αはバイクを駆り、こちらを乗せて巨大な建物へと走る。背後のあの暖かな家は、夕暮れの中にゆっくりと溶けていった
しばらく走って居住区から遠ざかると、周囲の景色は次第に寂寥を帯びていった
あの幻影、確かに一部は私の「心」から出てきたものだわ
αは首を振った
恐らく、前の霧域での戦いが関係しているのかもしれないわね
こういうのも……悪くない
ふたりはそれ以上言葉を交わさず、エンジンの轟音だけが空虚な道路に響き渡った
やがて、道路の先に見慣れた「裂け目」が現れた
「裂け目」を通り抜け、束の間の暗闇と喪失感を経たあと、砂礫と土埃の匂いを感じ取った
そこは、死の静寂に包まれた広大な荒野だった
その中心には、息を呑むほど巨大な衝突跡がある。穴の底の中央には、無惨に崩れ落ちながらも、まだ一部の構造が残る巨大な建造物……空中庭園が立っていた
凄まじい衝撃が全てを破滅させようとしたのは明らかで、大地は引き裂かれ、捲り上がり、深さ数百mにも及ぶ円形の谷を形成している
本来なら木っ端微塵だったはずだ。しかし墜落の前に何らかの試みがなされたのだろう、そのお陰か空中庭園の主構造の一部は、今も深い穴の中に立っている
着いたわ
これは私と彼女の決着よ。任せておいて
バイクのエンジンが低く唸りを上げ、矢のごとく荒野の緩やかな斜面を駆け下り、穴の中央へと突き進んでいく
下り坂で加速して穴の底の斜面を駆け上がり、崩れた傾斜を足場に更に上へと突き進む
ドォン――
バイクは斜面を掠めて空中に飛び上がり、足場にたどり着いた。αが見下ろすと、視線がちょうど見上げる瞳とぶつかった
ふ……
バンッ――
バイクは轟音とともに着地し、その衝撃で数枚の石板が粉々に砕け散った
αは身を翻してパイクから降り、右手を腰の刀にかけた。刀身から眩い赤い光が放たれる
死ぬ覚悟はいい?
自ら体を捧げに来たことに免じて、ひと思いに終わらせてあげるわ
「影」は左手で鞘を握り、ゆっくりと刀を抜き放つ。赤い稲光が刀身に纏りつき、宙で弾けるような音を立てた
言葉が終わると同時に、ふたつの姿が消えた。
次の瞬間、2本の大刀が鋭い咆哮とともに激突した
刃と刃が交わった刹那、衝撃波が津波のように広がり、地上のあらゆる瓦礫を吹き飛ばす
この世界も、この白い霧も、いずれ消えると悟った時から、私は脱出する方法を探していた
そしてついに、パニシングであなたを引き寄せた!
「影」の動きは鬼神を思わせる速さで、交錯する刀光は破滅の嵐を生み出していく
あなたの身体を手に入れ、生き残る資格を手に入れるのよ!
αは鼻で笑い、鋭い斬撃で「影」の身にひと筋の傷を刻み込んだ
やはり所詮はただの哀れな幻影ね。影なら影らしく……永遠に足下に這いつくばっていなさい
「影」、絶対に私が勝つのよ。なぜなら……
私はルシアであり、α。私こそ全ての始まり。これは……私が始めた物語なのよ!
αの刃が空気を裂き、凄まじい気迫とともに「影」の心臓を貫かんと迫る
しかし「影」は動かない。むしろ1歩、ずいと前へ踏み出し――致命の刃へと身を投じた
シュッ――
深紅の長刀が彼女の胸を貫いた。だが「影」は依然として笑みを浮かべ、1歩、また1歩と距離を詰めてくる
白い霧がまるで生き物のように「影」の体へと群がる。霧が傷口に触れた瞬間、肉の端が蠢き、再生を始める
だったら、あなたの物語は私が終わらせてあげる!
次の瞬間、彼女の姿が忽然と消え去り、その身は白い霧と化して弾け飛んだ。白い霧は狂気を孕み、α目がけて怒涛のごとく襲いかかる
――!
αの瞳孔が収縮し、身をよじって避けようとした
――だが、間に合わなかった
霧はすでに目の前まで迫り、あらゆる僅かな隙間から彼女の体内へ潜り込んでいく
あなたが無類の強さを誇ることは知っている。だから、最初から命懸けで戦うつもりなんてない……
意識海を奪い、魂から体ごと喰らい尽くすまで!
チッ……!
全てが静寂に包まれた
αは魂を抜かれたかのように、崩れ落ちて膝をついた
次の瞬間、彼女は勢いよく顔を上げる。赤い瞳が激しく明滅する……まるで狂気と理性が交錯するかのように
歯の隙間から絞り出される声は低く、押し殺したように響いた。まるで体内の何者かと戦っているようだった
出て……いけ……
彼女の体は激しく震えていた。残された最後の理性を振り絞り、すぐ傍らにいるこちらへと勢いよく顔を向ける
……受け取って!
彼女は全力で長刀を投げ放った。刃は空を裂きながら回転し、こちらの足下へと突き立った
彼女の瞳から、「α」としての光が急速に失われようとしていた
ここは……あなたに任せた
言い終わった瞬間、その瞳に残っていた最後の理性の光は、荒波に呑まれる孤島のように完全に消え失せた
ドォン――!
真紅の気配が決壊した濁流のように彼女の体から溢れ出した。パニシングと稲妻が周りを巻き込み、地面の石板を粉々に砕いていく
彼女の瞳は狂気に閃き、この場で唯一の生命体……人間の指揮官に狙いを定めた
