ロランとラミアは、書かれた「おかえりさない!」の文字が判読できないほど朽ちてしまった看板を通りすぎ、暗く寂れた街に入っていった
朝霧が空気を潤し、葉をつたい落ちて、ロランとラミアの人工皮膚に染みた。感知センサーが意識海に冷たいという信号を送る
町の近くに来た時から、彼はある見知った力の波動に気づいていた
代行者が彼に与えた力は消えてはいなかった。そのため、彼はある事実にたどり着いた
ルナ様は確かにここに来たことがある
……ここは……
興味深いところだね
え?
ここに全ての答えがあるかもしれない。もしくは、こちらへの罠かもしれない
ラミアに気づいた真相を打ち明けることなく、ロランはまっすぐ歩を進めた
……他の昇格者の痕跡はない……それも含めて、確実な手がかりがなければ、ここはただ過去の名残にすぎない
ロランは指を鳴らし、片手でチェーンブレードを回転させた
彼は急にチェーンブレードの回転を止めると同時に、弾倉に弾を込めた
……いきなり何?
静かすぎる、ここがこんなに静かなわけがないのに
黄金時代の機械体の普及状況からして、ここみたいに、多くの人間が集まってコミュニティが形成された場所には、少なくとも公共サービス用の機械がまだ残っているはずだ
それなのに、ここはあまりにも静かすぎる。スカベンジャーがここの侵蝕体を一掃したとは考えられない
静かすぎるのは異常ってことさ――異常というのは、つまり、敵がいるってことだ
ロランの言葉を待っていたかのように、黒い影が次から次へと建物の残骸の中から現れた
黒い影は這った状態から立ち上がり、およそ人間らしくない足取りで、ふらつきながら町の入り口にいるふたりに向かって来る
どうやら、邪魔されずにここを探索するには、少し手間がかかりそうだね
哀れな……主人に捨てられた積み木やぬいぐるみのように、部屋に捨て置かれ、そしてまた別の人に引きずり出されて、思うがままに使われる
両親は?捨てられた時、捨てた者はどんな表情を浮かべていたんだい?
背後で操る者がどんな顔をしているのか、考えたことはないのか?
……………………
侵蝕体は無言をもってロランに返答し、決してその足を止めることはなかった
ふーん、そうだろうね
もともと、ただの殻である君たちと話すつもりなんかないんだ
でも、君たちみたいな屑が私を止められると思うなら……
ラミア、突破するから、君は先に町に入っていってくれ
?
こんな歪な物で驚かそうとするなら……私が「片づけて」あげるよ
う……わかった
ロランは体の前方を守るチェーンブレードの下から散弾銃を差し出し、構えた
ラミアは高層建築の壁に飛び付き、尋常ではない機敏さでよじ登った。数体の侵蝕体が追いかけようとしたが、彼らが壁に飛び上がった瞬間、ロランの散弾銃が火を噴いた
私を無視するなんて酷いじゃないか?
お客様を無視する悪い子は、お父さんとお母さんに怒られるよ……あ、親御さんはもういないんだっけ
しょうがない……私が親代わりに躾てあげようか。魂のない子供でも、礼儀を忘れるのはいただけないからね
これからやろうとしていることは、礼儀といえるのかい?
礼儀以外に言い方があるか?
魂もなく、執拗に世を彷徨う者を地に眠らせる。これこそ礼儀ってものだろう?
彼は両手の武器を持ち上げ、侵蝕体の群れで先頭を歩く1体を狙って、走り出した
いつものように、ロランはいとも簡単に侵蝕体たちを粉々にしていく
彼は戦闘の中で、徐々に自分の新しい機体に慣れてきた。それと並行して、町の深部が次々に明らかになっていく
ふいに、ロランは前に進まず、立ち止まって動かなくなった
どうしたんだい?
……何でもない、行こう
ラミア、いるかい?
……いるよ
下の道路からこの町の奥に行く。何か残されたものがないか見てみるよ
上の方と警備を任せていいかな?
うん……わかった
そして、先ほどの一瞬の迷いなどなかったように、ロランは町の奥へと進んでいった