Story Reader / 本編シナリオ / 41 遺志継ぐ帰航 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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41-16 堕ちる空

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記者

……皆様、ご覧ください、ファウンス士官学校の下層警備区を通り抜け、零点エネルギーリアクターの建設現場に到着しました

リアクターの建設はすでに4年目に入り、科学理事会の発表によれば、最終調整と点火の完了までには、少なくともあと6年は必要と見込まれています

記者

稼働はまだですが、初期の研究開発で派生した技術成果により、人類の宇宙航行能力はすでに前の世代には想像もできなかった水準にまで押し上げられています

記者

月面基地はすでに10年稼働し、ヘリウム3採取ステーションのパイプラインから最初のエネルギーサンプルが地球へ送られ、工業化の検証が進められています

記者

木星軌道では深宇宙観測アレイが自律運用段階に入り、深宇宙スペクトルデータを地球へ送信、先月はプロキシマ·ケンタウリbの大気のスペクトル特性の捕捉に成功しました

更に遥か遠方では、「曙光-II型」が静かに飛行を続けています。すでに火星軌道を越え、設定された航路に沿って木星の重力スイングバイ地点へと加速しています

零点エネルギーリアクターが完成した暁には、この全てがただの出発点にすぎなくなるでしょう

記者

しかし今、この瞬間でさえ、「天国の橋」の発射場に立ち、銀白色の軌道が大気圏の中に消えていくのを仰ぎ見れば、誰もがまざまざと実感するはずです――

私たち人類は――本当に出発しようとしていることを

ファウンス士官学校·天航都市

赤道

A-7ハッチ、ロック完了、予備加圧プログラム起動

ゲシュタルトの采配により、ルシアと[player name]は1期生の中核となる、戦闘及び指揮要員として、空中指揮所での当番実習に就くことになった

空中指揮所とは、改装された大型輸送機のことだ。機体はファウンス上空6000mを旋回し、地域防空の指揮中枢であると同時に、ドローン群の通信中継拠点として機能する

機内には配管とモニターが張り巡らされ、照明は青白く、空気には金属と潤滑油の匂いが漂っていた。隣り合うふたりの席は、少し体を動かせば互いの椅子の背にぶつかってしまう

[player name]はそう言いながら、目の前の指揮端末を調整している

ふたり座るだけならこれでいいわ

ふたりは肩を並べて座り、数十枚のモニターと何百ものスイッチに向き合った。ルシアが横を見ると、[player name]は軍用端末を忙しく操作していた

ドローンのテスト飛行の指揮とはいえ……

その感じだと、事前にかなり予習してきたのね

ルシアは端末に向き直り、同じように目の前の端末を慣れた手つきで操作し始め、左から右へ、一連のシステムプログラムの起動を一気に完了させた

ルシアは肩をすくめ、特に否定も肯定もしなかった

どうせ学生は素人だからって、時間を割く気がないんじゃない?

でも、かえって都合がいいけど

彼女は最後のシステムパラメータを確認し終えた。画面上ではデータフローが安定して走り始める

彼らが来た頃には、もう私たちに教えることなんて何もなくなる。私たちでちゃんとやれるはずよ

空中指揮システム起動完了。こちらAlpha1、ジョアン、聞こえる?地上部隊Alpha3、応答せよ

こちらAlpha3、オペレーションシステム権限を有効化、地上基地局とのデータチャンネルを調整中

臨時基地車両内には、古い端末が雑然と並べられていた。頭上の蛍光灯は1本が故障しかけており、ブーンという音を立てながらチカチカと明滅している

リアルタイムで36個の通信チャンネルと7個の基地ポイント、そして「200以上の無人機」の状態パラメータを監視?

……ったく、これで工数ひとり分だと思ってるの……?

渡された規定マニュアルを最後のページまでめくると、そこには1行の手書きのメモが残されていた。文字はぐにゃぐにゃで、爬虫類か何かが這い回った跡のようだ

…………

どうして私のマニュアルに書き込まれてるの?

彼女は深く息を吸い込むと、鈍く痛み出した鼻梁を揉み、10数枚のモニターが点滅する席へ座り直した

36チャンネルか……まずはひとつ目のチャンネルから始めよう

もう!どうして私ひとりだけ外で見張りなのよ!?

オフェリア、公共チャンネルで私情を垂れ流さないで

何よ、あなたには関係ないでしょ!

学生たちが訓練に追われているその頃、黒と金で塗装されたリムジンが、天航都市外周の高架道路をゆっくりと走っていた

もともとあそこは宇宙ドームにするつもりだったのに。それが今じゃ、ただのデカくてつまんない鉄の塊。うちの庭の築山か松でも置いた方が、よっぽどマシよ

車は時速20kmほどで走り、カサンドラは機械の腕を窓の外へ突き出した。金属の指関節を陽光に煌かせながら、下に広がる基地全体に手を振るような仕草をみせる

もう少し向こうへ行って。そう、天国の橋の方

理事、今日はもうこれで3周目ですが……

いいのよ、何度眺めたって。私がお金を出してるんだから、誰か文句ある?

彼女はグラウンドで訓練中の学生たちを見下ろした。走り込みや匍匐前進をする者、装備の分解整備をする者――どの学生もまだ16、17の子供たちで、汗と土塗れだ

……で、さっきは何の話をしてたんだっけ?

先ほどはゲシュタルトの話題でした。今は零点エネルギーリアクターの件です、理事

そうそう、ドミニクが「構造体」っていう新計画を提示してきたのよ。人間を宇宙放射線に耐える機械構造に改造し、しかも人間だった頃の記憶や意識も完全に保持できる、って

私、そんなの興味ないって言ったの。「それより、その機械で私をずっと若いままにできる?」って訊いたら、ドミニクは「できる」って。だから、投資したのよ

彼女は機械の腕を持ち上げ、指関節を軽く動かした。金属の関節が小さくカチカチと音を立てる

私が最初のドラキュラになった時、ドミニクがいきなり「遠航に参加しないか」って訊いてきたの。他に仲間もいるって。あの伝説の変人、グルート教授とかね

だから「最近ゲームのやりすぎじゃない?残業でバカになった?」って言ってやった、アハハ。それに私、猫アレルギーだし。オレンジ色の猫を飼ってる人と同じ船なんてお断り

ドミニクが執着してたファウンスも完成し、世界中から学生も集まった。そしたらまた急に連絡してきて、今度は「質点」だか何だかってプロジェクトを立ち上げるって言い張るの

しかも、妙に大真面目な顔で、こう言うの――「もう時間がない。恐らく、君の機体しか成し得ないんだ」

「私はもうひとつの別のことをやるしかない。それはひとりきりで進む道だから」

彼女は後部座席で体をくねらせながら、手振りを交えて、わざとらしい口調で首席技術者の真似をした

私の機体のどこがそんなに特別なのかしら?味覚モジュールが他のと比べて高価だから?

ん……?待って、あれは何?

……天国の橋ですよ、理事。今日はもう何度、そうやってからかわれたことか。あなたが資金を出されたのはわかりましたから……

違うわ、空の上のあれよ――

天国の橋の遥か上空、極めて高い位置で、一瞬何かが光った

カサンドラの腕に内蔵されたセンサーが、視覚より先に反応した。金属の指関節が、見えない何かに掴まれたかのように激しく震え出した

停めて

えっ?

車を停めなさい!

車が急停止したその瞬間、ファウンスの軍事管制区域では、10数基のミサイルサイロのハッチが一斉に跳ね上がった

白煙が空へ噴き上がる

1発、2発、6発――対放射線迎撃ミサイルが、肉眼では追えない速度でサイロから射出され、排気炎で空気を焼きながら、上空へ真っ直ぐに飛んでいく

続けて第2波、第3波。濃い発射煙がファウンス全域を覆い、連鎖する振動で黒と金の車体までもが小刻みに震えた

カサンドラは、雲の中へ消えていくミサイルを見上げた。だが機械の腕のセンサーはなおも震え続け、しかもその振動は次第に強まっていた

引き返して。管制室へ

ほとんど時を同じくして、ファウンス全域で同時に警報が鳴り響いた

33チャンネル、信号強度低下、マーク……

……?

ジョアンは不意に体が前のめりになるのを感じ、滑ったタッチペンはタブレットの上に不規則な太い線を引いた

椅子が僅かに震えている。まるで地下を重い列車が通り抜けたような振動だった。水の入ったコップに目をやると、水面が震え、細かな同心円が幾重にも広がっていった

……地震?

次の瞬間、轟音が響いた。机の上の書類が一斉に滑り落ち、壊れかけの蛍光灯が激しく明滅し始めた。ジョアンは机の縁に手をかけて体を支えながら、ふと気付いた――

音は地下からではない。頭上からだ

ジョアンの脳裏にシミュレーターで見た映像が蘇る。固体ロケットエンジン点火時のあの轟音。鈍く凶暴で、誰かが鉄のハンマーで叩き割ろうと何度も叩くかのようなあの――

――!

彼女は基地局の扉を押し開け、外へ飛び出した

「天国の橋」の方角に、10数本の白い煙の柱が真っ直ぐ空へ突き刺さっていた

次々とミサイルが撃ち上げられていく。排気炎は直視できないほど眩く、白煙は気流に引き裂かれて一直線の軌跡を描き、更に雲を突き抜け、遥か上空へと消えていく

な……何が起きてるの?

その直後、彼女は別の音――ターボファンエンジンの甲高い咆哮を聞いた。何百、何千ものエンジン音が重なり、絶え間なく胸を震わせる低い轟音へと変わっていく

彼女が振り返ると、天航都市東側の軍用機格納庫群の全てのシャッターが一斉に上がっていた

同時に、数千機の軍用ドローンが灰色の鳥の群れのように一斉に飛び立った。エンジン噴射口は熱波を引きずり、後続機が前の機体の尾翼に触れそうなほど密集している

いくつも重なった翼が陽光を遮り、地面に落ちる影が黒雲のように広がっていく。つい先ほどまで明るかった昼下がりが、突然翳ってしまっていた

ジョアンは基地車両の前で立ち尽くしていた。四方から吹き込む風に煽られ、目を開けていられない

こ、これは……一体どうなってるの!?

空中指揮所

6000m上空

モニターのデータは潮の満ち引きのように緩慢に上下し、全てはいつも通りだった

ルシアは東区の巡回記録を終え、地上のジョアンへデータを送信しようとしていた

シミュレーション区域、座標E21の巡回完了。異常なし

……?

ふと、ルシアは指先に微かな痺れを感じた。窓の外を見ると、広がる雲海を突き抜けた「天国の橋」の先端が、午後の光で銀色に輝いていた。全ていつも通りだ

しかし彼女は違和感を覚えた

[player name]、何か様子が……

ブツッ――

その時、全てのモニターが一斉に真っ暗になった

機内は、1秒だけ完全な闇に沈んだ――直後、非常灯が点灯し、くすんだ赤い光がふたりの顔に不穏な影を落とした

メインパネルでは、全ての数値が1度ゼロになり、次の瞬間、狂ったように跳ね上がった。数字は次々とバラバラに乱れていく

……どういうこと?悪性データの侵入?

直後、ルシアの背もたれが激しく揺れた。ただの乱気流ではない――機体の電子システムそのものが、何かに撃ち抜かれたかのような激しい振動だ

ふたりはほぼ同時に、端末へ手を伸ばした

地上との通信は?状況を把握しないと

[player name]の指が素早くチャンネルを切り替えていく。ひとつ、ふたつ、5つ――どのチャンネルからも、砂嵐のようなノイズしか返ってこない

いや……まだ1本、予備回線がある。地上基地局のものよ!

ジョアン!聞こえる!?

ドンッ――!

ふたりの背後の金属ハッチが蹴り破られた

ルシアはとっさに振り返った――そこにはひとりの男が立っていた。機内クルーの制服を着て、手にした拳銃を構えている

銃口は[player name]に向けられていた

――!!

ルシアの体は、意識よりも半秒早く動いた。椅子を蹴って後方へ滑らせ、その反動で跳び上がり、振り抜いた左脚を男の手首を叩きつけた

銃は男の手から弾き飛ばされ、機内の壁に跳ね返った

ルシアはすかさず飛びかかり、両手で相手の喉を掴むと、そのままハッチの方へ勢いよく押し出した。男の背中が後方のラックに激突し、鈍い音が響く

はぁッ!!

男の前腕が鋭く跳ね上がり、ルシアの両手を叩き外した。そのままルシアの手首を掴み、外側へ捻り上げる。明らかに近接戦における専門の格闘訓練を受けた者の動きだ

くっ!

手首が危険な角度まで捩じ上げられ、ルシアは力を逃がすため、体を捻るしかなかった。相手はそのまま追い打ちをかけ、完全に押さえ込もうとする

ドンッ!――ふいに鈍い衝撃音が響く。男の体は一瞬硬直し、ルシアを離した

チッ!!

男は背後からの不意打ちに激昂し、振り向きざま[player name]の顔めがけて拳を振り抜いた

[player name]は頭を僅かに逸らして拳を躱すと、逆に一気に間合いを詰めた。左手で男の前腕を掴み、右の掌底を顎へ叩き込んだ――

ぐっ!!

男の上体が大きく仰け反った瞬間に、[player name]は足を払い、肩からぶつかって一気に体重を乗せた

男は必死に踏みとどまろうとしたが、押し切られて後退した。更に後頭部をラックの金属棒にぶつけ、男の視界は一瞬揺らいだ

ハッ!

次の瞬間、体勢を立て直したルシアが男の膝裏に蹴りを叩き込んだ。男の片足がガクリと折れ、体ごと倒れ込んだ

彼女と[player name]は、阿吽の呼吸で動いていた。それは以前のホログラム演習における対戦で、お互いお互いに経験していた動きだった

ふたりが同時に挟み込むように男の体を制し、捩じり上げるようにして床へ叩きつける――

ドサッ!――男は棒倒しのように倒れ、白目を剥いて気絶した

ふたりは同時に手を離し、荒く息をつきながら、男から少し距離を取った

ルシアは、男に捻じ上げられた手首を軽く回しながら頷いた

ええ、いいタイミングだった

ふたりは互いに負傷がないことを確かめると、同時に小さく頷いた

機内通路には焦げたような臭いが漂っている。非常灯の赤い光は全てを暗い赤色に染め、その光が床の何かの液体を反射させていた――機械オイルではない

血……

通路の曲がり角で乗員が倒れていた。胸元の制服は血塗れで、すでに絶命している。更に奥では、別の乗員が機体の壁にもたれかかっていた。首筋に電撃による火傷の痕がある

……ルシア![player name]!

聞こえるわ、ジョアン

よかった、やっと繋がった……よく聞いて。物凄い数のドローンが制御を失ってるの――ファウンスに向けて自爆攻撃を仕掛けてる!

ドローンが施設を攻撃してる。訓練場、工事区域、補給拠点……それに天国の橋も!

ルシアはコックピットの風防越しに見下ろした。雲の切れ間からいくつもの黒煙がファウンスから立ち昇っている。何かが閃き、次々と花が開くように炸裂していた

私たちの方もハイジャックを受けた。輸送機のオペレーションシステムが全部乗っ取られた……恐らく最前方の司令室で何かあったんだわ

えっ?ハ、ハイジャック!?

他の周波数帯は全部ダウンしてる。ジョアン、地上の支援が必要よ

ま、待って……考えさせて……考えるから……

通信の向こうが数秒ほど静まり返った。遠くで断続的に響く爆発音と乱れた呼吸音、そして彼女が無意識に机を叩くコツコツという音だけが聞こえていた

ドローンの制御権は奪われてる……通常の上書きはメイン制御塔からの指令が必要だわ。でも、そのメイン制御塔は、もうやられてるはず……

基地車両で何ができる?こっちには予備回線1本しかないの。帯域が全然足りないから200機以上のデータ量を直接制御するなんて無理だわ……

彼女の視線が、ふと目の前の端末画面に落ちた。画面右下に小さく表示された1行のテキスト。この基地車両に来た時に目にしたものだ

そうだ……ゲシュタルト!

彼女は自分でも驚くほどの声量で叫んだ

もしかしたら……ゲシュタルトのアルゴリズムを申請できるかもしれない。この基地局を経由して、逆にファウンス全体の指揮システムを書き換えられるかも!

わ、私……カサンドラさんの量子通信コードを持ってるの

……?

ううん!それはどうでもいいの!上書きに時間がかかるし、チャンスは1度きりよ。完了した瞬間、そっちで指揮機の制御権を取り戻して。また敵が侵入すれば一巻の終わりよ!

成功するかはわからないけど……基地局経由で、まだ使えるドローンを繋ぐわ。できるだけ時間を稼いで、「天国の橋」を守ってみる!

でも、そう考えてるのは私たちだけじゃないみたい

ルシアは機内前方の闇を見据えた。そこから足音が重なって響く

赤い非常灯の中、不気味ないくつかの人影がゆらりと浮かび上がった

8人……全員が戦術ベストにゴーグル、改造ライフルと完全武装だ――世界政府の正規装備ではない。銃のシリアルは削り取られ、金属は不自然なほど磨き上げられている

先頭の男が、ふたりの10mほど手前で足を止め、拳を上げた。その合図で、後ろの全員が一斉に停止した

こんなところに雑魚が2匹残ってたか

お前らの「統一」には感謝してるよ。武器まで全部ひとつのシステムに繋げてくれたお陰で、想像以上に簡単だったぜ

軍人でありながら、同胞に銃口を向けるなんて、恥ずかしいと思わないの?

ルシアは身を低くし、先ほど蹴り飛ばして床に転がっていた拳銃に指先を伸ばした

同胞だァ?ハッ、穏やかな午後にたった1枚の紙で条約が交わされただけで、俺が一生をかけて守ってきた祖国は消えたんだ

それは、あなたが天航都市を襲撃したことと別問題よ。論点をすり替えないで

お前たちがどの星にたどり着こうが、俺には関係ない。どうでもいい話だ。金を出され、復讐のために人を殺せと言われてきた、それだけだ

おっと、ついでにひとつ教えてやるが、お前たちは運がいい。この機体はプログラムでロックされてる。この意味がわかるか?

男は窓の外の雲を指すように眉を吊り上げた

史上最大の花火ショーを拝ませてやるよ!

はぁ?お前らが?制服姿の学生さんふたりで?

男は手を叩き、機内に嘲笑が広がった

その瞬間、火花が散った

バンッ――!

弾丸が一直線に飛び、手を叩いて笑う男の手の平を撃ち抜いた。肉が裂け、血が飛び散る

貴様は……

ファウンスの学生さんよ

…………こいつらこいつらを殺せ!!

来なさい。まとめて相手してやる

頭上の非常灯がチカチカと明滅する。ふたりの肩はほとんど触れ合うほど近く、視線は同じ方向を見据えていた

突破するしかない

彼女の声は小さく、隣にいる相手にしか聞こえない

フッ

そっちこそ、足手まといにならないで

彼女の口元が微かに動く――それは笑みよりも鋭い何かだった

行くわよ!

地上ではファウンスが燃えていた

制御を失ったドローン群は、もはや「天国の橋」を守る鉄壁ではなく、銃口を反転させ、空から降り注ぐ鋼鉄の豪雨へと変化した

搭載された弾薬は、次々と地上の目標に命中した。訓練場の滑走路はそこら中が穴だらけになり、補給倉庫の屋根は半分崩れ落ち、濃煙と火柱を空へ噴き上げている

まだ制御を失っていないドローンは、基地局からの遠隔操作で散発的に反撃を試みていた。ふたつのドローン群は激流のように正面衝突し、空中で連鎖的な爆発を起こしている

窓の外では、炎が明滅を繰り返していた。ジョアンは端末の前に立ち、その指は飛ぶようにキーボードを叩いていた

これはプロトコルの何層目……?3層目……いや、2層目ね。うわ、それに外側のファイアウォールもまだ……

エンジンの唸りが近付いてくる。上空から一直線に急降下し、その音は鋭さを増していく

上書きの反転を開始……制御可能なドローンは数十機。持ちこたえて、ドローンたち……

唸るような音はすでに頭上まで迫っていた。天井の埃がパラパラと落ち、水の入ったコップが机の端から滑り落ちて砕け散る

お願い、お願いだから……もっと早く……

――!

眩い閃光がジョアンの眼鏡に反射し、彼女はハッと顔を上げた。ドローンの機関砲の砲口がガラス越しに、ぴたりと彼女に狙いを定めていた

うぅっ!

ジョアンはギュッと目を閉じた――

だが、予想していた激痛は訪れなかった

……?

目を開けると、燃え上がる鋼鉄の残骸が窓ガラスの外を掠め、落ちていった

すぐに2機目が側面から急降下してくる。その時、下方からの徹甲弾がエンジンを撃ちぬき、機体は空中で爆発し火の玉となった

3機目は高度を上げかけたが、ライフル弾の連射にローターを砕かれ、制御を失って回転しながら、遠くの空き地へ墜ちていった

煙と炎の中に、見慣れたふたつの影が浮かび上がった

何、ボサッとしてるの!?さっさと戻って仕事しなさい!!

オフェリアが反対側の遮蔽物から身を乗り出し、アサルトライフルで連続射撃を浴びせている。彼女は肩を火傷して血を滲ませていたが、一切気にも留めていないようだ

次が来る、急いで

アデレーネは基地局の外側、土嚢の陰にいた。対物ライフルの銃口はまだ白い煙を上げている。反動で肩を痛めても彼女は表情ひとつ変えず、ボルトを引き続けていた

ジョアンが何か言いかけた時、遠方から更に多くのエンジン音が響いてきた。稼働中の通信ノードを捕えたドローンたちが、雨の幕のように四方八方から押し寄せてくる

その時、煙の中にまた人影が現れた

1期生ニヤ、現着!

1期生ユーリィ、配置につく!

1期生エフェナ!救急用品を持ってきたよ!

3人、5人、数十人……

ファウンスの新入生たちが、あちこちから駆けつけてきた。訓練用ライフルを抱える者、戦術シールドを担ぐ者、瓦礫の中から拾った鉄パイプ1本だけを握りしめている者もいる

次々と若い声が空に響き、ジョアンの前に、強固な人の壁が形作られていく

宇宙へ至る航路を守ろうと、ファウンスの全員が彼女の前に立ちはだかった

全員、陣地を死守せよ!基地車両を守れ!

了解!!

皆……

なぜか、目の奥が熱くなった。だが、彼女は泣きはしなかった

私に任せて

彼女は深く息を吸い、再び指をキーボードの上に乗せた

先ほどよりも、更に速く

ルシアが突撃した瞬間、2発の弾丸が耳元を掠めた

しかし彼女は一切スピードを落とさなかった

狭い通路は、多数の敵を相手にするには最適の戦場だ。相手の攻撃力は一直線に圧縮され、ひとりで機内通路を完全に塞ぐことができる

――!

ルシアは壁へ張りつくようにして、引き金を引いた。先頭にいた敵の銃が弾け飛ぶ。親指の付け根が裂けた敵は、悲鳴を上げて後退した

すぐに次の敵が銃を構えて掃射する。弾丸は壁を抉り、金属音とともに火花を散らせた

ルシアは座席の隙間を転がり、反対側から銃口を突き出した――

ぐああッ!

ふたり目の膝を撃ち抜き、体勢を崩させることで、後方の仲間への射線を遮る

[player name]は彼女の背後から絶妙なタイミングで追撃した。ルシアが銃を撃つごとに生まれる、コンマ数秒の僅かな隙と空間が[player name]の銃眼となった

死ねェッ!

3人目がナイフを振りかざして突っ込んでくる。[player name]は消火器の底を正面から叩きつけた。相手が体勢を崩した瞬間、こめかみに一撃。その動きに一切無駄はない

4人目がふいに座席の背後から飛び出した。[player name]の腰にしがみつき、引き倒そうとする

そいつそいつを離しなさい!

ルシアは大声で怒鳴り、男の左脇腹に蹴りを叩き込み、[player name]から男を引き剥がした

幅3mにも満たない通路をふたりは並んで前進した。ひとりが銃で制圧し、もうひとりは近接戦だ。その戦い方は効率的で荒々しく、動きは呼吸を共有するごとく噛み合っている

ルシアが5発目を撃ち――5人目の肩が機体の壁に叩きつけられる

6発目を撃ち――6人目の武器を弾き飛ばした

7人目――

カチッ

弾切れだ

――!!

7人目と8人目が同時に飛びかかってきた

ルシアは身をひねって体を伏せた。[player name]は両側の座席を使って勢いよくルシアの体を飛び越え、右側の敵の顎に飛び蹴りを見舞った

どこ見てるの?こっちよ!

ルシアは半歩踏み込んで左側の敵との間合いを詰めた。喉に肘打ちを入れ、腹に膝蹴りを食らわせ、両手で頭部を掴み――座席アームの金属部分に思い切り叩きつけた

がはッ――!

右側の敵は、もがいて起き上がろうとしていた。[player name]はその背をガッと踏みつけ、一方の手でシートベルトを引き出し、軽々と男を縛り上げた

瞬きをする間に、通路は静けさを取り戻した

気絶した者、痛みに呻く者、縛られて動けない者――8人全員が通路と座席のあちこちに倒れていた

ルシアは激しく息をつき、座席の背もたれに手をついた。肘からは血が流れ、制服の袖が大きく裂けている。刃物か、あるいは弾の破片なのか、傷の原因はわからない

[player name]の状態もよくはなかった――胸の古傷が開き、顔は灰で汚れ、両手の皮膚もあちこち裂けていた

ドォォォン――!

突然、機体ごと巨大な手に掴まれ、引きずり落とされたかのように、足下が沈み込み、全員がよろめいた

頭上の非常灯がガタガタと揺れ、機体は悲鳴のような金属音を立てた。窓の外では、雲が目に見える速さで上へ流れ、しかもどんどん加速していた

ふたりはハッと視線を合わせた

司令室へ

おい、後ろで何を騒いでる?どうなってんだ――

ハイジャックされたの

彼女は男の後頭部を掴むと、そのまま渾身の力で打ちつけた。男の額が操作パネルに思い切り叩きつけられる

ルシアは操縦席に座り、操縦桿を握った。油圧システムは彼女の操作に応えたが、操縦桿を引いた瞬間に、システムによって進路が修正されてしまう

ジョアン、あとどのくらい?

もうすぐ……あと少しなの……もう少しだけ時間をちょうだい!

風防の外では、「天国の橋」が視界いっぱいに広がっていた

ルシアは操縦桿を限界まで引いた。油圧システムが鋭い音を立て、機体が震える。だが、進路は飛行制御システムによって冷酷にも再び修正された

ジョアン、もう時間がない!

10秒――あと10秒だけ待って!

ルシアは振り向いて[player name]を見た

一緒に引くわよ

ふたりは同時に操縦桿を握った。4つの手が重なり、そのまま油圧システムの物理的限界まで押し込む

ふたりの力で、操縦桿は微妙なせめぎ合いになった。進路は完全には修正されず、機首は僅かに逸れ続けた。衝突点が「天国の橋」の中心から外へ、少しずつ逸れていく

操縦桿はふたりふたりの手の中で激しく震えた。金属のグリップが掌に食い込み、痛みが走る

引いて――!

過負荷となった油圧ラインが異音を上げ始める

ほとんど音割れのようなジョアンの叫び声が通信から響いた

ゲシュタルト起動!!上書き指令、アップロード完了!!

次の瞬間、画面が一瞬ちらついた。ロックされていた赤いパラメータが、飛行制御パネルの上で不意に跳ね、緑へと変わった

操縦桿が突然ふっと軽くなった

今よ!!

彼女と[player name]は同時に操縦桿を限界まで引き切った。機首が一気に上を向く――

だが、高度が低く、速度も速すぎた。機首は確かに上がっているが、下側の機体と主翼はなおも「天国の橋」の空域へ向かっている――

ドガァァァァンッ――!!

左翼が「天国の橋」の外側にある整備支柱に激突し、翼は紙のように引き裂かれた

破片が激しく弾け、金属の豪雨となって飛び散った。機体は激しく横転し、「天国の橋」の側面に機体を擦りながら、長い火花を散らせた

それとほぼ同時に、ファウンスの上空で制御を失っていたドローンが一斉に停止し、糸を切られた操り人形のように、機体を傾けながら次々と墜落していった

人々は空を見上げ、灰色の機体群が黒煙を引きながら墜落するのを見つめた。それは遅れて降り始めた鉄の雨のように、ファウンスのあちこちに叩きつけられ、煙を噴いた

ジョアンも基地局から飛び出し空を見上げた。「天国の橋」の上を掠めて飛ぶ指揮機の高度は100mにも満たない。片翼だけの機体が歪んで裂け、濃い煙と炎が噴き出している

指揮機は今、「天国の橋」への衝突は免れたが、墜落しつつあった

ルシア![player name]!!

コックピットでは、警報音が一斉に鳴り響いていた

全ての計器が赤く点滅し、エンジン過熱警報、油圧プレス喪失警報、高度警報――それらが重なり合い、何も聞こえないほどの騒音だった

十分よ!ファウンスに落とすわけにはいかない!

彼女は操縦桿を必死に握り、残された片翼だけで重力に抗った。機体は空中で歪んだ弧を描き、ファウンスの上空を掠めていく

眼下には避難中の人々――訓練生、教官、技術者たちがいる。彼らは顔を上げ、炎を上げる機体が頭上を飛び越えていくのを見ていた

前方に――空地!

天航都市の外周には、まだ開発されていない荒れ地が広がっている。建物も人影もない。ロケット発射場拡張のための予定地だ

やれるわ

どこから来た確信なのか、彼女自身にもわからない。それでも彼女は、残る力の全てを操縦桿に込めた

ファウンスの境界線が、窓の外を流れていく。ふたりふたりは基地を抜けた

――[player name]!

こんな状況だもの……怖いなら叫びなさいよ!!

ドォォォン――――――――

機体下部が地面に接触した瞬間、世界は激しくひっくり返ったようだった。シートベルトが肩に食い込み、胸の空気が全て押し出される

続いて、長い摩擦音が耳をつんざいた――機体は地面をえぐりながら深い溝を刻み、辺り一面に土煙を巻き上げた

ゴオォォ――――――――

…………

煙と塵に包まれたファウンスに、焦げつくような臭いが立ち込めた

「天国の橋」の側面にある整備支柱の一部は破壊され、橋脚の周囲には破片が散乱し、銀白色の巨大な剣には凄惨な傷跡が刻まれていた

ルシア![player name]!!

彼女はよろめきながら走った。眼鏡は歪み、足下がおぼつかない。飛行機が最後にどこへ墜ちたのかはわからないが、通信が途切れる直前に巨大な衝突音を聞いていた

彼女は爆破された訓練場や、まだ煙を上げる倉庫の残骸のすぐ側を駆け、シェルターから次々と出てくる学生や教官たちの間を縫って駆け抜けた

遠い荒れ地、数百m以上の黒い溝が視界に入った。その先に機体の残骸――胴体は真っぷたつで、左側は焼け焦げた骨組みだけが残り、右側のエンジンはまだ濃い煙を噴いている

ジョアンの足取りが遅くなった。これ以上前に進むことが急に怖くなったのだ

後ろからオフェリアが来た。肩の火傷はそのままで、顔は煤だらけだ。その前をアデレーネが走っていた。対物ライフルはとっくに捨て、機体の残骸へ一直線に向かっていく

……!

その時、煙の中からゆっくりとふたりの影が現れるのを、彼女は見た

ひとりは相手の肩に腕を回し、ひとりは腰を屈めて足を引きずっている。ふたりは互いに支え合い、ふらふらと1歩ごとに倒れそうになりながらも、決して倒れることはなかった

ジョアンの眼鏡の奥で、何かが滲んだ。彼女は口を開いたが、言葉はひとつも出てこない

ルシア![player name]!

背後から、更に大勢の人が駆けつけた。銃を手にした者、手ぶらの者、負傷した学生を支えている者もいる。彼らは煙の中から現れたふたりの姿を見て一斉に駆け出した

顔を上げたルシアは人々が駆け寄ってくるのを見た。先頭を走るのはジョアン、オフェリアは悪態をつきながら小走りし、アデレーネは無言だがありえないほど大股で歩いてきた

その後ろに、名前も知らない多くの顔が続く

いつの間にか、彼女は安堵したように微笑んでいた

その時、[player name]は肩にかかる重みがふっと軽くなるのを感じ、ゆっくりと顔を向けた

……まだ生きてる?

ふたりふたりは肩を並べたまま、駆け寄ってくる人々の方へ足を踏み出した

ジョアンが、3人3人とも倒れかねない勢いで飛び込んできた