制御センター
[player name]、見てくれ。所有者のログがある
時系列順に並べると、一番古いログの日付はパニシングが爆発する前の黄金時代だった
同僚たちには正気じゃないって言われたわ。研究室の仕事を捨てて、彼と一緒にこんな荒れた土地へ来るなんて、って。私たちはただ、歯車みたいに機械的に動く生活に疲れただけ
ここで、ふたりだけの家を作ることにしたの。喧騒やストレスから逃れるための秘密基地。そして、私たちの夢そのものであった「家」を……
日付が進むにつれて、ログの内容も変化していく
気付けば、この小さな庭は小さな集落になっていたわ。最初は道に迷った母娘が来て、次にヨハンおじさん一家が来て……
彼は本当に優しい人だった。だから、ここに来る人がどんどん増えていった。「家族が増えて、皆で賑やかに暮らす方が家らしい」と言っていたわ
この生態園はこうやってできたのか……
[player name]、まだログがあるけど……
私たちは、研究のために使っていた生態園を拡張したの。他の家族の力を借りて、新しい外壁を作り、空気循環システムを修理して……
彼も大変だったはずよ。残業から逃げるためにここへ来たのに、何日も徹夜して、生態園全体にエネルギーを供給するプランを立ててくれたんだもの
皆で集まって、一緒に食事をして、語り合って……都市ではなかなか得られない、人と人の間に隔たりのない、あの温かさを久しぶりに感じた
私たちは成功した。ふたりだけの小さな巣だったこの場所は、皆が一緒に暮らせる大きな家になったの
羨ましくなるような生活なのに、なんでこんな姿になったんだ?
ログは後半へと進み、我々もよく知る時代――パニシング爆発を示す記録が現れた
最近、ずっと警報が鳴ってるわ。昨夜なんてひと晩中よ。どこからか大量の侵蝕体が来ているみたい……この防護じゃ、もう長くは持たないでしょうね
皆の家を守るために、彼は数人の家族と一緒に囮になることを選んだわ。すぐ戻るから、家で待っててくれとだけ言い残して
警報は解除され、生態園も守られた。私は、彼の好きな料理を作って待っていたけど……彼は二度と帰ってこなかった
そういうことか……
視線を交わすと、カムイの目に浮かんでいた穏やかな色は完全に消えていた。拳が、無言のまま強く握りしめられる
あまりにも見慣れた展開だ。多くの家族を生かすため、誰かが前に出て犠牲を選ぶ
ログは、まだ続いていた
ジョエル一家もここを離れるって。出発前に、数日前に亡くなったヨハンおじさんを埋葬してくれたわ。どうか、彼らにとって安全な避難場所が見つかりますように……
ここに残る人が、どんどん減っていく。皆がいないと、こんなにも広いのね……
もう、ここに残ってるのは私だけになったわ
ログは、終わりに近付いていた
これだけの設備が今も動いているのは、彼女がたったひとりで維持してきたからなんだな
これほど広い生態園を、ひとりで維持し続けるのも限界ね。ここの全ての設計に、彼の痕跡が残ってる。会いたいわ……
もう、待ち続けるのはやめる。彼を探しにいくわ。たとえ万にひとつの可能性でも見つけたい。ひとりきりのここは、「家」じゃないもの
わかってる……外に出て彼を探すなんて、ほとんど望み薄だって。それでも、執事ロボットに特別なプログラムを残すことにしたわ
彼と一緒に帰ってきたら、やりたいことを残したの。居住エリアの整備、農耕エリアの再開墾、希望の種を蒔いて、ふたりで食事を作って……
それは、私たちが奇跡的にふたりで戻れた時の願いなの
[player name]……俺たちがやってきた「タスク」は、これだったんだな
戻れなかったとしても構わない。執事ロボットは、私のプログラムを確実に実行し続けるから
いつか未来で、同じように互いを守ろうとする人々がここへたどり着き、これらの願いを叶えてくれるかもしれない
その時は、どうか受け取って。これは、私たちからあなたたちへの贈り物。あなたたちが成し遂げた全ては、絆の証であると同時に、私たちの家と愛が存在した証でもあるの
どうか……愛と絆が、永遠にこの地に受け継がれていきますように
……帰ってこれなかったみたいだな
ログはそこで終わり、長い沈黙が落ちる。再起動中のスクリーンだけが、青いランプを不規則に明滅させていた
けれどその青は、もう冷たい色には見えなかった
頭上の照明がひとつ、またひとつと灯り始める。その光は外へと広がり、まるで波紋のように生態園全体を照らしていった
防護天幕が再起動される。今回は十分なエネルギー供給の下、降り続く雨だけでなく耳を裂く雷鳴も、全て外界へと遮断された
倒れていた執事ロボットの青色の単眼に――
再び光が宿る
大きなスクリーンの進行バーが100%に到達し、操作画面に1件の通知がポップアップした
[player name]、エラーが出てる
……執事ロボットの光学センサーだ
エラーログによると、このセンサーの故障はかなり前から起きてる。つまり、所有者と後から来た人を識別できてなかったはずだ
カムイの表情がはっきりと変わった。長い間かかっていた霧が一気に晴れたような、全てが腑に落ちた顔だった
最初から所有者だと誤認してたわけじゃない。「中核メンバー」と呼んだのも、俺たちがしてきた行動、危機の前での選択が彼らと同じだったからだ
執事ロボットの判断基準は「誰か」じゃない。互いのために立ち上がれるか、みんなを守ろうとする意志があるかだけだったんだ
カムイは深く息を吸い、こちらを見つめた。その瞳には、制御センターに差し込む疑似陽光のような、澄んだ輝きが宿っていた
[player name]、問題は解決した。権限も手に入れたし……帰ろう
権限は手に入れたものの、「未命名部屋」をどう呼ぶかまでは思いつかなかった。昼間の壮絶な復旧作業で心身は限界を迎え、部屋に戻り、ようやく腰を落ち着ける
[player name]、先に休んでくれ。生態園の全権限があっても、空中庭園の支援が到着するまでは油断できない。前半の見張りは、俺がやる
疲労を隠しきれないまま、無理に背筋を伸ばし、外へ出ようとした時――控えめなノック音が扉を叩いた。カムイは一瞬こちらと目を合わせ、警戒を滲ませながら扉を開ける
そこに立っていたのは、「大人は本当に頼りにならない」とでも言いたげな顔をしたジェロムだった。少年は、部屋の中をちらりと覗き込む
お邪魔……じゃないよね?
どうした?何かあったか?
オッホン……
扉の前で、少年はわざとらしく咳払いをしてみせた
今日は、見張りしなくてもいいよ
俺だ!
カムイの半分にも満たない背丈のジェロムは、誇らしげに胸を張り、自分自身に向けてサムズアップする
はぁ?冗談はいいって。もう遅いし、子供は早く寝ろ。見張りは俺が行くから
えっ?
まだ何かあるのか?とりあえず、[player name]は休んでくれ。何かあったら、すぐに知らせるから
カムイ兄ちゃん、なんか違くない?
その言葉につられ、思わずカムイへ視線を向ける。がっしりとした背中がこちらを遮り、その表情は読み取れない
なーに話を逸らしてんだ。じゃあ、行ってくるな
カムイは少年の冗談だと受け取ったのか、こちらに声をかけ、外へ出ようとする。しかし、ジェロムの小さな体でがっちりと塞がれてしまった
冗談なんかじゃないってば。ここはみんなの家だぞ
ジェロムはカムイの脚にしがみつき、顔を上げて彼を見つめる。その眼差しは、子供らしからぬほどまっすぐで、頑なだった
ジイちゃんが言ってた。みんなのために、雨の中でエネルギーを再起動して、権限まで手に入れて……十分すぎるくらいやってくれたって
ここはみんなの家なんだ。だから、俺もやる。自分の家を守るのは当然だろ?
いや、でも……
でもじゃない!みんなで決めたんだ、もうふたりだけに頼らないって。今日からは俺たちが見張りをする!今夜は俺とベルニー兄ちゃんだ!
ベルニー兄ちゃんは、もう持ち場についてる。俺はそれを伝えにきただけ
そう言うと、ジェロムはカムイを部屋の中へと押し戻した。カムイは困ったようにこちらを見る
[player name]……
やっぱり、あんたの方が話が早いな
ジェロムはカムイに向かって舌を出し、扉を閉めた。扉の向こうから、軽やかな足取りが遠ざかっていく
カムイは頭をかきながら、閉まったドアを見つめ、少し困惑していた
窓辺に立ち、外を眺める。かつて自分たちが見張りに立っていた場所で、少年が見様見真似で焚き火を起こし、きょろきょろと周囲を警戒するように見回していた
溜まっていた疲労が、不意にカムイの瞼の縁から零れ落ちる
……それじゃあ、休むか。今日もお疲れ、[player name]
部屋の明かりを落とすと、静かな夜と深い眠りがゆっくりと押し寄せてきた
……うん。おやすみ、[player name]
目を閉じると、瞼に彼の指先の微かな温もりが降りてきた
