……

エウリディケの言葉に気付いて、オーディンリーも周囲を見回した

案の定、何度も様子をうかがう金色の小さな頭をオーディンリーもすぐに見つけた。彼女の観察力はいつも非常に鋭い

金色の頭が覗いては引っ込み、それを何度も繰り返しているが、出てくる気配はない

出る、出ない。出る、出ない。出る……

うう、なんでまた「出る」なの……嫌だ嫌だ、別の花で数え直そう……

あまりの優柔不断さに、オーディンリーはしびれを切らした

――カムイ!!私と父さんには見えてるのよ!?ぐずぐずしないで、さっさと出てきて!

小さな頭はオーディンリーの大声にびくりと震え、しばらくためらったあと、ようやく姿を現した

カムイはうなだれ、小さな手で服の裾をぎゅっと握りしめている。前に出てからもオーディンリーの顔をちらりと見ては、後ろめたそうに目を伏せた

ぼ……僕は……

オーディンリーは射貫くようにカムイを見つめた。彼が着ているのはいつもの訓練服だ

その――地面を寝っ転がっちゃったみたいに泥だらけの訓練服のままで、家族写真を撮るつもり?

用意しておいた服はどうしたの?あんなにかさばる服を失くしたなんて言わせないわよ

その話題になると、カムイはこらえきれず、唇を尖らせて小声で何かをつぶやいた

あの……スカ、スカート……

聞こえない!言いたいことがあるなら大きな声で言って!!

――スカートなんて履きたくない!!

カムイは何度も心の中で唱えた言葉を、ついに勇気を振り絞ってオーディンリーに向かって叫んだ

そんなの笑われるって聞いたんだ……これで家族写真を撮るなんて嫌だ

何よ、そんなことなの

でも今さら断るなんて、自分で約束したんだから守りなさい!今日はそのスカートに着替えて家族写真を撮るって約束でしょ

やだやだ――笑われたくない、スカートなんて履かない!!

誰も笑わない!!駄々をこねても無駄!今日はどっちか選んで。おとなしくスカートに着替えるか、何も着ないですっ裸で撮るか!!

――すっ裸でいい!!

ホントね?じゃあ、今すぐ全部脱いで!!

オーディンリーが脱がそうと手を上げるのを見て、カムイはさっとエウリディケの背後に隠れた

エウリディケはオーディンリーを手で制しつつ、ただ庇うのではなく、そっとカムイを前に押し出した

カムイ、お前は将来、エゼットで一番勇敢な戦士になると言ったよな?戦士は誰かの後ろに隠れたりしない。欲しいものを勝ち取るために立ち上がるんだ

どうすべきかわかっているだろ?怖がらず、勇気を出して言いなさい

か、母さん、家族写真でスカートは履きたくない……今回だけ。約束する、これからは約束をちゃんと守る

――わかった。じゃあ最後のチャンスをあげるわ

前に読むと言ってた教科書、どこまで読んだ?

は、半分……

彼は以前、全部読んだとオーディンリーに言っていた

オーディンリーは石で地面に記号を描いた。カムイは本で見た覚えはあったが、その意味までは厳しい……

はい、じゃあ答えて。この記号はエゼットの道路標識よ。何を意味する?

さ、左折

……ふん。じゃあこれは?ぼさっとしてないで続けて

カムイはオーディンリーが描いた次の記号を見て、自信のなさそうな声になった

えっと、う、後ろに下がる

オーディンリーは石を投げ捨てた。これ以上抜き打ちテストを続ける必要はなかったからだ

ずいぶん適当なことばっかり言って。教科書をどこにやったかも覚えていないんでしょう

ひとつ目の記号の意味は「通行禁止」、ふたつ目の記号の意味は「前進」

一昨日の宝探しゲームにも出てきたはずよ。あの時も間違えて、また今回も間違えて、まだこんな簡単なミスを

あの時、約束したわよね?宝探しゲームは道路標識のルール勉強のテストなのよって

たどり着いたゴールに置いてあった服で家族写真を撮る。それが何であろうと、嫌がることはできない

正解していたら、ゴールにはあなたが欲しがっていた服があった。でもあなたは勉強をサボって、道路標識を間違えて誤った道を進んだ。そこにあったのはスカートだった

カムイ、私と父さんは「やった責任を取らない」なんて臆病者の真似は教えていないわ。それは戦士が持つべき品格や資質でもない

正誤にかかわらず、行動の結果の責任は自分で取るしかないの。ゲームの最初に言ったはずよね

わ……わかってる……

で、でも、スカートは……うう……

カムイはこれ以上ごねるのをやめた。自分が悪いと理解しているし、オーディンリーの教えも納得している

しかし彼はまだ子供だ。子供にとって「恥」は重大な要素だった。カムイは本の挿絵やエゼット装備室に置かれていた戦闘服を思い出した

彼はああいう服が着たかったのだ。戦士のように、英雄のように。それに「あの人」と違うのは嫌だ、そのことで笑われたくない

エウリディケはカムイを膝に抱き上げ、カムイの目にいっぱいたまったままの涙を拭った

服は重要じゃない、カムイ。勇気、粘り強さ、善良、優しさ……他にもたくさんの素敵な資質や品格がある。そういったものが最終的に光り輝く英雄を作るんだ

ぼろ布をまとおうが、鎧をまとおうがね。スカートでもズボンでも、その事実は変わらない

そう!それが言いたかったの!この前の夜襲だって、私は下着1枚の姿で敵を半殺しにしたんだからね!こんな風に……

はあっ――!!

オーディンリーがそう言いながら拳を振り回し、敵を倒した場面を再現すると、カムイはくすくすと笑い、泣きやんだ

それに――

エウリディケはカムイの頬に軽くキスした

何を着ていようが、私たちの誇りであるちっちゃな太陽は、誰よりも一番キラキラと輝いている

子供の感情豊かで移ろいやすい。その言葉を聞いたカムイは泣き顔を引っ込め、目を見開いて彼らを見つめた

ほ、本当?変じゃない?笑われない?スカートでもかっこいい?

当たり前よ!服がいいし人もいい、それが組み合わさって変になるものですか

信じないならそれを着て、後で皆に聞いてみなさい。そうだ、まずはレイリスおばさんに連絡しよう。そのスカートは彼女が絶対似合うって選んだものだから

わかった――じゃあ、今すぐ行く!!

カムイは待ちきれない様子で降りて、部屋へ駆け込んだ。中から騒がしく着替える音が聞こえ、そのあと、カムイはエゼットのメンバーたちへ次々とビデオ通話をかけ始めた

あらまあ――カムイじゃない。どうしたの、ビデオ通話なんて?

カムイ

レイリスおばさん!!見て、このスカート似合う?

もう着たの?私、あなたのママに言ったのよ、これが絶対に一番可愛いって。彼女が選んだあのダサい服にしなくて正解だったわ

あなた――ちょっと来て。ほら、言った通りでしょ?カムイは最後にはこのスカートを履くって。賭けはあなたの負けよ?

カムイ

ブルーおじさん――ブルーおじさん見て!!

おお!本当に当たったな。わかった、今夜の家事は俺がやるよ

でも、これを履くカムイも悪くないな。見てみろ、ステキじゃないか!

カムイ、お願いがあるの。たくさん写真を撮ってヴィニーおばさんに送ってあげて

彼女とモートおじさんは、お腹の赤ちゃんが可愛い女の子になるようにって、部屋に可愛い子の写真を貼るんだって、そりゃもう大騒ぎしてるのよ

まさにこのカムイの写真を貼れば、きっととびきり可愛いお姫さまが生まれるわよ~

カムイ

本当?じゃあ今すぐ連絡する!じゃあね、レイリスおばさん!!

カムイ

ヴィニーおばさん――早く見て――

この騒ぎはひとしきり続き、カムイは親しいエゼットのメンバー全員に通話をかけた。オーディンリーとエウリディケは外で辛抱強く待ちながら、その様子に笑みを浮かべた

まったく、今泣いたカラスがなんとやら。やっぱりまだ子供ね

さっきまで鼻水を垂らしながら泣いてたのに、今じゃ昼の太陽より眩しくてキラッキラ。誰に似たんだか

――ああ、そうだね、誰に似たんだろうな?

エウリディケはそれ以上は言わず、意味深にちらりとオーディンリーを見て彼女の肩を抱いた

やがてエウリディケのセットしたアラームが鳴った。彼は俯いて時間を確認した――そろそろ撮影の時間だ。これ以上遅れると後の予定に響く

あの子はやっぱり来たくなさそうなのか?

……知ってるでしょ、あの子の性格。家族写真と聞いた途端に嫌がって、今も部屋で拗ねてる

よりにもよって今日なのよね。最近、上が派遣してきた連中が、毎回大義名分ばかり並び立ててるのよ。手榴弾が隣で爆発するよりうるさいったらありゃしない

……彼らはまだ諦めていないのか?前に何やら名前を挙げていたな、確か……バーリーコーン計画

ふん、狼は獲物を決してあきらめないもの。少しでも肉の匂いがすれば、どこまでもしつこく追ってくる

俺は賛成できない。危険すぎるし、エゼットが抱える――あの問題を更に悪化させかねない。それに、連中と関わった経験からすると……

彼らに悪意があると断定はできないが、少なくとも表に出せない思惑はあるだろう

……だが、昨日机に詳細な計画書があったのを見た。君が置いたんだろう?迷っているのか?

あなたの言う通り、あの官僚どもは一日中、夢物語ばかり。私たちは全員核兵器で爆発すれば天地を揺るがせるのに、と願ってる。あいつらの考えなんてどうでもいい、でも……

もし成功すれば、私たち、もっと多くの人を救えるのよ

それに、「あの問題」はあなたも知っての通り、今は打つ手がない。エゼットの長年の持病よ。でもバーリーコーン計画が成功すれば、解決の糸口になるかもしれない

一応検討すると返事した。本格的に動けば、忙しくなる

なら、今日の家族写真は絶対に撮ろう。先延ばしにすれば、次に時間が取れる保証はない

うん……こうしよう。君はこうして、俺は……

エウリディケはオーディンリーと話し終わったあと、カムイの部屋をノックした

――カムイ?こっちにおいで、ちょっと内緒話がある

エウリディケが部屋に入ると、カムイは新しいスカートに着替え、細部まで整え直していた

カムイ

何?聞きたい聞きたい!!

カムイはピョンピョンと跳ねるように駆け寄り、エウリディケに耳を寄せた

エウリディケ

……こうするんだ。皆が揃ったら、そっとカメラの前に走っていって、セルフタイマーを押す

彼に「逃げ」られる前に、お前は戻って並んで、速やかに家族写真を撮る。どうだい?

カムイ

うん!必ず任務を遂行するよ!!

カムイは勢いよく飛び出したが、うっかりスカートの裾を踏んで転んだ。しかしすぐ立ち上がって顔の埃を払うと、部屋の外にあるカメラへ走った

オーディンリー

▇█▅▂▅▃▁▁、早く来て!

……何よ嫌だーって、もう一度言ってみなさい!

ちょっと――動かないで、服が乱れてる。そこに立って父さんに直してもらって

カムイ

この声……来た!えへへ、やってやるぞ!!

父さんが言ってた、セルフタイマーで20秒待つって……今押せばちょうどかな

上の……下の……多分上だよな、うん、絶対!

「カシャッ!!」

オーディンリー

!?カムイ!間違えてる、それ、ノーマルモードの撮影よ!

エウリディケ

子供だからね、慣れないのは当然だ。とりあえず見てみよう

うん――これはこれで家族写真として特別だ。悪くないよ、見てみるか?

オーディンリー

うん、悪くないわね。ふたりにも見せてあげて

エウリディケ

カムイ?戻っておいで

それから……▇█▅▂▅▃▁▁?どうして黙ってるんだ?そんなに離れるな。父さんと母さんの側で一緒に見よう、ね?

カムイ

▇█▅▂▅▃▁▁!!

あれは誰だ?なぜカムイは記憶の中でその名を呼べないのだろう?

欠けたパズルのように顔も曖昧だ。しかし、カムイはその人が自分を呼ぶ声だけは微かに覚えている

聞き慣れた声が、カムイを回想から引き戻した

あれ!?ごめんごめん!ちょっとぼんやりしてた

せっかく具体的な記憶を思い出せたから、ついあんたに話したくなってさ――これが眼前の情景に触れて感情が動くってやつかな!

うん。でも名前も顔も……うーん、この部分は今はまだ思い出せないや

本当は家族写真を見たらわかると思ったのに、ちょうどそこの一片だけパズルが欠けてるんだ

アイツは一体誰で、俺とどんな関係なのか知りたいな……

まあいいや、今は置いとこう。意識海がもっと修復されれば、きっと思い出せる!

せっかく資料室に来たし、必要な資料を探そうぜ。バーリーコーン計画とラディクス関連は機密レベルが高いから、隠し場所にあるはずだ

手分けしないか?指揮官は電子データを、俺は思い出せそうな紙の資料を探すよ

もしかして俺の個人ファイルとかが見つかれば、この謎も解けるかもしれない

ふたりは分担して動き出した。電子アーカイブはきっちり整理され、ディレクトリも明確だ。ほどなくカムイの個人ファイルが見つかった

ん?どうした?もしかして俺たちが探していた答えが見つかったとか?

カムイは興奮気味に駆け寄り、一緒にモニターを見た

さすが指揮官だな、こんなに早く俺の個人ファイルを見つけるなんて!どれどれ、何が書いてあるんだ……

すごく細かいな。生まれた瞬間からの出来事が逐一全部記録されてる。担当医、初等教育の先生、それに両親――

……!?

母さん!!父さん!!

その瞬間、過去の記憶が一気に蘇った。彼がオーディンリーとエウリディケを何度も呼んだ、あの無数の場面が

モニターの両親の欄に表示された写真は、彼の記憶にある母親<オーディンリー>と父親<エウリディケ>ではなかった