荒れ果てた建物の間を、青い人影が移動している。リーは目の前にいる全ての侵蝕体の電子脳に、一発で弾丸を命中させている
リー、進行が早すぎます。指揮官とリーフは攻撃型構造体ほどの機動能力を持っていません
追いつけなければ、無理せずゆっくり来てください
でも、もしあなたが危機に陥った時、すぐに応援できなくなります
ルシア、今の前進速度は、前回の任務の時より早くなっていると思いませんか?
?
僕たち2体の攻撃型構造体が一緒に行動すると、互いに邪魔になってしまうのはこれが初めてではありません
ええ……
通信機から聞こえるルシアの言葉を聞いてもなお、リーは前進し続け、引き金を引き続けた。侵蝕体の間を飛び交い、数多くの機械の残骸を地面に残していく
事実を述べたまでです。悪意はありません
それに、あなたたちが到着を報告している間に、このルートの敵のデータを集めました
この辺りの侵蝕体なら、1体の攻撃型構造体で排除可能です
この都市にはまだわからない点が多い。先導役を交代しながら進めば、全員の消耗を最小限に抑えることができます
ですが……
でも、は結構ですよ。他にもっといい方法があれば別ですが
だから、このルートは僕が先行して……
リーの声が突然消え、チャンネルには騒がしい電流音のみが響いている
リー?!
リーさんの信号が突然途切れました
承知しました
ようやく全員が最後に通信があった場所にたどり着くと、そこにリーの姿はなく、地面には丸い穴が開いていた
リー?
ゴホン、僕はここです
穴の中からリーの声が聞こえてきた。近寄って中を覗くと、穴の底にリーが座っていた
待っていてください。今、助けます
ルシアはそう言いながら穴の中に手を伸ばした。穴の縁に触れた瞬間、とっさに手を引っこめた。穴とルシアの指の間に激しい電流が走ったからだ
これは……
電磁落とし穴、地上防衛軍による侵蝕体への対抗手段ですね
でも、効率が良くなかったため、戦争の後期に禁止されたそうです
まったく同意ですね。破壊もせずに落とすだけなので、あっという間に侵蝕体で穴が埋まるだけですから
ちっ、人間の対抗手段が人間の攻撃を妨げるなんて
馬鹿馬鹿しい
指揮官、私たちがここに長く留まっているために、大量の侵蝕体がここに向かっているようです
ルシアはリーフの言葉を聞くと、刀をぐっと強く握った。選択しなければならない痛みが彼女を苦しめているようだ
先に行ってください。僕はなんとかなります
今は一時的に動けませんが、彼らが僕の機体を破壊しようとしても、そうやすやすとやられませんよ
確かに速やかな撤退は賢明な選択といえます。今この瞬間に少し犠牲を伴いますが、大局的には大きな利につながりますから
それは、ホワイトスワンが度重なる勝利を掴み取る秘訣でもあります……
……
えっ、指揮官、何をしているんですか?
腰の短刀を取り出し、背中のリュックからロープを取り出して、一端を穴の縁に固定する
ロープのもう一端を腰に巻いて結んだ
了解です
ルシアがこちらを見てうなずき、刀を横に構えて戦闘態勢をとった
……ルシア?
……
上で何をもたもたしているんです?計算によると、30秒後に侵蝕体の一群がここにやってきますよ
ロープを固定し終えたあと、穴に向けて手を伸ばした。ルシアと違って、電流は流れず、穴の縁に触れることができた
……
電流が流れないことを確認して、穴の中に飛び込んだ
何をしているんですか?
リーの質問を無視して、ロープを使って穴の壁沿いに降下していく。ブーツの音が規則正しく穴の中で響き、やがて底に座っているリーの下にたどり着いた
穴の底に到着すると、頭上からは刀がぶつかり合い電光が走る音が聞こえてきた
しゃがみ込んで、リーを支えながら抱き起こした。そして、彼を背負ってロープで固定した
なぜこんな愚かで危険なことをするんですか?
……無様だと笑いたければ笑ってください。親切ぶって助けなくても結構です。偽善なら嫌というほど見てきました、もうたくさんだ
……
リーを背負い、ロープを手で引っ張った。ロープがちゃんと固定されていることを確認し、穴の壁を足で踏みながら、降りてきたルートをゆっくりと登っていく
時折、切断された侵蝕体の手足が穴に落ちてくる。それは水色の電光をまといながら、底に激しく叩きつけられた
しかし、僕のせいで、今、全員が危険に晒されています
……戻ったら、機体に抗電磁波機能をつけなくては
リーを背負って地上に戻ると、ルシアが刀で自分の体を支えながら、侵蝕体の残骸の中に立っていた。足の塗装が一部はげている。守りながらの戦闘で苦戦を強いられたようだ
リーフは、地面に座って大きく息をしていた。フロート銃が地面に落ちている。どうやらリーフは、今、フロート銃を駆動させる演算能力を失っているようだ
指揮官、リー
無事でよかったです
本当に風変りな指揮官ですね
あ、リー、ずいぶんと顔が赤いですね?
え?
リーはルシアの言葉を聞いて、無意識に手で頬に触れた。そして顔を横にそむけた
機体の放熱に問題が生じたようです。気にしないでください
機体の冷却機能の故障は、今後の作戦に影響をきたします。リーフ、すぐにリーの機体チェックをお願いしま……
大丈夫ですから!
でも……
ふふっ
……
?