結果は?
順調よ。裏切り者は世界に裏切られ、幼き日の夢の中で死んだわ
ショーメイの結末は、いい警告になるはず
私たちは全てを掌握しているということね
……どうして、あまり嬉しそうじゃないの?
え?
虚を突かれたルナは、すぐに普段の様子に戻った
何でもない
そう。話したくなったら、いつでも聞くわ
……うん
今回の目的は無事達成……次はどうするの?
……
どう答えるべきか、ルナは下を向いて考えた。αはそのまま、島の様子を眺めている。夏の潮風が吹き抜け、ビーチのココナッツの木がカサカサと音を立てた
まだ決めてないなら、ここで少し休んだら?
いい……!賛成……!
突然ラミアが海から這い出て嬉しそうに拍手したが、αの刀を首に向けられすぐに止めた
ひぃぃいぃぃっ!
あなたには言っていないわ
何度も警告したでしょう。私の周りで姿を隠すな、空気を読まずにいきなり現れるな
ごめんなさい、ごめんなさい!もうしません!
それも聞き飽きた。足を何本か切り落としたら忘れないかしら?
いやぁぁぁああっ!
必死に抵抗するラミアは、目でルナに助けを求めた。ふたりのやりとりを見つめていたルナは、思わず声を出して笑ってしまう
ふふふふ
その笑い声に、αとラミアの動きが止まる。ルナは頭を横に振ってから、言った
姉さんの提案だし、そうしましょう
空中庭園の増援が来るまでの間、ゆっくり休みましょう
蒸し暑い夏の夜。潮風が熱を帯び、ビーチにいる者たちの熱気を更に煽る
空中庭園は、ビーチで盛大な宴を開いていた。それに比べ、反対側の遊歩道は物寂しげだ
遊歩道を進む足音が、物寂しい街にわずかな彩りを添える
やっと気を抜ける……
そう?いつもと対して変わらないように見えるけれど
い……いつもと違って、任務とか考えなくていいから……精神的にリラックスしてるの!
でも、またすぐ次の任務だと思うと……絶望だ……
あなた、感情モジュールが故障してるんじゃない?
正常です!
……どうして私たちは、あのポスターみたいに、水着を着て、食べ物を持って……ビーチに横になって、だらだらできないんだろう……
何もしないで……何も考えなければ……絶望なんてしないのに……
……
何よ?
ラミアは突然黙り、目の前のルナとαをじろじろと観察し始めた
ふたりが水着を着て、ビーチに横になってる姿を想像してみたけど……怖すぎてやめた
……
ああ……そう考えると、水着は私たちにとって意味なんかないもんね……やっぱり水着は、可愛い人間の方が似合う……
花火でもすれば?
……それも別に意味がないけど、やろう
負のスパイラルに陥りそうになったラミアに、αがどこからか拾ってきた花火を渡した。ラミアは花火を受け取って、ビーチに走っていく
私たちもあの店を見に行きましょう
何か欲しいものがあるの?
ええ
αはうなずき、ルナを連れて遊歩道の横の店へと入った
店内の棚には大小さまざまなサメピーのぬいぐるみ。壁一面にサメピーの広告やポスターが貼られ、カウンター前には「開店セール7割引!」の大きな看板が掲げられている
サメのお土産売り場かしら
サメだけじゃないわ、ほら
αはサメピーの山の後ろからカエルのぬいぐるみを探し出し、ルナに渡した
どうしてこの子はどこにでもいるの?
別にいいでしょう
いいけど……私も姉さんに何か選ぶわ
別にいらな……いえ、わかったわ
これはどう?
どうも何も、ただの服じゃない
結構いい感じよ
ルナがそう思うなら、それでいいわ
……
姉さん。もしただの構造体に戻ったら、何かやりたいことはある?
今と変わらないわ。何がどうなっても、私はずっとあなたの隣にいる。ただそれだけ
そもそも、そんな「もし」はありえない
αは即答したが、ルナは黙ってしまった。αが振り返ると、ルナは足を止め、真剣な表情で姉を見つめている
その「もし」があったら?
……ショーメイの研究?
……そう
ショーメイには研究の片面しか見えていなかった。でもあの研究には、まだ誰も気づいていないもう一面がある
その先に、真の「根源」がある
……
夜は深まり、潮風は一転して肌を刺すような冷たさへと変わった。ルナは顔を上げ、隣にいるαへ話しかけた
姉さん。私、少し疲れちゃった
あそこで少し休憩しましょう
αはルナの手を引き、遊歩道の傍らのベンチに腰を下ろした。ルナはαの肩に頭を乗せ、目を閉じる
遠くのビーチから奇妙な音が聞こえる。どうやら、ビーチで複数の侵蝕体が楽器を叩いているようだ
ショーの時間になると、自動的に準備が始まるのね
……少し騒がしいわ
ちょっと行ってくる
αは鞘から刀を抜くと、ビーチへ向かった